仕入れ値が急上昇! 値上げか、据え置きか? 前年同月比229%を達成したEC店長の決断とは?
ライフスタイルや消費行動が激しく変化する昨今、仕入れや在庫管理といった経営に直結する判断を、過去実績、経験則だけでは下せなくなってきている。そこで拠り所となるのがデータだ。成功企業はどんなデータをどう活用してきたのだろうか? 仕入れ商品が値上げするなかデータ活用で前年同月比売上229%を達成した自転車用品専門店「自転車グッズのキアーロ」を運営するテラオの佐々木伸一氏が、Nintの西尾宗哲氏と語り合った。
「自転車グッズのキアーロ」がデータ活用を始めるまで
「自転車グッズのキアーロ」はその名の通り、自転車用チャイルドシートやカバー、子ども用のヘルメットなど、普段使いの自転車関連用品を扱う専門店。取扱商品の8割程度を型番商品が占めている。
データ活用のきっかけは、ECモール内の競合店の売上状況、売れ筋商品などさまざまな指標を分析できる「Nint ECommerce」との出会い。「Nint ECommerce」を実際に使う前、「キアーロ」を運営する佐々木氏は、「Nint ECommerce」を単なる競合の売上や価格を調査するだけのツールだと思っていた。
よそが値段をいくらに設定していてこれくらい売れているから、御社もそれより値段を下げて売ったら売れますよ、という程度のものだろうと思っていた。そんなツールは必要ないと思っていました。(佐々木氏)
そんな印象が実際に試用してみて変わった。
たまたま無料トライアルのご案内をいただいて、実際にNintの管理画面に入ってみたんです。そこで「これって競合他社を調査するのは下手な使い方で、市場調査に使ったらすごく有効なんじゃないか?」と思ったんです。(佐々木氏)
Nintが提供する「Nint ECommerce」とは
ECモールの市場動向のリサーチツールとして2014年に日本向けにサービス開始。インターネット上の公開情報を収集し、独自開発の統計技術で分析。売り上げや販売数量の推計値を算出。多くのEC事業者やメーカーなどに提供している。
コロナ禍で前年実績が通用しなくなった
「Nint ECommerce」から得られる情報が特に効力を発揮したのはこの2年。コロナ禍において自転車関連商材は追い風を受けた。しかし、問題は仕入れだった。多くの仕入れ担当者は前年実績をベースにその年の仕入れ量を決める。佐々木氏もコロナ以前は同様の方法だった。
しかし、消費者のライフスタイルや消費動向が大きく変わったことで、前年同月の販売実績がまったく当てにならなくなり、どれくらいが適正在庫なのか見当が付かなくなった。
通常であれば3月、4月が新入学新入園のシーズンですので、うちとしては繁忙期になるんですが、それが去年の緊急事態宣言や外出自粛の影響で、前年の4割減の数字で推移していました。「今年はヤバいかもしれない。リカバーできるんだろうか」と思っていましたが、5月の末くらいに宣言が解除になった途端、今度は遅れてきた既存の需要だけでなく、特需とも言えるような商材の売れ方があったんです。
やはり皆さん遠出ができず、近所の公園などでお子さんを遊ばせるくらいしか選択肢がないようで、業界的にも子ども用自転車もすごく売れたらしいです。それに付随して、弊社で扱っている子ども用ヘルメット、特に対象年齢が4歳から小学校低学年くらいまでのものが、見たことがないよう売れ方をしたことが非常に特徴的でした。
ただ、それは一時的な需要だと思ったので在庫を切らさないのと同時に過剰な仕入れにはならないようにしようと思っていたんですが、それもNintを見ることで勘とかではなく、データで確証が得られた。「引き続きよく売れているけど、ダウントレンドに入って来たから仕入れの数は少し絞ってみよう」とか、「1か月分スキップして在庫数を調整してみよう」というように、根拠を持って判断できたことが、すごく大きかったですね。(佐々木氏)
「Nint ECommerce」で市場をきちんと見ることで、需要が高まっている商品が見えてきた。そこから「こういう商材を開発してみよう」「お客様にこんな提案をしてみよう」というアイデアが湧いてきたという。
販売価格を上げるべき? 難しい判断を助けたNint
型番商品を取り扱う上で難しいことの1つは、メーカーによる値上げをいつ、どの程度販売価格に転嫁させるかという問題だ。「キアーロ」の人気商品の1つ、自転車用チャイルドシートは10%以上も仕入れ価格が上昇。佐々木氏はこの値上げを販売価格にどう転嫁するかの決断を迫られた。
10%以上も仕入れ価格が上昇してしまったから、これはさすがに価格転嫁しなければいけないのではと思ったんです。でも、Nintを見てみたら、うちより安く販売している店がたくさんあるものの、それほど多く売れているとは限らないことがわかったんです。
それと、価格が1万円を超えると、どうも大きく売上がダウンする傾向があるなということが見て取れたので、当時は9599円で販売して、利益は10%下がるけど、価格は据え置きにしようと決めました。
その結果、他店が仕入れ値の上昇を受けて値上げした関係で、価格を据え置いた当店に注文が集中したようで、前年同月比229%の売り上げでした。価格を据え置いた分、利益幅が少なくなってしまったんですが、それでも利益ベースで前年同月比172%という数字が出ました。(佐々木氏)
「キアーロ」が価格を据え置きできた理由は仕入れにもあった。実は「キアーロ」は「Nint ECommerce」の推計を見て、旧仕入れ価格の同商品の在庫が潤沢にあったのだ。
少なくともこれくらいの数は3か月スパンで出て行くから、値上げ前にちょっと在庫を積んでおこう、といったジャッジができた。結果的には少し値上げすることになったが、値上げするタイミングを間違えなかったことで集中的に売り上げを計上できました。(佐々木氏)。
他店の低価格に動揺しないでいられるのもNintのおかげ
商品を価格でソートされることの多いモールにおいて、低価格であることにこだわってしまう場面は多い。しかし、佐々木氏はそう単純な話ではないという。
「Nint ECommerce」を見ていて、どうしても「値下げをして1番安く売ってやれ」という使い方をする人は多いかもしれませんが、値段を上げても売り上げがそれほど下がらないのであれば、逆に値上げをするべき場合も少なくありません。値上げ/値下げという判断を、単純に販売数や売上金額だけで判断しなくて良かったなと、「Nint ECommerce」を導入してから非常に実感しています。(佐々木氏)
とはいえ、大規模なセールイベントでは、同じ商品をかなり安く販売する店もある。そんなときは心穏やかではいられない。市場を取られているような感覚になり、追従して値下げしたくなる。しかし、そんなことを繰り返していたら利益は目減りする一方だ。
確かに同じ商品を1000円以上も安く販売するショップさんもあり、リアルタイムランキングなどを見ているとものすごく売り上げを食われているように見えるんです。それで「これは価格対抗しなければいけないんじゃないか」と思いがちなんですが、「Nint ECommerce」で見ると「なんだ、全然売れてないじゃないか」と実数値でわかる。
「じゃあうちはこのプライスのままで良い」という判断ができることで、間違った値下げに走らなくて済んだっていうのはあります。
また、それが見えているとわりと心中穏やかでいられますよね。やっぱり自社より安いお店はどうしても気になってしまうので、それが気にするべきものなのかそうじゃないのかっていうことを、正確にデータでジャッジできるのはすごく楽です。(佐々木氏)
死に筋商品が異例のヒット。「U字ロック」の事例
SKUが多いショップに付きものなのが、年に数個しか売れない不良在庫、いわゆる「死に筋」商品だ。「キアーロ」の場合は自転車のU字ロックだった。実際にデータを取ってみたところ、2020年は1年間の販売数が38個。2019年にさかのぼると16個しか売れていなかった。
今年初秋、佐々木氏はWebやテレビで「電動アシスト自転車のバッテリーの盗難が増えている」という話題を何回か目にした。こういう報道が出ると他社で販売している専門商品が動くに違いないと思い、「Nint ECommerce」で確認してみると案の定売れ始めていた。
佐々木氏はそこで例のU字ロックを思い出す。
そういえばあの売れてないU字ロックが、バッテリーロックに丁度良いと思い出しまして、商品ページをバッテリーロックとして作り直したんです。
「電動アシスト自転車の盗難が最近増えています。自転車の盗難保険と違って、あのバッテリー単体の盗難には保証がないので、買い直しの必要が生じます。買い直すと1つで3万円から4万円の追加コストがかかってしまいます。それならこの鍵を買って、バッテリーをロックしませんか?」というようなアプローチに変えてみました。(佐々木氏)
ねらいは大当たり。特に広告を出稿することもなく、1か月に150個ほど売れるヒット商品に変身した。U字ロックをバッテリーロックに使い方を転換したことは、もう1つのメリットを生んでいた。他社との競合を避けられたことだ。
この10年くらいで電動アシスト自転車の販売台数が2倍くらい増えているというデータも持っていたので、これはきっと市場のニーズがあるだろうと判断をして、弊社以外の他社さんは同じバッテリーロックを販売しているんです。バッテリーロックはもともとそれほど種類がないので、価格競争になったり、需要が急増したことでどこも長期欠品を出したりしていました。
ところがうちは、このもともと売れていなかった自転車の鍵をバッテリーロックに改修したので、直接的にはバッティングしない。市場はバッティングしているけど、商材としてはレッドオーシャン化していない状態で販売できたんです。(佐々木氏)
先に見つけていた市場ニーズに対し、単純に他店と同じ商品を仕入れて参入するのではなく、従来持っていた商品の用途を変えて提案してみようと思い付くことができた。その推論に対してNintで得たデータで裏付けを得て、ある程度確信を持った上で踏み込み、成功した事例だ。
商品開発の意思決定からリサーチコストの削減まで。Nintの導入効果
多くの人たちが関わる企業において、Nintはどんな役割を果たしているのだろうか。Nintの西尾氏が「Nint ECommerce」の活用事例を紹介した。
事例① ナカムラ
家具やインテリア商材の製造、販売を行うナカムラは、直販も卸も行っている。ナカムラでは商品開発の意思決定プロセスでデータを活用している。月に何10種類もの商品企画を進めるなか、従来はそれまでの実績やその業界に詳しい社員の意見によって意思決定がなされることが多かった。
「Nint ECommerce」を導入したことで客観的なデータを使って商品企画を行えるようになり、販売実績が上昇した。また「これはすでに市場があまりない」「ここは競争が激しすぎる」というように、データに基づいて「やること」「やらないこと」を厳選できるようになったことで、生産性の向上が実現した。
事例② 貝印
貝印ではデータ活用により、リサーチコストを大幅に削減できた。これまでPOSデータや外部のリサーチ会社に依頼したものをベースにECの傾向をつかんでいたため、時間もコストも大幅にかかっていた。Nintを使うことで過去分も含めてすべてのデータを参照できるようになり、スピーディーなマーケティングを実現できるようになった。
また、商品開発における部門間でのコミュニケーションが活性化した。データを基準にコミュニケーションができるようになったため、部下から上司への提案が増え、部門間でも「データによるとこんな市場があるんですけどどうですか?」というようなやり取りが増えたという。
Nintのデータをどう活かすのか
西尾氏によると「Nint ECommerce」では日本のECにおける63%をカバレッジしており、昨今は「モールには出店していない自社ECのみの企業も商品開発で使っている」という。
DtoCの商品開発における、具体的な使い方については、①まずユーザーインタビューなどの自社データからユーザーの声、アイデアを見つけていく。②そのアイデアの中から、自社の顧客に対してアンケートなどを実施して事実確認をする。③自社の顧客のニーズがあったものについて、eコマース全体で市場があるかどうかをNintで確認する。④商品や競合の調査を行い、市場機会の特定を経て、商品化の意思決定を行うといった使い方がされているという。
先が読めない今だからこそデータ活用を
「Nint ECommerce」がローンチした2014年頃、「データ活用」という言葉はまだ一般的ではなかった。特にECではそれまでの実績や仕入れ担当者の勘で運営するケースが大半を占めていた。しかし、昨今は消費者の購買行動も変わり、トレンドが読みづらくなっている。
これまで売れたカテゴリが売れなくなって、その逆もある。多くの企業が新しいカテゴリに進出したり、プライベートブランドを開発したりといったビジネス上の挑戦が必要な世の中になってきているなかで、それを実行するにはトライアンドエラーだけではなかなかキャッチアップができないが、データというものは非常に便利。ここ数年、ECの業務プロセス、特に開発や販促活動、仕入れといった分野でデータを使って意思決定をするということが根付いてきたと捉えている。
コロナ禍を経て、去年は前年同月で非常に伸びた事業も、今年はちょっと成長率が穏やかになってきているなと感じている企業も多いかもしれない。自社とマーケットをしっかり比較して、まだ伸ばせるところはないか検討していただきたい。2022年に向けてどういった打ち手があるのか、機会を見つけることに「Nint ECommerce」を使っていただけると思っている。(西尾氏)