瀧川 正実 2019/6/24 7:00

無人物流、決済など、日本の先を行くと言われている中国EC業界のテクノロジー。高度なビッグデータ収集・解析・統計技術を駆使してモール店の競合調査、ジャンル調査などが行える「Nint」は中国で3000社超、日本市場ではすでに700社以上が利用している。このほど、「Nint」のグローバル展開などを視野に組織を再編。 日本市場向けに事業を手がける「株式会社Nint」などをホールディングス傘下に置く持株会社制に移行した。来日したNintホールディングス の代表取締役・蘇迭(So Tetsu)氏、Nintの代表取締役である吉野順子氏に話を聞いた。 写真◎吉田 浩章

ECモールの販売状況を丸裸にする「Nint」がめざすのはデータの自由化

「Nint」は競合店・競合メーカーの動向や売れ筋ジャンル、人気価格帯、効果の高い広告クリエイティブなど、さまざまな指標からECモールの販売データを統計・集計・分析するマーケティングツール。

Web上に公開されているランキング、レビュー、商品情報を収集し、独自に統計・集計。「競合分析、ジャンル動向の調査などに使われている」(吉野氏)。対象は「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「Amazon.co.jp」。

利用する企業の用途は、ECモール内の競合動向やジャンル調査だけではない。独自ドメイン企業、メーカー、小売企業なども、モールのデータを集計することで、最新のトレンドなどを把握。ECサイト運営や商品戦略などに生かしている

「天猫国際」「天猫」「淘宝(タオバオ)」「JD.com」「京東Global」「Kaola.com」「Vip.com(唯品会)」「Suning.com(蘇寧易購)」といった中国の主要ECサイトにも対応。中国でどのような商品が売れているのか把握できるので、中国向け越境ECなどにも活用できる

インターネット上の公開情報を収集(ビッグデータ)
収集したデータをNintの独自システムで分析。売上、販売数などを推計
分析・統計・推計
分析データをEC事業者やメーカーに提供
ECショップ/メーカー/コンサルティング企業
Nintは戦略に必要な今のデータを抽出可能
「Nint」のサービスイメージ

「Nint」は2009年にリリースされた、中国ECデータ分析サービス「情報通」(中国版Nint)を日本向けにローカライズしたツール。中国では、「天猫」「タオバオ」などの出店やメーカーなどに提供。中国主要モールで「どの店舗がどのくらい売れているか。どのジャンルがどのくらい売れているのかなどを集計・分析できるようにしている」(蘇迭氏)。

公開されているデータを収集し、そこから出店店舗の売り上げ状況、ジャンルごとの売れ行き、商品ごとの販売状況などを推測できるようにした「Nint」について、開発などに携わってきた蘇迭氏は「破壊的イノベーション」と評する。そして、こうした機能の開発、普及を進めていく理由をこう話す。

めざすのはデータの自由化。データが公開されればされるほどEC業界は進歩していく。データはビジネス上、とても重要。プラットフォームはあまり多くの情報を公開していない。テクノロジーを使い、収集できる情報を得る。集まったビッグデータを推測することによって、それを店舗に活用してもらう。それがデータの自由化だ。データの価値はますます高まっていく。水道や、電気のようにデータを自由にビジネスに使えるようにするのがわたしたちのミッションだ。(蘇迭氏)

intホールディングス 代表取締役・蘇迭氏
Nintホールディングスの代表取締役・蘇迭(So Tetsu)氏

データを可視化すれば「価格競争も回避できる」

「データの自由化」を進めるという「Nint」。日本では700社以上が使っているが、実際に導入企業はどんな価値を得ることができるのか。

蘇迭氏(以下、蘇):競合企業の売上状況の把握もできるが、ECサイトの経営上、どんなカテゴリに力を入れていけばいいのか可視化できるようになるのが大きな価値だろう。カテゴリごとの売上状況や規模、成長率などが確認できる。たとえば、新しいカテゴリへの進出、今後伸びそうなカテゴリへの注力など、戦略を立てやすくなる。

競合店舗で言えば、急に売り上げが伸びたその理由も調べることが可能。どんなプロモーション(価格設定やポイント施策など)を打っているのかが把握できる。競合のデータを見れば、販売計画も立てやすくなる

吉野順子氏(以下、吉野)効率的に勝てる市場の見極め、市場の規模感を把握した仕入れ、商品開発など、導入企業は「Nint」を戦略、販売計画の立案に役立てている。モール内や各サイトのランキングだけでは見られない、裏側の情報が可視化される。「Nint」を使うことで気付きも多いという声があがっている。たとえば値付け。一般的には価格競争が激しいと言われているが、“安いから売れている”というショップだけではないということ。逆を言えば、競合よりも価格が高くても売れている店舗もある。そして、「Nint」ではその企業のプロモーションも可視化できる。無駄な価格競争を避けるために導入している企業も少なくない。

Nint 代表取締役 吉野順子氏
Nint代表取締役の吉野順子氏

:価格競争という観点で、中国でのお話をしよう。日本では、メーカーが価格競争やブランド毀損を懸念してECサイト運営企業との取引に慎重なメーカーもあると聞く。中国は違う。中国では、“ECでは売らない”という企業はほぼ皆無。そのため、メーカーがECの販売チャネルを日々管理し、価格などのモニタリングをしている。膨大な販売店(卸売りによる直販、小売店によるリアル、ネットでの販売)の動向をタイムリーに把握し、販売戦略を立てるためのツールの1つとして「Nint」が使われている。販売店の調査を「Nint」を使って実施、値付け、在庫切れ、プロモーションなどを逐次、チェックしている。中国ではメーカーがECの販売店に対しても奨励金を出しているケースが多いので、細かく管理しなければならないという事情もある。つまり、商流の保護という観点で「Nint」が使われているのだ。

商流保護、ブランド毀損などを防ぐメーカー向け「Nint for Insight」をスタート

Nintは6月、商流保護やブランド価値の毀損(きそん)を防ぎながら、ECモールのデータを統合的に分析する「Nint for Insight」をβリリースした。

吉野:中国メーカーが利用している機能を日本企業向けにローカライズしたものになる。提供対象はメーカー。販売店がどんなプロモーション・価格で販売しているのか、どんなレビューがあるのか、といったことを競合と比較しながら可視化できる。各販売店の統計的な数字も見えるので、各販売店の課題解決にも役立てることができる。

まずは中国ECで商品を販売している日本のメーカーに対して提供していきたい中国内での自社商品の流通状況を把握することができるので、自社の販売戦略にも役立てることができるし、販売店管理もしやすくなる。これまで「Nint」では販売状況、販売価格、売れ筋などマクロ的な競合分析機能をメインに提供してきた。今後はさらに付加価値を付けて、メーカーのグローバル展開も支援できるようにしていきたい。

人には無限の可能性がある

持株会社制への移行に伴い、Nintはオフィスを東京都新宿区西新宿8-17-1 住友不動産新宿グランドタワー34階へ移転した。それには大きな理由があったという。

:私たちのミッション、ビジョン、これに理念にあったオフィスで頑張っていきたいという意思表示。オフィスのコンセプトは「宇宙と可能性の探索」。内装にもそのコンセプトを反映した。Nintグループは、「データの価値、人の可能性が輝く世界」を作りたい。人には無限の可能性がある。それは、今後普及が見込まれる人工知能と大きく違うところ。人工知能によって世界が大きく変わると言われているが、人工知能は何に使うか、何をすべきかなどの根本的な基準がなければ何もできない。それを決めるのが人間であり、結局は新しい世界を作るのも人間。無限の可能性がある人間がピカピカと輝けるようになる――そんなことをメッセージにしている。

Nintのオフィス風景1
オフィスの壁は宇宙などをイメージしている
Nintのオフィス風景2
奥のガラスには中国の「獅子」がイメージされている
Nintのオフィスのオープンスペース
オープンスペースは社員が打ち合わせや、商談などに使う
この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]