リピート率が3か月間で4割、D2CアパレルのECサイトがShopifyで成功している理由
プロのスタイリストによるパーソナルスタイリングサービス「SOÉJU personal(ソージュパーソナル)」やD2Cアパレルブランド「SOÉJU(ソージュ)」を手がけるモデラート。ポーラ・オルビスホールディングスなどを引受先とする第三者割当増資を実施し、2018年には1億円以上を調達するなど、そのビジネスの成長性に投資家や事業会社が注目している。ECサイトにおける初回購入から3か月以内のリピート率が4割に及ぶなど、熱烈なファンに支えられているモデラートの成長の秘訣(ひけつ)に迫る。写真:吉田浩章
パーソナルデータを活用したビジネスが最大の特長
モデラートは、上質を求める30~50歳代の女性を中心にパーソナルスタイリングサービスとアパレルブランドを展開している。
「今の自分に合うブランドを探す時間がない」「体型が変わり今まで好きだったブランドがしっくりこなくなった」「管理職になり、カジュアルながらもより品格のあるスタイルが求められるようになった」といった課題やニーズを抱える女性がターゲット層だ。
プロのスタイリストが対面もしくはオンライン上でカウンセリングを行い、その内容に基づいて個別にコーディネート提案画像を提供するパーソナルスタイリングサービス「SOÉJU personal」。
そして、この利用顧客からあがった声をベースに、ターゲットユーザーの“こんな洋服が着たい”というニーズに応えるアパレルブランドが「SOÉJU」で、販路はECサイトがメインだ。
パーソナルスタイリングサービスとブランドビジネスの両輪で事業を展開するモデラートには、ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社が熱い視線を送る。
モデラートに投資した事業者やVCは何を評価したのか。代表取締役の市原明日香さんはこう説明する。
テクノロジー企業や従来のアパレル企業と何が違うのか? モデラートでは、パーソナルスタイリングサービス「SOÉJU personal」を通じて、体型タイプやファッション志向といったお客さまデータを蓄積。そのデータを基に、ターゲットユーザーであるお客さまに適した洋服、つまりサイズや好みの色などを精度高く製造し、販売できるようにしているのです。ちまたにはAI(人工知能)を活用して最適な洋服を提案するサービスがありますが、その主目的は時間短縮。私たちは、お客さまが求めている洋服を作り、それをスムーズに購入していただけるようにお客さまデータを蓄積し、ビジネスに活用しています。
ブランド事業をスタートしたのは2018年9月。当初は3型のみだったラインナップは現在、「40型以上まで増えています」(市原さん)。スタイリングサロン「SOÉJU代官山」のオープンも2018年9月。ECサイトを開設したのはその約6か月後の2019年4月のことだ。
ECビジネスのスタート時、パーソナルスタイリングサービスの利用者にECサイトを案内する方法で集客を図っていたが、現在はその逆がメイン。「商品をECサイトで購入するという普段から慣れた行為をしたお客さまにパーソナルスタリングサービスを紹介した方がスムーズで、『SOÉJU personal』の利用者も一気に伸びていきました」と市原さんは言う。
平均客単価は2万5000円弱。「百貨店よりは商品の価格帯を抑え、価格と品質のバランスをとっています」(市原さん)
リピート顧客が多い理由とは
ECサイトの立ち上げから1年足らずで、多くの利用者がF2転換(初回購入から2回目の購入)をしているのが大きな特長。初回購入から3か月以内にリピート購入する既存顧客は4割を超えるという。「なかには、毎週のようにご購入くださるお客さまもいらっしゃいます」(市原さん)
なぜモデラートのECサイトはリピート客が多いのか。それには2点あるという。1つ目がブランド力。
(「SOÉJU」は)トレンドに寄せたアパレルではありません。「大人向けの上質な素材」「ベーシック」「ほどよい価格」が特長で、アパレル市場の中でも隙間を狙ったブランドと言えます。ストレスなく他の洋服と組み合わせることができるデザインも特長だと思います。(市原さん)
そして、もう1つが、リピーターが買いやすいECサイトの設計である。
ECサイトの買いやすさ、バケツの穴をふさぐ目的で「Amazon Pay」を導入
「SOÉJU」のECサイトの大きな特長は“買いやすさ”を徹底的に追求していることだ。「カード情報など入力の手間を省く」「安心・安全の提供」「スムーズな買い物体験の提供」――。こうした買い物環境の実現を支えているのが、Amazonが提供するID決済サービス「Amazon Pay」。これまでの累計決済件数の68%が「Amazon Pay」経由という。
「Amazon Pay」とは、Amazonアカウントに登録された配送先住所やクレジットカード情報を使うことで、Amazon以外のECサイトでログインや決済ができるID決済サービス。初めて利用するECサイトでも、Amazonアカウントでログインすることでクレジットカード情報などを入力する必要がない。
また、初めて利用する独自ドメインのECサイトでは、クレジットカード情報を入力することに不安を感じる消費者は多い。そのため、新規顧客がECサイトにクレジットカード番号を入力するハードルが高いと言われている。また、スマートフォンではカード番号の入力ミスなどにより、離脱してしまうケースが少なくない。
「SOÉJU」でもECサイトスタート時、カート落ちが少なからず発生しており、「バケツの穴を防げば、お客さまはもっとスムーズに商品を購入することができるはず」(市原さん)と考え、すぐに「Amazon Pay」を導入した。
他のオンライン決済サービスもあるなかで、「Amazon Pay」に決めた理由は何だったのか? その理由を市原さんはこう説明する。
「SOÉJU」のお客さまは目の肥えた知性的な方が中心。良い物をECサイトで買いたい、合理的に物事を進めたい、といった女性が多いんです。そういった女性の多くは、Amazonのアカウントをお持ちだろうと考えました。
また、メインターゲット層は「通勤時間内に商品を探してそのまま購入するケースが多いと仮説を立てました。電車内などでクレジットカード情報を入力して購入するフローはとても大変でハードルが高い。Amazon Payであればよりスムーズな購買体験を実現できると考えました」(市原さん)
こうした市原さんの読みは当たった。実際に朝と夜に注文が集中、通勤時間や夜の就寝前に購入するといった消費行動が起きている。こうした購買行動において、カード情報の入力といった手間を省くことができ、最短2クリックで決済を完了できる「Amazon Pay」が決済手段として役立っているのだ。
2019年12月度の実績では、既存顧客の74.2%が購入時に「Amazon Pay」を利用しているといったデータがあるほど、「SOÉJU」における「Amazon Pay」の利用率は高い。
累計決済件数の68%、既存顧客の74.2%が購入時に「Amazon Pay」を利用――。なぜこれほどまでに「Amazon Pay」の利用率が高いのか? 買いやすいECサイトを作るために導入したECプラットフォーム「Shopify(ショッピファイ)」のある機能の活用も要因の1つにあげられる。
その機能の名称は「動的チェックアウトボタン」。ネット通販の買い物フローは、「商品詳細ページで商品をカートに入れる→カート内に移動→カートから決済手続きに進む」のが一般的。「動的チェックアウトボタン」は、カートへの移動をスキップし、ボタンに表示されているチェックアウト方法で支払いを完了できるという仕組みで、ボタンは決済履歴などから動的に変更されるため、利用者に適した決済方法が反映される。
「SOÉJU」では「Amazon Pay」を導入しているため、一度でも「Amazon Pay」で購入した顧客には「Amazon Pay」ボタンが表示される。なお、初めての訪問者などには「今すぐ購入」ボタンが表示されるのだ。
「今すぐ購入」ボタンをクリックした後に表示される決済ページでは、ページ最上部に「エクスプレスチェックアウト」として「Amazon Pay」ボタンを表示。クレジットカード決済などよりも、情報入力が不要な「Amazon Pay」を勧める形式となっている。
ちなみに、カート内ではクレジットカードなどの「お支払い手続きへ」ボタンのほか、「Amazon Pay」を案内するボタンを設置している。「Amazon Pay」を全面的に促進している狙いはどこにあるのか? 市原さんはこう言う。
「Amazon Pay」なら、情報入力が不要なことに加えて、対応しているクレジットカードの種類が多いことも大きいです。より多くのお客さまにお買い物いただけるので助かります。また、お客さまにはお得にECサイトで商品を購入していただきたいと考えています。「SOÉJU」が元々利用していた決済代行サービスは「キャッシュレス・消費者還元事業」に対応していませんでしたが、「Amazon Pay」は対応しています。「Amazon Pay」で買い物をすればキャッシュレス・消費者還元事業の対象になりますので、お客さまは嬉しいですよね。
「SOÉJU」のECサイトのグローバルナビには、「Amazon Pay」の「キャッシュレス・消費者還元事業」対応を詳しく説明したページへ誘導するための「Amazon Payご利用案内」というナビゲーションを設けつつ、この内容についてのページを自社サイト内に作成している。「外部リンクを貼ってしまうと、最終的に『SOÉJU』のページへ戻ってきにくくなりますので、離脱を防ぐという意図もあります」(市原さん)
「SOÉJU」が「Shopify」を選んだ理由
ここで、数あるECプラットフォームの中から、上述したような高機能を持つ「Shopify」をなぜ導入したのか? その理由などについて触れておきたい。
「Shopify」はカナダ発のECプラットフォームとして、2006年にサービス提供をスタートし、日本では2017年より展開されている。すでに約175か国で100万以上の企業が導入しており、昨今では日本企業の利便性を高めるためにサービスのローカライズにも注力。デザインテンプレートや多言語化、多通貨対応、機能拡張のための連携アプリといった豊富な機能に加え、越境ECにも対応した販売の一元管理や世界最高基準のシステムであることを強みとしている。
モデラートが「Shopify」を導入した理由は「全世界でD2Cブランドが『Shopify』を使っていることを知ったからです」(市原さん)。「Shopify」なら「Amazon Pay」の導入が簡単なことに加えて、次の4点が「Shopify」導入の決め手になったという。
- デザインの自由度が高い
「Shopify」導入前、無料のショッピングカートの導入を検討していたモデラート。ブランドが大切にしている世界観を表現したかったが、デザイン面での自由度が低かった。「Shopify」は、テンプレート活用からテンプレート構築による独自デザインまでデザインの自由度が高い。 - 越境ECへの対応が簡単
越境ECの壁と言われる「言語」「通貨」「配送」に関しても、「Shopify」を使えば手間をかけることなく解決できる。「Shopify」は1つの言語を設定すれば、他の言語へ自動翻訳する機能を搭載し、通貨も自動でレート変換することができる。2020年2月時点では50の言語と130か国の通貨に対応している。配送面も海外配送を手がける事業者がアプリを提供しているので、それを活用すれば手間なく海外発送の手続きが行える。 - Instagramのショッピング機能との連携
「Shopify」はInstagramのショッピング機能と連携しているため、「Shopify」を利用しているECサイトはInstagramのオーガニック投稿に商品をタグ付けし、商品の詳細を表示したり、写真からECサイトにリンクを貼ることができる。Instagramで商品を探して購入するといったケースが増えているため、こうしたショッピング機能との連携は便利。 - 機能拡張が容易な豊富なアプリ
「Shopify」は、シンプルでありながら豊富なアプリによって自由にカスタマイズできるため、自社のビジネスモデルに合ったECサイトを作ることができる。レポーティングもアプリを使えば簡単。世界中のエンジニアによって開発されているため、グローバルで利用され実績のある選りすぐりのアプリが数多く提供されている。
「ショールーム」+「EC」+「Amazon Pay」のオムニチャネル
体型タイプやファッション志向の診断、カウンセリングをリアルの場で行うスタイリングサロン「SOÉJU代官山」。展示アイテムの試着に加えさまざまなシルエットの着こなしも体験できるため、客足は途絶えない。
同店では基本的に商品展示のみ。ただ、実物の販売は行っていないこのリアルの場でも、「Amazon Pay」が買い物体験の向上に一役買っている。
「SOÉJU代官山」ではタブレット端末を用意。スタイリングやサイズの確認などで訪れた顧客がその場で購入意思を示した際、タブレット端末から購入できるように接客する。
お客さまはショールームでも「Amazon Pay」があれば簡単にタブレットで買い物をすることができます。カード情報入力などをせずに購入できるので、その場での商品購入につながりやすいです。(市原さん)
アパレル関連商材は、使用感や素材、サイズを事前に確認したい消費者が多い。こうした消費者ニーズに対応する方法として、「ショールーム」「EC」「Amazon Pay」を組み合わせたオムニチャネルは、多くの中小企業が参考にできるビジネスモデルであると言えよう。
◆2020年3月1日から2020年4月30日までにShopifyで作成したECサイトに「Amazon Pay」ボタンを実装いただくとAmazonギフト券3,000円分をプレゼント◆
※記事内のデータはすべてモデラート社による調査結果です。