通販新聞 2020/7/17 9:00

ここ数年の宅配会社の運賃値上げを受けて、送料無料施策を取りやめたり、送料を値上げしたりする通販企業が目立つ。また最近では「楽天市場」が打ち出した「3980円以上の購入で全店の送料を無料する施策」が大きな波紋を呼んだ。そんな中で楽器の通販サイト「chuya-online」を運営するプラグインは、ネット販売の開始時から全品送料無料施策を続けている。

送料無料でも収益が取れる、価格決定システムを自社で開発

同社の高尾太郎社長は「2002年頃に『ヤフーオークション』からスタートしたが、落札金額に送料を加えて計算するのが面倒だったので、メール便を活用することで送料無料とし、主にギターの弦やピックを販売していた。翌年に『楽天市場』に出店したわけだが、送料無料は顧客にとってもわかりやすいので、収益をしっかり取れるような計算式を考えた」と明かす。

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「chuya-online」楽天市場店の配送表示(画像は「chuya-online」楽天市場店サイトから編集部がキャプチャし追加)

送料は商品サイズや配送地域によって変わってくるが、例えば60サイズの商品であれば「地域ごとにどれだけの数を出荷したか」を踏まえて平均値を導き出し、これを送料の基準値とする。その上で、仕入れ値や各仮想モールに支払う売り上げからのロイヤリティー、クレジットカード手数料を引くと利益額が概算できる。

同社では販売価格を入力することで粗利が自動的に算出できる、価格決定のためのシステムを自社で開発した。右側にはサイズを入力する欄もあり、これをもとに発送方法が自動的に選択されるため、発送方法のデータベースから送料の基準値が自動的に入力される。同社はバイヤーが価格を決める仕組みのため、「残利益」を考えながら値段を決めていく。販売する全商品の価格をこのソフトを使って決めるため、「送料などの経費がかさんで赤字が出ているのに商品を売り続ける」ということは起きないという。

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価格決定システムの画面

現在、ロイヤリティーとカード手数料は計9%として計算しており「おおむねどの仮想モールもカバーできる」(高尾社長)。同社の場合、消費者への分かりやすさを重視するため、同一型番の商品は自社サイトも仮想モールも同価格で販売しており、自社サイトで購入された場合は利益の絶対額が大きくなる仕組みだ。

現在の価格決定システムが稼働を開始したのは14年のこと。それまではエクセルを利用して同様の計算を行い、販売システムに反映させていたが、システムに組み込む形で計算ができるようにした。

高尾社長は「08年頃はそこまで厳密な計算はしていなかったが、当時はまだ運賃が安く、価格競争も今ほど厳しくなかったので大きな問題は起きなかった。その後、アマゾンの台頭と運賃値上げも重なり、細かく計算しないと利益を出せなくなってきた。『送料無料にするのが厳しい』と言っている店舗は、08年頃の考え方で止まってしまっているのではないか」と指摘する。同社ではアマゾンの販売価格をクローリングしており、追尾最低価格と最高価格を設定しておくことで、自動的に追尾した値付けをする仕組みも導入している。

郵便配送は「エラー率を考慮すると効率が良い」

また、最近では商品の発送に定形郵便と定形外郵便を活用している。追跡番号が発行されないのが消費者にとっての不安点となるが、「2年ほど前から使っているが非常に精度が高い。今年5月の実績でいえば、2万5835件郵便で商品を発送し『届かなかった』という問い合わせは19件。その後の調査で届いていたのが分かったのは、このうち11件。本当に届かなかったのは8件であり、エラー率を考えたら効率はとても良いと感じている」(高尾社長)。

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「chuya-online」を運営するプラグイン社長の高尾太郎氏

レビューを見ると、郵便での商品発送を初めて経験する消費者は不安に感じることもあるようだが、「きちんと届く」ことが分かっている2度目以降の利用者は安心して購入している

商品が届かなかった顧客に対しては代品を郵送する。もちろん、消費者が二重に商品を受け取っている可能性もあるが、必要経費と考えて割り切っているという。

楽器の通販サイト「Chuya-online」を運営するプラグインでは、2年前から商品の発送に定形郵便と定形外郵便を活用している。全品送料無料施策を続けている同社だが、宅配便やヤマト運輸の「メール便」、日本郵便の「ゆうパケット」も値上がりしたのが導入のきっかけだ。10年前と比較すると50%ほど運賃が上がっている。「当社の場合、ギターの弦やピックのように、封筒に入る商品が多いので試してみようということになった。事故率も少なく、結果としては、コスト増を抑えてサービスレベルを維持するために役立っている」

自社サイトの売上比率を上げる

10年前と比較すると50%ほど運賃が上がっている。商品価格については「基本的には維持している。楽器の場合、アマゾンというプライスリーダーがいるので、採算が合うなら価格で対抗し、合わない商品はアマゾンより高くして販売している」(高尾社長)。

アマゾンの場合、売れる商品を中心に扱っているため、同社では「ロングテール」にあたる部分を重視。高尾社長は「売れ筋が20%、ロングテールが80%を言われるが、昔と違い今のアマゾンは売れ筋を重視している。当社は『1年に1度しか売れない』というような商品も揃えるようにしている」と話す。

仮想モールのロイヤリティーとカード手数料は計9%として計算しているが、昨年の消費増税前は10%としていた。商品価格を据え置いたため、いったんは8%に設定していたが現在は9%に。いずれは10%に戻すという。全体の売れ行きや顧客数をみながら徐々に上げていくイメージという

この合計値は自社サイトと仮想モールに出店する全店舗を踏まえた概算値で、「9%ならお釣りが来るだろう」という計算で設定している。高尾社長は「10%に戻しても全体の粗利率を28%に戻せば余裕を持った経営ができる。現在は1%ほど下回っているので上げていきたい」という。将来的には粗利率を30%まで高めることで、運賃値上げや仮想モールのロイヤリティー値上げなどに対処したい考えだ。今夏には自社サイトの刷新を予定しており、自社サイトの売り上げ比率を高めることで経費に占めるロイヤリティーの割合を下げる

送料無料にできそうな商品を突破口に、単品を積み重ねる

「楽天市場」が打ち出した「3980円以上の購入で全店の送料を無料する施策(送料無料ライン)」が大きな波紋を呼んだ。特に「商品価格を送料に上乗せしにくい店舗」からの反発は強かった。

高尾社長は「当社は型番商品を扱っているので、全店舗に当てはまるわけではないが」と前置きしながら、「『送料無料ライン』への対応が難しいという店は、月次データを見て『売り上げと運賃がこれだけだからできない』と考えているのではないか。当社の場合、ミニマムから積み上げていく。つまり『この商品を送料無料で利益を出すにはどうすればいいか』というところから始めて、最終的に全体で送料無料ができるようにしていく。できそうな商品を突破口にして、単品を積み上げていけば光が見えてくると思う」と助言する。

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送料無料ライン対応ショップのみ対象となるイベントに参画(画像は「chuya-online」楽天市場店サイトから編集部がキャプチャし追加)

2020年3月期の売上高は約20億円。新型コロナウイルス感染拡大による“巣ごもり需要”を受けて、4月売上高は前年同月比40%増、5月売上高は同50%増だった。新型コロナの影響で実店舗が休業していたこともあり、楽譜などが良く売れたという。「4月末に物流がパンク寸前となり、在庫のない取り寄せ品を買えないようにするなど、受注を絞らざるを得なかった」(高尾社長)。新規客が目立ち、全体の80%近くを占めていた。

物流倉庫は本社と同じく北九州市に構えている。今後は、来期にも物流を一部外注化することで顧客へのリードタイムを短くしたい考えだ。物流代行サービスとしてアマゾンの「フルフィルメント by Amazon」や楽天の「楽天スーパーロジスティクス」などの活用を検討しているが、「通常時は問題ないが、出荷が急増したときに対応できなくなる、ということがあると困るので、そうなったときに自社で振替発送できるような仕組みを考えたい」(高尾社長)という。

さらには国内で流通している楽器やパーツ類を全て展開する通販サイトを目指す。メーカーと協力し合うことで「紙のカタログには載っているがウェブでは扱っていない商品」なども販売できるようにしていく。

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
※画像、サイトURLなどをネットショップ担当者フォーラム編集部が追加している場合もあります。
※見出しはネットショップ担当者フォーラム編集部が編集している場合もあります。

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