「置き配」の普及はECサイトの顧客単価や購入単価の向上につながる? 「OKIPPA」が「置き配」浸透に注力する理由
簡易宅配ボックス「OKIPPA」を提供するYperは、「置き配」浸透によるEC利用者の消費行動の変化を検証し続けている。その理由は、「置き配」によって“受け取れない”を解消すれば、ECサイトの顧客単価の向上や購入頻度の増加につながると考えているためだ。「置き配」の課題ともいえる盗難対策やオートロックマンションへの対応なども含め、「OKIPPA」の現状、「置き配」を通じたEC事業者の支援策について、Yperの内山智晴代表取締役に話を聞いた。
「OKIPPA」で消費行動変化を検証
楽天は2020年4月、「Rakuten EXPRESS」(※編注:楽天が運営する配送サービス。「Rakuten24」などの直販店舗や「楽天市場」出店店舗の一部商品を対象に、34都道府県で「置き配」にも対応した配送サービスを行っている)内の置き配オプションとして、「OKIPPA便」(※編注:EC事業者がサイト上で配送先の選択肢として「OKIPPA」を指定できるというもの)を導入した。「置き配」「OKIPPA」の認知を広げるため、楽天ユーザーにオリジナルデザインの「OKIPPA」を1万個配布。「OKIPPA」を通じて、安全な置き配の導入、利用拡大をめざすという。
一方、「OKIPPA」を運営するYperは楽天との取り組みを通じて、「OKIPPA」の浸透が消費者行動にどのような変化を起こすか、長期的な検証を行っていく。
Yperはこれまでに、複数の企業と共同で「実証実験」という形で同様の取り組みを行ってきた。しかし、「実験期間は1か月が限界。それ以上の消費行動は追い切れずにいた」と、Yperの内山智晴代表取締役は言う。
今回、楽天が「OKIPPA便」を正式採用したことで、消費者行動の分析に必要な中長期的な行動データを取得することが可能になった。
「OKIPPA」の普及で、潜在層を開拓できるか?
内山氏が楽天との取り組みを通じて期待するのは、「潜在層の開拓」だ。
日中働きに出ているなど、住宅環境に宅配ロッカーがないことでECの利用を諦めていた人でも、「OKIPPA」を利用すれば受け取りの心配が不要になり、ECの新規利用が見込める。
また日頃からECを利用している人でも、「在宅じゃなければ受け取れない」ことに不便さを感じていれば、近所で購入できる日用品などをわざわざECで買うというオプションはなかったはず。加えて「非接触」が求められる現在、「OKIPPA」を利用すれば、自宅にいても配達員と接触せずに商品を受け取れることから、外出頻度が減っているユーザーに対しても置き配ニーズは高まる。
内山氏は、「『OKIPPA』の配布により商品の受け取り環境が整うことで、『ECサイトでの購買頻度が上がる』『顧客単価の上昇により利益率改善』といった結果が出てくる可能性もある」とする。
EC事業者が無料で「OKIPPA」を配布するメリット
「OKIPPA」は主に、消費者個人が購入(税込3,980円)して利用する。将来的には、「Rakuten EXPRESS」が実施したように「EC事業者が『OKIPPA』を買い取り、顧客に無料配布してもらう利用法を提案していきたい」と内山氏は言う。
その際ポイントになるのが、「OKIPPA」を使い始めたことで、ユーザーの消費行動にどのような変化が起きるかだ。
もし、「OKIPPA」を使い始めたユーザーが、「置き配」というオプションができたことで購入頻度が上がり、さらに顧客単価が「OKIPPA」の仕入れ値を上回るようであれば、EC事業者は「OKIPPA」を無料で配布した方が、顧客1人あたりのLTV(顧客生涯価値)は向上すると仮説が立てられる。
内山氏は楽天との取り組みにより、こうした結果を得たい考えだ。
EC事業者やモールが「OKIPPA」を無料で配布し、ユーザーが「置き配」オプションを選択できるようになれば、EC利用者は受取環境を気にせず注文できる。それにより、購買頻度が増える可能性がある。購買頻度が上がればモール内の会員ランクなどが上がり、利用者の購買意欲が刺激される。「OKIPPA」を起点にポジティブな循環が働くようになるかもしれない。(内山氏)
「置き配」のさらなる普及をめざすには?
オートロックマンションでも運用を開始
Yperは「OKIPPA」の普及に向け、「エントランスの外側に受取ボックスがない」「住人が不在の場合、オートロックを解錠できずエントランスを通過できない」などが課題となっているオートロックマンションへの対応を進めており、すでに実証実験を終えている。
2020年9月中には、都内のオートロックマンションで運用を開始する予定だ。2021年4月ごろの展開を予定していたが、需要の高まりを受け、スケジュールを前倒ししてのスタートとなる。
実際に利用するオートロック解錠は2つ方法がある。
1つ目は、外部のスマートロックサービスと「OKIPPA」が開発・提供する専用アプリを連携する方法。「OKIPPA」アプリは、「OKIPPA」のユーザーがキャリアメールと連携させると、ECサイトで注文した商品がいつ、どの配送番号で届くかが自動的にアプリに反映されるというもの。
オートロックマンションに住むユーザーがアプリを利用することで、例えば商品配達前に配送伝票番号と連動したワンタイムパスワードが発行されるなどの連携方法がある。これは、配達員がエントランスに設置されたスマートロック搭載の専用タブレットなどから配送番号を入力すると、API連携によりアプリ側で配送伝票番号を認証し、自動でマンションのオートロックが解錠されるという仕組みだ。
2つ目は配送会社所有の端末に専用アプリを導入し、スマートロックシステムとBluetooth通信させることで解錠する方法。配送対象の追跡番号が登録された専用端末を持ってマンションエントランスに到着すると、Bluetoothによりドアが解錠。ユーザーの「OKIPPA」アプリに通知が届く。
タワーマンションなどの大規模マンションでは、エントランス通過時から自宅に荷物が届くまで時間がかかることも多い。こうした場面でも、荷物が自宅に届くまでの時間を有効活用できる。
いずれの場合も、セキュリティ面は認証システムで担保を取る。前者はワンタイムパスワードを使用することで、一度使用するとキーが失効。そのため、何度もマンション内に入れない設計になっている。後者は、対象の追跡番号が登録された専用端末を持った配達員しかオートロックが解除できない。
盗難対策の強化で「OKIPPA」利用率向上につなげる
新型コロナウイルス感染症拡大防止策として、荷物の非対面受取や「置き配」が増えているが、同時に盗難被害も深刻な問題として浮上している。
「OKIPPA」では、2018年7月から、30日100円の利用料を支払うと上限3万円までの補償が受けられる任意加入プランを展開。現在のところ盗難被害は確認されていないというが、ユーザーがより安心して使用できるよう、2020年7月、盗難補償サービスを拡充した。
新たに開始したのは、ユーザーから盗難被害の申請があれば、上限3000円(※編注:商品代金+送料+税金の合計金額)分のギフトカードを送る盗難補償サービス「盗難サポート」。利用料はかからない。「OKIPPA」アプリで配送状況が追跡できている荷物が補償の対象となる。
補償を受けるには、ユーザー自身で警察に盗難届を提出する必要があるほか、アプリから盗難届の写しの提出や盗難現場の画像提出、アプリと「OKIPPA」バッグの連動が必要となる。
盗難サポートの拡充を通じて内山氏がめざすのは、Amazon並のスムーズな取引だという。
Amazonは荷物が届かなかった、届いた商品に不具合があったなどカスタマーサポートに連絡を入れた場合、すぐに代替品が送られてくる。こうしたスムーズな対応ができるのは、Amazonが「不正請求ではない」と判断できるだけの、膨大なデータを所有しているからだ。(内山氏)
ユーザーからの申請が「不正請求ではない」と確信を持つためには、「これは明らかな犯罪行為」と認めるためのデータが必要になる。
「盗難サポート」の提供を通じ、ユーザーから画像データを収集することで、万が一「OKIPPA」ユーザーが盗難被害にあった場合でもすぐに対処できるような仕組みを整えていく。
安心・安全性が担保されれば、顧客満足度が上がり、「OKIPPA」の利用率向上にもつながるからだ。
Yperが実施している消費者の安全性や利便性を高める姿勢が評価され、地方自治体との取り組みも進んでいる。2020年8月25日には、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を利用し、沖縄県北中城村の住民200世帯にOKIPPAが無償配布されることが決定した。同交付金がOKIPPAに活用されるのは全国初の事例となる。
その他現在「OKIPPA」では、ファッションサブスクリプションサービス「メチャカリ」と共同で実証実験を行い、非対面での「集荷」にもサービス領域を広げる準備を進めている。本格的に「集荷」サービスをスタートする上でも、盗難対策がカギになりそうだ。