Digital Commerce 360 2021/10/14 8:00

米国のEC業界向け専門誌『Digital Commerce 360』のコンシューマー・インサイト・シニアアナリストであるローレン・フリードマン氏は、「ユーザーエクスペリエンス(UX)は常に変化しています。消費者の満足度が高い場合、それは小売事業者の努力の賜物と言えます」と話します。

エンゲージメントの改善は売上向上の重要な要素

消費者は毎日、企業との関りを持っています。そして多くの場合、企業はカスタマーエクスペリエンス(CX)の観点から、「良い」「悪い」「ひどい」のいずれかで評価されます。

EC事業者は、顧客ニーズを考慮し、切磋琢磨して、何が有効で何が効果がないかを学んできました。このカスタマーエクスペリエンスを向上する取り組みは、どんなに優れた小売事業者にとっても継続的に改善をしなければならないプロセスです。

EC消費者は、ファネル内の購入プロセスに消費者を素早く誘導できるよう、主要なWebサイトページの改善に重点的に取り組んでいます。それはコンバージョンと売上アップが目標ですが、エンゲージメントの改善も常に重要な要素となります。そう、小売業では、消費者への適切な対応が売上向上につながるのです。

UXはデスクトップで高く、モバイルのアプリ&Webは改善が必要

『Digital Commerce 360』は2021年9月、調査会社Bizrate Insightsと共同で、1000人のオンライン通販利用者を対象に、ユーザーエクスペリエンスに関する調査を行いました。

全般的に満足度が高いものの、モバイルWebとモバイルアプリは満足度が低くなっています。調査結果をまとめると、デスクトップ、モバイルWeb、モバイルアプリという3つの異なるショッピング体験における満足度のパターンが明らかになりました。

満足度デスクトップモバイルWebモバイルアプリ
5以下6%14%14%
6~837%47%41%
9~1042%24%24%
該当なし15%15%21%

デスクトップの利用が長く続いているのは、ユーザーエクスペリエンスが時間をかけて開発されてきた証です。ほとんどの消費者はデスクトップに慣れ親しんでいるため、デスクトップを利用するのは自然なこと。ただ、モバイルWebは、まだ発展途上のメディアであるためより多くの改善が必要となりますが、これから大きく進化していくでしょう。

同時に、消費者にとっては新しいメディアであるモバイルアプリに対して、小売事業者は改善努力を続けています。基本的な部分がさらに改善されれば、より高い満足度が得られるでしょう。

カスタマーサービスなどで低い満足度

調査対象者が2021年に利用したすべてのサイトについて、期待値を満たしているか、あるいは超えているかを調べました。

消費者の期待は、商品を探す際の効率(59%)とチェックアウトプロセス(73%)に関しては満たされていましたが、「カテゴリーの概要がすぐにわかる」と答えた人は24%で、「ブランドや小売事業者の概要がわかる」と答えた人は13%にとどまりました。

在庫の透明性は、ECサイト上でも、別のチャネル間でも確保されている必要があります。サイト上の商品在庫の確認に関しては、サプライチェーンの課題があるなかでも、55%が期待通り、または期待以上であったと回答。地元の店舗での在庫確認について満足している人は36%にとどまり、オムニチャネルの観点からは厳しい数字となりました。

ECサイトの安全性を確保し、不正行為を防止するための対策を行うことは、継続的な課題であり、小売業事者は引き続き注意が必要です。回答者の40%が小売企業のサイトセキュリティへの取り組みに満足していますが、不正行為対策について期待通りだったと回答したのは22%でした。

期待通りあるいは期待以上の満足度を得るには、商品からカスタマーサービスに至るまで、さらなる情報提供が必要です。「商品情報」に満足と回答したのは28%、「配送や返品に関する情報」は26%、「役立つ商品のレコメンデーション」は25%が満足と答えました。

カスタマーサービスの観点からは、質問への回答に満足しているのは22%、登録したプロフィールの閲覧・更新に満足しているのは18%と低い結果となり、課題があるようです。

カスタマーエクスペリエンス大調査 利用したECサイトについて、どの項目が期待通りまたは期待以上だったのか
利用したECサイトについて、どの項目が期待通りまたは期待以上だったのか(出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

消費者の不満を抑えることがビジネスの成長につながる

小売事業者は、消費者の不満を抑えることがビジネスの成長に不可欠であることを知るべきです。今回の調査では、オンラインで買い物をした際、不満を感じたのは3人に1人だけだったため、ポジティブな結果となりました。

購入の意思決定を促す商品情報は、充実したものでなければなりません。調査回答者の35%は、画像が十分でない場合に不満を感じ、33%は商品説明の文章が不足していると感じています。

また、消費者は常に送料無料を求めているため、回答者の36%が懸念する不明瞭な送料情報にも対処する必要があります

消費者は時間に追われているため、検索からチェックアウトまでのスピーディーな導線が求められますが、30%がサイトの読み込みが遅いと感じています。検索結果が適切に処理されれば、消費者の意思決定が容易になりますが、26%はサイト内検索の結果がまだ不十分であると回答。チェックアウトの問題は、オンライン通販利用者の20%が懸念しており、19%が過剰なスクロールを問題視しています。

現在のサプライチェーンの制約もあり、チャネル間での在庫確認を可能にするニーズが強まっています。今回の調査でも、オムニチャネルの在庫との不一致(28%)、現地店舗の在庫が確認できない(24%)、サイト上の在庫状況がわからない(23%)、配送方法が明確でない(12%)などの不満があげられました。

満足度の数字にも表れているように、消費者はモバイルでの買い物にまだ不満を持っています。オンラインショッピング利用者の22%が、モバイルアプリがない場合に不満を感じ、11%が失望を表明していることから、モバイルショッピング体験の改善は最優先事項と言えるでしょう。

カスタマーエクスペリエンス大調査 半年間(2021年3月~8月)に利用したECサイトであがった不満点
半年間(2021年3月~8月)に利用したECサイトであがった不満点(出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

オンラインショッピング体験で重視する機能は「商品情報」

ECビジネスをサポートするために必要なツールは小売事業者によって異なりますが、パフォーマンスの高いサイトには商品情報と画像が不可欠です。消費者の購買意欲を高めるためには、包括的な商品情報が必要になります。

詳細な商品説明(76%)、豊富な商品画像(61%)、充実した商品レビュー(44%)、商品のおすすめポイント(41%)が、eコマースサイトに必要な情報の上位を占めています。商品ページ以外に掲載して欲しい情報では、以下があげられましたが、数字はやや低くなっています。

  • Q&Aセクション:33%
  • ハウツーガイドやビデオチュートリアル:26%
  • 商品紹介ビデオ:25%
  • 商品の共有機能:14%
  • 商品やブランドに関するブログコンテンツ:5%

ビジュアルアイコンに関しては26%が必要と答えており、サステナビリティへの取り組みのなかで、より大きな役割を果たす可能性があります。

オンライン通販利用者は、ツールを「あると便利」と認識していますが、「お気に入り機能」と「検索」はともに46%で第4位となっており、ショッピング体験にとって重要であると考えられています

強力な検索機能が32%と意外に低かったのは驚きでした。しかし、もしこの質問が単独で行われていたら、もっと高い評価を得ていたでしょう。プロフィール分析機能など、消費者が正しい選択をするためのインタラクティブなツールが11%であることを除けば、その他の項目はすべて一桁台の重要度となっています。

  • プロフィール分析:11%
  • 試着ツール:9%
  • ライブカメラ検索:7%
  • 音声検索:5%

小売企業は自社のブランドやビジネスの目的に照らし合わせて、ツールの役割を検討する必要があるでしょう。

カスタマーエクスペリエンス大調査 オンラインショッピングの体験で重視する機能
オンラインショッピングの体験で重視する機能(出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

求めるパーソナライズ機能は「最近見た商品にすぐにアクセスできる」

オンライン通販利用者は、時間を節約できるパーソナライズされた体験を特に高く評価しています。効率的なパーソナライゼーションとして、最近見た商品にすぐにアクセスできること(59%)、アカウント情報を保存・更新できること(55%)に期待。また、33%が買い物の際に購入チャネルを指定できることをあげ、30%が複数のデバイスからアクセスできる共有カートを希望しています。

一方で、52%が「パーソナライズ機能を使わない」と回答しているため、パーソナライズ機能のオプトアウトも、重要な要素となっています。

加えて、サイト上での閲覧・購入行動(32%)や、類似商品を購入した人のデータに基づいて表示される商品(23%)など、アルゴリズム主導の機能に価値が見出されています。

カスタマーエクスペリエンス大調査 ECサイトに期待するパーソナライゼーション機能
ECサイトに期待するパーソナライゼーション機能(出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

カスタマーサービスで求められる問題のスピード解決

オンライン通販を利用する消費者にとって、タイムリーで質の高いカスタマーサービスは最も重要です。

48%の消費者が問題を迅速に解決してほしいと考えており、31%が返金などの問題解決能力に注目しています。

スタッフとのやり取りの質は、オンライン通販利用者にとって非常に大切で、回答者の47%が重要視していると回答、26%が特に重視していると答えています。

ライブチャットは連絡手段として好まれており、36%がお気に入りの連絡手段のトップ3に入れています

ショップの連絡先情報がサイト上で簡単に探せることは、依然として最重要事項ですが、36%が連絡先情報を見つけられないと指摘しています。

カスタマーサービスでは、人間的なやりとりを好むグループと、セルフサービスを重視するグループにわかれています。消費者のニーズは常に変化しているため、あらゆるニーズに対応できるよう、人を介したサービスとセルフサービスのツールを組み合わせて提供する必要があります。

今回の調査では、FAQは13%にとどまり、ショッピングカートに組み込まれたカスタマーサービスもあまり注目されていませんでしたが、どちらも重要です。コンテンツとアクセシビリティの両方の観点で取り組めば、小売事業者にとってはコスト削減にもつながります

カスタマーエクスペリエンス大調査 オンライン購入で最も重要なカスタマーサービスについて
オンライン購入で最も重要なカスタマーサービスについて(上位3点を選択、出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

消費者はやはり人とのコミュニケーションを好むようで、Eメールが2位になっています

ライブチャット(79%)と電話(58%)が「人間」によるリアルタイムのカスタマーサービスの選択肢のトップです。Eメールは、質問をすぐに送信し、それに対する回答を記録しておくことができるため、いまだに幅広く利用されており、67%の人が選んでいます。セルフサービスツールには魅力がありますが、人間が行うサービスに比べると見劣りするようです。

カスタマーエクスペリエンス大調査 オンラインショップとコミュニケーションを取る際に好んで利用する方法
オンラインショップとコミュニケーションを取る際に好んで利用する方法(上位3つ、出典:『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1000人のオンライン通販利用者に行った調査)

在庫切れ情報をサイトの目立つ場所で表示を

在庫切れを明確に表示し、潜在的な問題点を伝えることは、オンライン通販利用者にとって有益です。消費者は、サイト内の目立つ場所で在庫状況が示されることを望んでおり、以下のページで在庫状況を知りたいと答えています

  • 商品ページ:68%
  • 検索結果:63%

また、その他に知りたい情報として以下があげられました。

  • オムニチャネルの明確な選択肢:49%
  • 1か月以上の待ち時間がある商品:45%

また、61%の回答者が「在庫切れ商品の解消」を重要視していることも特筆すべき点です。オンラインで買い物をする人は、注文が遅れたり、在庫切れになったりしたときに、解決策の提案とともにタイムリーなコミュニケーションを期待しています。

具体的には、注文が遅れた場合の連絡(64%)や、在庫切れの際に解決策をメールやテキストで通知(50%)を希望しています。小売事業者は、サイト上での在庫情報の表示が明確であれば、32%の消費者がさらに通知を受けることに興味がないという事実を理解すべきです。

◇◇◇

ユーザーエクスペリエンスは常に変化しています。消費者の満足度が高い場合、それは小売事業者の努力の賜物と言えます。

モバイルはデスクトップに比べてまだ遅れをとっていますが、消費者からは好意的な意見が寄せられています。

消費者が期待するのは、効率性、商品詳細などの完全な情報、賢くパーソナライズされたコンテンツ、オムニチャネル環境に合わせた在庫の透明性であり、これらのバランスを取ることが大切です。小売事業者は、不満を最小限に抑えるために努力してきましたが、消費者の期待は常に高くなるため、やるべきことはまだあります。

カスタマーサービスは重要な差別化要因であり、ヒューマンタッチで小売企業を際立たせることが可能です。重要なホリデーシーズンに向けて、『Digital Commerce 360』は、小売企業の行動を評価しつつ、その任務を果たしているかどうか、引き続き注目していきます。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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