カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上させる「セルフサービス」「フルサービス」活用法
「素晴らしいサービスの提供は、新規顧客開拓の最短ルートであると同時に、ロイヤルカスタマーを獲得するための最善策です」。こう語るのは『Digital Commerce 360』のシニア消費者インサイトアナリストのローレン・フリードマン氏。本稿では、フリードマン氏が消費者ニーズに寄り添うための「サービス提供」について考えていきます。
消費者は、価格よりもサービスを覚えている
小売業界では、消費者は価格よりもサービスを覚えているという古い格言があります。優れたサービスを提供することで、記憶に残る体験を提供することができ、その記憶が一生続くこともあるのです。
素晴らしいサービスの提供は、新規顧客開拓の最短ルートであると同時に、ロイヤルカスタマーを獲得するための最善策でもあります。私は個人的に小売業のサービスにとても興味があるため、どうすればより良いサービスを提供できるかを考えたり、今までのサービスを定期的に振り返ります。
「セルフサービス」に対するニーズは高まっているが……
セルフサービスを選ぶ消費者が増えている中で、私自身も今後セルフサービスを選ぶようになるのだろうか、と考えます。そう考えるのは年齢のせいかもしれませんし、小売事業者が誇りをもってサービスを提供していた時代に育った影響かもしれません。
小売事業者が消費者をセルフサービスモードへ移行させるために全力を尽くした結果、サービス中心の時代が過去の遺物にしてしまったのでしょうか?
以下にカスタマーサービスに関する10の質問をあげてみました。セルフサービスで対応するのが最善か、販売員やカスタマーサポートスタッフのサポートを受けながら買い物を進めるフルサービスを起点にするのが良いのか、を考えてみるのも面白いかもしれません。
セルフサービス | フルサービス | 状況次第 | コメント | |
---|---|---|---|---|
1.商品の配送状況 | ○ | 配送状況は容易に自分で確認できます | ||
2.返品ルール | ○ | FAQを読めばわかりますが、但し書きにも注意しましょう | ||
3.注文商品のレシートがない場合の対応 | ○ | 店舗のルールを理解するのにサポートが必要かも知れません。 | ||
4.自分に似合う商品を見つける | ○ | 意見を聞くために、フルサービスが適しているでしょう。 | ||
5.類似商品の違いの説明 | ○ | フルサービスでないと、深い商品知識を知る得ることは難しいでしょう。 | ||
6.規約における例外の有無 | ○ | セルフサービスで解決できればラッキーですが、最終的には必要なものを確認するために電話をかける必要があるかもしれません。 | ||
7.注文の取り消し | ○ | 状況によっては、どちらの方法でも解決できるでしょう | ||
8.商品の故障・不備 | ○ | 細かい情報が必要になるため、フルサポートが大切です。 | ||
9.他店の価格に合わせた割引交渉 | ○ | 電話でのやり取りが役立つ可能性があるため、フルサービスをおすすめします。 | ||
10.注文を取り消した商品の返金対応 | ○ | 正確な情報を確認したい場合、カスタマーサービスの担当者に相談するのがベストかもしれません。 |
「フルサービス」と「セルフサービス」のジレンマ
今の時代、そしてホリデーシーズンは特にカスタマーサービスが消費者の行動を左右するため、現在の課題についてインサイトを得るべく、スタッフに質問してみました。彼らがどのようにカスタマーサービスの課題を解決したのか、消費者はセルフサービスとフルサービスのどちらを好むのか、それぞれのサービスを選んだ理由を探りたいと思いました。
私はフルサービス派です。一般的な問題であれば、自分で処理することで時間を節約できるという点では、セルフサービスも良いと思います。注文をトラッキングしたり、返品規定を探したり、店舗の電話番号を調べたりするのにセルフサービスはぴったりです。
私の感覚では、消費者は何か問題が起こるまではセルフサービスで対応し、何かあった時にフルサービスを求めていると思います。自分で学びながら、快適に対処できれば良いのです。つまり、自分の選んだやり方で、問題を解決することが大切なのです。
オンラインで買い物をする人は状況に応じて「両方」を選ぶ
15人の同僚が好みのサービスに関する意見を共有してくれましたが、フルサービスは私が予想していたよりも大きな役割を果たしていました。
- セルフサービス+フルサービス:47%
- フルサービスのみ:33%
- セルフサービスのみ:20%
ある女性のフィードバックは、問題の核心に迫るものでした。彼女が話してくれた内容は、以下のとおりです。
私は「両方」を選びましたが、問い合わせの理由によって望むサービスは変わります。注文トラッキングのようにオンラインですぐに調べられるような簡単なものであれば、自分でやります。でも、複雑な問題の場合、電話をかけます。担当者が複数の消費者に対応している場合、待たされることがあるので、ライブチャットはあまり好きではありません。
セルフサービスは「簡単なもの」に、フルサービスは「複雑な問題」に適している
フルサービスを最後の手段と考える人から、私のようによりスキルのある人に手伝ってもらう方が早いと考える人まで、さまざまな意見がありました。次のような意見もありました。
絶対に必要な時だけフルサービスを利用しています。価格に疑問がある場合や、交換が必要な場合でも、大抵の場合はセルフサービスの方が早いと思います。
私たちの多くは、最も効率的に仕事を終わらせる方法をまず考えます。また、おとなしいスタッフは、「商品に問題がない限り、すべて自分で処理する方が好きです」と話しました。
全体的に、セルフサービスは「簡単なもの」に適しています。例としては、注文のトラッキングや返品処理など、オンラインですぐに調べることができることで、確かに情報があれば自分で処理する方が楽でしょう。最近はカスタマーサービスで対応しなければいけない問題が最小限に抑えられている、と言ってくれたスタッフがいたのは嬉しいことです。
問題が複雑な場合、消費者はフルサービスを求めるようになり、個別の細かい内容を伝えるために、担当者に直接話すようになります。何かトラブルがあってイライラしている、割引を望んでいる、注文の遅延や紛失、返品期限が過ぎた後に商品の破損が発覚、など、消費者が抱える問題は多岐にわたります。
電話対応は「5分以内ならOK」という声も
通常、問題解決のために消費者がカスタマーサービスに連絡する時は、簡単に利用できる問題解決のための手段をすべて使い果たした後です。ですから、カスタマーサービスは詳細まで確認する必要があるのです。
「問題が対処されているのか知るために、担当者と話したいです。状況がわからず、イライラして、壁やコンピュータ画面に自分の頭を打ち付けたくなる前に、誰かに聞きたいのです」と言う人もいました。
別の人は次のように言います。
どのサービスを選ぶかは、問題によって異なります。わかりやすい問題であればセルフサービスで解決しますが、電話をすることが多いです。ただ、電話対応は5分が限界。5分以内ならOKですが、10分を超えてしまうとカスタマーサービスとしては失格でしょう。
他にもこのような意見もあります。
間違った商品を受け取った、割引コードが適用できない、返金されないなどの問題については、カスタマーサービスに電話します。すぐに答えが欲しいし、担当者が私に話した内容をメモを残して、問題が解決しない場合に、そのメモを参照して再度問い合わせが可能です。担当者によって回答が異なるのは本当に迷惑ですし、カスタマーサービスの担当者が責務を果たしていないと感じた時は、電話を切った後にすぐにまたかけ直すこともあります。
フルサービスが完全に信用できるわけではないと言う人もいます。
自分で問題を解決できない場合は、フルサービスのオプションを試してみますが、結局イライラしてしまうことが多いです。問題は待ち時間。あと、タイムリーに問題を解決してくれないことにイライラします。
チャット機能がカスタマーサービスを変える
チャットの登場で、私や周りの多くの人の行動が変わりました。最初私はチャットに懐疑的でしたが、しばらくして理想的な妥協案であることがわかりました。マルチタスクが可能なので効率的です。
周りの人も同じ考えで、電話で長く待たされるよりも良いと感じています。『Digital Commerce360』発行の「北米EC事業 トップ1000社データベース」に掲載されている企業の47%が、カスタマーエクスペリエンスを向上させるためにチャット機能を活用しています。上位100位以内にランクインしている企業の73%が、チャット機能を提供しているのです。
ライブチャット機能がある場合、電話で待つよりもライブチャット機能を利用すると消費者は言います。メールやWebサイト経由で問題の詳細を伝えるのではなく、誰かと直接話をするのが好きなのです。
ライブチャットのアイデアは気に入っているものの、あまりにも頻繁にチャットがオフラインになっていたり、通り一遍な回答しか返ってこないため、まるでボットのような気がしてしまうと言う人もいました。担当者が複数の問い合わせに対応している場合、会話が少し長引くことがあり、電話をした方が早い時があると言う人もいます。
カスタマーサービスへの投資
『Digital Commerce 360』は、小売事業者と消費者の両方の視点を提供しています。2020年に『Digital Commerce 360』が実施したコンバージョンに関する小売事業者105社対象の調査では、「コンバージョン率を向上させるためには、総合的なカスタマーサービスが非常に重要である」と回答した事業者が37%にのぼりました。
その他には、「送料無料」が40%、「サイト内検索」が42%と上位を占めています。また、コンバージョン率を向上させるための投資として、「カスタマーエクスペリエンス」が上位に入りました(41%)。
強力なカスタマーエクスペリエンスは、新しい顧客獲得にも既存顧客のリテンションにも重要で、コンバージョンを向上させるための基盤となります。
消費者は、カスタマーエクスペリエンス以外の要素も気にしています。『Digital Commerce 360』と市場調査会社の「Bizrate Insights」が2020年に行った、オンラインショッピング利用者を対象としたコンバージョン調査によると、30%の人が「親切なカスタマーサービスがあれば注文する可能性が高まる」と回答しています。
ここで重要なのは、「セルフサービスをサポートする簡単で明確な返品ルール」が、「注文する可能性が高い理由」の第1位であったことです。到着日を確約すれば、消費者が商品の配送状況を確認する手間は省けます。返品は注文後に起こりうる問題ですが、自己完結できるようなサポートを設けておくことがリテンションにつながります。
なぜ多くの消費者がAmazonを選ぶのかを考えてみるのは良いことです。『Digital Commerce 360』と「Bizrate Insights」が2020年に行ったAmazonに関する調査によると、「カスタマーサービス」は20%のAmazonユーザーにとって重要でしたが、上位5位にランクインしたのは他の理由でした。
「プライム会員」であること、会員の特典である「送料無料」、「サイト内検索」「魅力的な価格」「商品の安定供給」が上位5つの理由です。
カスタマーサービスの数字が低いのは、Amazonではセルフサービスが時間をかけて磨かれてきたことと、消費者もまたコツを覚えてきたことを反映しているのかもしれません。Amazonは常に、消費者が望むものを提供しています。
フルサービス重視の流れ
小売事業者はセルフサービス力を磨くことが大切ですが、同時に、フルサービス力を見直することもおすすめします。フルサービスが提供された3つの事例を見てみましょう。これらの事例は、今シーズンの成功に向けてサービスを最適化するためのヒントになるはずです。カスタマーサービスの中でも複雑な部分は、フルサービスを適用しています。
合理的な要求であれば、常にイエスと答える「Abt Electronics」
家電製品を販売する「Abt Electronics」は、カスタマーサービスを最優先し、合理的な要求であれば、常にイエスと答えるというルールを設けています。商品について詳しく知りたいときや、2つの商品で迷っているときは、ウェブサイトから問い合わせることが多いですが、いずれにしても、セルフサービスとフルサービスの組み合わせが顧客満足度を高める可能性が高いと思います。
専門の担当者がメールや店頭で知識を提供してくれるのはありがたいことです。自分で機能を比べてみる人もいますが、私は担当者に聞いた方が、自分に合った商品を素早く見極めることができると思います。
販売員の深い知識でブランドへの信頼感を高める「Blick」
また、最近の買い物でパーソナルなカスタマーサービスを提供してくれたのは、美術工芸品の小売店「Blick」でした。
販売員が自社商品のことを本当によく知っていて、気持ちを込めて販売していることは、何年も前から知ってました。私の娘の長い買い物リストにあった商品をすべてを見つけてくれることで、時間を節約してくれただけでなく、より価値のある商品を紹介してくれたことで、ブランドへの信頼感をさらに高めることができました。この場合も、まずはオンラインで商品を探して、店舗で完結させるのが最も効率的であることがわかりました。
返金未対応トラブルに、電話で即時対応する「Mannequin Mall」
3つ目の事例は、初めてオンラインで購入した「Mannequin Mall」という、多様なマネキンを扱うECサイトです。注文をキャンセルした後、2週間経ってもまだ返金されていませんでした。事前にメールを送っても返事はありませんでしたが、電話で問い合わせたら、あっという間に問題を解決してくれました。
ホリデーシーズンに向けた準備
今こそ、高い顧客満足度を確保するためにカスタマーサービスを向上させる時です。オンラインショッピングの際、消費者はほとんどの問題をセルフサービスで解決できることを期待しています。残りの部分については、フルサービス担当者がすべての質問に対応し、最も要求の多い消費者をも満足させることができる回答を準備しておくべきです。ホリデーシーズンまでまだ時間があるので、準備は間に合うはずです。
大切なホリデーシーズン前に見直したい項目は以下の通りです。
- シンプル、わかりやすくを心がける
- 店舗の情報を確認し、FAQがすべてを網羅しているか確認する
- 企業価値を強化する
- 最高のカスタマーエクスペリエンスを提供するためにスタッフをトレーニングする
- 成功とパフォーマンスの評価基準を見直す
- 商品を理解し、消費者に最適なアドバイスをする
- テクノロジーを活用して模範的なサービスを提供する
- ビジネスを加速させないものは採用しない