UX向上に必要なのは「カスタマーエクスペリエンスの維持」。最新の調査結果から見る消費者に支持されるECサイトの条件
ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上には、消費者の期待に応えているか、その期待を上回っているかを把握することが不可欠です。どのような点が優れていて、どのような点が劣っているかを理解することは、小売事業者の今後の投資の指針となります。そして、オンライン小売事業者(EC事業者)の最も重要な仕事の1つは、質の高いカスタマーエクスペリエンス(CX)を維持することです。
UX調査① 消費者の満足度が高いデバイスはデスクトップ
米国の専門誌大手『Digital Commerce 360』はオンライン通販利用者に対して、買い物体験、重要な機能、カスタマーサービスの観点から見たコミュニケーション方法に関するアンケートを行っています。調査会社であるBizrate Insightsの協力を得て、2022年10月にオンライン通販利用者1107人を対象に調査を実施しました。
特定デバイスでの買い物の際、満足度の数値が最も高いのはデスクトップで、モバイルWebやアプリが追い上げてきています。デスクトップが長い間使用されているのは、オンライン小売事業者がこのデバイスのユーザーエクスペリエンスに長い間、磨きをかけてきたからです。
また、多くのオンライン通販利用者がデスクトップでの買い物に慣れ親しんでいるため、デスクトップを利用するのは自然な流れとなっています。
モバイルアプリとモバイルWebサイトの満足度はほぼ同じですが、9点と10点をつけた消費者の間ではアプリの方が優れています。
UX調査② UXが消費者の期待に応えているか否かの把握は必要不可欠
ECサイトのユーザーエクスペリエンスが、消費者の期待に応えているか、あるいはそれを上回っているかを把握することは必要不可欠です。優れた点、改善点を把握することが、今後の投資の指針となります。
現在まで、ECサイトの効率性や利便性は消費者の期待に応えているようです。読み込みの速いサイト(回答者の41%が選択)、ナビゲーションが容易なレイアウト(38%)、検索による商品の発見の容易さ(37%)、そして最も重要なこととして、消費者が効率的にチェックアウトできる機能(62%)などに消費者は満足していると答えています。
一方、以下の項目に関し、満足していると答えたオンライン通販利用者は3人に1人以下。高い満足度を維持するためには、小売事業者は次のような要素の効率化にも気を配る必要があります。
- デバイスをまたいでカートにアクセできる(27%)
- 選択した商品や以前訪れたページが登録されている(23%)
- カテゴリー概要がすぐわかる(20%)
- ブランドや小売店の概要が説明されている(15%)
オンライン通販利用者の44%が、商品の在庫を確認する機能を提供する小売事業者に良い評価を与えていることが明らかになりました。ただ、地元の店舗で在庫を確認する場合に限ると、同じように感じるユーザーはわずか29%にとどまっています。
小売事業者が期待を超えた買い物体験を提供していると評価した取り組みについて、「役に立つ商品のレコメンデーション」は22%、「配送と返品に関する情報」は21%。「充実した商品情報」はオンラインショッピングの基本ですが、この分野で小売事業者が期待に応えていると答えたユーザーはわずか19%にとどまりました。
小売事業者は、消費者が自分のプロフィールを更新できるようにするなど、商品やカスタマーサービスに関するより多くの情報をオンラインで提供することに力を注ぐ必要があるでしょう。
機能面では動画が15%の回答者の期待に応えています。一方、How to(ハウツー)情報のようなショッピングを支援する機能についてはわずか10%しか満足しておらず、消費者のニーズを評価するプロファイリングクイズは9%。また、「後払い制度」については、「期待通り」と答えた人は15%にとどまりました。
情報提供には、カスタマーサービスも関連しています。回答者の5人に1人は、質問に対する答えを見つけることができたことに満足しており、16%は顧客プロフィールの閲覧や更新に関して、小売事業者が期待に応えていると感じています。
また、ECサイトの安全性を確保し、不正行為を回避することは継続的な課題であり、小売事業者は常に注意を払わなければなりません。
UX調査③ 満足度は高いものの、依然不満の多いオンライン通販
満足度を左右する重要な要素であるユーザーエクスペリエンスに関する一般的な期待値を踏まえると、オンラインショッピングを利用する多くのユーザーがECサイトに何らかの不満を抱えています。
ショッピングカートの中でプロモコードが適用されない(30%)、送料が不明確(25%)など、消費者がお得感を逃す原因となる問題が上位にランクイン。一方、後払いが「使いにくい」と回答したのはわずか7%でした。
商品情報は消費者の意思決定を左右するものであるため、しっかりとした情報が求められており、不満の声が多く聞かれました。24%は小売事業者が十分な画像を提供していないと回答し、22%はテキストの説明に十分な詳細が欠けていると答えています。
消費者は時間に敏感です。検索機能からチェックアウトまで、ECサイトにはスピードが求められます。スピードに関する多くの要因がユーザーエクスペリエンスに影響を与えますが、最も大きな不満は読み込みの遅いサイト(23%)で、スクロールの多さ(17%)が続きました。また、調査対象者の18%がサイト内検索の非効率性を指摘しています。
さらに、16%はチェックアウトが完遂できないことをあげています。チェックアウトに関連した不満に関して、読みにくいテキスト(10%)、顧客情報が事前に入力・保存されていない(8%)などがあがりました。
サプライチェーンの混乱により、チャネルや検索結果を通じた在庫の透明性の重要性が高まっています。消費者の27%は在庫切れの商品を含む検索結果に特に悩まされたと回答。他の不満点は、オムニチャネルの在庫との不一致が19%、現地の店舗で在庫を確認できないことが17%でした。また、19%が配送可能商品の在庫状況が一わからないこと、13%が配送に関する一般的な情報がないことあげました。
小売事業者のモバイルWebの体験が悪い(16%)、モバイルアプリを持たない小売事業者に不満がある(9%)というように、モバイルに対する不満は残っており、継続的に対処・改善する必要があります。
UX調査④ 約4割が求める「欲しいものリスト・お気に入り」の機能
「デザイン性・機能性に優れたオンラインショッピングを実現するために重要な機能」について調査しました。
コンバージョンには、包括的な商品情報、特にコピーと画像が必要です。最も重要視されているのは、詳細な商品説明(57%)と十分な商品画像(44%)でした。オンライン通販利用者の3人に1人は商品のレコメンデーションを重要視しています。
レビューは望ましい付加価値でありユーザーの28%が注目。また、21%がQ&Aを評価しています。ソーシャルメディアの文脈では、18%の人が商品の共有が大切だと回答しました。
小売事業者は、商品に関する情報を消費者に伝えるため、また自社ブランドを最適にポジショニングするため、ビジュアルアイコンを使用しています。これらのアイコンは、サステナビリティへの取り組みにおいてより大きな役割を果たす可能性があり、ユーザーの23%が重要であると回答。新しい機能として、社会的要素(黒人・女性・LGBTQ、フェアトレード)のバッジや識別があり、回答者の9%が重要視しています。
商品動画は21%が、ハウツーガイドと動画チュートリアルは17%が重要視。インフルエンサーを含むソーシャルコンテンツは7%で、商品やブランドのブログコンテンツは5%にとどまりました。
オンライン通販利用者は、さまざまな機能を「あれば便利」と感じていますが、「欲しいものリスト・お気に入り」は37%と予想以上に高い数値を記録しました。
精度の高い検索機能はショッピング体験にとって必要不可欠ですが、重要だと感じているユーザーは23%。ライブカメラによる検索(8%)や音声コマンドによる検索(7%)など、その他の検索要素は消費者にとって重要度は低いようです。
パーソナライゼーション、より高度なプロファイリング機能は、平均注文額を増加させ、ショッピングを支援するために導入されるべき機能でしょう。重要度は低いですが、利用されればコンバージョンにつながる可能性があるためです。ツールの重要度は、ショッピングプロファイラー(13%)、試着ツール(11%)、バーチャルアポイントメント(5%)となっています。
UX調査⑤ パーソナライゼーションが、より効率的で魅力的なカスタマーエクスペリエンスを実現
オンライン通販利用者の多くは、買い物の時間を節約できるパーソナライズされた体験を高く評価しています。アンケート回答者の約半数が、最近見た商品に素早くアクセスできることを期待または希望しています。
同時に39%はオンラインショッピングの際に自分のアカウントが保存され、更新されることに満足しています。
4人に1人のオンライン通販利用者は、ショッピングの際に店舗チャネルを指定できることに価値を感じており、23%が複数のデバイスからアクセス可能な共有カートを期待しています。しかし、この傾向はマルチデバイスの世界では驚くほど低い数値と言えるでしょう。
また、回答者の38%がオプトアウト機能を重要視しているように、消費者は依然としてパーソナライゼーションを自分でコントロールしたいと考えています。
アルゴリズムの活用は、プロモーション関連で最も価値が高くなっています(30%)。消費者自身の行動や期待値・希望値について調査したところ、以下のような数値となりました。
- ECサイトでの閲覧・購入行動に基づいて表示される商品(26%)
- 同じような商品を購入した他の人を基準に表示される商品(18%)
- 他の非小売サイトでの閲覧・購入行動に基づいて表示された商品(16%)
- 個人の属性を考慮した商品を表示(17%)
UX調査⑥ タイムリーに対応する質の高いカスタマーサービスが最も重要
カスタマーサービスは、顧客獲得と顧客維持の両方に大きく貢献しています。何よりも、オンラインショッピングを利用する人たちにとって、カスタマーサービスの質はとても重要であり(37%が回答)、24%が人間同士のやり取りを重要視しています。これはリアルなつながりが少ないオンラインの世界ではとくに歓迎される傾向ではないでしょうか。
また、消費者は問題が迅速に対処されることを望み(31%)、返金を含む問題解決能力を高く評価しています(25%)。バーチャルアポイントメントに興味があると答えたのはわずか5%でした。このサービスに対する需要は、コロナ禍後の世界では薄れているのかもしれません。
ライブチャットは好ましいコンタクト方法となり、人間がサポートするオプションは28%が重要視しています。Botとのチャットの重要度は11%にとどまりました。
消費者の26%が連絡先情報に簡単にアクセスできることを望み、13%はモバイル端末からカスタマーサービスにリンクすることが好ましいと回答しています。
EC事業者は人間が関わるツールとセルフサービスツールを組み合わせて提供する必要があります。総合的なFAQが18%、ショッピングカートに統合されたカスタマーサービスが15%と、僅差で続いています。セルフサービスのFAQは多くのECサイトで目にすることができますが、このオプションを強調した調査回答者はわずか10%でした。
UX調査⑦ ライブチャットを受け入れる消費者は6割
オンライン通販利用者が買い物中に問題を解決できるようにするため、小売業者は複数のタッチポイントを設置する必要があります。
消費者は、ライブチャットによる人間的な接触を好むカスタマーサービスを受け入れており、その割合は62%に達しています。
電話が 56% で続きました。自動化されたチャットボットは15%、ソーシャルメディアは14%ですが、事業者側の採用率は時間の経過とともに増加し、若い層にとってより重要な役割を果たすと思われます。
Eメールは、61%の消費者がこのコミュニケーションチャネルを選択し、トップ2の座を獲得しました。Eメールでは、消費者は自分のニーズに素早く対応することができ、さらに記録も残ります。セルフサービスツールは魅力的ですが、人間の対応と比較すると見劣りします。オンラインフォーム(21%)やFAQページ(11%)などがその一例です。
UX調査⑧ 優先すべきは在庫の透明性
2022年の年末年始も、そして今後も、消費者も事業者にとっても在庫は課題となるでしょう。ECサイト全体で現在の在庫と在庫切れを確認し、潜在的な問題を伝えることが、オンライン通販利用者にとって最も効果的な方法となることは間違いないでしょう。
多くの消費者は、小売事業者が商品ページ(51%)と検索結果(46%)で在庫状況を提供することを望んでいます。また、消費者は在庫切れの商品をサイトから削除して欲しいと考えています。
オンライン通販利用者は、リードタイムが1か月かかる商品を特定し(38%)、利用可能なチャネルを知らせる明確なオムニチャネル・オプションを提供して欲しい(33%)と、小売事業者に望んでいます。
オンライン通販利用者が示唆したことの1つに、ECサイト上の表示が明確な場合、24%が通知されることに関心がないと回答しています。これは、ECサイト上で正しく情報を表示することが特に重要なサービスであることを示しています。
状況やステータスに関わらず、注文の遅れや在庫切れについて、解決策と共にタイムリーに連絡を受けることを期待しています。46%が注文の遅れに関する情報を希望し、41%が在庫切れとその解決策に関するEメールやテキストを受け取ることを望んでいます。
皮肉なことに、「次回購入時のインセンティブ」を支持する人は28%にとどまりました。このことから、在庫状況を優先すること、問題が発生したときに積極的にコミュニケーションをとることが重要であると結論付けられます。
カスタマーエクスペリエンスには、年間を通じて注意を払う必要があります。オンライン通販利用者は高い満足度を示していますが、今こそ、この高い満足度を維持するために警戒すべき時なのです。ショッピングの合理化、在庫の透明性などに常に目を配ることが重要です。
基本的なことにとどまらず、小売事業者はパーソナライゼーションを最適化するために望ましい機能や技術を見直すことができます。また、コミュニケーションは顧客満足の核心であるため、注意深く観察することが望まれます。
最後に、カスタマーエクスペリエンスは常に変化し続けるものであるため、気を抜くとベスト・オブ・ベストに遅れをとってしまうということを忘れないでください。