ファンケルグループがプレステージブランドに参入した狙いは?新会社ネオエフが語る自社ブランド&自社ECの戦略
ファンケルの子会社であるネオエフが新ビューティーブランド「BRANCHIC(ブランシック)」をローンチし、プレステージ領域に参入した。子会社のネオエフが専用ECサイト「BRANCHIC公式オンラインショップ」の運営を手がける。ファンケルではなく独自のブランドとして展開するため、事業拡大にはブランディングなどが重要になる一方、昨今の消費行動に柔軟な対応ができ、かつファンケルグループ内の基幹システムと連携できるECカートシステムが求められた。大企業の子会社がブランドを立ち上げ、事業を支えるECカートシステム「ecforce」(SUPER STUDIOが開発・販売)をどのような基準で選んだのか。ネオエフのサービス・システムデザイナーの長谷川周作氏と、SUPER STUDIOの吉田光氏(Account Execution Group General Manager)が対談した。写真:吉田浩章
ファンケルの名前は使わずにブランドを醸成
2021年4月に新会社「ネオエフ」を設立したファンケルグループ。ネオエフでは新ブランド「BRANCHIC(ブランシック)」を立ち上げた。新たなターゲット層に向けて高機能で高価格帯の新ブランドを展開していくには、ファンケルの名前を使わない新たなイメージの醸成が必要と判断したという。
吉田光氏(以下、吉田):まずはプレステージブランド「BRANCHIC」を立ち上げた背景から伺います。今回、高価格帯のブランドをローンチした経緯を教えてください。
長谷川周作氏(以下、長谷川):これまで、ファンケルでは化粧品事業の成長のために「新たなターゲット開拓」「多ブランド展開」が必要と判断し、2018~2020年度の中期戦略として「Myブランド戦略」を実施しました。年齢・価格帯・顧客のニーズに合わせたブランドの多角化により、幅広いお客さまとの接点が増え、売り上げは伸長しました。
その流れでさらなるブランドの多角化を推進すべく、高価格帯市場を狙う新ブランドの立ち上げ検討をしてきました。ただ、成功に導くには高い効果や上質で高級感のあるブランドイメージの醸成が必要となります。しかし、ファンケルは肌にやさしい無添加スキンケアとしてのブランドが確立しており、そのブランドの傘下で高価格帯市場を狙うのは難しいと判断し、別会社として事業を展開することにしました。
吉田:そのような方針の下、別会社での展開だったわけですね。
長谷川:では「なぜプレステージか?」という点ですが、これまでファンケルグループで培ってきた研究成果を盛り込んだ商品であれば、高価格帯市場は技術的にも参入できそうな環境だと判断しました。さらにこの市場は、他のブランドで参入していない点も鍵となりました。高価格帯市場のなかでも、私たちが狙うのは高効果・高機能マーケットです。
自社ECサイトを通じて2アイテムを発売
ネオエフは10月1日、「ブランシック」の最初の商品を発売した。洗顔料(200グラム、税込5,060円)と、2剤型の美容液(10日分×3、税込1万8,150円)の2アイテム。販路は「ecforce」を使って立ち上げた自社ECサイトで、定期購入を中心とする。
吉田:洗顔料と美容液の2アイテムに絞った理由は何でしょうか?
長谷川:「BRANCHIC」は肌感覚を高め、美肌に導くという新しいアプローチに基づくブランドです。そのためには美容液を核として、肌の土台を整え、美容液の効果を高めるアイテムとして洗顔料もラインナップに加えることにしました。洗顔料で土台を整えていただいた肌に美容液を使用していただき、その後は普段お使いの化粧水や乳液でケアをしていただきます。いつものスキンケアにこの2ステップを追加していただくイメージになりますね。
吉田:商品特性として、どういったところがポイントでしょうか?
長谷川:美容液は、フレッシュな状態で使っていただけるように1剤のパウダーと2剤のエッセンスを混ぜてから使用いただきます。溶かしてから効果発揮するよう工夫した-40℃凍結乾燥VC(APPS+)という成分を1剤に配合、2剤のエッセンスには「デカペプチド」という成分を入れることで外的ダメージから肌を守りながらバリアを高め、肌コンディションを正常化させるようにしています。
泡立たないジェル状の洗顔料は、フレッシュハーブの香りがリラックスしながら、じんわりと温かくなることで肌をほぐします。加えて、蜂蜜のような濃密なゲルが毛穴の汚れまで絡め取り、洗い流しが非常に速いという点も特徴です。
吉田:私も使っているのですが、洗顔料はとても香りがよく、肌に当てると温かくて気持ちいいですね。一般的な泡立てる洗顔料とは異なり、マッサージを受けているような感覚です。「ブランシック」のECサイトでは、マッサージ方法を「冴え顔タッチメソッド」として動画で紹介していますね。
長谷川:はい。より効果的にお使いいただくための「冴え顔タッチメソッド」を開発しました。公式Instagramを中心に「冴え顔サロン」を提供し、各界の「スペシャリスト」と一緒に“心の感度”を高めるヒントを発信しています。
吉田:この「ブランシック」の中心ターゲットはどのあたりの層でしょうか?
長谷川:30代のキャリア女性です。美容に投資もして、ちゃんとお手入れをしているのに、肌の調子が悪いときがある。肌の調子が悪いと、1日の気分や自信が揺らいでしまう。そんな何事にも全力投球な女性たちが、「肌」のコンディションによって自身が揺らぐことなく、毎日を気持ちよく、前向きに過ごせるように何かしたい。そんな思いで開発をスタートさせた背景があります。
吉田:販売チャンネルは自社ECサイトのみでしょうか?
長谷川:まずは自社ECのみです。プレステージブランドの並ぶ百貨店への出店なども検討していましたが、昨今の状況を考えると、おのずと自社ECに落ち着きました。
吉田:ゆくゆくは百貨店などの出店も検討していますか?
長谷川:そうですね。やるとすればまずはポップアップショップでしょうか。あとは越境ECなど海外に向けたチャレンジも進めていければと思っています。
「ecforce」の存在を知った翌日には上長に報告
ECサイトの立ち上げ時、システムベンダーの選定には苦労したという。親会社のファンケルはフルスクラッチの独自システムで通販業務を運用している。物流やコールセンター機能の一部はファンケルのリソースを活用しつつ、新ブランドのビジネスモデルや昨今の消費行動に適応できる独自のシステム構築も必要だった。こうした難題に応えることができるシステムはあるのか? システム選定時に出会ったのが、500ショップ以上が導入しているECカートシステム「ecforce」の開発・販売を手がけるSUPER STUDIOだった。
吉田:自社ECサイトをゼロから立ち上げるにあたり、大変だった点はどんなことですか?
長谷川:親会社のファンケルでは独自に組み上げたフルスクラッチの通販システムを軸に、それにひも付いたさまざまなシステムが動いています。この環境下で動く別のECサイトを立ち上げると高額な投資が必要になるため、別のシステムを採用する方針となりました。
また、サービスレベルの観点からも物流やカスタマーサポート(CS)はファンケルグループのリソースを可能な限り活用したいと考えながらも、まっさらな状態からECサイトを立ち上げるにはどうしたらいいかまったくわからない……という状況からのスタートでした。
吉田:ネオエフさんからお話をいただいた際、倉庫やコンタクトセンターはファンケルさんの既存リソースを使いながら、カートシステムは別で導入するというご要望でした。SUPER STUDIOにご相談いただいたきっかけは、セミナーだったとお聞きしています。
長谷川:そうです。たまたま参加したセミナーでSUPER STUDIOさんの講演を聴くことができました。そのセミナーで「ecforce」の存在、他社のリプレイスの経験も豊富だということを知り、相談してみる価値があるのではと感じました。翌日には上長に報告、その後、吉田さんとの商談に至るという流れです。
どうしたらいいかまったくわからない状況から、半年間という短期間でのローンチに向けて、SUPER STUDIOさんは一緒に伴走してくださいました。吉田さんにも無理なお願いを聞いていただいて本当に感謝しかありません。
吉田:それほど無理難題を言われたということはありませんでした(笑)
長谷川:今、使っているブランドのメインビジュアルもSUPER STUDIOさんに紹介していただいたデザイン会社と一緒に制作したものです。関係者一同、出来上がりに非常に満足しています。
「ecforce」は数あるカートのなかでもレベルが高い
ネオエフが「ブランシック」のECサイトにシステムを導入する上で、「定期購入」「セキュリティ基準」といったいくつかの条件があった。それをクリアしたECシステムが「ecforce」だった。導入してみた結果、機能面や保守面、サポート体制などとても満足しているとのこと。一方、「ecforce」を提供するSUPER STUDIO側もネオエフの柔軟な対応には助かったという。
吉田:「ecforce」を導入検討した際のシステム選定の条件を教えてください。
長谷川:他社での導入実績があるというのはもちろんです。加えて、主軸となる定期販売モデルに対応できるシステムかは重点的に確認をしていました。DtoCのビジネスモデルなので、各広告媒体との親和性も考慮しました。
あと、「ecforce」の選定にあたっては、個人情報の管理について何度もやり取りをさせていただきました。ファンケルグループが求めるセキュリティレベルに達しているのかチェックを実施、それに達していることを確認しました。
吉田:いろいろなオプションも使っていただいています。機能面で実際に使ってみて便利だと感じたものはありますか?
長谷川:成果が出ているのは、「ecforce」のWeb接客を自動化するチャットボット「talkmation(トークメーション)」です。ローンチのタイミングでしっかりしたものが実装できたので非常によかったと思います。現在マイページ上に設置していますが、窓口への入電件数は想定よりも少ない状態が続いています。
吉田:ネオエフさんの場合、ファンケルで電話対応のトークスクリプトがしっかりと確立されているので、チャットボットの作成も比較的やりやすかったですね。
吉田:ファンケルグループとして、今回の「ecforce」のように他社のシステムを使うのはレアケースと聞いています。外部のシステムを導入するにあたり、他社のカートシステムと比較検討し、「ecforce」を選んだと思います。機能面以外で実際に運用してみてよかった点があれば教えてください。
長谷川:「ecforce」は数あるカートシステムのなかでも、やりたいことが実現できる機能が充実していると感じています。加えて機能面だけでなく、保守面も整っています。システム的なトラブルも少ない印象です。
新たにECサイトを立ち上げる際、何をすべきかが正直わからない状態からのスタートになることが多いと思います。特にサポート面では、ローンチまでの支援も手厚く、私たちはそのサポートを最大限に活用し、幸い大きな問題なくローンチを迎えることができました。やっぱりプロの目でチェックが入るのは、大きいと思います。
また、メールなどでやり取りするサポートの皆さんを含めて、非常に指示や回答が的確で人柄のよさを感じました。コロナ禍で、対面でのやり取りがなかなかできない状況での作業でしたが、オンラインでのやり取りも非常にスムーズにできました。
吉田:たとえばファンケルさんの倉庫を使うとなった時に、WMSを入れたほうがいいですよと提案しました。ファンケルさんクラスの大手だと検討に時間がかかるケースが多いですが、すんなり受け入れてくださって助かりました。
このほかにも、「予算を抑えるためにデザインテンプレートを使って、その分を物撮りやキービジュアルにお金を使いましょう」といった提案にも柔軟に対応いただきました。
当社としては一緒に並走して立ち上げさせていただいたという感覚でしたが、大企業の意思決定のスピードではない印象を受けました。
長谷川:そこは、従業員3人の少人精鋭の体制で回しているというのが大きいかもしれません。ECサイト構築だけではなく、ローンチまでの準備は多岐にわたりますので、悩むよりやってみる、何か問題が起こったら都度考えるという方針で信頼できるパートナーからの提案は柔軟に取り入れていこうという方針でした。いつもSUPER STUDIOさんにご相談すると、よい提案をくださって本当に感謝しています。
今後は使い切れていない機能の活用も
会社の立ち上げからブランドのECサイトのローンチまで、短期間で取り組んできたネオエフ。今後についてはいくつか販促施策を強化していきたいという。「ecforce」の数ある機能のうち使い切れていないものもあり、そうした機能の活用も視野に入れる。
吉田:まだローンチして間もないですが、「今後こういうことをやっていきたい」などはありますか?
長谷川:今までは立ち上げることに労力を使ってきましたが、今後はオファーやアップセルといった施策をしっかりやっていかないといけないと思っています。
「ecforce」のWeb接客自動化サービス「talkmation」も、今はマイページのみに導線を置いていますが、これをほかの場所にも設置していきたいです。
「ecforce」が持っている機能で「サンクスオファー」やランディングページの一部機能など使い切れていないものもあるので、もう少しうまく活用していきたいですね。
商品の見せ方として、今は洗顔料が前面に出ている状況なので、今後は美容液のよさ、洗顔料と美容液の両方を使うメリットなども訴求していきたいと考えています。
吉田:データが溜まってきた段階で、次にどういう施策が打てるのか、外部ツールと連携ができるかなど、さまざまな角度からサポートし、利益拡大に貢献していきます。
長谷川:こちらこそ、よろしくお願いいたします。