久保田 圭[執筆] 2023/5/10 7:00

越境ECを含むEC市場での需要の高まりを背景に、商品配送には柔軟性と利便性、付加価値の高いサービスに加え、パーソナライズされたサービスも求められはじめました。こうした事業者ニーズに対応するため、物流企業はイノベーションと積極的なテクノロジーの活用でその実現に向けて取り組んでいます。

パーソナライズされた物流サービスの実現

フェデックス エクスプレスの調査によると、日本を含むアジア太平洋地域の消費者の94%が、自分に適した購入体験を提供しているEC事業者からのさらなる商品購入を考えると答えています。

商品を紹介するマーケティング活動や購入時の支払いオプションなど、オンライン購入の体験を向上させるパーソナライズ化施策は多様化しています。EC事業者はそれらを適切に実装して施策を実施し、消費者の嗜好に適したコンテンツを提供しているかどうかを自問し続けなければなりません。

今はインフルエンサーやライブ ストリーミングによるマーケティング活動が主流かもしれませんが、明日にはまた進化するかもしれないのです。

物流も、配送のパーソナライズ面で購入体験に大きく影響します。テクノロジーを活用する物流企業は、消費者に新たな商品配送の選択肢を提示し、購入者それぞれの都合に合わせた商品受け取りにより利便性を向上させます。

配送のパーソナライズ化は未来に向かって進化し続けています。また、自動化と効率化の波によって無人あるいは自動配送の可能性が検討され、世界各地ですでに実証実験が行われています。

パーソナライズ化へ対応することで、将来にわたって大きく変わるであろう消費者ニーズを取り込むことができるようになるでしょう。

物流の自動化へのイノベーション

現在、さまざまな輸送プロセスで、輸送の自動化が検討されています。小型の自動配送車両やドローン、物流施設間で貨物をまとめて輸送する大型のトラックの自動運転、物流配送施設内で稼働して輸送業務をサポートするロボットなどです。

このような自動化への取り組みは、物流業者自身へのメリットのように見えますが、結果的にEC事業者や商品を受け取る購入者へのメリットになります

物流施設内の貨物の仕分け作業をサポートするロボットや自動化のシステムは、より早く正確な作業を行うことはもちろん、そのような単純作業を機械が担うことで、従業員はより経験や知識が問われる業務に就き、業務やサービス全体の質を向上させる取り組みに従事できるようになります。

倉庫内で導入が進む仕分けロボットなど

業界全体で、自動化や効率化の取り組みが活発化しています。物流の自動化ではテスト段階の取り組みが多いため、イノベーションが将来どのようにEC事業者や購入者にメリットをもたらすのかを考えてみると、まだ新たな発見があるかもしれません。

求められる物流のESG

EC事業者や購入者などを使う物流サービス利用者にとって、テクノロジーの発展は質の高い物流サービス利用の鍵になります。同時に、テクノロジーの発展は環境を配慮した輸送に貢献することも押さえておきたいポイントです。

地球環境への配慮と環境に優しい物流は世界規模の関心事です。フェデックスが発表した調査では、アジア太平洋・中東・アフリカ地域の消費者の8割が、購入先のEC事業者が持続可能なビジネスモデルを推進することに期待。7割が効果的なESG(環境・社会・ガバナンス)戦略を実施している企業から商品を購入したいと答えています。

配送車両や航空機を運航してビジネスを行う物流業界は、持続可能性や脱炭素に対して責任を持ちイノベーションを適用させるべき立場にあります。

航空機配送も脱炭素の動きが進んでいる

環境配慮の輸送へのアプローチはさまざまです。たとえば、配送車両は電気自動車やその他環境配慮型の車両の導入。車両そのものが環境に配慮型である一方、運転するドライバーの意識を変えていかなければならないのも事実で、環境に優しい運転スキルを身につけるためのトレーニングは、ESG活動の一環として貢献できます。

テクノロジーを活用することによって配送ルートを最適化、効率を向上するとエネルギー消費の抑制も図ることができます。

また、航空機に使われる燃料を持続可能にすることもESG活動の1つで、SAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれる燃料の活用が期待されています。

原油から精製される通常のジェット燃料に対し、SAFは間伐材などの木材、トウモロコシやサトウキビなどの農産物、廃油、古い衣類などさまざまな原料から生産することが可能。SAFは航空業界全体のCO2排出を最大80%まで削減することができると試算され、多くの航空会社が加盟する国際航空運輸協会(ITAGA)が掲げるゴールである「2050年までの二酸化炭素排出実質ゼロの運航の実現」に必要な排出量削減の約65%に貢献すると考えられている燃料です。

石油由来の梱包資材のリサイクルも環境配慮の輸送の実現に貢献します。EC事業などで繰り返し使うことができる梱包材の開発、輸送状や越境ECに必要な貿易書類などの作成・提出でのオンラインサービス利用は資源の節約につながります。

配送面でも電気自動車の導入などが進んでいる
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パーソナライズ化された配送により柔軟な荷物の受け取りが実現できれば、物流業者側の配達の効率化、再配達による消費エネルギーの抑制にもつながります。

物流企業による環境配慮の取り組みは多角的で、それぞれのプロセスにおいて適切なテクノロジーや手法を用いなければなりません。将来に向かって明確なゴールを設定して、各取り組みの成果をモニタリングしていく必要があります。

革新的で新たなアイデアや最新テクノロジーの導入は、環境配慮の輸送と消費者へのより柔軟性の高い配送サービスの実現につながります。物流業界全体でこうしたテクノロジー活用・ESG活動が活発化しているトレンドは、注目すべきポイントです。

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