ECタイムズ[転載元] 2023/6/28 7:30

今回の記事は、「楽天市場」に精通しているプロ・原田康平さんのプロインタビューになります。社会の状況、季節、イベントの有無によってトレンドが激しく移り変わるEC市場。さらに、LP作成、SNS・広告運用、ショップ運営、ロジスティクスに関わる幅広いスキルや経験が求められる業界でもあります。

そのような流動的で、複雑なEC市場で生き残るために必要な取り組みや姿勢とは何でしょうか? ECモールでの店舗運営に強いプロが実践している情報収集の仕方もお聞きしました! EC事業に着手しようとしている企業の担当者様、そしてすでに楽天のようなECプラットフォームで店舗運営をしていて、課題を抱えている事業者様には必見です!

ぜひ、ご覧ください~

原田康平 ECタイムズ 楽天 モール

楽天に知見の深い原田氏とは

⸺今日はよろしくお願いします。

原田:よろしくお願いします。

⸺まず、現在までのご経歴についてお聞かせください。

原田:はい。新卒のときにECモールを運営する企業へ入社し、その後、アパレルや食品のネットショッピングを運営する企業に転職しました。現在は自分自身でショップを運営しながら、経験を生かしてコンサルタント業務を請け負っています。

⸺EC事業のなかでも、得意な商品のジャンルなどはございますか?

原田:基本的には得意なジャンルも不得意なジャンルもありません。前職がECモール運営企業でコンサルタントとして従事していたのですが、ジャンルや規模感を問わない部署だったためです。

ですが、現在は主に楽天に特化したサポートのご要望を頂いております。しかし、楽天に限らず、他のECモールでも、売上戦略の立案ができます。

基本的な戦略はどのモールでも変わらない

⸺なるほど。基本的にジャンルを絞らず、どのモールでも対応が可能なのですね。なぜ、あらゆるジャンルやECモールに対応できるのですか?

原田:それは、どんなときでも同じステップを踏んで、施策や戦略を組み立てているからです。戦略立案や売り上げの成長に必要なことは、「目標設定と現状把握の解像度を上げ、その差分を洗い出すこと」です。

また、主なECモールでのショップ運営を実際にしていた経験も大きいかと思います。目標と現状との差分を逐次チェックし、見えてきた課題に対してどのようなソリューションが有効かを考えることが大切です。

もちろん、モールごとに特徴や販促の種類はございますが、基本的な戦略設計は変わりません

⸺なるほど。現在地からゴールまでの距離を明確にすることはEC以外にも通用しそうですね。

コロナ特需のECを立て直した成功事例

⸺原田さんが以上のメソッドを活用することで、課題解決につながった過去の事例について教えてください。

原田:‍わかりました。私が過去に支援した企業さまは以下のような現状でした。

  • 既存商品の売り上げが頭打ちになっている
  • コロナ特需商品が多かったため、コロナ収束後の売上維持に懸念がある
  • 型番商品が多いため、価格競争に巻き込まれやすい

その企業は当時、マスクやアルコールなどのコロナ禍の影響で需要が高くなっていた商材を主力としていました。

また、その売り上げもアッパーに達しつつあり、新型コロナウイルスの収束で売り上げの縮退は避けられない状況でした。

そこで、今後の目標を明確にしました。

それは「コロナ商材ではなく、通年で売れる商材でいくらの売上改善と各指標どのような改善を実現するか」と「新しい商材の立ち上げと育て方のノウハウを醸成する」の2つです。

そして、目標と現状との差分を埋めるために、以下のサポートを行いました。

  • 市場調査を踏まえた新しい商品選定
  • 仕入れルートの構築
  • 非型番商品を売るためのデザイン強化をサポート(例:デザインテンプレートの提供)
  • 非型番商品ならではの配送や販促費に対する考え方や知識のインプットなどを多方面から支援(例:広告運用における費用対効果や在庫管理にかかる保管費用についてなど)‍

大切なのは“小さな目標達成”の積み重ね

⸺確かに、“現状把握→目標設定→差分の把握→施策への落とし込み”が行われていることがはっきりとわかりますね。その結果、どのような成果がありましたか?

原田:コロナの収束でマイナスになっていた各指標がプラスに転じ、新しい商品で主にアクセス人数の改善に大きな効果が見られました。

新商品のなかでも特にアクセス人数が取れた商品では、約4か月で1商品あたり5000人近くのアクセス人数を取れている商品もございます。売上目標を達成するために、緻密なチェックを繰り返すことが重要です。

また、売上目標を追うことも重要ですが、大きな目標を一気に達成しようとすると施策の順序が可視化しにくいため、より小さな目標に落とし込んでいく工程が重要です。

たとえば、売上目標→月のアクセス人数目標→1日当たりのアクセス人数目標→そのために行う施策は何か? (例:新商品を週に3商品ずつ登録して検証)

このように目標を小さくすることで、簡単に行動を行うことができ、その結果目標の達成につながります。小さな目標を立てるためにも、目標と現状の差分の可視化が重要になります。

モール出店で事業者がつまずきやすいポイント3点

⸺楽天のようなECモールに出店するにあたって、事業者がつまずきやすいポイント、勘違いしやすい点はありますか?

原田:ポイントとしては大きく3つあります。

つまずきポイント① 「出品しさえすれば売れる」と思うこと

原田:トレンドの商品や拡大中のプラットフォームで、知り合いや競合他社が売り上げを伸ばしていると聞いただけで、ノウハウがないままに出品してしまうことはありませんか?

なぜ売れているのかという視点を無視して見切り発車してしまうと、売り上げが伸びずに諸経費がかさんでしまいます。

多くの場合、売れる事業者というのは豊富なノウハウを上手く活用しています。出品するだけもうかる、ということはまずないでしょう。

つまずきポイント② 市場の事前調査が不足している

原田:自社商品か型番商品かに関係なく、市場の事前調査を怠ってしまうと、需要の小さい商品選定や相場に合わない価格設定をしてしまう可能性があります。

事前調査では、その商品の流通が多いかどうか、モールを利用するユーザー層、ランキングに載っているトレンド商品、競合他社の分析などを行います。

商品ベースでの事前調査では、主に販売価格、配送設定、商品品質、レビュー、SKU、などを競合と比較して負けている点がないのかを確認することが重要です。

つまずきポイント③ 自社商品の価値を客観的に評価できていない

原田:自社商品への愛が強いほど、企業が自社商品に見出す価値と、ユーザーがその商品に見出す価値との間にギャップがあるかもしれません。

もちろん、商品愛それ自体が悪いと言っているわけではありません。ただ、自社商品が顧客に与える価値について評価する際には、根拠が必要だということです。

原田氏が指摘する、ECモールに出店する際の「つまずきポイント」
原田氏が指摘する、ECモールに出店する際の「つまずきポイント」

戦略なしには売れない

⸺やはり、移り変わりの激しい業界であるからこそ、準備段階での調査が重要なのかもしれません……。今と昔では大型ECモール全体として変わったことはありますか?

原田:はい。昔と違って、大きなプラットフォームでは出店数・商品数ともに飽和状態となっています。そのため、しっかりと戦略を立てて動かないと売れないのが現状です。

そんなときに目標設定と現状に対する解像度の高さが大切だと思います。特に、まだ競合が少なかった時期にECを始め実績を残した企業は、当時の勝ちパターンを模倣し続け、競合他社の分析がおろそかになっている傾向があります。

このままだと、各目標と現在地の差分の解像度が低いために、売り上げが伸び悩むケースに陥ってしまいます。

⸺まとめると、出品すれば必ず売れるわけではなく、売れるには調査を踏まえて市場に合う商品を選び、売り方でまず大切なのは“差分の明確化”ということですね!

原田:そうですね。極論、差分の明確化ができれば、そこにどのように対処するかについては外注すればすむ話です。

売上高だけでなく、利益を考えた目標設計

⸺では、原田さん自身がコンサルタントとして業務にあたる際、クライアントさまにはどのようなサポートをされていますか?

原田:まず、お客さまがしたいこと(want)、しなければいけないこと(must)、できること(can)を可視化します。その上で優先順位をつけて最短で目標を達成するにはどのようなサポートをしなければいけないのかを考えます。

私は、お客さまの上記優先順位で出てきやすい改善点を私自身がハンズオンで行えること(外注などに委託しないこと)、そして社内で内製化できるようにすることを意識しています。

たとえば、既存の商品で売り上げを改善するのは難しいという判断になった場合は、

市場調査→新商品の提案→仕入ルートの構築→新商品のページ制作→販促設計

ここまで、私の方で完成させて提案することが最低限すべきサポートだと考えております。

そのうえで、間接費用の計算や売り上げだけでなく利益を考えて目標設計までできることが、コンサルタントならではの存在意義だと思っています。

また、ノウハウの提供やスキルの提供も重要かと思いますが、日々さまざまなツールが出てくるEC業界では、昨日のノウハウが今日になると通用するとは限りません。そのため、私は不変的な部分の店舗運営構築を企業さまと一緒に行う事を意識しています。

自分自身でショップを運営しているからこそ、見えてくる事業者の苦労や課題があります。その際に、こんな事をしてくれれば良いなと思った事を具現化できるように日々改善しています。助言だけでなく、自分が抜けた後も事業者が自走できるように寄り添うことが重要だと思います。

⸺確かに、すごく共感できます……。

外部人材の選定で大事なポイント

⸺先ほど、自力で対処できない部分は外注すれば良いという話がありましたが、事業者様が外注先を選定するうえで、注目すべき基準などはありますか?

原田:外注選定をする上で大事なポイントは以下の3つです。

外部人材の選び方(1)レスポンスの速さ

原田:発注先の連絡スピードが速いかどうかは非常に大切です。なぜなら、ネットショップは刻一刻と状況が変化するためです。

外注先のレスポンスが遅ければ機会損失にもつながりうるため、選定の際には注意していただきたいです。

外部人材の選び方(2)“差分”を埋めるための打ち手の効果を最大化できる人材か

原田:繰り返しにはなりますが、事業者が絶対に自分でしなければならないのは、現在地から目標までの差分の洗い出しです。

その後、その差分は、ECの業務のうちどの領域に属しているかを明確にし、その領域に特化したプロを外注先として選定しなければなりません。

発注する側は、プロがECの全てのステップで100点を取ることができるオールラウンダーではないことを理解しておく必要があります。

どの施策に、どのフェーズ・ジャンルに特化しているのか見極めてください

たとえば、売上アップだけでも、新規の獲得が得意なのか、リピート率アップが得意なのか、転換率の改善なのか、さまざまです。

外部人材の選び方(3)一緒に二人三脚できるか

原田:最後に事業者様に心得ておいていただきたいのは、期待しすぎないことです。

つまり、外部の専門人材に丸投げせず、伴走するという意識が大切だと思います。

外部人材が抜けた後でも、自走できるだけのノウハウを蓄積し、それを実践できるように内製化することをめざしましょう

ECのスキルや経験はプロが担保できますが、商品の特性や価値については企業側のほうが詳しいので、二人三脚で協力していく姿勢が何よりも大切です。

⸺レスポンスの速さという視点は意外ですね。確かに、外部人材との密なコミュニケーションは二人三脚するために必要かもしれません。

EC人材を外注する上で大事なポイント3点
EC人材を外注する上で大事なポイント3点

モールごとの特色を押さえれば施策が見えてくる

⸺刻一刻と変化するEC市場において、原田さんが実践している情報収集の仕方について教えていただけますか?

原田:はい。これはとてもささいなことなのですが、私は毎朝、Amazonや楽天、Qoo10といったECモールのランキングをチェックしています。モールごとにトレンドが異なっており、ランクインする商品には“モールごとの色”が出ます

ランキングで初めて見る商品があれば、そこに有効な施策の掘り下げを行ってみたり、原価を推測したりしています。

そうして、モールごとの癖がわかるようになれば、若い女性の間で流行の最先端アイテムがランクインしやすいQoo10で売れている商品を、楽天に先取りして売り出すという施策を取ることが可能になります。

ただ画面を眺めるのではなく、しっかり考察を

⸺ランキングを見るだけでも、さまざまなことが見えてくるのですね。

原田:他にも、商品ページのレビューを分析することも情報源として役立っています。競合他社の商品に対するユーザーからの希望、クレームなどの生の声を知ることができます。それを参考に自社で取り扱っている商品の改善や売り方を工夫しています。

「〇〇個セットで売ってほしい。」といった投稿を見て、研究するだけでも効果はあると思います。

⸺ランキングの閲覧も、レビューの分析もちょっとした時間に無料でできるので、今日から始めることができますね!

原田:はい。ただ、画面を眺めるだけでなくしっかりと考察をめぐらすことが重要です。

⸺最後に、原田さんがEC業界で活動していく中で、目標などはありますか?

原田:ネットショップ運営とデザイン、出荷までは一通りスキルと経験を蓄積することができたので、次はショップの運営チームの規模に合わせて円滑な事業サポートができるようになりたいですね。

これができれば、EC意外の業務にも役立つと思います。内部の人材活用、チームの動き方、接し方に関するノウハウを身に着けることが目標です。

あとは、一社一社大切にして頑張りたいということです!

◇◇◇

みなさん、いかがでしたでしょうか? ECの運営をする上で、とても重要なエッセンスが詰まったインタビューでしたね!

お話を通して自社の現状を解像度高く把握すること、また目標までの距離の洗い出しの重要性をご理解いただけたのではないでしょうか。

そして、外部の専門人材の選び方についても話していただきました。二人三脚で自社と密にコミュニケーションを取ってくれる人材ほど心強いものはないと思います。

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