リアルとバーチャルがつなぐ、アダストリアが仕掛ける新しいライブショッピングの挑戦
AI+メタバース+Eコマースにより、低コストで24時間ライブコマースを手がける取り組みが始まっている中国。日本ではアダストリアがライブコマースをメタバース上で実施する取り組みをスタートし、将来的なメタバース+コマースの普及が期待される。記事前半では、メタバースを活用したライブコマースの取り組みを、後半ではメタバース事業をけん引しているアダストリアの島田淳史氏(広告宣伝部 メタバースプロジェクトマネージャー)が今後の展望を解説する。
バーチャルとリアルの垣根をつなぐ、新感覚のライブコマース
アダストリアは、リアルの人間とメタバース上のアバターを組み合わせたライブコマースを2023年9月5日にアパレルECサイト「.st」で配信した。
ライブコマースで紹介したアパレルブランドは、アダストリアのメタバースアイテム第6弾「Anui(アニュイ)」。メタバースとライブコマースという日本では新たな組み合わせによって、メタバースユーザーからもリアルの人間からも愛されるブランド作り、集客促進、認知拡大を狙う。
ライブコマースでは、配信スタジオのカメラの前にスタッフが立ち、配信画面上でメタバース上のアバターを組み合わせ、アバターがあたかもスタジオに居るかのように配信。メタバースアバターの“中の人”は、実際には遠隔からライブコマースの生配信に参加した。
アバターを通じた会話や身振り手振りは、まるでライブ配信スタジオにいるかのように自然なため、視聴者からは「アバターと生身の人が自然に会話していてすごい」「リアルとバーチャル向けの洋服が並んでいて感動」といったコメントが寄せられた。
配信に参加したメタバースユーザーは、アダストリアの「enu.(えぬ)」氏。配信スタジオではアダストリアのスタッフである「よぴ」氏、「shiba(シバタ)」氏がライブ配信に参加した。
ライブコマース中は、商品紹介だけでなくメタバースへの理解を深めるためにクイズコーナーを設置。視聴者がスクリーンショットを撮るために3人でポーズを決めたりと、配信を盛り上げた。
アダストリアの島田淳史氏によると、昨今のメタバースのユーザーは、メタバースのアバターとリアルの自分と同じ洋服でファッションを楽しむユーザーが増えているという。
メタバースを切り口とした顧客接点の期待値とは?
メタバースとリアルを掛け合わせたコマースに積極的なアダストリア。その責任者である島田氏に、メタバースを活用したライブコマースの初動の手応え、今後の展望などを聞いた。
メタバースユーザーにリアルの洋服もアプローチ
――ライブコマースにメタバースを融合させた狙いを改めて教えてください。
島田氏:2022年7月から、メタバースでのアパレル展開をスタートし、少しずつユーザーが増えてきました。最近では自分のアバターに購入した事をきっかけにリアルの自分にも洋服を購入するユーザーも増えてきています。メタバースで接点を持ったユーザーに、リアルの洋服も見て欲しいという思いからライブコマースを企画しました。
――メタバースを活用したライブコマースの手応えはいかがでしたか。
島田氏:メタバースユーザーが多く視聴し、コメント数は400超。通常のライブコマースよりも多くコメントが寄せられました。その一方、「Anui」は2023年9月1日に販売し始めたばかりのブランドということもあり、視聴者数自体は若干少なめでした。
――メタバースと融合させた施策について、今後の構想は。
リアルの人間とメタバースユーザーの垣根がない、どちらの世界でもファッションを楽しむ機会を増やしていきます。
島田氏:「.st」が展開するメタバースアバター向けの洋服は今後も増やし続けていくので、メタバースの洋服をリリースするタイミングで、今回のようにリアルとメタバースを掛け合わせた配信を増やしていきたいです。
――メタバース+ライブコマースの課題は。
島田氏:大きな課題は、メタバースユーザーの絶対数の少なさです。そのため、大きな売り上げを作っていくには少し時間がかかると考えています。「.st」の既存顧客は、メタバースを使っていないユーザーがほとんど。そのため、この配信をきっかけに、既存顧客メタバース上で購買する可能性は低いでしょう。ただ、メタバースユーザーがライブコマースを通じて、リアルの洋服を購入するきっかけになっていると思います。
ブランディング戦略は「まずターゲットを理解すること」
――島田さんは、メタバースでもリアルと同様に、販売する商品(アバターのスキン)は「ブランディングが必要」という考えを持っています。現状の取り組みや、ブランドのファン育成について聞かせてください。
島田氏:アダストリアの強みは、リアルでのブランドの認知度が高いこと。メタバースでも「あっ、聞いたことがあるブランド」という反応があります。まずはメタバース上にどのようなユーザーがいて、ユーザーが何を求めているかを知り、「ターゲットを知る」ことを常に考えています。その点はリアルのマーケティングと同じです。
メタバース上の洋服をただ販売するだけでなく、メタバース内でイベントを開催したり、逆にユーザーが開催するイベントに参加したり、ユーザーからの要望を一緒に叶えたりなど、接点を増やすことを地道に行います。
メタバースは長期目線のファン作り
島田氏:メタバースは現状、短期的にもうかる市場ではありません。ただ、消費者との顧客接点作りや継続的なコミュニケーション作りにおいて、今後確実に重要となるチャネルだと考えています。
アダストリアはいくつものアパレルブランドを持つ会社。ブランドもまた、お客さまに愛され、支持されるブランドを一朝一夕に作り上げることはできません。まずはターゲットを知り、顧客接点を作り、お客さまとのコミュニケーションを継続的に行うことではじめてブランドができてくる――。メタバースにおいても、同じことが言えると感じています。
流行に敏感で、関心の移り変わりが早い消費者の動きに対して、メタバースユーザーが今後大きく増えたときに、事業者側の備えが十分でないと消費者の動きについていけず、大きなビジネスチャンスを逃してしまうことになりかねません。
事業者の皆さんにはぜひ、今からメタバースに取り組むことをおすすめします。「何からはじめたらわからない」という方はお気軽に島田へご相談ください。