2024年はメタバースが来る! “メタバース”の可能性をアダストリア、三越伊勢丹の責任者が本音で対談
3DCGアバターや洋服の販売、リアルの人間とメタバース上のアバターを組み合わせたライブコマースの配信などを推し進めているアダストリアと、仮想都市コミュニケーションプラットフォーム「REV WORLDS」(レヴ ワールズ)を企画運営し、そのなかで“仮想伊勢丹新宿店”を展開する三越伊勢丹。両社はメタバース市場の開拓を積極的に進めている。
記事前半では、両社によるメタバースに対する構想や取り組みを、後半では、メタバース事業をけん引しているアダストリアの島田淳史氏(広告宣伝部 メタバースプロジェクトマネージャー)と、三越伊勢丹の「REV WORLDS」事業発起人である仲田朝彦氏(営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 レヴ ワールズマネージャー)が対談。メタバースならではの利点や、事業者が気になる収益化について本音で語り合う。
アダストリア、三越伊勢丹の“メタバース進出の狙い”とは
両社の狙いは「付加価値の創造」「新たな顧客接点」「新たな収益源づくり」
「グローバルワーク」「ローリーズファーム」などのアパレルブランドで知られるアダストリアが、メタバースのファッション領域に進出している理由は何か。アダストリアの島田氏は、メタバースファッションの事業目的として次の3つを掲げている。
アダストリア:メタバースファッションの事業目的
※……「Web3.0」とは、特定の管理者がいない、ブロックチェーン技術によって実現した分散型インターネット。個人に関連する情報を自分自身で保有し、自分自身の判断によって管理することを前提とした仕組み |
この考えの下、アダストリアは自社が運営するファッションWebサイト「.st」(ドットエスティ)オリジナルのアバター「枡花蒼(ますはな あお)」「一色晴(いっしき ひより)」とバーチャル上のスキン(洋服)の販売を展開。2023年9月にリアルとメタバースを掛け合わせたライブコマースに取り組み、2023年11月までにメタバースアイテムを第7弾まで販売してきた。
対して、三越伊勢丹のメタバース市場における取り組みや狙いを見てみよう。三越伊勢丹は、新宿をコンセプトにした仮想都市コミュニケーションプラットフォームのスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS」を2021年3月にリリース。新宿東口の街の一部エリアと、伊勢丹新宿本店――すなわち、“仮想伊勢丹新宿店”などが再現された仮想都市を再現している。
仲田氏は、「REV WORLDS」の発起人。社内起業制度を活用して事業を立ち上げ、現在に至る。
「REV WORLDS」にログインしたユーザーは、“仮想伊勢丹新宿店”の店舗のなかも自由に見て回ることができる。化粧品や雑貨、食品、婦人服などの幅広い品ぞろえのなかから、実際に買い物を楽しむことも可能だ。アプリ上で商品をクリックすることで、「三越伊勢丹オンラインストア」などへ遷移し、実際の商品を購入できる。
メタバース上でも「人とのつながり」を感じられるような買い物体験を提供している三越伊勢丹。「REV WORLDS」では、アバターの着せ替えや、チャット機能を使ってほかのユーザーと会話することもできるという。
そんな三越伊勢丹がメタバース事業に取り組む狙いは次の通り。
三越伊勢丹:メタバース事業に取り組む狙い
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百貨店でひんぱんに買い物をしている人はそれほど多くありません。たとえば「デパートで買い物を最後にしたのはいつですか」と質問されたとき、「半年前」と答える人も多いと思います。ひるがえって、百貨店側からすると、お客さまとの接点づくりはとても大切になる。その点において、メタバース領域が役割の一つを担っています。
このほか、三越伊勢丹が掲げる考え方の一つに、「ライフスタイルを豊かにするためのお手伝い」というものがあります。リアルはもちろんのこと、バーチャルでも、豊かにするためのお手伝いはできるのです。(三越伊勢丹 仲田氏)
「顧客接点の創出」「付加価値の提供」など、メタバース事業の狙いには両社で共通点が多いことがわかった。次に、アダストリアの島田氏と三越伊勢丹の仲田氏による対談から、両社が考えるメタバースの可能性や、収益化の考え方などを解説していく。
両社のメタバースをけん引する島田氏、仲田氏が語る市場展望
メタバースならではの“挑戦しやすさ”とは?
――メタバース領域に魅力を感じていながらも、実際の事業挑戦は「まだまだ敷居が高い」と感じている事業者が多いと思います。両社が考える、メタバース事業ならではの可能性を教えてください。
アダストリア 島田氏(以下「島田氏」):すべての挑戦がメタバースでできることだと思います。私のようなアパレル事業者の例で具体的にいうと、自分で洋服をデザインして、それを工場で生産して、流通に乗せて、ECや店舗で販売する。これをリアルで実現しようとすると、とても大変なことです。しかしメタバースの世界だと、たくさんの個人のクリエイターが自分でデザインしたメタバースの洋服を販売していて、とても人気になっているクリエイターもいます。さらに、メタバースだと世界中のユーザーが購入してくれますが、リアルで世界に出て販売、届けようとするととても大変なことです。
三越伊勢丹 仲田氏(以下「仲田氏」):バーチャルならではの有利性は島田さんのお考えに賛成です。あげられた可能性から、販売活動のしやすさはバーチャルのほうが有利と言えるかもしれません。その意味では、新たな事業領域としてメタバースを選ぶのはお勧めです。事業者にとって挑戦しやすいと言えるでしょう。
メタバースをどう収益化する?
――収益化の観点ではいかがでしょうか。まずは現状を教えてください。
島田氏:多くのユーザーに支えられメタバース事業は黒字化できています。「ドットエスティ」は2022年7月にメタバースファッション領域に参入しました。当社が掲げる成長戦略のなかに「デジタルの顧客接点、サービス」というものがありまして、メタバースはその1つの挑戦でもあります。
仲田氏:当社もメタバース事業のルーツをお話しすると、もともとは、社内起業制度を利用して私が起案しました。「REV WORLDS」がリリースからまだ3年ほどしか経っていないこともあって、会社のなかでは新規事業としての位置付けです。私が指揮をとるチームが、まず「次はこういうものをやりたい」という方向性を経営側に提案する形で事業を進めています。
――収益化の将来像を教えてください。
仲田氏:メタバース事業は、10年、15年ぐらいをスパンとして、じっくり取り組んでいきたいと考えています。短期、短距離走の勝負でゴールに近づくような事業ではないと思っています。逆に、長くしっかり続けられるようにやっていきたい。
たとえば「2年後にメタバース市場でナンバーワンシェアを獲得する」といった爆発的なスピード感ではありません。収益化の新たな柱となり得る芽として、メタバース事業を会社全体で温めているようなイメージです。
今後は、「REV WORLDS」における有償アイテムや有償サービスのラインアップを図る予定です。それらを収益源の軸にしていきたいと考えています。また、業種や業態を問わず、さまざまな事業者の皆さんとの協業も前向きに検討していきたいです。
島田氏:当社は、ファッションアバターの拡大に向けた3つのフェーズで進めています。自分たちのブランドをバーチャルの世界でカタチにする「モノ売り」のフェーズ。エンゲージメントを高め、体験を提供する「コト売り」のフェーズ。自社が培ったノウハウをもとに、事業者との協業やメタバース関連サービスの連携を行う「カチ(価値)売り」のフェーズです。
2023年、アダストリアは第2フェーズの「コト売り」を拡大するべく、メタバースにおける“体験の場”をつくることに力を入れてきました。今後は、この「コト売り」、さらには「カチ売り」のフェーズへの移行をめざしていきます。「カチ売り」では、消費者(toC)だけにとどまらず、事業者(toB)からの収益獲得も視野に入れています。
仲田氏と同様に、当社も異業種・異業態の事業者の皆さんとの協業を積極的に行っていく予定です。メタバース分野に関心のある事業者さま、担当者さまは、ぜひご相談ください。
両社が語る、バーチャルならではの「付加価値」
――オンラインでもリアルでも提供できない、バーチャルだからこそ提供できる付加価値を両社とも狙いにあげています。どのようなものでしょうか。
島田氏:当社のメタバースユーザーのなかには、アバターの洋服と、ユーザー自身の洋服をリンクさせて楽しむ人が増えています。アバターと同じ洋服を自分でも着る、ということですね。リアルでもバーチャルでもファッションを楽しんでいただけているのはとても感動です。
仲田氏:メタバースの強みはやはり、ユーザーはメタバース空間へ24時間いつでもどこにでも行けるということ。「REV WORLDS」は、いまは新宿をコンセプトにした仮想都市プラットフォームですが、当社をはじめ、メタバースに参入する事業者が増えて、メタバースの世界がどんどん広がっていったら、ユーザーはたとえば旅行前に現地の“予習”ができますよね。空港から市街地までのルートを事前にメタバースで体験しておけば、現地に行ったときに迷いにくくなりますし、時間の節約にもなります。
「REV WORLDS」としては、まずはユーザー数の増加と、プレイ時間の増加を両軸で引き上げていきたいと思っています。
島田氏:メタバースならいつでもどこにでも行けるというのは、おっしゃる通りですね。メタバースはユーザーにとっての楽しさはもちろんのこと、時間の効率化、生活全体の利便性向上につながります。
仲田氏:直接お客さまが店舗に来店されなくても、メタバース内で日常的にコミュニケーションがとれるのも良いところ。収益化の観点も含め、メタバースをフックとした成長戦略はこの先、大きな可能性に満ちていると思っています。