森野 誠之[執筆] 7/24 8:00

外国人観光客の増加によって越境ECにチャレンジする企業は増えていますが、いきなり大手ECモールに出品して失敗したり、翻訳にお金をかけたのにまったく売れなかったりと、うまくいかない話をよく聞きます。どうやったら越境ECをスムーズに始めて、軌道に乗せることができるのか――ジグザグ 取締役の鈴木賢さんに話を伺いました。

言語、商習慣の課題などを解決して「欲しいものが買えて、売りたいものを売れる」状態をめざす

森野誠之(以下、森野):越境ECの始め方についてお聞きします。ジグザグさんが提供している「WorldShopping BIZ」は、手軽に越境ECを始められる仕組みとして知られています。「WorldShopping BIZ」について教えてください。

鈴木賢氏(以下、鈴木):私はジグザグの事業全体を管掌しており、メインサービスの「WorldShopping BIZ」は「海外のカスタマーと日本のECサイトを気持ち良くつないでいく」ことをキーワードに展開しています。

森野:「気持ち良く」の部分を詳しく教えてください。今の越境ECの環境は「気持ち良くない」ということなのでしょうか。

鈴木ECサイト運営者側は物流、決済の壁が大きく、カスタマーは言語の壁があります。欲しいモノが買えて、売りたいモノが売れる状態をグローバルで実現したいのですが、これはシステムだけでは越えられません。法律、商習慣などたくさんの課題がありますから。

森野:物流と決済は本当に大変ですよね。送料がとても高い、返品の発生、入金がないということもあります。言語に関してはやはりカートの部分、「住所入力で手間取るユーザーが多い」「住所入力のフォーマットを各国のフォーマットに合わせる」といったところで困る企業が多いのではないでしょうか。

鈴木:そうですね。商品ページなどは翻訳ツールを使って読んでもらえますが、注文に関してはそうはいきません。海外ユーザーが内容をきちんと理解して、正しく入力してもらう必要があります。「WorldShopping BIZ」は、今あるECサイトにJavaScriptタグを1行入れるだけで、そういった言語の問題や海外発送、海外ユーザーへの回答といったカスタマーサービスなどのオペレーション部分も含めて、すべて代行するサービスです。

ジグザグ 越境ECサービス「WorldShopping BIZ」について
ジグザグが展開する越境ECサービス「WorldShopping BIZ」について
(画像は「WorldShopping BIZ」のサイトからキャプチャ)

森野:越境ECで最初につまずく部分を代行するイメージですね。ASPのカートやオリジナルで作ったECサイトにも対応しているのでしょうか?

鈴木:はい。ほぼすべてのECサイトに対応できます。

森野:そうなると、始めるのはとても簡単そうですが、始められることと売れることって別物ですよね。「本当にタグを1行入れるだけで、海外で売れるの?」と少し不安になるのですが、実際はどうなのでしょうか?

鈴木:もちろん売れています(笑)。流通総額は公開していませんが、数千のECサイトが導入しており、月商数千万円から、月に数件注文が入る程度ながらも継続して売れているECサイトもたくさんあります。何もしないのに売れている事業者さんも多いはずです。

「何もしていない」のに商品が売れている?

森野:「何もしなくても売れている」というのは?

鈴木:ほとんどのECサイトで設置されているであろう「Google アナリティクス(GA4)」を見ると、数%は海外からのアクセスがあるはずなんです。これが実際に買いたい海外ユーザーだとしたら、カートや問い合わせでつまずかなければ購入してくれるはずです。なので、その部分さえクリアしていれば月に数件注文が入ることがあるんです。

森野:確かに。「Google アナリティクス」を見てみると海外からのアクセスは必ずありますね。何もせずに少し売れる企業もあれば、頑張ってたくさん売れている企業もいるという感じなんですね。

鈴木:はい、コロナ禍でEC自体が活発になって越境ECも盛り上がりました。コロナ前に日本に来た外国人観光客が、コロナ禍で日本の商品を買いたくても買えなかったのが理由です。日本への個人旅行解禁から、「1回買ったモノをもう一度買う」「以前日本に来たときに買えなかったから買う」といった流れが加速しています。日本への旅行というリアルな行動がECサイトに大きく寄与しているということですね。

森野:肌感覚ではわかるのですが、データでもわかっているのでしょうか?

鈴木:『越境EC・ウェブインバウンド白書』を発行していますが、外国人観光客の方にアンケートをしたところ、日本へ旅行に来るとその後に越境EC行動に移りやすいことが数字として現れています

ですので、「本当に売れるの?」という話でいえば売れます。「売れる確率は高いです」という言い方が正しいかもしれませんが、どんどん売れる状況になっているということですね。

ジグザグ 取締役 鈴木賢氏
ジグザグ 取締役の鈴木賢氏

越境ECでまず始めるべきは「SNSの活用」

森野:越境EC市場はどんどん大きくなっていて、今や世界中に売れるようなイメージでしょうか。以前は北米やヨーロッパが中心でしたよね。

鈴木:そうですね。ジグザグでは228の国と地域に対応できます。正確にはDHLやFedExなどの配送可能地域を単純に足し合わせただけですが、実績としては約160か国に出荷しています。

ジグザグ WorldShopping BIZ 配送可能な国と地域の一部
「WorldShopping BIZ」で配送可能な国と地域の一部
(画像は「WorldShopping BIZ」のサイトからキャプチャ)

森野:160か国はすごいですね。自分がわかる国の名前だと20ぐらいですから(笑)。160か国にも売れるとなると「始めてみようか」と思う事業者もいるでしょう。実際、何から始めるとうまくいきますか? 思いつくのは海外ユーザーが好きそうな商品を作る、とりあえずWebサイトなどを翻訳する、商工会や産業振興機構などに相談する――ですかね?

鈴木一番やってはいけないのが「やりすぎてしまうこと」。一発勝負に出てしまうのが最も危ないです。越境ECのビジネスは中・長期戦。いきなりファンが生まれて、いきなりドカッと売れるなんてことはありません。少数のファンで良いので1回だけではなく2回目も買ってもらえるようにする、さらに3回目も買ってもらうことを考えた方が良いですね。

ワケもわからずに「さあ世界だ!」と意気込んで大きなコストをかけてしまうと、売り方がわかってきた頃には資金がなくなってしまうケースがあります。米国の「Amazon.com」や中国の「Tmall」などにいきなり出品するのも同じです。適切なコストの状態で、長く戦える状態を作って始めていくべきです。

普段からSNSでコミュニケーションを取り、海外の人にも見られている状態を作る

森野:たとえば、「何もしないのに売れた」としたら、「なぜ売れたのだろう」と考えて商品画像を工夫してみたらもう少し売れた。そうしたら、写真や画像、キャッチコピーにお金をかけてみて反応を見るといった感じですね。

鈴木:そういった方法もありますが、私たちがお伝えしているのは「SNSをきちんと活用していますか?」ということです。SNSは本当に便利で、特別な設定不要で海外にもつながっています。日本人は基本的に日本語だけで投稿しているケースが圧倒的ですが、海外向けにハッシュタグなどをつければ海外の人たちが反応しやすくなります

森野:X、Instagramは日本人同士で使っていると国内限定に感じてしまいますが、SNS自体は世界につながっているので、ハッシュタグなどで海外対応すれば良いだけですね。

鈴木:その通りです。売るためにはまず認知を得なければいけませんが、無理やり認知を上げようとすると失敗の原因になってしまいます。SNSで普段からコミュニケーションをとって、海外の人にも見られている状態を作ることが入口で、かつ最も大事だと感じています。

ジグザグのサービスを導入していきなり売れる人たちは、「なぜか最近SNSから英語や知らない言語で問い合わせが来るんです」ということが多いんですよ。なので、やはり行動が重要ですね。

森野:いきなり売れて驚く事業者もいそうですね。

鈴木:いらっしゃいますね。面白いのは、私たちのサービスの話を聞いた時に「海外の人が反応したら、外国語で問い合わせがきちゃうじゃないですか」と話す担当者などがいること。「いやいや、海外に売りたいんですよね? だったら反応がないとだめですよね?」と説明すると「あ、そうか(笑)」となります。

なので、このあたりの心理的ハードルを取り除いて、世界は意外と近くにあることを意識してほしいですね。

海外の人たちは積極的。何も反応がなければ商品の見せ方や売る商品のパターンを工夫してみる

森野:日本人は日頃、外国人と関わる機会が少ないので、そうなりがちですよね。

SNSに関しては「こんな写真でこんなハッシュタグを付けて投稿してみたら良いかな?」というところから始める、成功している国内のアカウントの人を真似してみるとかでしょうか。

鈴木:私たちもここを意識していて、「ウェブインバウンド」という言葉を使っています。リアルにインバウンドで日本を訪れるのではなくて、「Web上で日本語のサイトに訪れる」という意味です。

SNSを少しでも運用するとわかるのですが、外国人は日本人よりとてもオープンなんです。臆することなく質問しますし、コメント欄でも問い合わせてきます。たとえば、Facebookであればメッセンジャーで「それはいくらなの?」と質問してきます。

そのくらい積極的な人たちなので、何も反応がなければ、単純に商品が海外の人たちにとってまったく興味のないモノか、見せ方が悪いかという話になります。そこで「ちょっと表現を変えよう」「売る商品をちょっと違うパターンにしていこう」と試行錯誤していければ良いですね。

森野:いきなり外国人から連絡がくると最初は驚くと思いますが、返信も翻訳ツールが使えますので頑張ってやり取りすると購入につながるということですね。

運営堂 森野誠之氏
運営堂 森野誠之氏

商品の情報収集もSNSで調査し、工夫して投稿&反応を見てみることが重要

森野:商品の工夫の部分ですが「日本人が考える、海外の人が好きそうなモノ」が売れるのか、そうではないものが売れるのかはわからない。何も反応がないときに商品を工夫するとしたら、新しいモノを作っていくしかないのでしょうか?

鈴木:私達のサービスに限った話になりますが、海外を意識して商品を試行錯誤しているショップは1割にも満たない。あくまで日本の人に向けて商品を販売しながら、海外の人の反応も見ていくような状況のショップが多いです。

「海外の人たちにもこれは売れそう」だと思う理由があり、その仮説が正しいかどうかを検証するのなら良いのですが、何もなしに海外専門の商品を作ろうとするとリスクがあります。一部例外として、海外でも人気のあるアニメ、マンガ、ゲームとのコラボ商品などは売れやすいですが。

森野:ここもやはり冒険しすぎないことが大事なのですね。海外で売ろうと思って情報を調べる時も、SNSが良いのでしょうか? 「Reddit(レディット)」などの掲示板が良いという話も聞きます。

鈴木:私のなかでは、やはりSNSが一番ですね。たとえば、Facebookにもコミュニティがあり、「日本のプロダクトが好き」「あるアニメが好き」「旅行が好き」といったコミュニティがたくさんありますので、そこに参加するのもわかりやすいですね。海外現地のバーに行き、いろいろな人に話を聞くのと同じ状態になってくると思います。

森野:日本だとあまりFacebookは重要視されていませんが、意外と海外では使っていますしね。

鈴木:中国だったら「小紅書(レッド)」が同じような状態で、趣味性でつながったりしています。国ごとにさまざまな傾向があるので、SNSだけでも十分でしょう。

森野SNSできちんと調査して、工夫しながら投稿をして、反応があったらそれを広げていくという感じですね。それなりに広がったら販促費を使うなり、何か新しいことを行うという順番ですか?

鈴木:まさにそうですね。

森野:以前、海外対応に携わったことがあるのですが、ホームページの翻訳部分でいきなり苦労しました。翻訳会社は外国語には強いですが、商売人ではありません。なので、翻訳した文章がそのまま伝わるかどうかと言えば、伝わらないんです。

それが今はAIも劇的に進化して翻訳精度も上がってきたので、フロント面ばどうにかなりそうです。

普段の生活が海外につながっていることを再認識してほしい

森野:さまざまなお話を伺ってきましたが、やはりまだ躊躇する人は多いでしょう。そういう人達にアドバイス、一歩踏み出すためのヒントをいただけますか?

鈴木普段の生活が海外につながっていることに改めて気づいてほしいですね。そうすれば、普段行っている国内向けのマーケティング活動が海外にもつながっていることを意識できますし、試せることがたくさんあります。試し方がわからなくても、助けてくれる人たちは私たちを含めてたくさんいます。

「海外向けにも少しコミュニケーションしてみよう」と一歩目だけでも踏み出してみれば、景色が変わるでしょう。

森野:既につながっているところに少し足を踏み入れて実施してみると、違った景色が見えて商品も売れてくるんですね。ありがとうございました!

◇◇◇

ジグザグさんは『越境EC・ウェブインバウンド白書 2024』を発行しています。私も一通り読みましたが、越境ECの状況・市場規模などがわかって便利でした。特に越境EC事業を3年以上実施して成功している企業の取り組みが参考になったので、越境ECに興味がある人は読んでみるのをオススメします。

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