石田 麻琴[執筆] 11/11 8:00

「EC事業を内製化する」――それは必ずしも、「Webサイトやコンテンツの制作スキルを身につける」「リスティング広告の運用を自社内で行う」「自社サイトのシステム改修をECチーム内で解決する」ことを意味しません。ECに関係する専門的な領域は、すでにいち担当者の努力でどうにかなる時代ではなくなっています。

EC事業の内製化を目標に、ECマーケティングに関係するテーマを設定、その判断をするための「考え方」を伝える10回目の連載では、「逆算のマーケティング」をテーマに解説します。

強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座
  1. ECのマーケティングとは? 「売り上げを伸ばす」ってどういうこと? EC事業の内製化に大切なポイントを解説!
  2. 客単価が2倍=売り上げも2倍!はウソ? 事例に学ぶ売上の公式の「真実」とは
  3. コンバージョン率が高い=良いECサイト? 「割り算」で算出する数値には注意しよう!
  4. ECサイトのアクセス数アップのポイントは、自社にとって「エンゲージメント」が高いユーザーを意識すること
  5. ユーザーが自社を「選んでくれた理由」「知ってくれた理由」を分析しよう! 商品作り&顧客作りに重要なポイントを解説
  6. 「生の声」「問い合わせ」の情報を蓄積して、ユーザーへの提案の「解像度」を上げることが大切!
  7. 「なぜ売れたのか」疑問を持とう! ユーザーの目的からニーズを探るためには「情報管理」が重要になる
  8. 売れる理由を一番知っているのは誰? それは「お客さま」! ユーザーの声+客観的なデータから売るチャンスを創出しよう
  9. 再現性が高く「投資効果」が読みやすいネット広告戦略のポイントは? 広告代理店に依頼する時の注意点も解説
  10. ネット広告で獲得したいのは新規顧客ではない! “リピート顧客になり得る見込み客”だ! 「逆算のマーケティング」で効率的・効果的な広告戦略を実現しよう

ECのマーケティングは「ヒト・モノ・カネ・情報といった自社のリソース」と「外部のマーケティングソリューション」を組み合わせて、「結果としての売り上げと利益を最大限に伸ばす」ことが求められます。

つまり「EC事業の内製化」とは「業務の内製化」ではなく、「判断の内製化」なのです。ECの戦略・方針、日々のアクション・行動、そしてソリューションの選択が成果につながっているか、これだけは社内のネットショップ担当者でなければ判断ができません。

「強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座」では、ECマーケティング人財育成(ECMJ)が、こうした判断を行えるEC担当者育成に向けたポイントを解説します。

広告戦略に重要な「逆算のマーケティング」とは?

ネッタヌネッタヌ

石田さん、こんにちは! 前回に引き続き、今回も広告戦略の話ですよね。

石田

こんにちは! 前回は広告代理店さんとの関わり方を例に、広告戦略のポイントを解説したよね。お話した通り「自社主導」で広告代理店さんに動いてもらうことが重要なんだ。

ネッタヌネッタヌ

この1か月間考えて気づいたのですが、それってまさにこの「EC事業の内製化」の連載のテーマにもなっているところですよね。「自社のリソース」と「外部のソリューション」を組み合わせて、成果の最大化をめざす――。

石田

そして、それはECの事業主が主導して進めなければいけない。まさに「EC事業の内製化」とは「判断の内製化」である、ってとこだよね。

ネッタヌネッタヌ

なんか、上手くつながっていく……。

石田

ECの事業主、チーム、担当者のみなさんが「判断」できるようにならないとね。そして、今回は「逆算のマーケティング」を紹介したい。

ネッタヌネッタヌ

逆算のマーケティング!?

広告戦略を展開する目的は「事業拡大」だけれど……?

石田

広告戦略を「より効率的に、より効果的に」展開するために重要なのが、「逆算のマーケティング」なんだ。

前回、ネット広告の効果をより上げるために「広告代理店さんに共有した方が良い情報」を紹介したんだけれど、何だったか覚えている?

ネッタヌネッタヌ

さっき復習で前回のコラムを読みました。「去年の今頃、どの商品が売れていたか」「これからのECサイトの販売スケジュール」。このあたりの情報ですよね。

石田

そうそう、さすが。「去年の今頃、どの商品が売れていたか」の情報は、常に流れているトレンドのなかでの狙い目を予測するのに役立つ。また「前年に売れた商品」を把握することで、ネット広告を活用する際のリスクヘッジにもなるよね。

「これからのECサイトの販売スケジュール」の情報は、新作商品・販促企画に合わせたネット広告の掲載に役立つ。できれば販売スケジュールと違和感のない広告戦略を展開していきたいからね。

ネッタヌネッタヌ

たしかに、このあたりの情報を広告代理店さんへ共有せずに「ご提案をお願いします」って言うのは、広告戦略を「単に丸投げ」しているのに近いかも。

石田

そうなんだよ。そこでもう一歩踏み込んで考えたいのが、「逆算のマーケティング」だ。この「逆算のマーケティング」は、広告代理店さんと広告戦略を組み立てるケースだけでなく、自社内で広告運用をするケースでも必要になる考え方だ。

ネッタヌネッタヌ

広告戦略のベースとなる知識ってことですね。

石田

じゃあ、ネッタヌ君に質問でーーーす。広告戦略を展開するのは何のため?

ネッタヌネッタヌ

新規顧客を獲得するため!!

石田

それってホント? ちょっと月並みな答えを返しているだけじゃない?

ネッタヌネッタヌ

え? 広告活用はてっきり新規顧客獲得のためかと思っていました……違うのですか。じゃあ、売上獲得のため?

石田

うーん。新規顧客獲得のためも、売上獲得のためも間違いじゃないんだけれどね。

ネッタヌネッタヌ

じゃあ正解は?

石田

正解は……事業拡大のため!

ネッタヌネッタヌ

石田さん、それって当たり前じゃん。そんなのズルいって!!

石田

ちっちっち(人差し指を振る音)。まあ、ネッタヌ君、聞きなさいって。

ネット広告で獲得したいのは「リピーターになり得る新規顧客」

石田

たとえばさ、ネット広告で新規顧客を獲得したとして、リピーターになってもらえない可能性もあるよね。その場合はどうなる?

ネッタヌネッタヌ

確かにありますね。特にオファーが強めのキャンペーンを打ったときなどは、「たくさんの新規顧客を獲得できたけれど、実際ほとんどリピーターにはならなかった」という話はよく聞きます。

石田

売り上げも一緒だよね。強めのキャンペーンを打つとぶわーっと受注が入ってくるけれど、その後につながらないケースも多い。そうだとすると、広告戦略では新規顧客が獲得したいわけじゃないんだよね。

ネッタヌネッタヌ

あ、石田さんが言いたいことがわかった気がする。新規顧客が獲得したいんじゃなくて、「リピート顧客」を獲得したいってことか!

石田

ネッタヌ君、勘がするどい。そのとおり。新規顧客が欲しいんじゃなくて、リピート顧客に「なり得る」新規顧客が欲しいんだよ。

ネッタヌネッタヌ

なるほど。言葉の表現、重要なところですよね。「広告戦略によって新規顧客を増やす」だと、単に「新規顧客数」が指標になる。これが「リピート顧客に『なり得る』新規顧客」というと、意味合いが違ってきますね。

石田

そう。だから、たとえば広告代理店さんに「新規顧客を増やす提案をお願いします!」と依頼すると、認識がズレる可能性があるんだ。だって、事業者側が欲しいのは「闇雲な」新規顧客ではなくて、リピート顧客に「なり得る」新規顧客でしょう。ここで「逆算のマーケティング」の考え方が必要になる。

EC内製化 ネット広告を活用して獲得したいのは新規顧客ではなく、「リピート顧客になり得る新規顧客」
ネット広告を活用して獲得したいのは新規顧客ではなく、「リピート顧客になり得る新規顧客」

「結果的にLTVの高いお客さま」が、自社ECサイトにどのように接触していたのかを分析

石田

「逆算のマーケティング」というのは、「実際に自社のECサイトの事業拡大に貢献してくれているお客さまを定義して、そのお客さまに近しいお客さまを集客しよう」という考え方なんだ。

「新規顧客、リピート顧客、ロイヤルカスタマーから逆算して、ロイヤルカスタマーになり得るお客さまを広告戦略で獲得しよう」という考え方だね。もちろん、完璧なロイヤルカスタマー候補の人だけを獲得するのは難しいから、「確率を上げよう」って話だね。

ネッタヌネッタヌ

そうか。「逆算のマーケティング」を実践するためには、自社のデータや情報が必要なのか。

石田

主に新規顧客として獲得したいお客さまは、たとえば次のようなお客さまじゃないかな?

  • LTV(顧客生涯価値)が高い
  • サービスの利用継続年数が長い
  • トータルでの利用金額が高い
  • トータルでの利用回数が多い
ネッタヌネッタヌ

そうですね。1回きりで終わりのお客さまではなく。

石田

ここからが「逆算のマーケティング」のポイントになるんだけれど、「『結果的にLTVが高いお客さま』は、当初自社のECサイトとどのような接触をしていたのか」を分析して考えることなんだよ。

ネッタヌネッタヌ

そうか! 理想とするお客さまが集まりやすい条件を探すのか!

石田

「結果的にLTVの高いお客さま」が最初に購入した商品、利用のきっかけになったキャンペーン、そのキャンペーンに誘導した広告、リピートしてくれている商品などの傾向を分析できると良いよね。あとは、顧客属性の共通点もあれば尚良いね。

ネッタヌネッタヌ

じゃあ、強めのキャンペーンが「結果的にLTVが高いお客さま」につながってない可能性も……。

石田

大いにあり得るわけだよ(笑)

EC内製化 「逆算のマーケティング」を展開し、効果が出ている部分を広げていく
「逆算のマーケティング」を展開し、結果的に効果が出ている部分を広げていく

「発信力が高いお客さま」も獲得したいお客さま

石田

「新規顧客として獲得したいお客さま」として、「LTV(顧客生涯価値)が高い」「サービスの利用継続年数が長い」「トータルでの利用金額が高い」「トータルでの利用回数が多い」――こんなお客さまを定義したよね。

この他にも「新規顧客として獲得したいお客さま」の定義を加えたい。従来だと「LTVが高い」が基本なのだけれども、現代的な観点というか――ネッタヌ君、イメージつく?

ネッタヌネッタヌ

なんだろう? ポジティブなレビューを書いてくれるとか?

石田

とっても良い線いってる。「新規顧客として獲得したいお客さま」として、「発信力が強いお客さま」っていう定義も加えられると思うんだ。

ネッタヌネッタヌ

たしかに、利用頻度はそこまで高くないけれど、SNSでの発信とかポジティブなレビューでECサイトに寄与してくれるお客さまは「新規顧客として獲得したいお客さま」になるかもしれない。

石田

商品だけではなくブランドの考え方にも共感してくれて、SNSやブログで情報を拡散してくれる、また実際の利用シーンなど第三者的なレビューをきちんと書いてくれる、こんなお客さまに囲まれるかどうかが、現代のECマーケティングのポイントとも言えるよね。広告戦略の過程で、ここまで考えられたらベターだね。

ネッタヌネッタヌ

広告戦略って、単に新規顧客獲得と売上アップだけじゃないんだぁ。

石田

もちろん新規顧客獲得と売上アップも目的なんだけれども、どうせお金を使うんだったら、より効率的・効果的に、副次的な効果も狙って戦略を組み立てたいよね。

ネッタヌネッタヌ

そのためには「逆算のマーケティング」を実践することが大切ですね。

石田

一般的に「広告で新規顧客を獲得して、そこからいかにリピーターに引き上げるか?」そこは商品やテクニック、施策改善次第という考え方だけれど、そもそも「リピーターになり得る」お客さまを獲得する方法も考えて実践した方が良いよね。

ネッタヌネッタヌ

広告予算が少ないネットショップは特に、ですね!

石田

今日はこのくらいで! では、次回のコラムをお楽しみに。

ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。

UdemyでECマーケティング動画を配信中です。こちらもあわせてご覧下さい。

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