「なぜ売れたのか」疑問を持とう! ユーザーの目的からニーズを探りEC改善施策につなげるために「情報管理」が重要
「EC事業を内製化する」――それは必ずしも、「Webサイトやコンテンツの制作スキルを身につける」「リスティング広告の運用を自社内で行う」「自社サイトのシステム改修をECチーム内で解決する」ことを意味しません。ECに関係する専門的な領域は、すでにいち担当者の努力でどうにかなる時代ではなくなっています。
この連載では、EC事業の内製化を目標に、ECマーケティングに関係するテーマを設定、その判断をするための「考え方」を伝えていきます。7回目は「情報管理」の重要性について解説します。
- ECのマーケティングとは? 「売り上げを伸ばす」ってどういうこと? EC事業の内製化に大切なポイントを解説!
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- ECサイトのアクセス数アップのポイントは、自社にとって「エンゲージメント」が高いユーザーを意識すること
- ユーザーが自社を「選んでくれた理由」「知ってくれた理由」を分析しよう! 商品作り&顧客作りに重要なポイントを解説
- 「生の声」「問い合わせ」の情報を蓄積して、ユーザーへの提案の「解像度」を上げることが大切!
- 「なぜ売れたのか」疑問を持とう! ユーザーの目的からニーズを探るためには「情報管理」が重要になる
ECのマーケティングは「ヒト・モノ・カネ・情報といった自社のリソース」と「外部のマーケティングソリューション」を組み合わせて、「結果としての売り上げと利益を最大限に伸ばす」ことが求められます。
つまり「EC事業の内製化」とは「業務の内製化」ではなく、「判断の内製化」なのです。ECの戦略・方針、日々のアクション・行動、そしてソリューションの選択が成果につながっているか、これだけは社内のネットショップ担当者でなければ判断ができません。
「強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座」では、ECマーケティング人財育成(ECMJ)が、こうした判断を行えるEC担当者育成に向けたポイントを解説します。
「情報管理」について学ぼう!
ネッタヌ君、早速だけど今回のテーマが何か覚えている?
う~んと、え~っと、あ~っと……なんでしたっけ? すっかり忘れてしまいました。
「情報管理」だよ。前回の集客の話でも触れたのに、すっかり右から左に抜けてしまったようだね。
ECビジネスにおいて、大企業と戦わずに中小企業が生き残るためには、そして後発のEC事業者が先発のEC事業者を出し抜くためには「情報管理」が重要なんだよ。
でも実は、情報はあまり上手に生かされていないのが現実なんだ。日常にチャンスの芽はあふれているはずなのに、右から左に抜けていってしまう。
も、も、も、もしかして……。
そう。今日のネッタヌ君のようにね! はっはっは!
「情報管理」の重要性とは?
まあ、とりあえず情報を生かすことが重要なんだ。そのためにも、情報を管理しておくこと、「情報管理」が重要になる。
(石田さん、冷静になるのが早いな……)
これは前回のコラムでも説明したけれど、データはECのシステムが自動収集・集計してくれるしシステム上に残るので、後からでも確認ができる。
でも、お客さまの「生の声」や「問い合わせ」は、右から左に流れていきやすいものなんだ。仮に掘り下げることで何かしらのチャンスにつながったとしてもね。
データ活用に関するマーケティングのノウハウって最近多いですが、データではない、いわゆる「定性情報」のマーケティング活用って意外と情報が少ない気がします。
私がコンサルティングで実際に経験した話を元に、「情報管理」の重要性を説明したいと思う。(実際の事例をわかりやすくするため、少し変更を加えています)
とても楽しみ!
商品が売れても「喜ぶだけ」はNG! 「なぜ売れたのか」疑問を持つことが大切
とある食品を販売しているECサイトでの出来事だった。そのお店はご当地の「ポッキー」とか「ぷっちょ」といったご当地もののお菓子を販売している。
たとえば北海道なら「夕張メロンポッキー」、愛媛なら「伊予柑ぷっちょ」みたいな商品ですね。
そう。そういったご当地のお菓子を何種類か売っていた。商品単価は800円くらい、客単価は2000円~3000円くらいで、お客さまは2~3商品を購入していく。そんなネットショップだった。
しかしある日、異常に客単価が高い日があった。
えっ。もしかして、販売価格の設定が間違っていた? 1商品を8000円で登録しちゃっていたとか……。
違うよ(笑)。商品のまとめ買いが入ったんだ。1商品あたり20~30個、それを4~5商品。だから、1人のお客さまが6万円以上購入したことになる。当然、受注処理の担当者がまとめ買いに気づき、歓喜の声をあげたわけだ。
まあ、いきなり6万円の受注が入ったらうれしいですよね。ネッタヌもきっとその日はルンルンだと思います。
ネッタヌ君、喜ぶだけ?
え……(何だか妙なプレッシャーが……)
大いに喜んで良いのだけれど、喜ぶだけ? 喜ぶだけじゃダメでしょ。
こういうときはね、「何故こんなことが起こったのか?」を考えるんだよ。これが「情報管理」の神髄。喜ぶと同時に「疑問を持つ」んだ。
すみません、単に喜んだだけになっちゃいました。
お客さまが疑問に思うことをきちんとネットショップに表記しよう
よくよく過去の受注を調べてみると、件数は多くないとはいえ、「まとめ買い」がいくつかあった。これまではまとめ買いがあっても特段気にせずに「右から左に」情報が流れていたわけだ。
「商品が『まとめ買い』される」とわかったときにまずやることは、何だと思う?
う~ん、う~ん。
シンプルに考えてみよう。まずやるべきは「まとめ買い可能です」「大量注文承ります」と、ECサイト上に出すことなんだよ。仮に商品ページ上の在庫数が足りなくても、問い合わせをすればまとめ買いができることを伝えるわけ。
でもそれって、もしお客さまがまとめ買いしたければ「問い合わせ」してくれるんじゃないですか?
いや、お客さまはね、そんなことじゃ「問い合わせ」してくれないんだよ。「まとめ買いできるのかな?」と思っても、もし在庫数が足りなくて表記もなかったら、他のネットショップに探しにいってしまうだけ。
他のネットショップへの移動にストレスがないのが、ECの特徴ですもんね。
そうなんだよ。だから、お客さまが疑問に思うようなことは事前にネットショップに表記を入れておく必要がある。お客さまはサイレントに離れていってしまうだけだからね。
よくわからなかったら他のネットショップを探しますもんね。
それで「大量注文承ります」という表記を入れた。そうしたら、数日後にまたまとめ買いの注文がきたわけだ。
やったぁ!! 狙いどおり! マーケティング大成功!
また、喜ぶだけ?
お客さまの「目的」から「ニーズ」をつかもう
ここでもう一歩踏み込まなきゃいけない。自社の商品がまとめ買いされる商品であることはわかった。けれど「なんでまとめ買いされるのか?」がわからない。つまり「商品を購入する目的」がわからないわけだ。
まだ満足しないんですか!?
満足するわけがない。思い切ってお客さまに電話をしてみることにした。「昨日いただいたまとめ買いのご注文なのですが、もし特別な用途などがあるなら、ネットショップの方で何かご支援しますよ」と。
お客さまに直接電話しちゃったんですか!
うん。電話してもらった。だって「なんでまとめ買いされるのか?」を一番知っているのは、お客さま自身でしょ。お客さまに聞けば一発でわかることを、会議室で「あーだこーだ」無駄に予想していちゃダメだよ。
「お客さまに直接連絡して理由を聞いちゃう」って、何だか目からウロコの解決策。
そうしたら、購入者は小学校のPTAの役員さんだということがわかった。PTA主催の子ども会で、子どもたちに配るお菓子をネットショップでまとめ買いしていたわけだ!
そこで過去のまとめ買い注文を再度調べてみると、送り先が「学童保育所名」や「団体名」になっているものがあることがわかった。
なんだか、情報が点から線につながっていく……。
「子どもたちにお菓子を配るイベント」という目的でまとめ買い注文が入る、という「お客さまのニーズ」をつかんだ瞬間だ!
やったぁ! 新しいニーズをつかみましたね!
喜ぶだけ?
つかんだ「ニーズ」を「チャンス」に変えるために、改善施策を考えよう
喜ぶだけじゃなくて、掴んだニーズを「チャンス」に変えていきたい。そのためには改善施策を考えなきゃ。
さっき少し触れたよね、「表記を出しておく必要がある」って。ネットショップはね、お客さまに「提案」してあげる必要があるんだ。そう考えると?
わかった! 「子どもたちにお菓子を配るイベントにぴったり!」みたいなカテゴリだったり、販促企画を組んだりするとか?
さすがネッタヌ君! ここぞというときにやるタヌキ!
そうなんだよ。お客さまのニーズを知ることでこちらから用途の提案ができるようになる。もちろん「PTA会」「子ども会」「謝恩会」「夏祭り」なんて検索キーワードの対策もイメージできるようになるよね。
複数の種類のお菓子をバラして1人分にパッケージし直す「子ども会セット」のサービスを展開したら、お客さまが利用しやすそう!
そういう改善施策も続々とメージがわいてくるよね!
大切なのは「1つの情報」からどのような仮説を立てて、裏側にあるお客さまのニーズを探し、ECマーケティングの改善施策につなげるか、なんだ。
今回の話も、「6万円のまとめ買い注文が入った」という「1つの情報」からこんなに広がったわけですもんね。
もし「1つの情報」を特段気にせず、情報を「右から左に」流していたら?
チャンスを逃していたってことか……。
最初に話したとおり、チャンスの芽は日常にあふれている。次回はもう1つ、「情報管理」の面白い体験談を紹介するね。
楽しみ! あっ、喜ぶだけじゃなくて、勉強しなくちゃ!
ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。
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