石田 麻琴[執筆] 9/11 8:00

「EC事業を内製化する」――それは必ずしも、「Webサイトやコンテンツの制作スキルを身につける」「リスティング広告の運用を自社内で行う」「自社サイトのシステム改修をECチーム内で解決する」ことを意味しません。ECに関係する専門的な領域は、すでにいち担当者の努力でどうにかなる時代ではなくなっています。

EC事業の内製化を目標に、ECマーケティングに関係するテーマを設定、その判断をするための「考え方」を伝える8回目の連載も、「情報管理」の重要性について解説します。

強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座
  1. ECのマーケティングとは? 「売り上げを伸ばす」ってどういうこと? EC事業の内製化に大切なポイントを解説!
  2. 客単価が2倍=売り上げも2倍!はウソ? 事例に学ぶ売上の公式の「真実」とは
  3. コンバージョン率が高い=良いECサイト? 「割り算」で算出する数値には注意しよう!
  4. ECサイトのアクセス数アップのポイントは、自社にとって「エンゲージメント」が高いユーザーを意識すること
  5. ユーザーが自社を「選んでくれた理由」「知ってくれた理由」を分析しよう! 商品作り&顧客作りに重要なポイントを解説
  6. 「生の声」「問い合わせ」の情報を蓄積して、ユーザーへの提案の「解像度」を上げることが大切!
  7. 「なぜ売れたのか」疑問を持とう! ユーザーの目的からニーズを探るためには「情報管理」が重要になる
  8. 売れる理由を一番知っているのはお客さま! ユーザーの声+客観的なデータから売れるチャンスにつなげよう

ECのマーケティングは「ヒト・モノ・カネ・情報といった自社のリソース」と「外部のマーケティングソリューション」を組み合わせて、「結果としての売り上げと利益を最大限に伸ばす」ことが求められます。

つまり「EC事業の内製化」とは「業務の内製化」ではなく、「判断の内製化」なのです。ECの戦略・方針、日々のアクション・行動、そしてソリューションの選択が成果につながっているか、これだけは社内のネットショップ担当者でなければ判断ができません。

「強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座」では、ECマーケティング人財育成(ECMJ)が、こうした判断を行えるEC担当者育成に向けたポイントを解説します。

「チャンスの芽」を「チャンス」に変えるためにも、情報管理が大切

ネッタヌネッタヌ

前回の「まとめ買い」の話、面白かったぁ。お客さまからの「まとめ買い」注文が重なったというところから、あそこまで掘り下げていくんですね。

石田

いつも言っているとおり、チャンスの芽は日常にあふれている。

チャンスは誰でも気付くでしょう? 大切なことは「チャンスの芽」に気付いて、「チャンスの芽」を「チャンス」に変えていくことなんだ。そのためにも「情報管理」が大切だね。

ネッタヌネッタヌ

今回も実際にあった情報管理の「体験談」ですよね?

石田

うん。今回も私がコンサルティングで実際に経験した話を元にして、「情報管理」の重要性を説明していくね。(よりわかりやすくするため、実際の事例に少し変更を加えています)

仕入れ当初、商品はまったく売れなかった

石田

今回もネットショップで実際にあった話だ。そのネットショップは「玩具」を問屋さんから仕入れて販売している小売型のネットショップ。もともと実店舗で商売をしていて、並行してECサイトを運営している。

ネッタヌネッタヌ

既存の事業があって、ECに新しい販路を拡大する会社さんですね。

石田

そうそう。このネットショップが販売している「玩具」はゲームやプラモデルではなくて、キャラクターグッズ。「キティちゃん」や「リラックマ」のグッズってあるでしょう、ああいった商品ね。

ネッタヌネッタヌ

ネッタヌのグッズはなかった?

石田

(無視)そのネットショップに問屋さんから1つの依頼があった。「あるご当地モノのキャラクターグッズが大量に余っていて、それを安い仕入れ価格で実店舗に置いてくれないか」というものだった。

そこで、そのキャラクターグッズを少しだけ仕入れて、実店舗だけではなくネットショップにも商品を登録した。

ネッタヌネッタヌ

それで、そのキャラクターグッズは売れたの?

不良在庫になっていた商品が突然売れた! それに喜ぶだけじゃダメ

石田

いや、まったく売れない。だってもともと不良在庫になっていた商品だもん。ネットショップの担当者も、商品を登録したことすら忘れていた。しかし、ある日……。

ネッタヌネッタヌ

突然、売れた???

石田

そう。なぜか突然、注文が入った。一瞬にして、仕入れていた在庫が売れた。

そこでネットショップの担当者さんがすぐさま問屋さんに問い合わせたんだよね。「あの余っていた商品が突然売れたんですが、まだ在庫はありますか?」って。そうしたら「まだ200個くらい在庫があって、相変わらず倉庫で眠っているよ」と。

ネットショップの担当者さんはひとまず在庫を押さえてもらい、ECサイトでの在庫数を「200個」に設定して再度販売を始めた。

ネッタヌネッタヌ

え、それってもしかして……。

石田

うん。瞬発的に追加分の200個が売れたのよ。

ネットショップの担当者さんが問屋さんに連絡すると、大喜び! そりゃそうだよね、ずっと自社倉庫に200個の在庫が眠っていたんだから。そして、このネットショップの担当者さん、ECに関わるメンバーも大喜び! 「明日の発送業務は忙しくなるぞ」と。

ネッタヌネッタヌ

問屋さんが悩んでいた不良在庫がなくなって、ネットショップのメンバーも売り上げを作ることができて、みんなハッピーですね!!

石田

……。(石田がネッタヌ君のことをじーっと見ている)

ネッタヌネッタヌ

これは、もしかして……。いつものあの言葉が……?!

石田

喜ぶだけ?

売れる理由を一番知っているのはお客さま

石田

まず、発売からまったく動かなかった商品に突然200個以上も注文が入るって、普通に考えておかしいよね。というか「おかしい」と考えるべきだよね。

ネッタヌネッタヌ

そ、そうでした。

石田

実はね。問屋さんにある200個の在庫が売り切れて、キャラクターグッズの商品ページが「在庫切れ」状態になっても、お客さまからの問い合わせが電話とメールでひっきりなしに入っていた。「このキャラクターグッズ、次の入荷はいつですか?」って。

ネッタヌネッタヌ

ということは、もっとニーズがある可能性がありますよね。

石田

そう。そこで、ネットショップの担当者さんに問い合わせの電話をくれたお客さまに直接聞いてもらったんだ。素直に「このキャラクターグッズ、先日から大量にご注文いただいていて、お問い合わせもたくさんいただいているのですが、なぜなのでしょうか?」って。

ネッタヌネッタヌ

石田さんがよく言っている「一番理由を知っているのはお客さま」ですね。

石田

そうしたら、「このキャラクターグッズ、あるアーティストの非公式グッズだって、SNSでめちゃくちゃ話題になってますよ!」ってお客さまが教えてくれたんだよ。

理由はお客さまに直接聞こう!

石田

このキャラクターグッズは「バンビ(小鹿)」のキャラクターなんだけど、ご当地モノとして「いちご(苺)」の模様が施されていたのね。

そのアーティストグループに「バンビ(小鹿)」というニックネームのメンバーと、「いちご(苺)」が好きなメンバーがいて、このキャラクターグッズを知ったファンの人たちが「このキャラクターグッズを持って、みんなでライブに行こう!」と話題になったらしいんだ。

ネッタヌネッタヌ

それって、そのアーティストグループのことを知らなかったらまったくわからない情報ですよね?

石田

そうなんだよ。だから「お客さまに直接聞く」のがもっとも早いし確実なんだ。

超情報化社会のなかで、人の得ている情報が多様化しすぎているから、まったく想像のつかないことが、思いも寄らないところで起こっているんだよね。こんなことは、会議室でいくら議論したってわからない。

ネッタヌネッタヌ

でも、情報を教えてくれたお客さまはこのキャラクターグッズ、買えなかったんだぁ……。

石田

いや、買えた。最終的には「単独生産」に踏み切った。

EC内製化 お客さまに直接聞くことで売れた理由が明確になる ECMJ 人財育成
お客さまに直接聞くことで売れた理由が明確になる

ファンのSNSの力を活用

石田

さっき話した通り、商品完売後も毎日のようにお客さまから「次の追加販売はいつですか?」という問い合わせがきていた。

そこで、ネットショップの担当者さんが問屋さんを通じてメーカーさんに連絡を取り、「商品の追加生産」の依頼を出した。けれど、メーカーさんはリスクを抱えたくないので断った。

ネッタヌネッタヌ

まあ、それまで不良在庫で眠っていた商品ですからねぇ。「一時的に話題になっただけでしょ」と思うのはわかりますよね。

石田

そこで、「すべての在庫を持つので『単独生産』ができないか」と聞くと「5000個以上なら」という返答があった。つまり、ネットショップで5000個以上の注文を受けなければいけないわけだ。担当者さんは困った、そして迷った。

ネッタヌネッタヌ

もし4000個しか売れなかったら、1000個在庫になっちゃうわけですもんね。200個からいきなり5000個はハードルが高い……。

石田

ただね、5000個以上売れる可能性はあると考えた。なぜなら、このアーティストグループの公式ファンクラブの会員数を調べたら、なんと50万人もいることがわかったんだよ!

ネッタヌネッタヌ

ええ~~!! 50万人?! じゃあ、ファンクラブ会員さんの1%でも買ってくれれば、5000個達成……!

石田

そこで、これまで問い合わせしてくれたお客さま、すでにキャラクターグッズを購入してくれたお客さま全員にメールを送った。「5000個ご予約注文をいただければ、単独生産することができます。ファンのみなさん、力を貸してください!」って。そうしたら、SNSの力ってめちゃくちゃすごいね。初日に2000個の予約注文がきた。

ネッタヌネッタヌ

ファンのみなさんが拡散してくれたんですね。ファン同士がSNSでつながっている、現代のマーケティングですよね。

石田

そう。いちネットショップでは到底リーチできないところまで情報が拡散されて、結果6500個の予約注文を受けることができたんだ。

ネッタヌネッタヌ

これこそ、ハッピーエンドですね!

石田

いや、その後、このキャラクターを使った別商品を企画したりして、しばらくマーケティングは続いたんだよね(笑)

ネッタヌネッタヌ

さすが商売人!!

EC内製化 客観的なデータから売れる根拠をつかみ、仕掛けていく ECMJ 人財育成
客観的なデータから売れる根拠をつかみ、仕掛けていく

「気付いた」ことに疑問を持ち、掘り下げてチャンスにつなげよう

石田

というようなことがあったんだけど、「情報管理」の大切さを伝えられたかな?

ネッタヌネッタヌ

今回もよくわかりました。もし突然の注文に気付かなかったら、問屋さんに連絡しかなったら、お客さまに理由を聞かなかったら、ファンクラブの会員数を調べなかったら――6500個の注文はなかったわけですもんね。

石田

そうだね。もし突然の注文に「気づいていた」としても、「まあ、いっか」でスルーしてしまったら、その先は広がらない。トヨタ社の「なぜを5回繰り返す」と同じで、「チャンスの芽がチャンスになりえるか」しっかり掘り下げないとね

ネッタヌネッタヌ

売り上げやセッション数などの定量情報だけじゃなくて、お客さまのレビューや問い合わせなどの定性情報もしっかり管理するようにします!

ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。

UdemyでECマーケティング動画を配信中です。こちらもあわせてご覧下さい。

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