成長を続けるBtoB-EC市場の基礎知識。歴史、構成する2つの種類、あまり知られていない市場規模の中身とは?
EC市場は企業による個人向けのBtoC-EC、個人間取引のCtoC-EC、そして企業間取引のBtoB-ECに大別される。ところが、BtoC-ECやCtoC-ECについては多くのことがメディアを通じて語られているが、BtoB-ECはそれらと比較すると圧倒的に情報量が少ない。しかし、BtoB-EC市場規模は465兆円(経済産業省発表による2023年の数値)と巨大であり、国内経済において大きなマーケットと言っても良いだろう。BtoB-ECへの理解が進み市場規模がさらに拡大すれば、間違いなく国内の流通業界全体にとってプラスの効果が作用するに違いない。この連載では毎回、さまざまな角度からBtoB-ECを捉え、読者の方々に有益な情報を届けていきたい。第1回はBtoB-EC市場の全体を俯瞰する。
BtoB-ECの歴史
実は国内におけるBtoB-ECの歴史は非常に古く、1970年代にさかのぼる。といってもインターネットがない時代。電話回線などを通じ企業間でコンピューター同士をつなぎ、受発注に関する情報を電子的にやり取りする発注・受注形態である。当時、ECという言葉はなかった。そのため、これらの電子的なやり取りは「EDI(Electronic Data Interchange)」と呼ばれることとなった。
EDIの普及に伴い、企業間での電子的なやり取りをよりスムーズにするために、次第に通信プロトコルやメッセージフォーマットの標準化が進んだ。たとえば、流通業界においては1982年、通商産業省(現経済産業省)と日本チェーンストア協会によって、いわゆる「JCA手順」という仕様が策定された。その他の業界でも、業界独自の要件を満たす形で仕様が策定されている。
通信面ではDDXやISDNといったサービスがEDIの普及を後押しした。しかし、1990年後半にインターネットが登場すると、EDIもインターネット回線への対応が進むこととなる。また、時の経過と共にEDIにおける標準化が各業界によって進み、企業間取引におけるEDIが盛んに行われるようになった(※下の表を参照)。令和の時代においてもEDIは企業間の有効な取引手段として広く普及している。
これまでの歩みを振り返ると、EDIはECというよりも、サプライチェーンの電子化の側面が強いという感覚を筆者は持っている。まさに企業におけるIT化だ。EDIを受発注の手段として捉えている方々も多いと思うが、それ以外についても出荷、検品、受領、返品、請求、支払いといった一連のビジネスプロセスも包含する。今でいうDXそのものと捉えることもできるだろう。このような点もEDIがECというよりも、ビジネスのIT化のイメージに近いと筆者が考える所以だ。
BtoB-ECの種類は「EDI型」と「小売型」に大別
ではBtoB-EC=EDIかというと、そうではない。
たとえば、総合小売的なBtoB-ECをあげると、アスクルやカウネットはオフィス用品のBtoB-EC。モノタロウは工場の現場で使用する工具などのMRO(Maintenance Repair and Operations)商材を主に取り扱うBtoB-ECである。アスクルの取り扱い商材数は約1300万点、モノタロウは約2000万点にのぼる(それぞれ各社自身による発表)。
一方で、特定のカテゴリーに特化したBtoB-ECも多い。たとえば住宅設備・建築資材を取り扱うサンワカンパーニーは、ゼネコン、施工会社、工務店などを購入相手としたBtoB-ECを展開。また、歯科材料、医療・介護用品の「Ciモール」を手がける歯愛メディカル、美容院向けの商材を取り扱うビューティガレージなど、特定の業種や業界に特化したBtoB-ECは多数存在する。
筆者はEDIによるBtoB-ECと区別する意味で、これらのECを「小売型」BtoB-ECと呼んでいる。EDI型と小売型の違いは、前者は製造から販売までの一連のサプライチェーンを念頭に置いている点に対し、後者はシンプルに企業向けの小売ビジネス(購入企業側にとっては必要な商材の調達)であるということ。つまりBtoB-ECはEDI型と小売型に大別できるというわけだ。
世の中に存在するBtoB-ECに関する説明では、どうもこれらが“混ぜこぜ”で語られるケースが多いように感じる。両者はその成り立ちが異なるため、別々に整理され論じられることが好ましいと言えるだろう。
とはいえ、現実は必要な商材を調達したいケースにおいて、EDI型、小売型の両方可能なケースもある。たとえば、外食産業のように必要な食材をEDIで調達することもあれば、個別の食材を小売型で手に入れることもある。クロスオーバーするケースは存在するが、できるだけ分けて整理していくことが必要であるだろう。
BtoB-ECの機運が高まっている背景
BtoB-ECにはEDI型と小売型があり、古い歴史があるわけだが、筆者の感覚では特にこの2~3年の間にBtoB-ECの機運が以前にも増して高まってきているように感じる。その理由について、筆者なりに思う点を整理してみた。
①コロナの影響
2020年に始まった新型コロナウイルスの流行が、人間同士の交流に大きな支障を与えたことは記憶に新しい。小売面ではBtoC-ECが大きな恩恵を受けて市場規模が大きく伸びたわけだが、ビジネス面でもリアルな商取引を回避するため、BtoB-ECへの関心や実需が高まる結果をもたらしたと考えられる。
②効率化の追求/人手不足
少子高齢化によって人手不足が蔓延している。これはおそらく不可逆的で、今後解消しないと筆者は見る。ビジネスの世界では常に効率化が追及されるわけで、調達/販売業務において、BtoB-ECによって業務効率化を図りたい企業側の意図が見える。
③BtoC-EC市場の成熟化
BtoC-ECはいまだその市場規模は拡大し続けているものの、当面4~5%の成長率が続くと筆者は予想している。すなわちBtoC-EC市場は成熟市場となり、企業によって勝ち負けがはっきりするようになってきた。この局面において、自社商材を個人向けではなく企業向けに販売したいとする企業が増えてきていると予想する。
④EDIの代替
EDIを利用しない企業は、その理由にITコストの負担があると考えられる。要するにコスト面で断念しているということである。そこで、既存EDIシステムの代替として、あたかも小売のようにBtoB-ECを採用しようとする企業が一定数存在しているのではないかと考えられる。
ほとんど知られていないB2B-ECの市場規模の数値の中身
最後にBtoB-ECの市場規模について触れておきたい。経済産業省発表の電子商取引市場調査によると、2023年のBtoB-ECの市場規模は465兆円、EC化率は40.0%である。前職時代にこの調査を長年担当してきた筆者として、この数値の注意点をお伝えしておきたい。
それは、465兆円という数値はEDI型のBtoB-ECの市場規模を合算しているものという点である。つまり、上述の小売型のBtoB-ECについては含まれていない。したがって、小売型のBtoB-ECを検討している事業者はこの465兆円、EC化率40/0%という数値は参考にならない。
筆者の推定では、小売型BtoB-ECの市場規模は約2兆円程度と大きくない。しかし、その分母は少なくとも30兆円を超えると見る。つまり、EC化率は10%以下である。20兆円を超える大きな伸び代があるということだ。もちろん業種によってそのポテンシャルは異なる点は留意していただきたい。
一方で、EDI型のBtoB-ECは465兆円と巨大市場であるものの、コスト面で躊躇している中小企業がいまだに多いと思われる。筆者の推定ではEDIの代替として安価なBtoB-ECを導入したいと考えている潜在的なニーズは、市場規模換算で465兆円の約1割の46兆円分はあるのではないだろうか。いずれにせよ、市場規模についてはあらためて別の会で触れていきたい。