「EDI」とは何か。メリットとデメリット、「BtoB-EC」との違いは何?
経済産業省の発表による2018年の国内BtoB-ECの市場規模が344兆2300億円(前年比8.1%増)でEC化率は30.2%(前年比0.8ポイント増)であるが、これはEDIやEOSを含む数字であることを説明した。そのため、本書が主題とするインターネットによるBtoB-ECよりも高く(広範囲に)算出されている。ここではBtoB-ECの定義・位置付けについて、EDIおよびBtoC-ECとの相違点を軸に解説する。
「EDI」とは?
EDIは「Electronic Data Interchange」の略称で、「電子データ交換」を意味する。BtoB(企業間取引)の分野において、受注・発注・出荷・検収・請求・支払など一連の取引を電子的かつほぼ自動で行うための仕組みや、技術的プロトコルそのものを指す。
たとえば、小売店Aが卸売店Bから、製品を仕入れ、一般消費者へ販売したいとする。本来であればAがまずBに対して、直接訪問する・郵便を送る・電話をかけるなどの手法を用いて製品の購入意思を伝える。これに対してBは在庫を確かめ、Aに対して納期を伝える。注文が成立した場合、Bは社内の配送部門に出荷指示を出し、配送。Aが製品を受け取った後、BはAに対して請求書を発行。Aは社内の経理部門にBへ支払いを行うよう請求処理を行う。
このように、企業間の取引は何工程にもおよぶ複雑な処理を経て、初めて完結する。当然、商品点数が増えたり、取引回数自体が増えたりすれば、作業はより複雑化していく。
こうした負荷の軽減を実現するのがEDIである。上述の取引工程のうち、企業間の連絡・確認にまつわる部分のほぼすべてをネットワークで処理する。
EDIのメリット
EDIは、人によるアナログ処理を極力廃しており、様々な導入メリットがある。第一に、聞き間違い・書き間違いなどによる処理ミスが大幅に減少し、取引スピードが速まる可能性が期待できる。伝票類の発行量も大幅に削減されるため、システムの構築方法如何によっては、経理処理などのバックオフィス業務の効率化にもつながる。
加えて、従業員の目視による在庫確認作業を発注の度に行っていては、業務効率は著しく低くなってしまう。このためEDIでは、在庫量を電子的かつリアルタイムに確認できること、それに伴う物流管理体制が整備されていることが大前提となってくる。
EDIのメリット例
- 発注書に記入してFAXで送信するのではなく、あらかじめ決められたデータ形式で発注データを送信するので、ヒューマンエラーを防げる
- 統一したデータ形式を保持できるのでガバナンスの強化につながる
- 紙を使わないのでペーパーレスを実現できる
- ビジネスの即時性を高めることができる
- 在庫情報なども共有できるので、需要予測や生産計画に役立つ
導入のハードルが高いEDI
ただしEDIは、販売側・購入側のどちらも、専用のシステムを導入しなければ利用できない。このため、新規顧客に対してEDIでいきなり取引を行うことは難しい。あくまで取引関係が成立している企業間において、入念な準備を経てEDIが導入されるのが一般的で、そうした経緯から中小企業間の取引がEDI化されるケースは稀である。
技術的プロトコルとしてのEDIは、どのようなデータ形式か、暗号化する必要があるのかなど、独自に規定することは可能である。しかし取引先の数だけプロトコルを作成するのは煩雑でミスが
起こりやすい。そのため、業界単位でひな形となるEDIを規定し、複数の企業への導入を促すのが近年の主流となっている。
こうした業界標準EDIで代表的なものは、流通業界における「流通BMS」「JCA手順」、銀行業界の「全銀協手順」「全銀EDIシステム(ZEDI)」、鉄鋼業界の「鉄鋼EDI標準」などがある。
EDIはインターネット普及前から使われている関係もあり、プロトコルによってはアナログ電話回線・ISDN回線などでの利用を前提とする、古い形式のEDIもまだ多くあるとされる。
ここで問題となってくるのが、ISDNの「2024年問題」である。ISDNの提供元であるNTTが、機器設備の老朽化・維持限界などを理由にISDN回線サービスの一部終了を発表。この終了予定時期が2024年であることから、業界各社は対応に追われている。
電話回線利用型のEDIは、インターネット上でEDIを使うための「Web-EDI」への移行が進んでいくと見られるが、中には、従来のEDIを踏襲せず、BtoB-EC(Web受発注システム)へ移行するきっかけになる例もあるだろう。
「法人客向けネットショップ」としてのBtoB-EC
EDIに対して、本書・本項が取り上げるBtoB-ECは、根本的に性質が異なる。最も端的に説明すれば、「法人客向けのネットショップ」が、その本質であり、むしろ「BtoC-ECの派生版」と考える事で、より理解しやすくなる。
ここでは、生活雑貨の卸売店を仮にA社とする。A社は典型的な中小企業で、従業員は10名以下。数名のルートセールス担当者が、客先に訪問して受注から納品までを行う。また電話・FAXでも注文を受け付ける。また、社内にはIT関連の専任担当者はおらず、総務担当者が必要に応じて社内IT環境の整備を行う程度である。
こうした企業が販路拡大のためにECサイトを立ち上げたい、つまりネットショップを開設したい場合は、サイトを一から構築するのは難しいため、楽天市場やYahoo!ショッピングなどのモール型ショッピングサイトに出店するのが最も手軽であろう。プログラミング能力のない担当者であっても、月あたり数万円の出店手数料、売上金額に対する数%のロイヤリティーを支払うだけで、高度な商品管理・顧客管理機能を利用できる。
とはいえメジャーなモール型ショッピングサイトでは、BtoBが主軸の卸売店にとって不都合が多いのも事実である。代表的なところでは、価格の管理(取引先や取引量などによって価格を変えること)ができない、掛取引(信用販売)がほぼ間違いなくできない、などがあげられる。
BtoBでは、商品受け渡し時に金銭は授受せず、月末などのタイミングで月1回、請求・支払いを行うのが圧倒的なデファクトスタンダードである。また、掛取引を行う以上は、与信枠の管理機能も必要になってくる。
よってBtoB-ECサイトは、BtoC-ECサイトとはまた異なった枠組みの中で、開設を検討すべきである。
EDIとBtoB-ECの違い
EDIとBtoB-ECの違いを、5つの観点から見ていく。
①取引開始までのスピード
EDI:多くの場合は事前に詳細な取り決めを行う必要がある
BtoB-EC:インターネットにアクセスできる環境があればブラウザを通じてすぐに取引を始められる
②費用負担
EDI:発注側と受注側の双方で同じ仕組みを採用する必要がある
BtoB-EC:一般的に発注する(購入する)側の費用負担はなく、システム費用は主に受注する(販売する)側が負担
③取引相手
EDI:一定量の取引が見込める相手と、より効率的な取引を長期間に渡って行う/事前に取り決めをした既存の相手と取引を行う
BtoB-EC:継続的な取引に発展しない可能性もある相手も含め、手軽に取引を開始できる/承認フローなどがある場合もあるが、新しい企業との取引ができる
④顧客接点
EDI:既存の取引先と決められたやり取りを行うのみ
BtoB-EC:新商品の発売などの各種情報発信をサイト上でできるので、取引先とのコミュニケーションがとれる/レコメンドなどの機能を通じてアップセルやクロスセルも狙える
⑤業務範囲
EDI:発注、受注、出荷・検収、請求・支払までの一連の取引を行う/事前にどの範囲をやり取りするのか取り決めを行う
BtoB-EC:受発注が行われる前段階の集客や見込み客の管理などマーケティング的な要素も持ち合わせている
このようにEDIとBtoB-ECでは目的やできることが異なっている。これまでBtoBにおいてはEDIが中心となってビジネスが構築されてきた。こと流通においてはECの影響力はますます存在感を増し、消費者向けの販売においてECの活用は外せないものになっている。今後、ECの勢いが加速していく中で、BtoBの領域でもBtoB-ECという手段で取引先とのビジネスを行う企業は増えていくと考えられる。
- この記事はインプレス総合研究所の調査報告書『BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引き2020』を再編集したものです
- 記事中のデータは本書執筆時点(2020年1月〜3月)のものです
- 経産省の最新の調査についてはこちらの記事をご覧ください
【2019年】法人取引のBtoB-EC市場規模は352兆円で2018年比で2.5%増