なぜ今「BtoB-EC」は注目されているのか。その理由と歴史的背景を解説

『BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引き2020 ─今後デジタル化が進むBtoBとECがもたらす変革』(インプレス総合研究所)ダイジェスト①

森田 秀一

2020年11月9日 8:00

「BtoB-EC」とは?

BtoB-ECとは、企業間(BtoB)において、Webやスマートフォンアプリなどの電子的手段を用いて、インターネット上で注文や決済などを行う方式ないし概念のことである。

企業間取引の最も原始的な手段は、発注者と受注者が相対して口頭で注文内容を伝える方式である。だが、どちらか一方が相手のいる場所まで足を運ぶために時間的・金銭的コストがかさんでしまう。

これを回避するため、様々な方法が模索されてきたが、一部の大企業を中心とした企業間取引でコンピュータネットワークシステム(後述する「EDI」や「EOS」)が導入されているケースを除けば、近年の主流は電話・FAXであった。インターネットの普及が進んだ2000年代後半以降、メールでの連絡が一般的になっているが、中小・零細企業の取引では電話・FAXの存在感も高い。

しかし、おりからの人手不足や、「働き方改革」の言葉に代表されるような業務効率改善の機運が高まっていることを背景に、企業間取引にもインターネットをフル活用すべきとの指摘が増えている。

インターネットを用いた電子商取引は一般に「eコマース」「EC」などと呼ばれ、2000年初頭以降、特に企業-消費者間の取引、つまり「BtoC-EC」の領域において注目を浴びてきた。

実際、市場規模の伸びも凄まじい。経済産業省が発表している「電子商取引実態調査」では、1998年の国内推計値は年間650億円だったものが、2018年には17兆9845億円へと伸長。国内経済全体が足踏みする中、2008年のリーマンショックを経てもなお増加傾向が続いており、いかに消費手段が「店頭からECへ」と変貌・拡大していったかがうかがえる。

こうした流れの中で、BtoBにおいてもEC化がスムーズに進むのか、企業はどう対応すべきなのか、企業内のEC導入担当者がなにを意識すべきなのか、まさにBtoB-ECに注目が集まっている。

BtoCの販売チャネルの変化

ECで決定的に変わった「BtoC」の世界

経済活動の中核を成す「企業」という存在は、その収益構造や形態によって様々に分類できる。中でも最もベーシックな分類は「主要な取引相手が一般消費者であるか、企業であるか」──すなわち「BtoC」「BtoB」という観点である。

いち生活者の視点でとらえた場合、より身近なのはBtoC(Business to Consumer)であろう。人々が普段暮らすうえでは、生活物資やサービスを金銭的対価と引き換えに入手し続けていかねばならない。企業はそのニーズを汲み取って収益を上げるべく、部材を調達し、それを元に生産し、流通させる。

この企業~消費者間のモノ・カネの流れは、経済活動で最も注目される華やかな部分であり、それと同時に最先端の領域だとも言える。テレビCMをはじめとした広告・宣伝の大半は、BtoCを主軸とする企業が一般消費者向けに展開している。そして、消費者が最終的な「購買」に至るには、対象となる商品・サービスの機能性、デザイン、価格などのあらゆる要素が重要になってくることは、改めて言うまでもない。そのBtoCの在り方を、インターネットの登場が決定的に変えた。

日本におけるECはどう育ってきたのか

日本における、いわゆる「通販」の歴史は、明治時代が端緒とされる。1876年(明治9年)、農学者の津田仙がトウモロコシの種を『農業雑誌』(学農社雑誌局発行)誌上にて販売したのが、日本初の通販であるという。その後も通販は進化を重ねていった。カタログ通販や、1970年代のテレビ通販のスタートを経て、ついにインターネット通販──つまりEC(eコマース)へたどり着いた。

日本国内におけるECの勃興は、1990年代後半~2000年代初頭に集中しているが、この背景にはWindows95の発売や、ISDN回線による通信料金定額制の登場などが奏功したと考えられる。著名なところでは、1995年にはPC販売店のソフマップがECサービスを開始。1997年には楽天市場がオープンしている。

しかし日本において決定的だったのは、2000年のAmazon参入であろう。それまでにも書籍のECサイトとして、米国で高い知名度を誇っていたが、満を持しての日本版サービス立ち上げとなった。

当初のAmazonは赤字体質ぶりを常に指摘され続けていたが、取扱商品ジャンルを音楽CDや家電、生活雑貨などにも着々と広げていく中で、そうした指摘は的外れなものとなっていった。結果、2000年代後半の時点で、Amazonは圧倒的地位をEC市場で確立するに至った。

この間、一般消費者もまた「ECのある生活」へと順応していった。営業時間を気にすることなく、自宅にいるときでも、通勤・通学の移動の最中であっても、シチュエーションを気にせずに商品の比較検討から注文までを好きなタイミングで行い、翌日~1週間程度の短いスパンで受け取れるという環境が常態化していった。

「BtoC」で求められるモノは、「BtoB」でもまた求められる

至極当たり前の前提ではあるが、一般消費者はまた同時に、企業で働き、個々の職務を受け持つ労働者でもある。一般的な企業やそれに準ずる団体では、経営者以下複数名による合議でその運営がなされる。ゆえに新しい技術やツールの導入にあたっては、担当者だけでは決定できず承認プロセスが複雑であることが多い。だが、それを推進する個人は、消費者であり、労働者なのだ。

1990年代のインターネット普及前夜には、大学の教員・研究者などを中心にその利活用が広がり、次第に学生や個人へと波及していった。こうした中で新たにIT専業のベンチャー企業が生まれ、また電話やFAXの代替となるコミュニケーション手段としてインターネットを使おうという動きは、いわば後追い的に大企業へと広がっていった。

携帯電話の普及にあたっても、同様の傾向は見られる。「移動中でも電話ができる」サービスとして先行していた自動車電話だが、それこそ本格的なサービスは1979年12月にスタートしている。当初は機器の価格や通話料の高さがネックとなり、ごく一部の企業で利用されていたに過ぎなかったが、1990年代前半にその状況が一変する。機器の小型化で個人が手に取りやすくなり、それまで1台あたり10万円前後かかっていた保証金制度などが段階的に廃止された。

以後、個人による携帯電話利用が急速に浸透していった。そして、業務用の携帯電話が会社から従業員に貸与されたり、従業員個人が契約する携帯電話の利用料金を会社側が一部負担したりするといったケースは、営業職部門などの間で広がりを見せていく。

この2つの事例に共通するのは、いずれも「いち消費者として便利だと感じていた商品・サービスを、仕事においても使いたい」という、働き手側の強い動機があったことで、実現したことに他ならない。

すでにBtoBの電子商取引は344兆円でBtoCの約19倍

前述のようにECが一般消費者に浸透し始めてから約20年が経過しているが、国内のEC市場は年々拡大している。

経済産業省が2019年5月に発表した「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、2018年のBtoC-EC市場規模は、17兆9845億円であった。これは前年2017年と比較して8.96%増である。また、全商取引総額のうちどの程度がオンラインで取引されているかを示すEC化率は6.22%まで上昇している。

「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」EC市場規模とEC化率
日本のBtoC-EC市場規模の推移(2014年〜2018年)
出所:総務省「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」資料1.1.1日本のBtoC-EC市場規模の推移(単位:億円)
※同資料をもとに編集部で作成

同書では、日本国内の電子商取引の動向をBtoC、BtoB、さらにはフリマアプリに代表されるCtoCもふまえて解説されている。対して同年のBtoB-EC市場規模は344兆2300億円、前年比はBtoC-ECと同程度の8.1%増であった。また、EC化率は前年から0.8ポイント増の30.2%である。

数値から明らかなように、BtoB-ECは市場規模がBtoCと比較して極めて大きい。消費者の肌感覚として、生活消費におけるECの存在感の高まりは誰もが否定できないところだが、BtoB-ECはその約19倍で、さらに伸び率もBtoC-ECとほぼ同水準を確保している。

ただし、ここで示されている数値は、後述するEDIを含めた、あらゆる企業間電子商取引の総計である。Webやアプリを用いた受発注のみを示している訳ではない。

344.2兆円318.1兆円290.9兆円287.2兆円30.2%29.4%28.3%27.4%26.5%279.9兆円
BtoB市場規模 EC化率
BtoB-EC 市場規模とEC化率の推移(2014年〜2018年)
出所:総務省「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」資料 1.1.2日本のBtoB-EC市場規模の推移(単位:億円)
※同資料をもとに編集部で作成

BtoB-ECは、2020年の今になっていきなり脚光を浴びた概念ではない。前述したように“一部の大企業を中心とした企業間取引”では、インターネット登場以前から、電話回線や専用線を用いた、コンピュータシステムによる自動発注システムなどが運用されてきた。これは一般的に「EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)」「EOS(Electronic Ordering System)」などと呼ばれる。

これらのシステムは極めて高度で、高い運用安定性も求められるが、効率・利便性の高さもまた確かである。よって自動車産業、金融業界、コンビニなどの大手流通チェーンや、そうした企業へ製品を納入する一部の企業で導入が進んでいる。

BtoB-EC市場規模拡大の要因は、EDIの利用が年々増加している点に負うところが大きい。前述の調査報告書でも、鉄・非鉄金属業界で採用が進む「Open21」、輸送用機械業界における「JAMA/JAPIA EDI標準」、卸売・小売業界での「流通BMS」など業界共通EDIの稼働率増加などが分析されている。

経済産業省の調査には、業種別のEC市場規模およびEC化率も掲載されている。「食品製造業」や「電気・情報関連機器製造業」、「輸送用機械製造業」ではEC化率がすでに50%を超えており、企業間の全商取引の半分以上(金額ベース)がデジタル化されていることがわかる。また、「産業関連機器・精密機器製造業」「卸売」「小売」では対前年比が10%を超え大きく拡大している。

大分類 中分類 2016年 2017年 2018年
EC市場規模(億円) 対前年比 EC市場規模(億円) 対前年比 EC市場規模(億円) 対前年比 EC化率
建設 建設・不動産 144,960 10.10% 150,770 10.70% 166,510 10.40% 11.00%
製造 食品 221,820 50.90% 229,760 53.60% 244,040 6.20% 55.60%
繊維・日用品・化学 294,720 37.40% 316,850 39.20% 341,950 7.90% 40.60%
鉄・非鉄金属 170,970 32.80% 197,260 34.60% 214,900 8.90% 35.80%
産業関連機器・精密機器 119,060 30.50% 141,080 31.90% 156,640 11.00% 33.10%
電気・情報関連機器 318,890 50.00% 336,680 52.40% 358,000 6.30% 53.50%
輸送用機械 428,150 58.40% 472,950 61.10% 500,560 5.80% 63.20%
情報通信 情報通信 116,960 17.80% 126,920 18.30% 133,990 5.60% 18.80%
運輸 運輸 88,030 15.10% 93,130 15.70% 97,550 4.70% 15.90%
卸売 卸売 839,450 26.10% 940,440 26.90% 1,039,510 10.50% 27.70%
金融 金融 124,180 20.20% 121,270 20.30% 128,620 6.10% 20.90%
サービス 広告・物品賃貸 24,350 12.30% 36,490 12.60% 38,210 4.70% 12.80%
その他 小売 14,560 N/A 14,910 N/A 17,860 19.80% N/A
その他サービス業 3,030 N/A 2,100 N/A 3,960 27.70% N/A
合計 2,909,130 N/A 3,180,610 N/A 3,442,300 8.20% N/A
合計(その他除く) 2,891,540 208.30% 3,163,600 29.40% 3,420,480 8.10% 29.40%
業種別BtoB-EC市場規模(2016年〜2018年)
出所:総務省「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」資料 1.1.3日本のBtoB-EC市場規模の業種別内訳
※同資料をもとに編集部で作成

ここまで見てきたように、BtoB-ECの規模はBtoC-ECのそれと全く異なる。BtoB-ECの市場規模は、あくまでEDIを含んだ数値である点に留意すべきだが、それでもBtoC-ECの約19倍におよんでおり、極めて大きな市場であることがわかる。

また取引のEC化率についても同様である。Amazonや楽天の台頭によるネット通販の隆盛が著しいBtoC市場であってもEC化率は未だ6.22%だが、BtoB市場は30.2%で約5倍の割合に達している。

繰り返しになるが、BtoB-ECにおいてはEDIの存在を抜きには語れない。しかし、利益を少しでも多く積み増したい、業績を拡大したいという、企業にとっての基本理念を達成するには各種業務の効率化──つまり取引のデジタル化が威力を発揮している点は、これまでの統計の結果からも明らかであろう。

BtoC市場は、取引数量の増加に伴う配達員不足などが顕在化しているが、それでも勢いに陰りは見られない。宅配ロッカーの設置、スマートフォンアプリを用いた再配達依頼の省力化など、テクノロジーの力をもって解決の糸口を掴もうとしている。

BtoB市場もまた、これに同調した動きを見せるだろう。働き手不足、労働時間の短縮化傾向に拍車がかかると見られる社会情勢の中で、いかに利益を確保し、成長を達成できるのか。その答えの一つが、BtoB-ECの積極活用であり、BtoC-ECと同様に、成長していくと考えられる。

『BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引き2020』のご案内
『BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引き2020』

BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引き2020
[今後デジタル化が進むBtoBとECがもたらす変革]

  • 監修:鵜飼 智史
  • 著者:鵜飼 智史/森田 秀一/公文 紫都/インプレス総合研究所
  • 発行所:株式会社インプレス
  • 発売日 :2020年3月24日(木)
  • 価格 :CD(PDF)版、ダウンロード版 90,000円(税別) 、
    CD(PDF)+冊子版 100,000円(税別)
  • 判型 :A4判 カラー
  • ページ数 :200ページ

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