米国に学ぶ返品対応。アップセルを生む返品体験、ポリシー厳格化の効果、増える返品商品のキープ許可など最新データ+事例
米国小売事業者の2024年における返品件数は前年から減り、売上高に占める返品額の割合も減少しましたが、不正返品などの被害を受けて失った機会損失額は増加しました。これを対策するため、返品ポリシーを厳格化する事業者が増えていますが、被害を歯止めする効果はあまりあがっておらず、厳格化によって消費行動にネガティブな影響を与えている一面もあります。一方、ポジティブな返品体験は顧客にアップセルなどの良い影響を及ぼしています。
米国では返品額の52%がオンライン購入
返品サービスの提Appriss Retailと大手コンサルティング企業Deloitte Touche Tohmatsuによる調査レポートによると、米国の小売事業者は2024年、不正返品と詐欺により、前年よりも多くの損失を被っています。
2024年12月30日に発表した「2024 Consumer Returns in the Retail Industry」には、実店舗とオンラインチャネルの両方から得られた知見、北米の小売事業者幹部150人を対象とした調査データ、1000人の消費者を対象とした調査データ、米国国勢調査局のデータがまとめられています。
レポートによると、2024年における小売事業者の返品額の半分以上はオンライン購入によるもの。オンライン購入・店舗返品(BORIS)とオンライン購入・返品(BORO)を合わせると、米国の返品額の52%以上を占めます。
Appriss Retailは、米国の小売事業者上位100社のうち60社に返品サービスを提供しており、クライアント企業が展開する店舗は15万か所にのぼります。全米のオムニチャネル販売の3分の1をサポートしています。
返品額・返品率は減少も不正被害は増加
米国消費者の2024年の返品額は総額6850億ドルでした。この数字は、前年の7430億ドルから減少しています。
2024年の米国小売売上高に占める返品率の合計は13.21%で、14.5%だった2023年から減少しています。
しかし、不正な返品、返品サービスの乱用、不正請求によって小売事業者が被害を受けた売上損失額は、2023年の1010億ドルから2024年は1030億ドルと増加しました。Appriss Retailのデータによると、米国の小売事業者による返品総額に占める不正・濫用の割合は15.14%でした。
オンライン経由の返品率は25%
Appriss Retailは、2023年の純第4四半期(2023年10-12月期)の米国国勢調査局のデータに加え、2024年第1四半期から第3四半期(2024年1-9月期)までの米国国勢調査局のデータを用いて、店舗での小売売上からの返品率は8.72%であると推定しています。これは金額にして、3237億2700万ドルに相当します。
一方、オンラインでの小売売上(BORISとBOROを含む)については、Appriss Retailは返品率を24.52%と推定。金額にすると3631億6000万ドルに相当します。
2024年の米国小売総売上は5兆1920億ドルに達し、その71.55%が実店舗からのものであると推定され、金額では3兆7150億ドルに相当します。一方、残りの28.45%(1兆4770億ドル)はオンライン販売によるものです。
購入後の返品マーケティングで成果をあげる企業も
EC向けの返品交換ソリューションを運営するLoop Returnsは、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』の取材に対し、Loop Returnsのサービスを利用している4300以上の加盟店が総額34億9000万ドル相当の返品を受け付けてきたと説明。加盟店は返品額のうち8億7130万ドルの収益を維持。さらには、返品マーケティングによって3210万ドルのアップセルを創出しました。Loop Returnsのサービスを利用した加盟店の2024年の平均返品額は149ドルでした。
2023年と2024年の両年にLoop Returnsのサービスを利用した加盟店では、2024年の返品量は前年比で3.3%増え、返品額は5.6%増加しました。
Loop Returnsのサービスを利用する小売事業者やブランドは2024年、収益は前年比4.39%増でした。Loop Returnsはこの理由について、2024年にブランドが「購入後の戦略においてより良い対応を取るようになった」ことをあげています。
これらの加盟店の平均返品額は139ドルで、2023年から2.2%増加。Loop Returnsはまた、加盟店による2024年のアップセルは2023年から9%増加したと説明します。
2024年ホリデーシーズンの返品は前年比5.9%増
2024年の11月1日から12月31日までのホリデーショッピングシーズンにおいて、Loop Returnsは3800以上の加盟店から返品を求められた487万点の商品を追跡しました。これらの返品総額は7億2330万ドルで、そのうち加盟店は1億8460万ドルの収益を確保しています。2024年のホリデーショッピングシーズンにおけるLoop Returns加盟店全体の平均返品額は149ドルでした。
Loop Returnsは、2023年と2024年の両ホリデーシーズンにLoop Returnsのサービスを利用した加盟店についても、412万点の返品を追跡。2024年は前年比3.3%の増加となりました。平均返品額は151ドルで、2023年のホリデーショッピングシーズンから5.9%増加しています。
Loop Returnsが追跡した加盟店の、2024年のホリデーショッピングシーズンの返品総額は6億2480万ドルです。これは前年比9.4%の増加ですが、Loop Returnsのサービスを利用する小売事業者は、2024年のホリデーショッピングシーズンに1億6240万ドルの収益を確保しました。2023年の同時期にLoop Returnsを利用した小売業者の収益と比較すると、9.6%増となっています。
2024年クリスマス期間後の返品は前年比12.2%増
2024年12月26日から2025年1月1日までの、クリスマス後の期間に、Loop Returnsは62万3400件の返品を追跡。これは前年比12.2%の増加でした。
この期間の返品総額は8350万ドル(2023年比14.5%増)で、そのうち小売企業は2,860万ドル(同15%増)の収益を確保。また、これらの企業は120万ドルのアップセルを生み出し、アップセルは前年比26.8%の増加となりました。クリスマス後の2024年の平均返品額は134ドルで、前年比2%増でした。
アパレルカテゴリー、日用品カテゴリーで返品手数料をアップさせる傾向
同期間の集計において返品の際、顧客に返品手数料を求めるLoop Returns加盟店の数は、2024年は前年比で5%増加。2024年と2023年の平均返品手数料は約8.50ドルでした。
Loop Returnsによると、アパレルと日用品の返品に対する手数料をアップさせる事業者が増え、彼らによる返品手数料は平均で約5%増加(2023年と比較)。一方、靴とアクセサリーの返品に対する平均手数料は、2023年と比べて靴は15%減少、アクセサリーは18%減りました。
顧客による返品商品のキープを許可する事業者が増加
Loop Returnsによると、顧客が返品サービスを利用しようとする際、対象の商品の返品を求めず顧客が所有し続ける“「キープアイテム」返品”を許可した加盟店の数が、2024年は前年比で20%増加しています。最も増加したカテゴリーはアパレルです。アパレルカテゴリーを取り扱う加盟店では、「キープアイテム」返品を受け入れる加盟店は、2024年は前年より27%増えました。
同様のルールを設ける化粧品会社は10%増加。また、化粧品を購入した消費者が、自分の手元に商品をキープしたまま返品手続きした割合も5%増えています。
消費者が実際には返品せず、商品を所有できるルールを適用した返品率は、2024年は全体で前年比1.5%減少。これは、「加盟店がどの返品がこのルールの対象となるかを厳しく取り締まっていることを示唆している」とLoop Returnsは見ています。
小売事業者が被害にあっている返品詐欺・不正使用の実態
Appriss RetailとDeloitteは、150人の小売事業者の幹部を対象に、彼らが事業で直面している返品詐欺や濫用の主な6つのタイプを特定し、それぞれのタイプの発生率の多さを調査し、レポートに記しています。
- 主に衣料品やアクセサリーなどの商品を、短期間だけ使用するために購入し、その後返品する行為を指す「ワードロービング」、すなわち使用済み商品の返品(調査対象のうち60%がこの問題に直面していると回答)
- ギフトカード詐欺のような不正、または第三者から盗まれた支払い方法による返品(55%が回答)
- 万引きなど盗難商品の返品(48%が回答)
- 偽造レシートや電子レシートによる返品(48%が回答)
- 複数の商品を購入し、一部を返品する「ブラケット返品」(消費者がオンラインで購入した衣料品によく見られる行為。自宅で異なるサイズを試着する目的)(47%が回答)
- 従業員による返品詐欺や共謀(39%が回答)
返品ポリシー厳格化も、不正・乱用の抑止効果は見込めず
レポートによると、調査対象企業のうち返品ポリシーを厳格化する企業の狙いは「返品を減らすため」が83%、「不正行為に対抗するため」が84%でした。
このデータから示唆されるのは、返品ポリシーの厳格化は、不正や濫用の抑止にはほとんど効果がないということです。返品ポリシーを厳しく定めても、人的ミスや偏った考え方によって無視されてしまいやすいからです。また、事業者にクレームを入れる消費者をなだめるためにやむを得ず返品に対応し、その際に返品ポリシーは度外視されるケースもあります。(Appriss RetailとDeloitteのレポートより)
不正防止や返品に関するポリシーの例としては、「レシートや購入証明の提出を義務付ける」(調査対象企業の67%が実施)、「返品期限を30日以内に制限する」(59%が実施)などがあります。また、54%の小売事業者が、取引データに不正がないかを手動で監視するよう努めています。35%の小売事業者は、リアルタイムで返品に自動対応するテクノロジーを導入し、顧客の行動パターンに基づいて返品やクレームの承認、警告、拒否しています。
その一方、調査対象企業のうち1%は「これらの対策を一切導入していない」と回答しています。
返品ポリシーの厳格化がもたらす消費行動への悪影響
レポートによると、返品ポリシーの厳格化は「消費者のロイヤルティと将来の消費行動に長期的な悪影響を及ぼす」可能性があり、逆に、小売店でのポジティブな返品体験は、顧客満足度と顧客維持率を向上させる可能性があるとも説明しています。
たとえば、消費者の55%が厳密な制限が多い返品ポリシーを採用している小売事業者からは購入しないと決めています。また、消費者の3分の1以上(36%)がネガティブな返品を経験。これに関連して、消費者の31%が返品に関するネガティブな経験を理由に、特定の小売事業者で買い物することを止めています。
その一方で、70%の消費者は「返品に関するポジティブな経験によって、追加の購入をしたことがある」と回答。同様に89%の消費者が「返品サービスが良かったらさらに購入すると思う」と答えています。