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米国の大手コンサルティング企業Deloitte Touche Tohmatsu(デロイト・トウシュ・トーマツ)が小売事業者の経営者に実施した調査によると、およそ半数が「2024年は消費者が企業のブランドや商品に対するロイヤルティよりも、価格の安さを優先する」と予想しました。その報告書では、コロナが与えた影響や、アフターコロナの市場における小売事業者の今後の予測をまとめています。

2024年の小売市場はどうなる?

デロイトは2024年の米国小売業界について、主に2つの傾向が今後の市場環境を形成すると予想しています。それは、労働市場の逼迫(ひっぱく)と、長期金利の上昇です。デロイトのエコノミストであるダニー・バックマン氏とアクルル・バルア氏は、次のように指摘しています。

  • 労働人口の伸び悩みによる人手不足が続いているため、企業は労働者に対して、たとえ能力に見合わなくても高い賃金を提示しなくてはならない
  • 長期金利が2010年代後半の低水準に戻る可能性は低い

デロイトの報告書は、金利の上昇とインフレは全体的に、個人消費に重要な影響を与えたと説明。次のようにまとめています。

コロナ禍による急速なECの需要増加、サプライチェーンの混乱によって、企業は既存顧客のロイヤルティ維持が困難な状況に追い込まれました。消費者の4人のうち3人はほしい商品の売り切れに直面し、それをきっかけに新しいブランドや店舗を試しました。アフターコロナになり小売市場の流通が正常化し始めると、企業は顧客の店舗呼び戻し、ブランドの呼び戻し、顧客顧客のフォローに注力しましたが、その後、インフレが起こりました。(デロイトの報告書より)

中国のEC大手「拼多多(Pinduoduo:ピンドウドウ)」が海外向けに展開している越境ECサイト「Temu(ティームー)」のアプリが2023年、アップルストアで最もダウンロードされた国は米国でした。「Temu」は激安の価格訴求が顕著なアパレルECです。

このことから、ブランド力よりも低価格を重視する消費者が増えているという予想は理にかなっているとデロイトは説明します。

デロイトの調査によると、小売事業者経営層の約3分の2(64%)は「アフターコロナの潮流となったインフレに消耗した消費者が、購入する商品の数を減らす」と予想しています。このことは、消費財を扱う企業が収益性の高い量販商品に販売の軸足を移すことが懸念されます。

10月~11月の前年同時期比成長率(2020年から2023年まで)(出典:Deloitte InSightIQ Analysis/インフレの影響を加味)
10月~11月の前年同時期比成長率(2020年から2023年まで)(出典:Deloitte InSightIQ Analysis/インフレの影響を加味)

デロイトが提唱するロイヤルティ向上の方法

デロイトは報告書のなかで、小売事業者が2024年に顧客のロイヤルティー向上、あるいは取り戻すための3つのヒントをあげています。

ヒント1:ロイヤルティープログラムへの注力

たとえロイヤルティープログラムの会員であっても、すべての顧客が同じように消費をするわけではありません。デロイトは、ロイヤルティープログラム内に会員ごとのランクを設けることで、小売事業者は、最もロイヤルティーの高い顧客に特別な特典を与えることができると指摘しています。

会員をランク分けする階層化プログラムは目新しいものではありませんが、プログラムを通じてより効果的な顧客セグメントを行うために、小売事業者は多くの投資をしています。上位層の会員顧客に対する特別な商品提案、特典の提供、 コミュニケーション、さらに、既存会員の上位層への移行を促すことが含まれています。(デロイトの報告書より)

協業によるブランド力アップ

ロイヤルティープログラムは、米国のディスカウントストア「ターゲット」、化粧品の小売りチェーン「アルタ」、百貨店チェーン「コールズ」、フランスの化粧品・香水専門店「セフォラ」の事例のように、他社と共同でブランド力を高めることも可能です。

「ターゲット」は、自社の会員にアップルのサービスの無料トライアルを提供しています。こうした仕組みを採用することで、小売事業者がすべての特典を自社で提供する必要はなくなります。

コスト分散+二重の特典付与が可能に

たとえば、消費者が「ターゲット」で「アルタ」の商品を購入すると、「ターゲット」と「アルタ」両方のリワードプログラム(顧客に対して特典や報酬を提供する仕組み)の特典を獲得できます。

「コールズ」の顧客が、「コールズ」の店舗やECサイトで「セフォラ」の商品を購入する場合も同様です。小売事業者は、航空会社、ホテル、レストランが加入している旅行プログラムとの共同プロモーションも検討するべきだとデロイトは提唱しています。

消費者向けの特典を他社と協働することで、小売事業者はより多くの認知拡大の機会を得ることができ、より広範な消費者を取り込むことができます。また、特典にかかる費用を他社と分け合って消費者に提供できるため、特典プログラムの収益性アップが期待できます。

ロイヤルティープログラムによって個人の購買データを獲得できれば、小売事業者は顧客への商品提案をパーソナライズすることができ、さらなる収益性アップにつながる余地を見出せます。このことは、オンラインと実店舗の両方から広範な顧客データを持つ小売事業者にとって、非常に高い価値です。(デロイトの報告書より)

デロイトは報告書で、「小売事業者の約3分の2が会員データをリテールメディアネットワークの広告主と共有、または共有する予定である」とグループ傘下のデロイトデジタルが発表したレポート「リテールメディアネットワークを活用し、ブランドと消費者のつながりを強化する」(2023年12月)を引用しています。

ヒント2:オムニチャネルでの購入体験の強化

デロイトは、たとえオムニチャネルの販売手段を持っていても、オムニチャネル化の不整合や不十分な点があると、ロイヤルティーに悪影響を及ぼす可能性があると述べています。

デロイトは報告書で、2023年11月21日から23日までの145社のオムニチャネルの度合いを調査。また、2023年12月のホリデーシーズンのオムニチャネル分析レポートを引用しています。それによると、「オンライン購入し、商品を店舗で受け取る(BOPIS)」と「オンラインで購入した商品を店舗で返品する(BORIS)」は多くの事業者で「広く利用可能」でしたが、代替配送の受け取りを提供している小売業者は10社に1社のみでした。
また、報告書には、

  • 小売事業者の3分の1が返金を受け取るまでにかかる期間を明示していない
  • 12月5日までに、クリスマス到着の発送締切時間を記載していたのは3分の1のみ
  • 12月19日に購入したホリデーギフトの定時配送を提供する17社の主張を検証したところ、ホリデー配送の注文の4分の1近くが12月24日以降に到着していた

と記載されています。

デロイトは、コロナ禍によるデジタルの加速がオムニチャネルでの消費者の購買行動に恩恵をもたらした一方、小売事業者は「オムニチャネル間で一貫性のある購入体験」を維持する必要があると述べています。

コロナ禍によるDX技術のアップグレードや、ラストワンマイルでの配送や返品という新しい選択肢が出てきたにもかかわらず、オムニチャネルで一環した購入体験の提供はしばしば欠落しており、信頼を損なう可能性があります。(デロイトの報告書より)

デロイトのデータによると、小売事業者の経営層が2024年に期待している事業成長の上位4つは次の通りです。

  • ロイヤルティープログラムの強化(54%の経営層がこれを選択)
  • Eコマースの強化(同44%)
  • 店舗での顧客体験の強化(同36%)
  • オムニチャネル体験の強化(同32%)

ヒント3:信頼できるAIを活用する

ロイヤルティープログラムやECサイト、実店舗への来店を通じて小売事業者が取得する消費者行動を基に、小売事業者は商品のレコメンドや、顧客に合わせてカスタマイズしたプロモーションをさらにパーソナライズできるとデロイトは報告書で述べています。

報告書によると、小売事業者のうち半数は、2024年にAIを活用してパーソナライズした商品レコメンデーションを重視しています。しかし、自社のビジネス全体でAIを効果的に活用する能力に自信を持っている経営層は10人中5人に過ぎないそうです。

一方、デロイトのホリデー調査では、消費者の10人に8人が「人工知能を小売事業者が自社の責任で活用するスキルがあるとはほとんど思っていない。信頼していない」と回答しています。

小売事業者も、消費者からAIの活用について信頼されていないことを課題と見なしています。回答者のうち4分の3以上が、今後5年間のうちに次世代のAI技術を使用することで、消費者の信頼が損なわれ、プライバシー侵害、監視、透明性・説明責任の欠如、ひいては社内の離職の懸念が高まると回答しています。(デロイトの報告書より)

デロイトのデータによると、ブランドがAIを使用していることを知っている顧客は、ブランドに対する信頼が44%低下するそうです。信頼を築くために、ブランドはAIの活用に当たって次の4つの要素に焦点を当てるべきだとデロイトは提案しています。

人間性の追求

小売事業者はより人間に近いコミュニケーションの構築に焦点を当てるべきです。AIは、顧客の状況に対応できるよう、広範なルールセットで訓練されるべきです。一例として、消費者が家族の亡くなったことを話した場合、お悔やみを述べるようにAIを訓練することなどがあげられます。

透明性の担保

小売事業者は、チャットボットを使用する方法と理由を説明し、その目的と機能について具体的な詳細を消費者に開示する必要があります。

従業員のフォローアップ

小売事業者は、従業員に不安を与えない環境でAIツールを使用する機会を与えるべきです。AIツールの利点を強調する一方で、ツールが従業員の仕事を奪ったり、従業員の価値を損なうものではないことを明示するべきです。

信頼性の担保

小売事業者は、消費者がAIツールに何を期待できるかを明確にし、信頼を促す必要があります。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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