新日本有限責任監査法人 消費財セクター 2015/9/17 7:00

グローバルの高業績企業が利益を伴う高成長を実現するために、いかにして矛盾する数々の要素を両立させているかについて、8つのポイントを挙げて解説します。

矛盾する様々な要素を両立させ、アジアの新興国市場で長期にわたり利益を伴う成長を実現するために、消費財企業、小売企業は何をすべきでしょうか。私たちは、以下の8項目にわたる取り組みが必要であると考えます。

グローバル企業の課題と求められる取り組み
グローバル企業の課題と求められる取り組み

経営の現地化を通じて機動力を高める

「グローバル化か、“現地”化か」という論争は今に始まったものではありませんが、アジアの新興国市場ではその不安定さと多様性ゆえに、現地レベルへの権限委譲がますます求められていると私たちは考えます。

こうした見方は今回の調査でも裏付けられており、業績の優れた企業ほど、あらゆる業務分野において現地マネジャーの権限を拡大させている傾向が明らかになりました。

しかしながら、規律を維持することもまた重要で、企業の価値観を壊してしまうような複雑性まで許すべきではないでしょう。現地マネジャーは、さまざまな意思決定が、組織の戦略ビジョンの枠組みから離れないように常に注意を払う責任があります。

経営の現地化を通じた機動力の強化は、現地マネジャーの説明責任の強化と共に行われるべきでしょう。

「当社の事業モデルでは、意思決定に対する説明責任と機動力をできるだけ市場レベルで付与することが重要です。基本的に業績に対する説明責任は各市場に委ねていますが、現地のマネジャーが重視しなければならない指標をいくつか設けています」

─ 消費財企業経営者

従来手法に固執せず現地主義に徹する

多国籍企業は、成熟市場での伝統的な考え方や事業モデルから脱却しなければ、現地化しても利益を生み出すことはできないでしょう。

市場ニーズや、消費者・流通チャネルの期待がますます多様化する中、アジアの新興国市場で従来の方法をそのまま移植したとしても十分な成果をあげることはできません。

自社の製品や事業モデルを現地ニーズに合わせて変革する、再構築の作業が企業に求められます。

「新興国市場のキーワードは多様性です。多国籍企業に共通している一つの問題は、ある製品を取り上げた場合、それを複数の市場で同じように展開することが可能だと考えていることです。新興国市場においては同じ国の中であっても、ニュアンスや障壁を理解するためには考え方を変えなければなりません。規模の経済性(eoconomies of scale)よりも、対象範囲の経済性economies of scope)について考えるべきです」

─ 業界研究の第一人者

現在および将来の利益の源泉を細分化して把握する

アジアでは、市場や流通チャネル、消費者セグメントが、地域ごと成長段階ごとにかなり異なります。

利益を伴った成長を持続させるためには、マーケット・シェアや売上拡大だけを目指す単一的な考え方を捨て、成長と利益創出を両立させる真の推進力は何なのかを、地域ごとの詳細なレベルで理解することに、より注力する必要があります。

これらのことを実現するため、先進的な企業は、テクノロジーを駆使してサプライチェーンの透明化を図るとともに、データ分析への投資を進めています。

「私たちは個々の市場やカテゴリーが果たす役割をきわめて詳細に把握しているため、地域全体の戦略がとても明確です。有る分野が、当社が競合相手に先駆けて投資している将来の成長ドライバーなのか、あるいは既に利益をあげている稼ぎ頭なのかを把握していれば、投資水準を的確に判断することができるのです。つまり、私たちは、今の成果を追い求めながらも、つねに将来のために種をまいているわけです」

─ 消費財企業経営者

さまざまな価格帯、流通チャネルへの参入で規模を拡大する

想定以上に競争が激しく消費者が多様化している新興国市場においては、従来のように規模を追求するアプローチはますます難しくなっています。

そこで企業は、複数の差別化市場をカバーするポートフォリオ手法を採用し、特定のセグメントに働きかけることによって規模を創り出すアプローチに切り替えていく必要があります。

ポートフォリオ手法では、すでに利益を生んでいる投資、素早く採算がとれる投資、長期的な視野で行う投資のバランスをとることが大切です。高い実績を上げている企業は業績の低い企業に比べ、複数の製品カテゴリーに参入し、複数チャネルを活用する傾向にあることが私たちの調査でも確認されています。

「当社は、中国の非主要都市に潜む、より大きな成長のチャンスを手に入れたいと考えており、現在は、第7級都市(Tier 7 )にまで進出しています。地方から都市部への人口移動がますます加速するに伴って、当社にとって潜在的な成長の源泉が生み出されていきます。こうした地方都市の発展が進むにつれ、私たちの事業モデルを支える基盤が強化されていくわけです」

─ 小売 企業経営者

消費者優先と効率性の両立を図る

現地化は成長と利益創出を実現させるための手段と考えられていますが、それにはコストが伴います。

これまで効率アップを図ることは利益を創出するうえで重要とされてきましたが、それ以上に優先すべきことは消費者への価値の提供です。企業は、複雑性、需要の不安定さ、混乱といった、新興国市場に共通する特徴を事前に想定して計画を立てなければなりません。

そのためには、製品をカスタマイズし、かつ迅速に適応する柔軟性を備えたサプライチェーンを設計することが肝要です。

「私たちが理解しなければならないことは、消費者、そして顧客にとっての価値は何かということです。これこそが最優先のテーマです。効率アップやコスト削減に向けた取り組みから着手すると、大事なことがぼやけてしまいます。規模の経済性は過大評価されているというのが私たちの考えです」

─ 消費財企業経営者

市場の特徴を類型化しシナジーを生み出す

回答者のうち65%が、シナジーを最大化するためには市場を類型化することが必要であると考えています。

企業は地理的境界にとらわれず、重要性や共通の特徴によって機会をグループ化し(都市、チャネル、消費者セグメントなど)、そのグループ単位でベストプラクティスを活用していく必要があります。

「コスト削減であれ、生産性の向上であれ、イノベーションであれ、私たちは地域全体にベストプラクティスを活用することを強く心掛けています。わざわざ一から作る必要はありません。複数の国で共有できて、現地の市場に適合させられるものなら、何でも歓迎です」

─ 消費財企業経営者

市場の成長段階に応じて柔軟に対応する

ある段階では適していたはずの事業モデルやビジネスモデルでも、たちまち時代遅れになる可能性があります。

このように急速に変化する状況においては、例えば、販売を外部の流通業者へ依存する体制から社内に機能を構築する体制にシフトするなど、現地市場の成長に合わせてアプローチを修正する能力が企業に求められます。

統制のとれた戦略実行を重視する企業文化を創造する

人材と実行力はこれまでもつねにビジネスの差別化要因とされてきました。しかし、アジアの新興国市場が企業にとって新たな重要性を持ちつつあるというのは、つまり、アジアで実行力を発揮することが今や、企業全体の持続的な繁栄の絶対条件になっていることを意味します。

さらに、現地の実行力はこれまで以上に厳しい目にさらされています。こうした理由から、一部の欧米の多国籍企業は現在、アジアに第2の拠点を築き、各ビジネスユニットの権限をそこに移しつつあります。企業は、戦略実行を最優先し、それが反復可能なプロセスとガバナンス体制の強固なフレームワークの中に組み込まれるような企業文化の構築に注力すべきでしょう。

「これはとても基本的なことで、別にこ難しい話ではありません。要は、戦略的視点をいくつか持ち、それを徹底的に駆使することです。実行する能力をしっかりと身につけて、はじめて成功を手にできるのです」

─ 消費財企業経営者

経営者のためのチェックポイント

  1. 会社の意思決定のスピードは、市場の変化を強みとして生かせるほど速いですか?
  2. 消費者、店舗、流通経路に関して会社が把握する知見は、競争優位の構築に役立っていますか?
  3. 会社のデータや知見は、カテゴリーや流通チャネルごとの真の収益性を分かりやすく明示できていますか? 理解できた情報に対する行動を起こしていますか?
  4. 流通範囲の広さ、深さ、質について、どのようにして正しい意思決定をして行っていますか?
  5. 消費者、取引先、企業価値に悪影響を及ぼさずにコストを上手に管理できていま すか?
  6. グローバルやサードパーティが持つケイパビリティを、効果的に活用する方法を知っていますか?
  7. ゴー・トゥー・マーケット(go-to-market)アプローチについて、デジタル技術がもたらす変革に追い付いていますか?
  8. 会社のリスク対策や統制フレームワークは、今日・明日の経営にとって古くなってはいませんか?

▶この記事は、新日本有限責任監査法人の記事を転載しているものです。
オリジナルの記事(PDF)はこちらから閲覧できます

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