受注から配送の代行業務まで、日本郵便がEC向けワンストップサービスを今秋から提供する狙いとは?
日本郵便はネット通販事業者からの荷受けを拡大させるため、今年4月にソリューション企画部を社内に設置し、通販の顧客接点からバックヤード業務までを一括して請け負う仕組みを構築した。すでにネット通販事業者からの荷物を預かる倉庫と、倉庫管理システムは用意し、物流代行サービスを開始。今秋には、受注管理システムや在庫管理システムを開発して、一括して代行できるサービスを始める予定だ。
受注や決済などワンストップ通販ソリューションを提供へ
日本郵便では民営化されるまで、法律により業務区分が決められていたため、サービス提供は預かった荷物の配送サービスまでといった業務制限があった。そのため、通販事業者から寄せられる「荷物を預かるところからやってほしい」というニーズにも対応できなかった。
07年に民営化されてから、そうした配送以外のサービスも本格的にできるようになったが、先行する他社も多く、ノウハウもない中、サービスは小規模にとどまっていた。また、既存事業者との競合を避ける意味でも、積極的な展開は行ってこなかった。
ただ、ネット通販の市場が拡大している背景を踏まえ、通販事業者からの配送業務の請け負い量を増やしていくためには、配送サービス以外の事業領域を展開する必要があると判断。物流代行のほか、受注、決済などのバックヤード業務、DM発送、コールセンター運営などを含めてワンストップでサービスを提供していくことにした。
郵便の配送拠点に荷物を置き、集荷コストと時間を削減
すでに稼働しているのは倉庫管理システム(WMS)の提供と、倉庫施設を含めた作業の提供だ。日本郵便では現在、信書やゆうパックの区分作業を新たに取得した高速道路インターチェンジ近くの地域で始めており、従来使っていた都市部近くの施設内に作業スペースの余裕が出始めているという。このスペースを、通販荷物の保管倉庫として利用しようと考えている。
「こうした、スペースを利用するメリットは大きい」とソリューション企画部の長谷川実部長は語る。メリットとして挙げられるのは集荷がすぐに行われることだ。郵便の配送拠点内に通販荷物を置くことができるため、集荷コストと時間が削減可能。例えば、遠く離れた地域への翌日配送でも配送の締切り時間直前まで注文を受けたり、通常の物流倉庫に比べ安価な配送が可能になるという。
物流倉庫の多くは足を運ぶのには不便な地域に設置されていることが多いが、日本郵便は郵便局の空きスペースを利用。荷物を預ける通販事業者は荷物の状態などを確かめる時など、倉庫に訪問することが容易にできるという。
16年度までに全国に60か所物流倉庫を提供し、約13万2000平方メートル規模のスペースを用意する予定。
「現状では常温の倉庫だが、通販では食品や化粧品など温度管理が必要な商品も多くある。新しく設置する倉庫では、こうした機能を搭載していく可能性もある」(長谷川部長)。
競合企業と差別化し、中小EC事業者をターゲットに
ソリューションのターゲットとしているのは中小のEC事業者。「大手の場合、すでにこうしたシステムを整えている。当社としては、まだシステムを導入せずに、手作業で困っているEC事業者などにサービスを提供していきたい」(同)という。
中小事業者をターゲットにするため料金面でも安価な提供を見据えている。今秋の提供開始を予定する受注管理システムや在庫管理システムは、クラウド型で提供。月々の料金も安価な価格設定を検討する。「日本郵便としては、ソリューション単体で儲けがでなくても、結果的に配送荷物が増えればいいと考えることも可能だ。こうした点がそれぞれの専門業者とは異なり、サービスの提供価格も安くできる」(同)。
もちろん、一括して導入することは必須ではなく、倉庫だけ利用したり、受注管理システムだけの利用も可能。「とはいえ、トータルで使ってもらえば、より効率的でコスト面でもメリットが大きい形で提供していく」(同)としている。
5月に出展した展示会でサービスを発表したところ、すでに多くのEC事業者から反響があったという。「話を聞いていると、やはり大手よりも中小のEC事業者の方が、困っているという声が多かった。今秋までに作る受注管理システムなどでは、こうした声も反映させながら、使いやすいものを提供していきたい」(同)と話している。
従来、通販事業者向けワンストップソリューションは、大手企業をターゲットにしたものばかりだったが、今回日本郵便が提供するサービスは中小企業がターゲットだ。この時点ですでに競合企業とは差別化を図っているため、多くのEC事業者から求められるサービスになる可能性がありそう。今秋にはシステムの全体像が明らかになる予定で、今後の動きに注目していきたい。