AIなど最新テクノロジーはネット通販をどう変えるのか? 米のIoT専門家が語るECの未来
アメリカのネット通販専門誌「インタ−ネットリテイラー」は、シリコンバレーのフューチャリストとして名高いテクノロジー分野の専門家デイヴ・エヴァンス氏にインタビュー。AI(人口知能)、IoT(モノのインターネット)、ドローン、広がるコネクティビティ(接続性)、データ生成が小売業をどのように変えるのか、お話を伺いました。
小売業界に影響を与える新しい技術革新とは
モノのインターネット、別名「IoT」は今を象徴するテクノロジーです。知能の高いモノのインターネットは、次に訪れるテクノロジーになるでしょう。少なくとも、デイヴ・エヴァンス氏はこう考えています。
エヴァンス氏はシスコシステムズでの24年間の勤務を終える少し前の2012年に、“インターネット・オブ・エブリシング(IoE)”(モノだけではなく、ヒト、データ、プロセスなど「すべてのモノとコトがインターネットで結びつくことで可能となるビジネス全般を意味する」)という新しい言葉を作りました。
シスコシステムズによると、“インターネット・オブ・エブリシング”は、高度につながった世界から得られたデータが持つ長期的な可能性を意味します。シスコシステムズ時代のエヴァンス氏の役職名は当初、チーフテクノロジストでしたが、後に「チーフフューチャリスト」に変更されました。
現在、エヴァンス氏はモバイルアプリのスタートアップ「Stringify」の共同創設者兼CTOとして、IoTのコネクティビティを高め、消費者がIoTの管理をしやすくするためのアプリを開発・運営しています。簡単に説明すると、“多くのスマートデバイスを生活に取り入れるほど、管理が複雑になる“ことを防ぐアプリです。
インターネット向けデバイスの製造に関し、いまだに世界的的な統一ルールは存在していません。ほとんどのデバイスが、単独、もしくは独自のアプリを通じて管理されている状況です。
「Stringify」のアプリを使えば、消費者が全てのスマートデバイスを一括で管理でき、デバイスの操作をリンクさせるなど、自分だけのルールを作ることが可能です。また、天気、位置情報を組み合わせるなどして、より賢いデバイスに作り上げていくこともできます。
たとえば、車のエンジンを止めてガレージに駐車すると、裏口のドアの鍵が開いて、入口のライトが点くようにする、というルールを作ることも可能。また、降水確率が90%の時は、芝生のスプリンクラーを起動させないようにすることもできます。
今回のエヴァンス氏へ取材では、消費者のコネクティビティレベルの変化、データ分野の飛躍的な成長と応用技術、小売業者にとって影響のありそうな今後の技術について伺いました。
5年後にはAIがネット通販では当たり前になる
インターネットリテイラー(以下IR):一般消費者に広がっていくと思われる技術革新は何だと思いますか?
デイヴ・エヴァンス(以下エヴァンス):人工知能、AIです。消費者は自分たちがAIを利用しているという感覚はないかもしれませんが、どこでもAIを使用することになるでしょう。Siri(アップルのiOS端末に搭載されている音声アシスタント機能)やCortana(マイクロソフトが開発したインテリジェントパーソナルアシスタント)、グーグルアシスタント(Googleが開発したAIベースの対話型アシスタント機能)、アマゾンアレクサ(Alexaは愛称で、正式名称はAmazon Echo)などが良い例ですが、それらはほんの序章に過ぎません。
買い物にもAIが入り込んでくるでしょう。ドレスやスーツを試着して鏡を見ると、鏡が感情を察知するようになります。しかめっ面をしているのか、嬉しそうなのか……表情にもとづいて、商品を提案するようになります。
ショッピングカートは、すでにカート内に入っている商品をもとに他のオススメ商品を表示しますが、消費者が許可すれば自宅の食品庫や冷蔵庫の中に入っている商品をもとにオススメを提案することもできるようになります。消費期限切れになりそうな食品をディスカウント価格でオススメするフードセンサー、AI技術を使ってより賢く商品を配送するドローン、トラックも自動運転・自動配達になるでしょう。コネクティビティと同様にAIも広がっていくのです。
IR:そのような変化は、どれくらいのスピードで起こるとお考えですか?
エヴァンス:2~5年の間に起こると思います。それは物の消費サイクルが急激に短くなっているからです。携帯電話を考えてください。アップルは毎年新しいモデルをリリースして、人々はそれを購入します。テレビはどうでしょう? 昔はテレビを購入したら一生、もしくは壊れるまで数十年間は同じテレビを使い続けていました。技術がより早く進化する今、人々は常に新しい機能を欲しています。事業者はより早く、新しい機能を追加しなければいけなくなるわけです。
IR:AIは新商品の核となる技術として組み込まれていくのでしょうか?
エヴァンス:AIはつながることができる全てのデバイスに入り込んでいくでしょう。どのような変化をもたらすかについては、過去に例がないほどの変化になると考えます。技術革新は二次的なものです。AIは大きく社会を変えることになるはずです。アップル、グーグル、マイクロソフト、インテルなど、全ての大企業は莫大なお金をAIにつぎ込んでいます。なぜなら、AIが大きな差別化になるからです。
IR:洗剤が少なくなったら自動的にオーダーしてくれる洗濯機、水のフィルター交換をお願いしてくれる冷蔵庫など、私たちが目にしているスマートプロダクトは、氷山の一角なのでしょうか? 現実的に消費者の生活がどれだけ自動化されるのでしょうか?
エヴァンス:牛乳が少なくなったらオーダーしてくれる冷蔵庫がスマートプロダクトかどうかはわかりませんが、商品が腐った時などアレルギーを起こしそうな商品について警告してくれる冷蔵庫はスマートプロダクトと呼べるでしょう。
Juicero(全自動で新鮮な野菜や果物の絞りたてジュースが飲めるジューサー)というサービスが良い例です。Juiceroはカメラを内蔵し、(編集部追記:Wi-Fiに接続されたジューサーが)ジュースパックのQRコードを読み取ります。もしその商品にリコールなどの問題があると、Juiceroにジュースパックを入れても起動しません。病気が広がるのを積極的に阻止してくれるスマートプロダクトの素晴らしい事例だと思います。
もちろん、食品に限った話ではありません。電力が一番安い時やグリッド(電力網)への負荷が少ない時にしか動かないようにするスマートデバイスもあるでしょう。機械や電気が故障した時には、自動的に修理をオーダーすることもできます。製造業者は、新しい機能を追加したり、バグを直すための新しいファームウェア(電子機器に組み込まれたコンピュータシステム)をアップロードすることが可能になります。全ての商品において、どこで問題が発生したのかわかるようになるわけです。
私たちは今、大きな変革の初期段階にいると思います。
IR:現在、AmazonはGEやサムスンといった大企業とタッグを組み、アマゾンダッシュのコードを製品に組み込んでいます。小売りとリピート注文を関連付けることで、IoT開発の分野ではアマゾンがリーダー的存在になっていると思いますが、アマゾンの競合他社は憂慮すべき状況と言えるでしょうか?
エヴァンス:消費財に関しては、競合は憂慮すべきだと思います。「お店に行って石鹸を買うのが楽しみで仕方がない!」という人はいないでしょう。このような商品の購買行動は自動化されていく。そうした意味で、消費財でアマゾンは現在、他社をリードしています。
しかし、洋服や家具などハイエンドな商品に関しては、やはり店舗での確認が購入の前提条件になると思います。しかし、店舗を構える小売業者もさらに努力が求められます。価格競争だけでは十分ではないからです。素晴らしいインストアエクペリエンス(店内体験)、付加価値のあるサービス、素晴らしい顧客サービスが差別化要因として求められてきます。
IR:今はまだ小さくても、将来的に大きくなる可能性がある技術やコンセプトについて、小売業者やブランドが理解してく必要があるのはどんなことでしょうか?
エヴァンス:技術はものすごい早さで変化しています。小売業者も製造業者も、技術を無視できません。新しい技術を取り入れなければ、競合他社に先を越され、潰れてしまうかもしれません。
アマゾンは現在、AIを利用してAmazon Go(アマゾンゴー)を試験的に行っています。アマゾンゴーは、レジを排除したハイテクな食品ストアです。これが成功すれば、小売業に変革が起こるでしょう。私から小売業者にアドバイスがあるとすれば、こうした状況をオープンマインドで観察することです。そして、最終的に他社と差別化するために、注意深く、そして合理的に新しい技術を試していくことです。
より良いサービス、より良い機能を消費者に提供するにはどうしたらよいか。何も恐れることはありません。早く対応できない小売業者は取り残されていくでしょう。
IR:数ある技術革新の中で、個人的に1番ワクワクするのは何ですか?
エヴァンス:“知能の高いモノのインターネット(internet of intelligent things)”と呼んでいるものです。クラウドがさらに知能を授かると、つなぐことしかできない“頭の悪い”デバイスも、その知能の恩恵を受けることができるようになります。デバイスが驚くほど賢くなっていくわけです。つなぐだけで、頭の悪いモノが賢いモノに変わります。
玄関を考えてみてください。かなり頭の悪いデバイスですよね。しかし、安いカメラセンサーを取り付けて、クラウドにつないだらどうでしょう? 玄関がかなりスマートなモノに変わるわけです。他のスマートなモノにつなげば、顔や声を認識できるようになります。単なるモノを、ただインターネットにつなげているだけではないのです。インターネット、そしてその先にある大量の知能にアクセスできるようにつなげているわけです。
IR:知能の一部は、私たちのデバイスや行動のデータをもとにしていると思いますが、それらのデータは誰が所有、または管理することになるでしょうか?
エヴァンス:とても良い、そして難しい質問ですね。多くの企業や政府機関が、消費者から集めたデータを分析しています。電子機器を使ったコミュンケーションは全てなんらかの方法で分析されていると考えるのが妥当でしょう。複数の機関が情報にアクセスできるようになっており、フェイスブックはその情報を広告に、グーグルは広告とサービスに利用しているわけです。
消費者は無料でサービスを利用する代わりに、企業が自分自身のデータへアクセスすることを許しています。インターネット上では、情報が貨幣になるのです。ほとんどの消費者がそのトレードオフを喜んで提供しています。不平を言う消費者もいますが、多くの消費者が無料のサービスを利用する代わりに、データへのアクセスを許可したいと考えているのです。
IR:オンラインショッピングでは、デスクトップからモバイル、そしてアプリへという変化がありました。今後、オンラインショッピングはどのように変わるとお考えですか?
エヴァンス:近い将来、ドローンが買い物の手伝いをするようになるでしょう。飛ぶタイプのドローンだけではなく、車タイプのドローンもです。ドローンが空中を飛び回っているのを目にするようになるでしょう。消費者はより早く商品を欲しがります。2日間でさえ待っていられないのです。そんな中、ドローンは大きな変化をもたらすでしょう。
ドローンに人間は必要ありません。トラック運転は過去のものとなるでしょう。現在、トラック運転手が配送ネットワークの肝になっていますが、長時間労働を強いられている彼らは、安全面で大きな不安を抱えています。自動運転トラックは、24時間年中無休で働けます。全自動運転の自動車を最初に活用するのはトラック業界になると思います。
数十年単位の長期的な目で見ると、次世代の3Dプリンターが電子レンジと同じくらい一般化し、消費財を数分で印刷できるようになるでしょう。