Digital Commerce 360 2019/7/11 8:00

D2C(Direct to Consumer)型小売事業者は簡単に小売業界に参入し、市場を変えつつあります。一方、従来型の小売事業者は、デジタル化された消費者主導の市場についていくために、オペレーションやマーケティングの観点から、自社の考え方を1から疑ってかかる必要があります。従来型のマーケターが直面する3つの重要な問題を取り上げます。

レンタルビデオチェーンのブロックバスターが4,500以上の米国店舗(全世界で9,094店舗)の閉鎖を発表した当時、映画自体が終わったことにはなりませんでした。レンタル自販機のRedboxやNetflixなど、オンデマンドビデオサービスのイノベーションが注目され、消費者の好みやテクノロジーの変化によって引き起こされる進化の全体像が描かれました。

小売業界では、映画ビジネスよりもはるかに多くの犠牲者が出ていますが、終わり方はいつも同じです。

1. 顧客獲得と顧客維持のどちらを優先すべきか?

別の言い方をすれば、既存の顧客に焦点を当てるべきか、それとも(または両方を同時に)顧客になっていない消費者に焦点を当てるべきか、ということです。

もちろんこの質問に対する正しい答えはありません。最善のアプローチは、ビジネスの目標に基づいてビジネスモデルを踏襲し、利用可能な予算内で実行できる方法を見つけることです。

例えば、大量の顧客を獲得することが目的なら(定期購読サービスや高級ブランドのように、頻繁なリピート購入が期待できない場合)、顧客獲得に焦点を当てたモデルの方が重要になるでしょう。

一方、フライホイールモデルを採用する小売事業者は、新規顧客の自社サイトへの誘導は、ロイヤルティの高い顧客に依存しています。収益を最大化し、ビジネスモデルを機能させるためには、顧客維持とロイヤルティを優先させる必要があります。

従来の卸売モデルから消費者向けeコマースへの移行を進める小売事業者が最優先すべきことは、これまで商品を販売してくれていた小売店を通じてのみ交流してきた顧客との、直接的な関係を築くことです。

顧客獲得と顧客維持はすべての小売事業者にとって重要ですが、既存の顧客に対するマーケティング戦略と、一般消費者に対するマーケティング戦略はまったく異なることを考えると、両方同時に積極的に行うことは予算的に難しいでしょう。

ロイヤルティを生み出すには、顧客を深く理解していることを示すこと、顧客が有形無形の方法で関わりを持つよう促すづけることが必要です。

一方、顧客獲得戦略は、ブランドストーリーやライフスタイルを通じて幅広く認知度を高め、より広いネットワークを構築することに主眼が置かれます。どちらもブランドの価値を伝えるために行うものです。

2. 自社データとサードパーティのデータ、どちらに依存すべきか?

消費者のメールアドレスは小売事業者の販促活動や特定の商品に関するエンゲージメントを測るのに貴重なツールです。ここで得られるインサイトは消費者との関係を深め、彼らが過去に購入したかどうかにかかわらず、より関連性が高くパーソナライズされた体験を提供するために不可欠です。

ウォール・ストリート・ジャーナルのクリストファー・ミムス氏はこう語ります。

メールは、人々が目にするものを支配しようとするアルゴリズムに対抗する手段となっています。フェイスブックとは違い、自身が受信許可したメールのみ、友人や家族、さまざまなコミュニティからのメールとともに、時系列で受け取るのです。

フェイスブックのような他社チャネルの代替として、あるいは「反撃」手段として、多くの小売事業者がメールや他の自社チャネルを使用しているわけではありませんが、小売事業者と消費者の間に仲介者を置くことには、金銭的にも経験的にも限界があることは確かです。

自社データは、自社およびサードパーティのチャネルで、より良いオーディエンス体験を作り出すのに活用できます。なぜなら、小売事業者は価値の高い顧客についてすでにわかっていることを利用して、類似したモデルでターゲティングやキャンペーンを改善できるからです。

3. CMOがデジタルマーケティングを推進すべきか、それとも他の誰かがやるべきか?

ブランド企業がビッグデータという宝の山を発見し始めた10年ほど前、マーケティング業界では、「CMO(チーフマーケティングオフィサー)は、CIO(最高情報責任者)のように考えるべきだ」という風潮になりました。さらに、CMOの役割がCMTO(最高マーケティング技術責任者)またはCMIO(最高マーケティング情報責任者)の役割に進化する必要があります。

これらの話題から明らかなのは、高度に技術的でデータ主導型のマーケティング環境において、必然的にCMOの役割が拡大しているということです。

CMOは今後もブランド、ストーリーテリング、カスタマーエクスペリエンスイニシアティブの門番であり続けますが、デジタルチャネル、戦術、テクノロジーに関する知識も拡大していく必要があります。どのように、どこで消費者とコミュニケーションをとるべきか、そしてどのような頻度でメッセージを消費者と共有すべきかを、個人レベルまで理解することが重要です。しかし、データの細部にまで踏み込んで責任を負うべきではありません。

データは、エンゲージメントのためのより細分化された機会提供と、正確なオーディエンスのターゲティングを可能にし続けます。幸いなことに、CMOとCIOの両方の課題に同時に対応しながら、CMOのデータに基づいた取り組みを可能にするインサイトを分析し、提示できるテクノロジーが多数存在します。

マーケターに代わってインサイトに基づいて行動できる自律的なテクノロジーも増えており、マーケターは消費者のためにさらにパーソナライズされた体験を作り出すことに集中できるのです。

新しい役割については、CDO(最高デジタル責任者)を導入して、CMOの作業を置き換えるのではなく補完するようにしている企業もあります

◇◇◇

今回紹介したのは、消費者に最適な体験を提供することと、消費者を引きつけて販売するために指数関数的に増えた努力との間でしのぎを削っている、D2C型の小売事業者が抱える多くの課題のほんの一部にすぎません。

共通して言えるのは、カスタマーエクスペリエンスは「あると便利」なマーケティング機能を超えて、ブランドへの広範な影響を伴う本格的なビジネス戦略へと進化しているということです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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