通販新聞 2019/9/24 11:00

仮想モール「楽天市場」において、送料無料となる購入額を税込み3980円で統一することを発表した楽天。全店舗で統一した基準を設けることでユーザーに分かりやすさを打ち出し、楽天市場の流通総額拡大ペースを加速したい考えだが、運営方針を大きく変える必要があるだけに出店店舗の理解は不可欠。導入は来年2~3月を予定しているが、残り半年の期間でどのように周知していくのか。

楽天の「送料無料ライン統一」 店舗と対話し施策に反映、丁寧に説明し懸念を解消

楽天の物流施設の拡充 / ラストワンマイルの拡大
物流施設の拡充とラストワンマイルの拡大について(画像は楽天の決算説明会資料から編集部がキャプチャして追加)

同社では昨年から物流関連への投資を進めており、三木谷浩史社長は2000億円拠出することを明言している。出店者の物流業務を請け負うサービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」も拡大しており、物流センター開設だけでなく、倉庫管理システムの開発やラストワンマイルのドライバー確保に至るまで、総合的に投資を進めている。

昨年新設した、千葉県流山市と大阪府枚方市の物流センターは来年早々にも満床となる見込み。千葉県習志野市、神奈川県大和市に新たな物流センターを開業する計画だ。人手不足も懸念されるが、「きれいなカフェテリアで食事できたり、バスによる送迎、ショートタイム勤務制度や託児所の開設など、従業員のモチベーションを上げるための施策を展開している」(CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏=写真左)という。

共通の送料無料ラインを導入し購買頻度増加や新規ユーザーの獲得を見込む楽天
共通の送料無料ラインの導入について(画像は楽天の決算説明会資料から編集部がキャプチャして追加)

そもそも、なぜ送料無料基準をなぜ統一するのか。川島氏は「今の楽天市場は“十店舗十色”であり、ユーザーがこれに合わせている状態だ。送料が分かりにくいというユーザーからの声は根強い。楽天市場を昔から使ってくれている人は、『さまざまな店舗の集合体なので送料が店舗ごとに違うのは仕方がない』と納得してくれるだろうが、10年、20年先を考えると、今後当社のターゲットとなるのは新しい世代フリマアプリ等が人気になる中で、楽天市場もそれら同様に『1つの大きなサービス』と捉えており、送料が店ごとに違うことがおかしいと思う人も増えた今まで楽天市場を使っていない若年層を取り込んでいくことを考えると、送料の分かりにくさはどうしても改善する必要があった」と強調する。

とはいえ、「税込み3980円」という送料無料ラインは、従来自分たちが設定していたラインよりも安い店舗も一定数いる。商品価格に送料を転嫁する形で対応する店舗もあるとも見られるため、「(見た目の価格が上がると)ネガティブな影響が出るのではないか」といった懸念の声も出ている。これに対し、川島氏は「ビッグデータを用いて価格へのユーザーの反応度合いを予測しているが、一部にネガティブな影響があったとしても、ポジティブな影響が大きく上回ると考えて3980円に送料無料ラインを設定した」と説明する。また、コマースカンパニーマーケットプレイス事業市場企画部の海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャー(=写真右)は「(仮に送料を価格に転嫁した場合でも)ユーザーが支払う総額は大きくは変わらないと思っている。見た目の金額と、ユーザーにとっての送料の分かりやすさをてんびんにかけて、分かりやすさを取った」とする。

CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏とコマースカンパニーマーケットプレイス事業市場企画部の海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャー
CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏とコマースカンパニーマーケットプレイス事業市場企画部の海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャー(=写真右)

「これまで送料無料ラインまで購入していたユーザーの注文単価が減る」という心配についても、「今年実験した限りでは、3980円は平均注文単価の下がりが少なく、なおかつ購買頻度が最大化されるというラインだった」(海老名氏)という。「見た目の価格上昇」といったネガティブなインパクトも含め、こうしたデータを踏まえて同社では「(新制度導入で)10%以上の売り上げの伸びが望めるのではないか」(三木谷浩史社長)とみている。

一方、希望小売価格が設定される商品を販売する一部店舗からは「商習慣上、送料を加味した価格には設定しにくい」といった声も出ている。同社では「メーカーにも当社の施策を理解してもらえるよう、対応を検討している」(川島氏)という。

同社では、送料無料ライン設定意図の説明や、店舗の懸念解消などを目的として、全国各地でタウンミーティングを開催する。施策の発表があった8月1日以降、5つの県で開催しており、約400店舗が参加した。タウンミーティングでは「(メーカー直送品などが含まれるために)荷別れする場合はどう対応すればいいのか」といった質問も出たという。その場合は、これまで同様に「この商品は同梱できない」旨の注意喚起を明記し、ユーザーに納得してもらった上で送料を徴収しても問題ない、といった説明をしている。

また、多くの店舗が懸念しているのは、沖縄など離島も同じ送料無料条件となったこと。例えば沖縄に配送する場合、2000円~3000円の中継料を徴収するのが普通だからだ。条件変更により、対象地域からの注文数が増加すれば採算が取れなくなる恐れもある。同社では「日本の人口における離島の人口比率を考えると、大きくは増えないだろう。加重平均ではそこまでのインパクトはないはずだ。ただ、店舗の声を聞きながら、施策の内容を調整する余地はまだあると考えている」(川島氏)とする。

タウンミーティングでは「どう対応したらいのか、迷っている店舗や疑問を解消したい店舗が多かった」(海老名氏)そうで、不満や懸念を口にする店舗はさほど多くなかったという。

また、全在庫を楽天に預けることが難しい店舗を対象に、RSL物流センターへの集荷・持ち込みサービスも開始しているが、拠点は関東・関西にあるため、北海道や九州の店舗にとっては、持ち込みたくても横持ちコストが高くついてしまう。今後、北海道と九州に小規模な配送拠点の設置も検討しており、地方店舗でもRSLを使いやすくしていく考えだ。

一方、出店者によると、出店者向けのクローズドな電子掲示板「RON会議室」においては、今回の施策に対する不満の声がかなり出ているという。「そういう声があるのは事実だが、(こうした店舗と)対面で話をすると全く解決方法がないわけではないと感じる。現状提供しているサービスでは解決できなくても、店舗からの意見を取り入れてサービスを拡張すれば、良くなっていくはずだ。店舗のハードルになっている部分を解決したい。今はコミュニケーションの時間だと思っている。店舗の考えや質問を受け止めて『対応策の検討が必要な部分の洗い出し』や『サービス拡充にあたっての優先順位の付け方』などを社内で検討する際に活かしていく。特に店舗の声が大きい点については、送料施策の修正を検討することが重要だと考えている」(海老名氏)。来年の制度導入までに、タウンミーティングの開催頻度を加速したい考えだ。

今後は10月後半~12月をめどに、今回の送料無料ライン統一に関するガイドライン、及びよくある質問集を作成する。店舗の声を反映する形で議論を進めており、店舗の細かい疑問にも答えられる内容にするという。

今後は全国統一料金のRSL利用を促進していく。海老名氏は「離島への配送料など、店舗の心配を解消できるので、RSLを利用することでサービス向上につなげてもらえれば」と話す。ラッピングやギフトへの対応、さらには在庫量に上限があることから「もっとたくさん在庫を預けたい」という大規模店舗の要望にも応えることで使い勝手を改善する。

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