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新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言下、百貨店が休業をしたことに深刻さを感じながらも、同時にECサイトも休止したことに大きな疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。「店舗を閉店するのであれば、ECで稼げばよいのに」と。

筆者は三越伊勢丹グループを離れてから、あまり公では百貨店のお話をしていませんでしたが、ようやくある程度、中立的な立場として見てもらえるようになりました。何らかの発信をしていきたいと考えるところ、今回の営業自粛とECサイト休止の話は、百貨店の特質や習慣を語る上で、よい題材と考えました。

メディアでは、百貨店や百貨店アパレルという下り坂の業態を観察し、さらに状態の悪さをあおるような記事が多かったように感じます。筆者は、プロパーではなく外部から百貨店の経営側に入った人間として、改革を含めていろいろと携わった経験から、プラスの面もマイナスの面も目にしました。そんな経験をベースに、営業自粛とECサイトの休止から百貨店ビジネスの課題と可能性について触れていきます。

ECサイトも休止は「仕組み」「体制」の問題

セレクトショップや自社店舗を持っていたアパレル各社は、実店舗の自粛中、“ECビジネスで売り上げを確保せよ”とトップが激を飛ばし、カテゴリーに限らず、EC売上は期間中、前年対比50%増など、ネット通販は大きく伸びていました。

一方の百貨店。自粛期間中、ECサイトも止めてしまいましたので、EC売上増もあったものではありません。きっとサイトさえ開けていればEC売上50%増くらいは達成できたでしょう。しかし、ECサイトも閉鎖していました。

「百貨店の中の人はやる気がないから」「体制が古いから決められないのだろう」などと、皆さん思われたのではないのでしょうか。もちろん、そんな要因もあったのと思われますが、仕組み、体制という他の大きな事情があったのです。

百貨店が店舗の営業自粛でECサイトも休止した理由とECに注力できないそもそもの課題

消化仕入れという商習慣がECビジネスのネックに

百貨店ECの歴史は古く、多くの百貨店は、実は2000年よりも前からギフトをECで販売することを始めていましたそれが今でも百貨店のEC売上の多くを占めます。そして、ギフトの延長で食品・飲み物などの取り扱いを始めたのですが、ここで、止まってしまっている百貨店のECが多いのが実情です。

そして、いくつかの百貨店は雑貨の取り扱いをスタート。しかし、アパレルをECで取り扱っている百貨店は、実は少ないのです。

ところで、百貨店の商品提供先との取引形態をご存じでしょうか? 百貨店はモールではなく小売りです。テナントビジネスでの手数料型ではなく、仕入れをして商品販売で売り上げをあげて、小売価格と仕入れ価格の差額を利益とします。

ただ、在庫の持ち方が一般的な取引形態と異なります。多くの商品で、店頭に並んでいるときは、まだ、商品提供先の在庫で、レジを通した瞬間に百貨店が仕入れて顧客に売るという消化仕入という形態を採っています。さらに、百貨店の店頭で接客している販売員さんのほとんどは商品提供元の社員さんだったりするのです。

これは、百貨店がリスクを負わず、楽をしているようにも見えるのですが、もともとは商品提供元にもメリットのある形態でした。百貨店という販売力のある場所で販売機会を比較的容易に確保でき、在庫のコントロール権を維持して他店へ自由に在庫移動などができる、販売前は自社商品なので値崩れを防げる、自社社員が対応するのでブランディングが維持できる――といったことなどです。

百貨店が店舗の営業自粛でECサイトも休止した理由とECに注力できないそもそもの課題

ただ、百貨店側がこうした商習慣に慣れ過ぎ、頼り過ぎてしまったことに、百貨店業態の問題があります。その結果、百貨店のECで販売する際に何が起きたのか?

EC販売は、通常ネット上で注文を受け、倉庫から発送する形で効率的に運用されています。しかし、商品提供元にとって、販売力のある店舗の売り場と違い、販売力が強くない百貨店ECに自社商品を取り扱ってもらうメリットは大きくありません。その状況で、商品提供元に倉庫に商品を積み込んでもらえるでしょうか。

在庫が固定され、売れるかどうかわからないECのために商品を納品などするのでしょうか。とても難しいことです。店舗の仕入れと絡めて、バイヤーさんが商品提供元に倉庫積込みをしてもらうこともありますが、大変難しい交渉ですし、調達できる商品も限られます。

古い体質、規模が大きい……ネット通販強化で浮上する課題

そのような状況下で、百貨店ECで取扱商品を顧客のニーズに合わせて調達するにはどうすればよいのでしょうか。あくまで「暫定」の手段として、店頭にある商品を商品提供元在庫のままECサイトに掲載し、注文が入ると店頭からピックアップして仕入れをして、顧客に発送という形を採ることになります

このやり方では規模は大きくなりにくいですし、手間がかかりますよね。それでも、新しいやり方ですので、最初のうちは手間がかかっても「力技」で対応。百貨店ECの販売力を上げ、商品提供元にEC倉庫へ在庫の積込みをしてもらえるレベルをめざせばよいのです。ところが、今回の新型コロナウイルス感染症拡大による営業自粛は、百貨店ECがこの段階に至る前に起きてしまいました

百貨店を休館すると、店頭に商品提供元の社員さんも不在になるので、商品を物流担当者に渡す人員がいません。また、販売前は商品提供元の在庫なので物流担当者が勝手に商品を持っていくこともできません。さらに、商品提供元も大して売れていないECのためだけに閉店している店舗へ商品の補充もしませんよね。

お中元、お歳暮などギフトはもともと、倉庫からの出荷ビジネスなので、自粛中もEC販売が可能でしたし、一部、化粧品などECを続けることができた商品もありました。継続できたところは、倉庫出荷の商品をEC販売している、もしくは、提携している他社から出荷しているということです。

「なんだか、バカ臭いし、効率悪ッ」という感じです。うまく仕組みを作れば、と皆さん思われるでしょうね。その通りですが、ある程度古い体質ということと、規模が大きいため時間がかかるということが問題となります。こうしたことに加え、「EC販売力のアップ」と「品ぞろえ確保」の鶏と卵の関係も出てきます。

百貨店が店舗の営業自粛でECサイトも休止した理由とECに注力できないそもそもの課題

「一度決めたことを徹底して体制を作る」ができなかった

筆者は、内情がわかる立場にいたため、百貨店には、多くの優良な顧客がまだまだおり、いろんなことができるリソースと、優秀な若手社員もいると知っています。ただ、上記の消化仕入れのような商習慣に加え、内外に関係者が多く、何か骨太のことを決めるということ、いったん決めたことを徹底するということが非常に弱いように見えます

百貨店が持つ重要な使命の1つに「情報発信」というものがあります。歴史的にその比重、評価が重いため、ベースの改革よりも、目に見える新しいことにエネルギーを注ぎ過ぎることが多いのです。

それゆえに、「一度決めたことを徹底して体制を作る」ということを怠ったことが一番の起因だと思います。せっかく開始している小売りの基盤の1つとして成長の疑う余地がないECに、もっと注力し徹底していれば、ある程度の規模となっていたでしょう。店舗ピックアップという「暫定」の方法ではなく、倉庫積込みにシフトでき、今回のような自粛中のECサイト閉鎖という事象は避けられたのではないかと残念でありません。

あちこちの百貨店に伺い、いろんなお話をしていると、「何で中島さん当社にことにそんなに詳しいのですか」とよく言われます。ということは、どこの百貨店も社内事情は同じようなことなのでしょう。

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中島 郁

ネクトラス株式会社 代表取締役

中島 郁(なかしま かおる)

ネクトラス株式会社 代表取締役

新規事業立ち上げ、急成長事業マネジメントのプロフェッショナル。

ベンチャー、外資、老舗にて、事業立上げ、急成長ビジネスの責任者を歴任。関与分野は、小売、EC、インターネット、メディア、アウトソーシングを含むサービス業等。

トイザらスではマーケティング部門立上げ、EC専業法人設立。ジュピターショップチャンネル執行役員(EC、テレビ編成及びマーケティング)本部長を経て、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋担当副社長兼日本法人社長。三越伊勢丹では役員兼WEB事業部長として、EC・情報メディア等の構築、オムニチャンネル導入を担当。米国Babson College MBA。

おそらく大規模EC・オムニチャンネル3社で事業責任者に携わった国内唯一の経験者。
ベンチャーから大企業までのコンサルティング、アドバイス、顧問、業務支援に携わっている。

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