占部 雅一 2020/11/4 9:00

複数のECサイトを運営する上で気になるのが、ECモール各社の表示スピードの違いです。今回は「勝手にスピードテスト・ECモール編」として、「快適性が高いのは自社ECサイトとECモール店のどちらか?」「自社サイトとECモールではどれくらいの差があるのか?」を分析します。後半は、Googleの新たなWebページUXの重要指標である「CoreWebVitals(コアウェブバイタル)」で、各サイトの状態を調査します。(この記事はPCでの閲覧をおすすめいたします)

ECモール表示スピード対決! 1位は「Amazon」

ECサイト各社は自社ECサイト(本店)とECモール店(支店)の複数サイトを使い分けて、オンラインショップを展開するケース(マルチストア)が多く見られます。

「勝手にスピードテスト」では、大型ECモールである「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「価格.com」を対象に、自社ECサイトとECモール店の表示スピードを計測しました。

EC売上トップ200サイトの中から、複数のECモールに出店しているECサイトを計測対象として任意に抽出して計測。自社ECサイト、ECモール店の表示スピードをさまざまな角度から分析、考察しました。

気になる「大手EC企業」の各ストアのWebサイト表示スピードはどうなっているのか、さっそく見ていきたいと思います。

■今回の注目3ポイント

  1. 主要ECモール(「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「価格.com」)の表示スピードランキングは?
  2. 複数モール出店している場合、自社ECサイト(本店)とECモール店(支店)の表示スピードはどのくらい差があるのか?
  3. モールの共通プラットフォームを利用している、各自社ECサイトで表示スピードに差は出ているのか?

表示スピード対策を行うECモール

大手ECモール対決の結果から見ていきましょう。表示速度1位は「Amazon」で、2位の「Yahoo!ショッピング」との差は、SpeedIndexという指標でわずか0.2秒という結果でした。3位は「価格.com」で、ここまでが僅差となっています。4位の「楽天市場」は少し下に位置しています。表示スピードの代名詞「Amazon」は、ECモールで首位という結果でした。

ECモール(「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「価格.com」)の表示スピードランキング

順位サイト名Speed
Index
(秒)①
Back
end
(秒)②
Start
Render
(秒)③
Size
(MB)④
Request⑤
1Amazon1.840.531.202.13150
2Yahoo!ショッピング2.040.391.381.76170
3価格.com2.121.011.992.00260
4楽天市場2.450.551.642.28131
参考自社ECサイト
(平均)
5.380.612.574.71291

注目すべきは、自社ECサイト(本店)と比較すると、約2倍~約3倍程度、ECモールの方が表示スピードが速いという結果です。大手ECモールは、売り上げにおける表示スピードの重要性を認識しており、適切なパフォーマンス担保するために、表示スピード対策をかなり行っていると考えられます。

ECモール店と自社ECサイトどちらが速い? 自社ECサイトが約9秒遅いケースも

自社ECサイトとECモール店のWeb表示スピードの計測データを比較してみましょう。

カテゴリー別スピードデータ傾向の分析で考察していますが、表示スピードが速い、遅いの2極化が顕著な傾向として見られます。つまり、速いサイトはモールより速く、遅いサイトはより遅いという結果です。

ランキング上位の自社ECサイトは、ECモールよりも速い表示スピードを達成しています。しかし、ランキング下位の自社ECサイトは、約1.4秒~約9.4秒ほどECモールの表示スピードよりも遅い状況が見受けられました

ECモールよりも自社ECサイトが遅いことで生じる問題として、次の理由が挙げられます。

  1. 自社ECサイトの表示スピードが著しく遅い場合、顧客の購入体験が ECモールと比較して「悪い」と感じる要因になる
  2. 自社ECサイトでの購入の阻害要因になりえる。表示が遅い自社ECサイトより、ECモール店で買う方がストレスがない
  3. Google検索、SEOランキングアルゴリズムにおいて、無視できないマイナス影響が出ている可能性が高い

このように、マルチストア間での表示スピードの違いは、単に表示スピードが遅いという課題だけでなく、各店の顧客購入体験との間に大きなギャップがあることが大きな問題だと考えられます。

自社ECサイトの表示スピードランキングとECモール店(「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「価格.com」)の平均表示スピード比較

順位サイト名自社ECサイト
SpeedIndex
(秒)
ECモール店
(支店)
平均Speed
Index(秒)
自社ECサイトと
ECモール店の
表示スピード差
1ゴルフダイジェスト・オンライン1.902.1-0.2
2ニトリ1.942.3-0.4
3ショップジャパン2.082.4-0.3
4ヤマダ電気3.151.81.4
5ベルーナ4.233.01.2
6無印良品4.261.62.7
7マウスコンピューター7.642.15.5
8ソースネクスト12.12.59.6

※青字は自社ECサイトの表示スピードがECモール店より速いECサイト。赤字は自社ECサイトの表示スピードがECモール店より遅いECサイト

Webサイトスピード研究会のメンバーである福崎真生氏(オークローンマーケティング Webマーケティング担当)は、次のようにコメントしました。

今回のランキング3位は大変光栄です。しかし、主要ECモールが想定以上に速いことが明らかになったので、ECモールの支店サイトにおける表示スピードを意識しつつ、自社ECサイトの表示スピード改善を継続して行う必要があると強く感じています。

表示スピード改善において、モールの計測数値は重要なベンチマークの1つです。(福崎氏)

同じモール内でも表示スピードに差が出ている理由

同じモール内でも、なぜ各サイトで表示スピードの差が出ているのでしょうか? ECモールにおける各サイトを計測したところ、SpeedIndexの指標では、最大3.0秒、最小1.6秒という大きな差が出ている結果となりました、これは予想以上に、表示スピードに差が出ている状況です。

コンテンツの内容だけでは表示スピードにそこまで大きな差が出ないと考えていましたが、予想を裏切る結果でした。この差を生む要因は何でしょうか?

ECモールで表示スピードに差が出る要因は、画像とコーディング

  1. バックエンドは共通。サーバー配信性能はかなり安定しています。Backendはほぼ同一の数字0.6秒もしくは0.7秒。ここでの表示スピードへの影響はないと言えます。
  2. コンテンツのサイズ容量が大きい。多くは画像容量が大きい傾向にあり、表示スピード1位、2位のサイトは、ページサイズの容量が1.5MB以下に軽量化されています。
  3. コーディングの違い。表示が開始される計測指標(StartRender)でも、各サイトで大きく差が出ました。フロントコンテンツのページ構造の最適化(Javascript、CSS、画像の使い方など)を行わない場合は、Startrenderが悪いケースが見られます。

まとめると、「ECモールのシステム、ネットワークは安定した性能が出ているものの、ページサイズの肥大化、StartRenderの指標を意識していないフロントページ構造、コーディングによって表示スピードが遅くなってしまうケースがある」と考えられます。

自社ECサイトはもちろんですが、ECモールでの表示スピードもモニタリングした上で、適切なチューニングを行うことが必要でしょう。

ECモール(「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「価格.com」)内の各社支店サイトの平均表示スピードを比較

順位サイト名Speed
Index
(秒)①
Back
end
(秒)②
Start
Render
(秒)③
Size
(MB)④
Request⑤
1無印良品1.60.71.41.1115
2ヤマダ電機1.80.71.51.0141
3ゴルフダイジェスト・オンライン2.10.61.52.8249
3マウス2.10.71.52.6195
4ニトリ2.30.72.11.3174
5ショップジャパン2.40.71.92.1195
6ソースネクスト2.50.72.26.7362
7ベルーナ3.00.71.62.7167

「CoreWebVitals」の指標におけるECモールの表示スピードは?

今回、初の試みとして、「CoreWebVitals(コアウェブバイタル)」というGoogleの新しい指標でECモール、自社ECサイトのパフォーマンスを計測しました。

CoreWebVitals指標とは

CoreWebVitals指標は、2020年5月に、Google社の提唱した新たなWebサイトの表示スピード顧客体験の指標です。2021年以降、検索ランキングの指標「Core Web Vitals(コアウェブバイタル)」は既存のシグナルを組み合わせて利用されます。

Google社の公式アナウンスもあり、SEOに影響してくることから、WEBマーケティング担当は無視できない指標であると言えます。SpeedCurveでも、CoreWebVitals指標計測をサポートしています。(参考:【注目記事】Googleの提唱する、WebVitalsの各指標をSpeedCurveでトレース、確認する方法

自社ECサイト、ECモール店をそれぞれ「CoreWebVitals」でチェック

数回の手動計測だけでは見えないCoreWebVitals指標における状況を、SpeedCurveの時系列のデータを元に明らかにしていきたいと思います。

ECモールと自社ECサイトのCoreWebVitals指標の比較

サイト名LCP(秒)FID(ミリ秒)CLS(スコアリング)
Amazon(平均)2.271640.078
Yahoo!ショッピング(平均)1.75650.033
価格.com(平均)1.961470.016
楽天市場(平均)2.10570.149
自社ECサイト(平均)2.723480.36

ピックアップしたEC売上トップ200サイトのECモール店のCoreWebVitals指標を元に集計したもの(緑=良好、オレンジ=要改善、赤=劣)

結論として、自社ECサイトで「Good(良好)」を獲得するには、かなりハードルが高い数値です。自社ECサイト平均で見た場合は、2つの指標が「Poor(劣)」で、1つの指標がかろうじて「Needs Improvement(要改善)」という厳しい結果が出ています。

しかし、各ECモールの計測指標を見てみると、様子が異なります。1つの指標で「要改善」がある以外はすべて「良好」です。これは偶然とは思えません。

スピード研究会主要メンバーの近藤洋志氏(大日本印刷 出版イノベーション事業部 hontoビジネスセンター ハイブリッドプラットフォーム開発ユニット 開発第一部)と村田創氏(IDOM Guliverマーケティングチーム デジタルマーケティングセクション)は、この状況について次のようにコメントしています。

検索、SEOの世界でECモール同士は最も激戦区の業種です。Google社が今後、検索ランキング基準として重視すると明言している中、CoreWebVitals指標を各ECモールが意識していないということはないだろうと考えています。(近藤氏)

表示速度(Web Performance) は、検索結果の順位ではなく、インデックス量増とコンバージョン率改善に影響を与えます。一定時間あたりの仕事量を増やすことに通じます。

SEOの基礎であるインデックスが増えなければ、自社サイトの流入は伸びない。コンバージョン率が上がらなければ、事業の目的に至らない。GoogleやChromeをハックしようとするよりも、CoreWebVitalsを手始めとして、自らのコンテンツをどの場面でどの品質でデリバリーするかを考えましょう。(村田氏)

総括として、現時点で、自社ECサイト、ECモール店のCoreWebVitals指標をすぐに改善、底上げするのはエンジニアリソース、自社ECのアプリケーション仕様、対応すべきフロントコンテンツの構造や量の制約もある中で難しい部分があるかもしれません。

さまざまな制約がある中で「できることは何か?」を考えると、少なくとも自社ECサイトのベンチマークとして、ECモール(支店)の表示スピード、CoreWebVitals指標を計測した上で、将来的には解決すべき表示スピード課題を把握、認識することが重要です。

CoreWebVitals指標に関しては、自社ECサイトおよびECモール(支店)のベンチマークとして活用するのみならず、マルチチャネルにおける「Webサイトの顧客体験」をより良くするための評価指標として、「自社サービスの品質」をどこまで持つのか? という視点でも活用できるものだと考えています。(種村和豊氏(スピード研究会、ゴルフダイジェストオンライン ))

「CoreWebVitals」各指標について

Speedcurve 勝手にスピードテスト Google CoreWebVitals 指標
CoreWebVitals(コアウェブバイタル)の各指標と評価の基準となる数値

LCP:Core Web Vitals(Largest Contentful Paint)

ページが読み込まれるまでの速度(ローディングパフォーマンス)を表す指標。 画像や動画の初期表示、背景画像などの読み込み、そのページのメインとなるコンテンツが表示されるまでの時間のスコアを示す。ページが最初にロードを開始して、LCPが2.5秒以内であることが理想。

FID:Core Web Vitals(First Input Delay)

ユーザーの応答性(インタラクティブ性)を測る指標。ユーザーが最初にページ内でアクションを行った時(例:クリックやタップ、テキスト入力など)、反応速度が速いサイトが優良サイトとなる。FIDは、100msであることが理想。
※シミュレーション計測においてはTBT(Total Blocking Time)を参照するように、SpeedCurve社が提言している。

CLS:Core Web Vitals(Cumulative Layout Shift)

視覚の安定性を測る指標。ページレイアウトの意図せぬズレや崩れをスコア化している。 例として、ページを開いた際に意図しないところで突然「バナー広告」が現れ、テキスト全体が下へずれてしまい、誤って広告を押してしまった、など。優れたUXを提供するには、CLSスコアが0.1未満となるのが理想。

LCP、FID、CLSの各指標について、以下のGoogle社のCoreWebVitalsの評価指標(Good(良好)、Needs Improvement(要改善)、Poor(目標に全く足りていない))に準拠、参考として評価しています。

■Core Web Vitals

  • LCP:Good (<2.5s)Needs Improvement(<4.0s) Poor
  • FID:Good (<100ms) Needs Improvement(<300ms) Poor
  • CLS:Good (<0.1) Needs Improvement (<0.25) Poor

※FIDはラボでは計測不可能なため、TBTを参照。TBT:Good (<300ms) Needs Improvement (<600ms) Poor

この調査について

従来の一般的な計測ではアイドルタイムと呼ばれる、購入客が少ない午後の時間に計測されることが多く、朝、昼、夜のピークタイムや、土日の計測がほとんど行われていませんでした。例えば、メルマガやLINEなどでキャンペーン情報を送った時にサイトがどんな状態になるのかを、ほとんどのEC事業者が知らないのが現状です。

今回の調査では売れている時間帯のコンディションを把握するために、12:30、18:30、22:30の1日3回、比較的高負荷の時間で実施しました。1サイトにつきトップページ、リストページ(カテゴリページ)、商品詳細ページの3つのURLを計測対象としました。

表の見方

①「Speed Index」……Googleが発表したパフォーマンス指標。ブラウジング開始後、経過時間あたりのファーストビューが何秒で表示されるかを総合的に算出したもの。目標値 4.5秒

②「Backend」……サーバー、NW通信、DNS名前解決を含む、クライアントリクエストを処理するための時間。いわば反応スピード。目標値 1秒

③「Start Render」……空白ページからコンテンツが初めて表示されるまでの時間、ユーザが「Webサイト表示が速い」「遅い」と体感する指標。目標値 2秒

④「Size」……1ページに含まれるファイル(画像、動画、フォント、CSS、JavaScript、HTMLなど)の総量

⑤「Request」……1ページに含まれるファイル(画像、動画、フォント、CSS、JavaScript、HTMLなど)の読み込み個数

誤差や数値の違いについて

今回の計測は、12:30、18:30、22:30の1日3回という、ECサイトにおいて比較的高負荷とされている時間帯に行いました。従来の計測結果と乖離があるとすれば、この時間滞とアイドルタイムの違いが一番の違いとなります。

調査概要

調査期間:2020年8月20日~2020年9月3日までの14日間

調査対象:2019年のEC売上高上位200社のECサイト(データ提供:ネットショップ担当者フォーラム編集部)から、マルチチャネル(Amazon、Yahoo!ショッピング、楽天市場、価格.comの出店、掲載)ECサイトに関して、売り上げ規模を加味した上で8サイトをピックアップして、自社ECサイト、ECモールの定点計測を実施しています。

※ログインや会員登録が必要、モール出店のみの場合などは計測対象から除外

※計測後に正常な値が取得できなかった場合は除外、もしくは24hの補正、追加  再計測を行っている。

※価格.comに関しては、自社ECサイト商品のURLリンクを計測

計測時間:12:30、18:30、22:30の1日3回

測定プロファイル:iPhone 7(4G)、GalaxyS7(4G)、Chrome(cable) ※このうち掲載したのは「iPhone 7(4G)」

1回当たりの計測数:3 checks

計測回数:48URL × 1日3回 × 3checks × 3デバイス × 14日間 = 18,144回計測

エミュレート回線品質(4G):ダウンロード 8.8Mbps/アップロード 8.8Mbps/レイテンシー 170ms

前回の値について「EC売上トップ200企業の「表示スピード」を大調査! 1位は「腕時計のななぷれ」!」以下の記事掲載にあたり計測した結果を前回の値とする。

サイト調査実施:株式会社ドーモ  監修/占部雅一 文・レポート 種村和豊(ゴルフダイジェストオンライン)、計測データ集計:村岡温子

※編集部からのお知らせ

ドーモ 代表取締役社長の占部 雅一氏が2020年11月9日(月)15:10~15:50に「ネットショップ担当者フォーラム2020秋」【セッションC1-5講演】に登壇します。

タイトルは「『WEBサイトの表示スピード改善で顧客体験は劇的に変わる!!』 Googleの『コアWebバイタル』対策を始めていますか? Webサイトの表示スピードをあげて、顧客の離脱防止、SEOの順位アップを狙う!」

5Gの時代こそWeb品質の差異がさらに表れやすくなる。遅いサイトはさらに遅く感じられ、優れたサイトにUX評価が高まる傾向となります。

加えて、今年5月28日、Googleが発表した「コアWebバイタル」という新しい指標が新たな話題の的に。この指標がPSI (PageSpeed Insghts)にも加えられ、SEOに直結するとなると、売り上げをさらに左右する要因となりそう。この理解と2021年に向けた対策方法について占部氏など3人の識者が答えます。

詳細は以下よりご覧下さい。

ネットショップ担当者フォーラム2020秋 参加申込みページはこちら

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