ワコールが新たな顧客体験の提供をめざす「アバター+AIの非対面型カウンセリングサービス」とは?
「インナーウェア選びにおける新たな顧客体験の提供」「ビューティーアドバイザー(販売員)の新たな働き方の創造」を目的とし、ワコールが始めたアバター活用の新たな非対面型カウンセリングサービス。ワコールのオムニチャネル戦略における重要なポジションと位置づけている。インナーウェア選びの新しい顧客体験をめざすアバター活用の非対面カウンセリングとは? 開発責任者の下山廣氏(総合企画室 イノベーション事業推進部長 3Dsmart&try事業担当 執行役員)に、開発の背景や今後の展望を聞いた。
一部顧客のストレスをデジタルの力で解消する接客サービス
新たに始めた非対面型カウンセリングサービスは、全身の体型特徴を5秒で計測できる独自開発の「3Dボディスキャナー」と、採寸データに個人の嗜好を組み合わせることでAI(人工知能)が最適な商品を提案する接客サービス「3D smart & try」に、アバターを活用した独自開発の接客システム「Ava.COUNSELING(アバカウンセリング)パルレ」を組み合わせたもの。
新たな接客サービスとして、2020年10月29日から「3D smart & try 東急プラザ表参道原宿店」で提供を開始した。
「3D smart & try」は四隅にセンサーを取り付けた専用ボディスキャナーマシンを使い、体の約150万か所を5秒間で計測。バストやウエストなどの周径、体積(バストのボリューム)を計測するほか、胴の形状など全身の特徴を瞬時に判定する。このデータを元に、顧客の嗜好性を組み合わせてAIが最適な商品をレコメンドするのが「3D smart & try」の特徴だ。
下着は、体型特徴に適した形の商品を着用しなければ着け心地やシルエットが変わる恐れがある。そのため、採寸は下着選びにおいて大事なポイントになるが、従来の「人の手による採寸」を得意としない顧客も少なからず存在する。実際、筆者自身も人手による採寸に苦手意識があり、何年も店頭で採寸を行ったことがない。
こうした、一部顧客にとってのストレスポイントを解消し、デジタルの力で「ストレスフリー」な体験を提供していこうとするのが「3D smart & try」を通じたワコールの挑戦だ。
「ストレスフリー」な購入体験を提供
「3Dボディスキャナー」は「お客さまの体型特徴は○○なので、この商品がオススメです」と、“根拠のあるデータ”を提示できるために利用者の信頼を得やすい。消費者は一度計測すれば、ECサイトでの購入においてもより自身の体型特徴に適した商品を選べるようになることから、オムニチャネル戦略における重要なポジションと位置づけている。
今回そこに接客システムとして、親しみがあるアバターという「選択肢」を増やしたことで、よりストレスフリーな顧客体験を実現。顧客の購買モチベーションを後押ししていく。
提供するサービスは以下3点。カウンセリング時間は計50分となっている。
- アバターによるカウンセリング
- 3D ボディスキャナーを利用した体型特徴計測
- 接客AIとアバターによるアドバイス
サービスはすべて予約制(無料)で、現在は月・水・金に2枠、土曜日は3枠で受け付けている。
販売員の表情や動きをリアルタイムに再現
顧客はカウンセリング用に設けられた専用ルームに1人で入り、用意されたモニター越しにアバター販売員と会話をする。部屋の中には「3Dボディスキャナー」があり、ここでもセルフで計測。また、計測後にはアバター販売員と対話しながら、室内のタブレットを用いてAIによるレコメンド商品の閲覧、選定などができる。
アバターは、アバター接客を行う実際の販売員の眉の動きや口元、うなずきといった動作をモーションカメラでリアルタイムに捉え、自然な動きで再現する。また、「お辞儀」や「手を振る」といったボタンもありこれらのアクションにも対応している。
現在は店内にいる販売員が、アバター接客用に設けた専用スペースから接客を行っているが、将来的には販売員に機器を配布、自宅などからのリモート接客も可能にしていくという。「東急プラザ表参道原宿店」でアバター接客検証を行った後、順次「3D smart & try」を導入している全国の店舗でも展開していく予定だ。
新たな顧客体験の提供と、販売員の働き方改革へ
コロナ禍において非接触や非対面型接客のニーズが増えてきている。ワコールの場合、新型コロナウイルスの感染拡大がスタートする前の2019年秋頃から、「パルレ」を構想し、開発を始めた。開発面で協業したのは、HEROES(アバターコミュニケーション技術「AvaTalk」を融合させて開発)と、テックファーム(システム開発・運用に関する技術支援)の2社。
「パルレ」の開発責任者である下山廣氏(総合企画室 イノベーション事業推進部長 3Dsmart&try事業担当 執行役員)は、アバター接客に注目した理由として「インナーウェア選びにおける新たな顧客体験の提供」と「ビューティーアドバイザー(販売員)の新たな働き方の創造」の2つをあげる。
お客さまは、販売員から声をかけられずに買い物をしたい人もいれば、販売員につきっきりで接客してもらいたい人もいる。ECでの買い物であれば、お客さまはご自身のペースで自由に商品を検索し、気になる商品を閲覧することができる。リアルの買い物でも“選択肢”を増やすことで、買い物におけるストレスを軽減できないか、と開発を始めたのが「パルレ」だ。(下山氏)
「パルレ」の導入で、ボディスキャナーを計3台、AI接客用のタブレットを計7台導入した「3D smart & try 東急プラザ表参道原宿店」では、3Dボディスキャナーによる計測後、3つのパターンで商品を選択できるようになった。
心理的ハードルを下げる「アバター」接客
接客スタッフを、実際の人物ではなくアバターにした理由について、「下着」や「体型」などセンシティブな悩みを共有することから、「顧客の心理的なハードルを下げる」狙いがあるという。
下着に関する相談の場合、実際の人が出てくるよりもアバターと対話をした方が、お客さまはリラックスして会話ができるのではないかと考えた。(下山氏)
今後見据えるのは、アバター接客を通じた働き方改革だ。
リモート環境下でもアバター接客が実現すると、育児や介護などで通勤が難しくなった販売員も自宅から接客できるようになる。新しい働き方を創造できるきっかけになるのではないかと期待している。(下山氏)
さらに「シフトの効率化」も下山氏が期待するポイントだ。
地方店ではお客さまがいらっしゃらない、つまり接客していない時間が、営業時間の30%程度ある。アバター接客を導入すれば、店頭スタッフのシフトをより効率的に組めるようになる。
ワコールの「3D smart & try」は、三越伊勢丹へ導入するなど外販も進めている。今後も導入事業者を広めていく予定だ。