ユナイテッドアローズ、ディノスの責任者が語る、大企業における「DX推進」「EC強化」「オムニチャネル」の進め方
ユナイテッドアローズでDX推進の責任者を務める藤原氏と、DINOS CORPORATIONでデジタルとリアルの誘導でEC強化の推進役を担う石川氏が、企業におけるDX推進、EC強化、オムニチャネルの進め方について語り合った。
モデレーターを務めたのはデジタルマーケティングを支援するゼロゼロウエストの大西氏。それぞれの経験や事例をもとに、ディスカッションを行った。
DINOSのデジタル化で一番大変だったことは?
大西 理(以下、大西)本日は、ユナイテッドアローズの藤原さんとDINOS CORPORATIONの石川さんの双方から、質問を3つずつあげていただきました。まず、藤原さんから石川さんへの1つ目の質問です。「2016年にDINOSにジョインした石川さんですが、DINOSをデジタル化するのに一番大変だったことは何ですか?」ということですが、いかがでしょうか?
石川森生(以下、石川)当時を振り返ると、DINOSの会社全体的にも特に経営側がデジタル化に相当コミットしてくれていたので、実はかなり進めやすい状況にありました。ただ、私自身が直前で代表を務めていたEC会社は年商20億円〜30億円規模だったので、その組織規模からするとDINOSはステークホルダーがとても多いです。
以前の規模なら何かの意思決定をするにも代表の私1人がハンコを押せばすぐに動けるところが、DINOSは数十人単位で説明をして納得をしてもらってから次のステップに進む必要があるので、単純に時間軸としての説明コストや調整コストなどを多く取らなければいけません。大変だったというより、「このスピード感だと、今構想していることを実現するにはどれだけかかるんだろう」という、焦りに近い感覚がありました。
藤原義昭(以下、藤原)それは、DINOSにジョインして以降の5年〜6年でもっと早くなったのですか?
石川今考えるとこれは必要なプロセスで、これがおそらく最速なのだと思います。たとえて言うなら、ベンチャーで代表をしているときはモーターボートを運転しているような感覚で、数十人規模のステークホルダーで進めている今はタンカーのような感覚です。モーターボートはビュンビュン走ってスピードも出ているように見える一方で、タンカーは曲がっているのかいないのかもわからない。
でも、よく考えるとタンカーの方が速くてパワーも持っているんですよね。社内には私が知らないところもたくさんあって、そういうところを私が知らずにすっ飛ばしてやってしまうと後々事故につながりかねません。なので、今は必要なプロセスを踏みながらDINOSにとっての最大巡航速度で進められていると実感しています。
大西組織の規模ごとに時間軸の流れがあって、それを気にすべきか無視して進めた方がいいのかはケースバイケースかもしれませんが、石川さんの場合はどうでしたか?
石川ポイントによると思います。自分1人の責任で負えないような影響範囲の大きいところに手を入れようとすると、何かあればその先にいるお客さまにまで迷惑が及んでしまいます。なので、しっかり承認を取りながら進めていくところと素早く進めるところは、本当にケースバイケースですね。
大西簡単なものは素早く進めて、失敗をしてもそこからラーニングを得ることはすごく重要だと思いますが、決定プロセスを詰めていくときに、何かポイントはありましたか?
必要なのは「より分ける力」
石川たとえば、EC担当者からすると「フロントエンドの改修なんて毎日やってよ」と思われますよね? ただ、静的なページを触る分には特にケアは要りませんが、商品詳細ページを触るとなるとテンプレートだけでも何十パターンもあるなど、1つ触ると影響がすごく広いものもあります。
なので、システム的にも人的にも、影響範囲の大きさを最初にラーニングさせてもらった上で、スピードを出せるところと、スピードを出すと後から余計に時間がかかってしまうところをより分けるようにしています。そういった「より分ける能力」がポイントなのかもしれません。
藤原テクノロジーに精通している人材は中途採用で入ってくることが多く、社内のことはまだ全然わからないものです。システム的にも人的にもキーになるものを熟知していて、より分けをどうするべきか目利きができる人の存在は結構重要ですよね。
石川すごく重要です。DINOSの場合は経営側が最初からそれをわかってくれていたので、40年プロパー選手のような社内を熟知した人を私のすぐ近くに置いてくれました。今からやりたいことをその人に相談すると、「それをやりたいならケアすべきところはここ」と教えてくれる、そういう存在です。ケアすべき部門に私が直接行くよりも、その人が地ならしをしてから行くと話が通りやすかったので、経営側がそういうチーム構成にしてくれたことはすごく助かりました。
大西 やりたいことの道筋を経営側がある程度理解していて、地場をならした上でそこに切り込んでいくというプロセスが大事なんですね。
どのようにして社内スタッフをデジタル人材に育てたか
大西 石川さんへの2つ目の質問です。「CECOとして、社内スタッフをデジタル人材に変換するにはどんな苦労がありましたか? また、どのようにデジタル人材に育てていきましたか?」ということですが、教育、組織改革、人材育成に関してはいかがでしょうか?
石川最初は共通言語が少ないことに苦労しました。ECチームのなかでは当たり前にコンセンサスのとれる内容も、たとえばカタログ制作チームやテレビ制作チームなどそれぞれに考え方やKPIが違います。
説明したはずのことがちゃんと伝わっていない経験を何度かするうちに、「しゃべり方を変えないと無理かもしれない」と思うようになり、1年〜1年半をかけて全社的なデジタルの共通言語を増やしていきました。それが最初に大変だったことですね。私たちの領域はどうしてもカタカナ用語を使うことが多いですし、その方が理解しやすいですが、たとえるなら当初は「ボウリングで“ストライク”なんて使わない!」に近い感覚でした(笑)。
DINOSのECチームは基本的に在庫を持っていないので、在庫を抱えて売り上げ責任を持ったらどうかといった議論もありましたが、どこのチームに売り上げを計上するかと社内で争っても意味がありません。なので、一旦はECチームが売り上げを持つことはやめて、「私たち(ECチーム)をツールとして役立ててください」という風に、全社的な売り上げに貢献しようという考え方で運用するようにしました。
ただ、そうなるとサポーターのような立ち位置にならざるを得ないので、ECチームが何かをやろうとすると在庫を持っているチームにお願いベースで行かなければいけないわけです。ただ、そのなかでもECだけでできることも進めながら少しずつ成長して、ある程度の売り上げを作っていくうちに「ECチームと一緒に動いた方が自分たち(他チーム)にとっても得かもしれない」と実感し始めてくれるようになりました。
そこからの動きは速いです。「次の企画をWebで展開するにはどうすればいいか?」といった相談が他チームから来るようになり、チームをまたいで連携できるようになりました。。
藤原他部門の得になるという状況を作り込むことは重要だし、だからといってECチームやデジタルチームが自身を単なる支援部隊だと自覚するのではなく、主体的にやっていこうとするマインドセットも重要ですね。
通販大手のDINOS。デジタルを進める上で社内の抵抗は?
大西藤原さんから石川さんへの3つ目の質問です。「DINOS CORPORATIONはカタログ、テレビ、ネットとチャネルも多岐にわたり、売上高は1000億円超の大手通販企業。デジタルを進める上で、社内の抵抗勢力にどのように対峙してきましたか?」ということですが。
石川「抵抗」ではありませんが、デジタルを推進する上では数十年間続けてきたワークフローを変える部分もあるので、私が言ったことをすべて正として受け止めてすぐに手を動かせるものでは当然なく、しっかり値踏みをしてもらう期間はやはり必要でした。「これをやって本当に大丈夫か?」ということに対して、社内の人が「これならいける!」と言ってくれないと、こちらとしてもパワープレーだけで変えてしまうのはとても怖いことですから。
なので、できない理由を説明してもらうことは多くありました。 ただ、「(変えるのは)大変だから」というような合理的ではない理由で「できない」と言われることももちろんあります。私はこれを「大企業の慣性の法則」という風に捉えていて、変えるのはすごく大変だということはよく理解しています。そういうときはこちらも頑張る。「一緒に汗かきましょう」と、根性論になる面も一部はありますね。
人が変わらないと実行できない
藤原デジタル推進に向けたツールや方法論など、教科書のようなものは世の中にたくさんあるけれども、人の心が変わらないと教科書だけでは実行できないですよね。会社が進むべき方向性があり、かつインパクトの大きい変化はどうしても失敗ができないので、そういう場合は入り口をしっかり温めてから一気に加速させることが重要だと私も思います。
この質問をさせていただいたのも、社内でDXを担当している人は結構孤独になりがちだと感じているからです。石川さんや私のように、デジタル担当として社外から入ってきた人ならまだしも、社内にいた人がいきなりDX担当を命じられると、急に周りを敵に回しかねない懸念もあると思っていまして。
大西確かに、そういう課題を抱えている会社は多いです。「長年やってきたから変えられない」という一言で片付けられる場面をよく目にしますが、「でも皆さん、本当はこうしたいでしょう?」というゴールを描いておくことが大事だと感じるところです。
藤原上層部から突然「変化しなさい」と要求されても、変化が求められる理由が理解できていなければ現場も良い気分ではないものです。だからこそ、石川さんのように念入りに説明して、一緒に汗をかくことが重要でしょうし、物理的に各チームに入って行って情報共有した方がお互いの理解が進んだり、話しているなかでヒントが見つかったりしたのではないでしょうか。
石川まさにおっしゃる通りで、私はDINOSに入った当初、社内全体を見渡せる経営企画室に所属しました。しかし、やはりそれではデジタル推進は難しいと実感し、新たに部署を作ってもらいました。2年半ほどは部長として、現場活動と他部署との情報共有を進めていましたね。
ブランドや店舗を多数展開するユナイテッドアローズ。他各部署を巻き込んでDXを進めるには?
大西次は石川さんから藤原さんへの質問です。「DXは各部署を横串にして構造改革を進めていく役割があると思うのですが、店舗、ECなど各部のリソースの調整はどのように行っていますか?」ということです。ユナイテッドアローズはたくさんのブランドを展開し、店舗数もとても多いですが、いかがでしょうか?
藤原私が一番重視しているのは、社員の「気持ちのリソース」です。コロナ禍以降、さまざまな会社で「1人ができることをもっとやれ」という状況が生まれていると思います。ユナイテッドアローズの場合、たとえば店舗の来客数がコロナ禍前の2~3割になった時期には、それまで店舗に10人立っていたスタッフは3人で良いのではないかという話になりますよね。そうなると、あとの7人は本部の仕事やデジタル接客などをやらなければならなくなります。今までとは違う業務をやらなければならなくなるので、気持ちを重視すべきということです。
ただ、気持ちのリソースといっても感情だけではだめで、仕組みが重要です。短期的には「シフトをどうするか」など、本当に細かい仕組み作りが大事になってきます。そして、中期的には経営視点が必要になります。要は、会社が進むべき道を踏まえた上で、人材をどう動かすのか、動かすにはスキルがないといけないのでどう育成するのか、また、1人ひとりに対して店舗業務とデジタル業務の割合をどう配分するのか……などです。時間がかかっても、この辺を重視して業務設計するようにしています。。
できない理由は何?
石川気持ちのリソースとおっしゃったように、心のウォーミングアップが重要ということにはすごく賛同するのですが、私のように中途採用で入社した人が実行するには難しい側面も多いと思っていまして。経営側が「こういう方針でやって行こう」と考えていることを、たとえば店舗スタッフの皆さんからも共通認識を得るためにはどうしていますか? 専門の部隊や役職などがあるのでしょうか?
藤原ユナイテッドアローズには店舗を取りまとめている部署があります。ただ、その部署に任せきりになるのではなく、私たちも店舗にヒアリングをしに行き、課題を見つけては仮説を立てて、最適なソリューションを店舗支援の部署に提案しながら話し合うようにしています。システムを導入する際などはまず2、3店舗でテストをするのですが、いくらソリューションが良くても店舗側の気持ちの面でできないこともあります。
多少なりとも今までの業務から変わるわけですし、カスタマイズできないシステムであれば、システムに合わせて動いてもらわなければいけない。なので、そのための業務設計から入る必要があるのです。結局、「できない」の理由が「今までと違うから」だと、どんなシステムを導入しても同じことを繰り返すだけですし、システムのカスタマイズをし続けているとコストは下がらないですからね。
DXを推進する上で、KPIは何?
大西続いて、「藤原さんはコメ兵時代、 Web事業の売上種別として、宅配売上、店頭はEC関与売上高に分類していました。DXを推進するにあたり、KPIは何に設定していますか?」という質問ですが、いかがですか?
藤原当社のDXのターゲットは ①サプライチェーン ②ロジスティクス ③顧客とのコミュニケーションです。つまり、マーケティング領域と、ものづくり領域と、物流領域の3つです。
そのなかでも、3年、5年と長期間をかけて基幹システムを作り直すような案件もあれば、ある課題が浮上した際に何らかのソリューションを投入して解決させたり、システムベンダーから提案が飛び込んできて導入するなどの短期的な案件もあります。なので、はっきりとしたKPIは設定していなくて、どちらかと言えば「どれくらい推進できているか」を軸に考えるようにしています。
大西ただ、大きなマイルストーンはありますよね?
藤原あります。今であればECシステムのリプレイスを控えていますし、今後は基幹システムのリプレイスも行わなければいけないので、そういった作業は着々と進めています(※2022年3月に自社ECサイトをリニューアル)。また、社内には課題を寄せ集めて整理するチームがあって、彼らがヒアリングを行いながら優先順位を立てるようにしています。
それに対してどういうソリューションを投入するのかを計画して1つずつ課題を解決しているので、KPIをあえて言うならば「どの課題を消したか」ということかもしれないですね。
危険な「KPI作りすぎ問題」
石川当社も最初、わかりやすく「EC化率をKPIにする」といった話が出てきましたが、結局はそうしていません。ECの販売価格をすべて10%オフにすればあっという間にEC化率は上がるものですし、私やECチームの評価が本当にそれで良いとは思いませんから。
どうも「Webは全部が測定できる」と勘違いされやすいようで、何かをやればそれがどこにどれだけ影響したかが見えるはずだと思われがちですが、それは大きな間違いです。「この施策が何に効く」と断言できないことはたくさんありますし、いろんなところに出た効果が積み上がっていった結果、良くなっているというケースの方が多いので、当社も藤原さんのように大きなビジョンを描いた上で、そのなかで何に着手していくか、といった進め方をしています。
藤原そうですね。反対に私は「KPI作りすぎ問題」が懸念されると思っています。巻物のようなExcelがあっても、見ているところは1か所といったことはよくありますし、その帳票を作るために毎週時間を取られるメンバーがいるというケースもしばしば見られます。要らない作業を排除してあげることと、「本当に効いている施策は何か」を見つけていくことが重要です。そのために、自分が経営側と現場のつなぎ役をしっかりと担って、会社として見るべきポイントを一致させていかなければならないと常に自覚しています。
大西 売り上げや在庫などは経営側も見ているけど、ユーザーを見られていないというケースは一般的によくあります。小売業は「物がどれだけ売れるか」が最重視されますが、お客さまの数がどれだけ増えたかを見ていないと、来年の売り上げが作れなくなってしまいます。また、これから人口が減少して購買層が少なくなるなかでは、ユーザー数の大きさだけでなく深さもより重要になってくるのではないでしょうか。DXを進める上で、その深さをどのように見られるようにするのかも大事になってくるのではないかと思いますね。
DX推進施策は異なる企業でも再現性はある?
大西石川さんから藤原さんへの3つ目の質問です。「藤原さんはコメ兵のマーケティング統括部長として、出店からEC、全社マーケティングまでを担い、コメ兵のDXを推進してきました。ユナイテッドアローズに移った後もこうした経験をもとにDXを担うお立場ですが、DXは異なる企業でも再現性があると思いますか?」ということです。
石川この質問をさせていただいたのは、「コメ兵でうまくいったからユナイテッドアローズでもこれをやれば絶対にうまくいく」という簡単な話ではないと思ったからです。仮に同じ商品を販売していても、社内にいる人から会社の歴史まですべてが異なるので、一般化しづらいことの方が多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
藤原重要なのは、その会社のアセット(資産・強み)です。どんな強みと資産を持っているから、それを最大限に有効活用して何を行うかというマーケティングの仕事は、どこも同じだと思っています。このため、どの企業でも「再現性があるか?」と聞かれると、まったく同じ施策ではおそらく効果の有無が異なるでしょう。ただ、「擦(こす)る」という表現がよくされますが、以前の成功事例をブラッシュアップしていろいろな現場で応用することは重要だと考えて取り組んでいます。
大西擦らないともったいないですからね。
藤原そうなんです。ないものは使えないので、あるものをどれだけ効果的に使うかということです。その会社にはないものなのに「あの会社がやっているからやりたい」という話はよくありますが、ないものを作るところから始めるのはすごく難しい。私がコメ兵でマーケティングを担当していたときの関東エリアの認知率は25%ほどでした。最終的には78%にまで達したのですが、そこから考えるとユナイテッドアローズの最大のアセットはブランド認知です。
ブランド認知がない状態でSNSをいくら頑張ってもフォロワーの増え方はものすごく緩やかなカーブを描くだけになってしまいますが、ユナイテッドアローズの場合はすでに認知度が高いので、SNSのやり方さえ工夫すれば加速度的に増加することも考えられます。ブランド認知から始めなければならないのか、その次のフェーズから着手できるのかなど、アセットの違いだけでもできることは大きく変わってきます。
「言わない美学」は不要
石川おっしゃる通り、使えるフレームワークは使えばいいし、一方で会社ごとに個別事象は当然あるものなので、それはアセットを中心に組み直さないと機能しないということですよね。そういう意味では、長く社内にいる人より社外の人や中途で採用された人の方が、会社のアセットや特殊性に気付きやすいのかもしれないと思いました。
大西そのほか、謙遜しがちな日本の文化が背景にあるからか、外部から見て素晴らしいと思う企業のこだわりや手間暇をかけて取り組んでいることを、あまりお客さまにアピールしない 「言わない美学」も、ときにもったいないと思うことはありませんか?
石川あります。DINOSだと品質基準などがまさにそうです。並大抵でないコストをかけているので、ベンチャーに長くいた私からするとアピールしないともったいないと思ってしまいますし、マーケティングとしてももっと大きな声で伝えた方がいいと思うのですが、やはり謙遜する傾向にあります。
藤原ですが、ちゃんと伝えればお客さまからしても「そうなんだ」と理解が進むことはたくさんありますよね。
DX・オムニチャネル推進がうまくいかない典型的な要因と、今日からでもすべきことは?
大西最後に私からお2人に質問させてください。DXやオムニチャネルの推進は全社的なマターであって、部門間の理解と協力が必要ですが、うまくいかない典型的な要因はどんなところにあると考えていますか?
石川実のところ、うまくいかないことの方が多いです(笑)。ただ、先ほどの藤原さんのご回答のように、他社の成功事例をそのまま持ってきたり、「これが世の中の正解だからとりあえずやってください」と言ったりすると、各社でアセットも違えば今までのワークフローも違うので、うまくいかないでしょう。
また、私の場合、少なくともDINOSのなかではデジタルに関してさまざまな事例を見てきた立場にあるので、私がやろうとしているデジタル推進施策に対してほかの社員から指摘や提言はしづらいはずです。だからこそ気を付けようと心掛けています。「私が言ったことは当然聞いてくれるはずだ」とあぐらをかいていてもうまくいきませんから。
藤原私は「丸投げ」がうまくいかなくなる要因だと考えています。でも、丸投げしている事象はかなり多く見受けられます。システムを作るにも丸投げで「中身がどうなっているかわからない」となったり、システムベンダーに丸投げしたがためにベンダーロックイン状態になってしまったりする話はよく聞きます。
自分たちでしっかり要件定義をして、ベンダーと一緒にチェックしながらシステムを作っていくという作業がすごく重要なので、社内だけでなく社外も含めてどのようにチームを組成するかを考えなければいけません。もちろん、気持ちの面や物理的な面、費用面も考慮しなければならないので、口で言うほど簡単ではありませんが、それらをテトリスのようにうまくはめ込んでいく作業は欠かせないと思っています。
石川確かにそうですね。一方で、運用フェーズに入れば現場に任せていった方が良いと思います。上流工程は絶対に丸投げせずにしっかりと構築して、運用フェーズに入ったら上層部がいつまでも口を出すのではなく現場主導になっていく。その形が望ましいのでしょうね。
今日から考えるべき課題は?
大西今日はお2人からたくさんのお話が伺えましたが、最後に、各事業者が今日からでも考えるべきことについて、それぞれのご意見をお聞かせいただけますか?
石川先ほども出ましたが、やはり「アセットの整理」だと思います。まず、自社を冷静に見たときに、他社と比べて何が秀でていて、何に対してお客さまがお金を出してくれているのかということをしっかり整理すること。その上で、デジタルを活用した面白い施策を企てていく方が、流行りものを追いかけるより圧倒的に費用対効果の高い結果が創出できると思います。今一度、自社の強みを整理してみてはどうでしょうか。
藤原私も同感です。加えて、できればフィードバックが得られる仕組みや雰囲気を作っていくと良いと思います。そうすれば独りよがりになることも防げますし、誰だって社内で見えていないところはたくさんあると思うからです。私自身も、フィードバックがもらえる仕組み作りを進めたいと考えているところです。
この記事は2021年11月15日に「ネットショップ担当者フォーラム2021秋」で行われた講演をまとめたものです。