顧客との良好な関係性を生むメルマガ運用とは? 商品ページやLPに誘導するためのメルマガ活用術
今回は、菊池月子さんにインタビューしました。 菊池さんは、ECプラットフォームを運営する事業会社で経験を積まれた後、フリーランスとして、老舗DtoCブランドのCRM支援、スタートアップのマーケティング・プロジェクト推進などを手掛けています。
事業会社出身ということもあり、メールマガジン運用で長期的に改善施策を回していくためのオペレーション整備の具体的なコツまで詳しく伺いました。
CRMから商品開発まで広い知見。EC業界で活躍する菊池氏とは?
――最初に、菊池さんのこれまでの経歴についてご紹介をお願いします。
大学の4年生のときから、ベンチャー企業の新規事業部でSEO記事の執筆やアフィリエイト記事の企画を行っていました。その後、新卒採用ツールの制作会社を経て、CtoCのECプラットフォーム「minne」を運営しているメガベンチャーでCRM・販売促進やアライアンス企画・ディレクションなど幅広い経験を積みました。
toC向けのサービス運営に必要なことが一通りインストールできたタイミングで、同じくECプラットフォーム「Cake.jp」を運営するスタートアップに入社し、それまでのCRM・販売促進企画に加えて、商品開発なども一部経験しました。
2022年にフリーランスとして独立し、老舗DtoCブランドでのCRM支援やスタートアップでのプロジェクト推進、広告代理店でのデータを活用したアナライズなどを行っています。
――かなり幅広いですね!
そうなんです(笑)。ディレクターとして、夢中でプロジェクトや施策を推し進めながらいろんなスキルを習得していった結果、現在でもいろんなお仕事をいただけています。どれもとても面白いですね。
CRMにおけるメールマーケの重要性
メールは「最重要チャネル」
――まず、実際の事例についてお伺いしていきます。現在取り組まれている案件に関して、菊池さんは主にどのような業務を担当されていますか?
某化粧品メーカーではメールマガジンの企画・執筆を行いながら、数値管理のための計測周りの整備やメルマガのパーツ化などオペレーションの整備に取り組ませていただいています。
また、別の化粧品メーカーでは、メール・LINE・Twitterなど複数のチャネルに向けたコンテンツの制作を担当しています。最近では、オンラインショップで行うキャンペーン企画の骨子作成なども行っていますね。施策実行に必要な制作周りを担っているような形です。
――複数社のCRMやメルマガに携われているのですね! 菊池さんから見たメールマーケティングの重要性について教えてください。
CRMにおいて、メールでのコミュニケーションは昨今軽視されてしまう傾向があります。メッセンジャーアプリ、SNSの台頭によって顧客とコミュニケーションを取れる場所が増えたためです。EC事業者さんのなかには、どこのチャネルにリソースを割くべきか悩む企業も多いように感じています。
ですが私は、現在もこれからも、EC事業者にとってメールは最重要チャネルであると考えています。
――どういった点でそのように考えていますか。
まず、外的要因に左右されないコミュニケーション戦略を長期的に描けることが大きな理由です。
メッセンジャーアプリやSNSは、機能やアルゴリズムの刷新・料金プランの変更のためにそれまでの顧客コミュニケーションがままならなくなってしまうといったことがよく起きます。
理由① 外部の影響を受けにくい
一方、メールはそういった外のサービスやプラットフォームの運用方針の変更による影響を受けづらく、会員情報やサイト内行動にひも付く配信リストの管理を自分たちでよりコントロールしやすいです。
長く付き合える顧客を発見し、育成していくコミュニケーションの基盤として、考えていきやすいチャネルだと思っています。
理由② 商品やブランドに合った顧客コミュニケーションができる
そして、複数の用途に柔軟に対応できる表現スタイルを持っており、オリジナルなコミュニケーション手法を選べることがもう一つの理由です。
人間の情報に対する向き合い方は、どんなプラットフォームであるかによって大きく影響を受けると考えています。メッセンジャーアプリ「LINE」でのライトなコミュニケーションは、注意を引くことができますが、短い文章の中で興味を持たせそのままコンテンツに遷移させるのはなかなか難しいです。
一方でメールは、かご落ち・新着通知・再販通知などのフォローメールからメールマガジンまでHTML形式を使ってさまざまな見せ方でコミュニケーションを取ることができます。
もちろん工夫は必要ですが、複数の切り口で1日に何通も送付しても不自然ではありません。見せ方・タイミングなど、自由に商品やブランドにあったコミュニケーションを模索することができます。
メルマガで陥りがちな失敗とは?
――複数あるメールコミュニケーションのなかでも、特にメルマガにおいて気を付けることは何だと思いますか。
運営として関わっていたサービスや現在携わっているブランドさん含め、気づかないうちにメルマガが「(自分たちが)伝えたいこと」「(自分たちが)売りたいもの」を発信するための場所になってしまっていることについて、よくお伝えしています。
実際の現場では、KPIが『メルマガ経由の売り上げ』なんてことも少なくないため、「どうやったら売れるのか」「売りたいものをアナウンスしたい」という気持ちでメルマガを設計してしまいがちです。
でも、ほとんどの人はメールの情報のみで購入決定はしません。なぜならメールの中にカートがないから。厳密にいうとメールの中では、購入決定できないんです。
営業や接客の役割を担うのは、メールではなく商品ページやLP。実際の数値がどんなふうに推移しているかと合わせて、「メールの役割は、お客さまを営業・接客の場所である商品ページやLPに連れていくことだ」ということを改めて整理をした上で、改善の提案をさせていただいています。
「商品ページ・LP遷移」に行動を移してもらうためには、メルマガで何が売れているかよりも、どんな内容が読者の目に留まり、さらなる興味をかき立てたのかしっかり追い求めることが重要だと感じています。
メールは顧客との関係性づくりに有効な「日々のあいさつ」
――メルマガはCRMの中でもどんな存在だと考えていますか。
私は、メルマガは『日々のあいさつ』だと思っています。毎日・毎週会う人にどんなあいさつをして仲を深めていくのか。よい関係性構築のためには、こちらの話ばかりでも、長々と一方的に話をしてもだめですよね。
もちろん関係性の構築の仕方はそれぞれです。長いコンテンツをじっくり読ませるメルマガを運用しているブランドさんも数多くあります。そういったブランドさんは多くの場合、どのチャネルでもコンテンツ制作にコストをかけてコンテンツそのもののクオリティをあげています。
大切なのは、顧客と自分たちの現在の関係性を見極め、今後どういう関係性を築いていきたいのか理想を設定した上で成果を追い求めていくことだと考えています。
【事例】 成果を出すための「標準化」「規格化」とは
CRMを改善するための仕組みづくりを解説
――実際に運用を行う上でどんなことに気をつけていますか?
ハンドメイドマーケット「minne」やケーキ専門通販サイト「Cake.jp」などECプラットフォームで、CRMの運用担当・施策実行のリーダーシップをとっていた際に特に注意していたことがあります。
それは、担当するメンバーにとって無理がなく成果が振り返りやすい運用・オペレーションを整備することです。
先ほど「メルマガは『日々のあいさつ』」というお話をしましたが、メルマガを含むCRMチャネルの運用業務は、毎日・毎週少しずつ小さな業務を積み重ねていくルーチンワークです。
『日々のあいさつ』を、する方にとってもされる方にとっても負担の少ない安定したものにすることで、運用を担当するメンバーが、手入れを加えたり改善をしたりするために立ち止まって考える余裕が生まれると思っています。
――具体的にどんなことに取り組むことで、運用の負担を軽減してきましたか?
大きく分けて、以下の2つが重要かなと思っています。
- 標準のコンテンツスケジュールを用意する
- 構成テンプレートを決める
実際に運用をしていたのでよくわかるのですが、毎日コンテンツを外に向けて発信するのって、アイデアを出すことや内容を考えることが結構大変なんですよね。
逆に、配信数をある程度制御して配信している場合には、限られたエリアの中でどんなふうに伝えたいアナウンスを収めるか、みたいなことを考えるのが大変です。
それぞれ真逆の悩みですが、共有して言えるのは0から何かを検討するのはとても負担がかかるということ。私は、事業会社でCRM運用をしていく中で「標準化」「規格化」をキーワードにオペレーションの改善を行いました。
上であげた2つのことは顧客に向けた改善ではありませんが、実際に実行してみると、運用が安定したことで数値にもいい影響が現れるなんてこともありました。
――「1. 標準のコンテンツスケジュールを用意する」について具体的に教えてください。
実際の現場だと、新商品のリリーススケジュールや日次売り上げ・トレンドなどを踏まえて企画に柔軟性を最大限持たせた結果、コンテンツスケジュールを毎週・毎月0から考えているみたいな場合が多いんです。
でも、そういう状態だと運用担当は疲弊してしまいますし、柔軟なために途中で社内の別チームから調整が入りすぎるみたいなことも。
曜日ごとや週ごとにある程度、標準のコンテンツスケジュールをつくることで、それらの負担はかなり軽減しますし、調整する際も「木曜日の新しいニュースを取り上げる日に盛り込もう」といったように指針が生まれて調整がしやすくなります。
種類を明確に分けることで、PDCAも回しやすくなりますね。
――「2. 構成テンプレートを決める」について具体的に教えてください。
構成テンプレート化も同じです。0から構成を検討すると、検討項目や考慮項目が多すぎて工数がかかってしまいますし、実際にデザイナーさんに依頼をする際のすり合わせも都度発生してしまいます。
構成を決まったテンプレート・パーツにすることで、負担が軽減し、マイクロコピーやボタンデザインなど、より遷移数に直結するUI改善にも取り組む余裕が生まれます。
ECのプロとして菊池氏が意識していること
――ECのプロとして、実際にどんなことをサポートすることが多いですか?
ここまでにお話したような運用の「標準化」「規格化」はもちろん、日々数値進捗を確認できるような管理シートの作成みたいなことも提案しています。
「パラメーターの名付けルールをどうするか」「メール配信ツールからダウンロードしてきた配信実績データをどうGoogle Analyticsをはじめとした自社データにひも付けて成果をみるか」みたいな運用上のすごく細かいタスクの知見やTipsって、案外事例がネットなどに転がってないんです。
そういったことに手が回っていない、見直しできていないといった場合は、まず日々正しく数値進捗が更新できる状態をつくるためのサポートを行わせていただいています。
――サポートにおいて意識していることはなんですか?
運用のボトルネックを発見し、解消するための提案であればなんでも行うことですかね。
自分自身、運用担当としての経験があるので、小さなことであっても「大変だろうな」みたいなことに気がつくので、そういったことは積極的に自分からお声掛けをしています。運用において、複数の観点で柔軟性を持った提案をすることも意識していますね。
たとえば、メルマガの構成テンプレートを改善する場合には、運用の工数削減、デザイナーさんとのコミュニケーションコスト削減、成果への影響など、それぞれのニーズやWANTのバランスを鑑みてチームに取ってより良い選択肢を模索します。
――最後に、菊池さんの目標についてお聞かせください。
私自身、インターネットによって選択肢が増えたことや世界が広がったことが今のキャリアを築いていくきっかけになりました。これからも、素敵な選択肢が日本中・世界中の人々にきちんと届いていくように、力を尽くせればなと思っています。
直近だと、「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」や「景品表示法」について、きちんと学びたいなと思っています。
法令を順守した適切なコミュニケーションを提案したいということももちろんありますが、その一方、いろんな場所でサポートをさせていただくなかで「よくわからないから念のためやめておく」みたいな場面に遭遇することもよくあるんですよね。
商品の魅力を最大限訴求でき、消費者の不利益を招かない、理想的なコミュニケーションのためにルールを改めて勉強していければと思っています。