通販新聞 2015/2/24 10:00

グループで「ジャーナルスタンダード」や「イエナ」など複数の衣料品ブランドを展開するベイクルーズのEC事業が好調に拡大を遂げている。前期(2014年8月期)のEC売上高は前期比46%増の121億円だった。順調に伸長する業績の背景には大きく3つの要因があるようだ。

成長要因は「商品供給の強化」「データと在庫の連携」「好調な自社通販サイト」

ベイクルーズのEC拡大の要因として1つ目に「商品供給の強化」が挙げられる。同社取締役ICT統括の村田昭彦氏は「もともと一番の問題が機会損失が大きいことだと考えており、商品供給体制を2年程かけて見直した」と説明する。

以前は各ブランドの戦略に沿う形でECでの展開方法が決まっていたが、ECとしてどこを目指して、何をするか目標を明確にする必要があった。加えて、バラバラだったEC業務の運用を平準化し、ブランドごとのノウハウを共有することに取り組もうとした。そのためにブランドごとにそれぞれEC担当者がいたのをまとめて、EC専門の部隊を組織した。

そして商品供給の強化に着手した。それまでは各事業部の裁量に任せる格好でECでの展開型数にもバラつきがあったが、KPIを設定し、在庫の初期配分や期中フォローを見直した。最適な在庫量を設定して細かくチェックした。「しかるべきKPIを設定して見直しを行ったのが一番大きかった」と村田氏。

2つ目のEC拡大要因は「データと在庫の連携」。同社は13年11月から自社通販サイト「スタイルクルーズ」と出店先の仮想モールとの間で、商品データと在庫を連携させる取り組みを開始。ベイクルーズ側でサイトに掲載する画像データなどを作成して連携先の仮想モールに提供するほか、商品は自社倉庫に保管して在庫情報を一元管理する。

これにより自社通販サイトと連携するモールとの間で1点でも商品が残っていれば、連携するすべてのサイトで在庫が表示されるため、機会損失の低減につながるというわけだ。村田氏によると、在庫連携しているところに関しては「すごい売り上げが伸びている」とし、データと在庫連携取引に手応えを感じている。

ベイクルーズのEC拡大要因の3つ目が「好調な自社通販サイト」だ。同社のEC売上高121億円のうち自社ECは前期比77%増の42億円で推移。自社通販サイト「スタイルクルーズ」(=画像)では特にスマホの伸びが顕著で、77%増で伸びたうちスマホだけを見ると177%増となっている。

ベイクルーズの自社通販サイト「スタイルクルーズ」

スマホがここまで伸びている背景には同社が数年前から進めているシステムの内製化により、スマホの細かい改修のスピードが上がったことが挙げられる。

例えば「お気に入り」に登録している商品が値下がりしたらメールで通知する“値下げ通知機能”を実装。セール前に「お気に入り」登録をすると値段が下がるたびに通知が行くため、同機能経由の集客とコンバージョンは良かったという。スマホではこうした細かい機能改善を頻繁に行っている。結果、直近では自社EC売上高のうちスマホが約7割を占めている

もっとも、前期の自社ECでスマホ経由の売り上げが177%増とはいえ、パソコン経由での売り上げも伸びており、パソコンとスマホ双方のデバイスで規模を拡大している。

さらに自社通販サイトでは店舗スタッフによるコーディネートスナップの投稿を簡単にできるように工夫した。従来は写真を撮影する部隊が各店舗を回っていたが、店舗スタッフが画像を撮影してアップロードするという作業に特化したアプリを社内向けに開発した。

これによりスタッフは店頭に配布されている「iPad」を使ってコーディネートを撮影し、画像を簡単に投稿できる。これまでは商品のタグを見て品番を打ち込んでいたが、バーコードスキャンによって品番を即座に読み込める。同アプリの開発によって「現場スタッフはコーディネート力や提案力を持っている。なるべくいろいろなコーディネートを撮って投稿してもらう」(村田氏)というのが狙いだ。

コーディネートは閲覧される機会も多く、アクセス数が増えるとそれに伴って、通販サイトのページビューやトラフィックが増えていく。そのため提案する頻度を増やし、通販サイトの閲覧や店頭への送客などにつなげる狙いだ。

在庫連携の実現で売り場を広げる

※この記事は2月5日発売号、同12日発売号の記事を1本にまとめています。

前号(2月5日発売号)ではベイクルーズのEC拡大の要因として3つのキーワードを挙げたが、今回はその中の「データと在庫の連携」という点に着目し、同社の取り組みを見ていく。

データと在庫の連携は2013年11月から始まった。

自社通販サイトである「スタイルクルーズ」と出店している仮想モールとの間で連携を進めており、今は「スタイルクルーズ」と、「マガシーク」「マルイウェブチャネル」「セレクトスクエア」「アイルミネ」の4つの仮想モールで共通のデータと在庫を使っている。ECで一番の売り上げを占める「ゾゾタウン」だけはデータも在庫も別。つまりEC在庫は2つ(自社とゾゾ)を抱えているという状況だ。

自社通販サイトと仮想モールとでデータを連携することのメリットは、例えば今まではモールに出店する場合に管理画面の運用方法を覚えたり、在庫を振り分けたり、売上動向を見ながら在庫を移動させるといった業務が発生していたが、そうした手間がなくなった。同社取締役ICT統括の村田昭彦氏は「連携するかしないかの選択だけをすれば同時にスパッとできる」と述べる。

連携により業務効率も上がっている。それまではそれぞれのモールの管理画面を開きコピーしてから別の管理画面にペーストしていたが、その作業がなくなった。また、画像のクオリティーもベイクルーズ側でコントロールすることにより向上した。

そうした連携の結果、今期初(14年9月~)から12月までで、EC全体の売上高は前年同期比40%増で推移しているが、データと在庫連携をしているサイト(ゾゾを除いた自社通販サイトと4つの仮想モール)は同67%増で伸長しているという。

在庫一元化によって機会損失が減ったことに加え、モールに各ブランドが出店しやすくなったため、以前よりも出店数を増やしていることが好調を後押ししている。

オムニ化推進へ全社で在庫連携

ベイクルーズの在庫連携の取り組みはECに限ったものではない。同社が思い描いているのは店舗とECを合わせた全社レベルの連携、つまり“オムニチャネル化”だ。

例えば自社通販サイト「スタイルクルーズ」では、その商品をどこの店舗で扱っているかがわかるようになっているが、店舗には商品があるにも関わらずEC在庫は完売になっていることがあり、同社が実施しているアンケートで毎回不満の声が挙がるという。そこで店舗にある場合はサイトを通じて取り寄せ購入ができるような仕組みを作る。同社ではそれだけでもかなりの売り上げ向上効果や顧客の不満解消につながるとみている。

今後は全社の在庫データを一元管理し、そのデータを活用してECに限らずどこからでも商品を引き当てることができるようにしていく。これについては「仕組みを構築しているところ」(村田氏)としており、この仕組みにより店舗の負担軽減と顧客の手間を除いていく。そのためには顧客データの統合なども必要になり、完全実施までには1年程度掛かるという。

同社がオムニ化を進めていく上でのキーワードは“スマホによる顧客接点の拡大”。「お客様とコミュニケーションできるデバイスはスマホが中心になる。ここで接触できなければ完全に負け組になる」(同)としている。自社ECを軸にしながらスマホ経由の顧客接点を拡大させることで、オムニ化を進めていく方針だ。

ベイクルーズの自社通販サイト「スタイルクルーズ」のスマホサイト
「スタイルクルーズ」のスマホサイト

このようにオムニチャネルへの準備を進めているベイクルーズ。今期の売り上げ見込みはEC全体で前期比28%増の155億円、うち自社ECは同43%増の60億円となっている。第1四半期が終わった段階で想定通りに進んでいるとのことで、今期も拡大は続いていきそうだ。

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