はぴさや 2015/6/15 8:00

「ネットショップの裏側」をテーマに、色んなお店やサービスの裏側を探検しているこのコーナー。今回は「データセンター」です。データセンターとは絶えることなくサーバーを動かすための、さまざまな設備を持つ施設のこと。え? 商品はないのかって? いやいや、お店のサーバーを守り続けるデータセンターこそ、本当のネットショップの裏側じゃないですか!  写真◎吉田 浩章

……なんて言ってみましたが、実は「データセンターって…なに?」という状態だった私。お話をいただいたときは不安でした。でも、われわれ取材班に交通費とお弁当を支給してくださるとおっしゃるのです! 連載11回目にして、ついに企業さまからご招待を受ける日がやって来ました! うれしい!

というわけで、はりきってやって来たのは福島県白河市。ここはIDCフロンティアさんの白河データセンター

IDCフロンティアさんは、データセンターとクラウドサービスを提供している会社で、首都圏、北九州など、全国に9つのデータセンターを運営しています。Yahoo! JAPANグループなのでYahoo!ショッピングに出店している方にはゆかりのあるデータセンターです。

実は、今ご覧のネットショップ担当者フォーラムのサーバーもIDCフロンティアの有明データセンターにあるんです。(詳しくはWeb担当者Forumのこちらの漫画をご覧ください)。

ここ白河データセンターは、2012年10月に1号棟が竣工し、2014年6月に2号棟が稼働しました。約6万台のサーバーを収容できる能力があるそうです。

白河データセンターの外観

白河データセンターの外観。屋根にポコポコと建っている「煙突」が、この建物の鍵を握っています。

白河データセンターのエントランス
メタリックで近未来的な受付スペース。
書類に名前を記入
入退室管理は厳重です。まず身分証明書として免許証を提出し、書類に名前を記入します。
静脈認証装置
さらに静脈認証装置に静脈を登録。初めての体験!
入館カードと指静脈のデータを紐付け
入館カードと指静脈のデータを紐付けして入館手続きがやっと完了。

外気空調データセンターって何?

データセンターの戦いは熱との戦い。サーバーは熱を出しますが、熱は故障の原因にもなるので、サーバーを設置している部屋の冷却が必要です。従来型のデータセンターは、大きなエアコンで部屋全体をガンガン冷やしていますが、この建物はまったく別のアプローチを取っていて、建物全体がエアコンのようになっているのです。「外気空調データセンター」と言うらしいのですが、どういうことなんでしょうか? IDCフロンティアの山下さんと市川さんにお話をうかがいました。


株式会社IDCフロンティア 経営戦略本部 山下 淳治さん
株式会社IDCフロンティア 経営戦略本部 山下 淳治さん
株式会社IDCフロンティア 経営戦略本部 本部長 市川 久浩さん
株式会社IDCフロンティア 経営戦略本部 本部長の市川 久浩さん
「ここは建物の横から涼しい空気を吸って、上から熱い空気を逃がす設計になっています。外気空調の仕組みそのものは、弊社が2008年に建てた北九州のデータセンターで国内で初めて取り入れた仕組みで、空調の消費電力の約4割を削減できました。この白河では設計そのものから見直し、空調の年間負荷の9割を外気で冷やすことができています」(山下さん)

建物全体が空調機みたいに呼吸しているんですね。そういえば外観もエアコンみたいです。

データセンターのエネルギー効率を表す「PUE」(Power Usage Effectiveness)という指標で、白河データセンターは約1.2という値だそうです。これは、サーバーが消費する電力1に対して、それ以外の空調や照明などの消費電力が0.2という意味。一般的なデータセンターはPUEが2.0くらいと言われているので、白河データセンターはエネルギー効率がとても良いデータセンターなんですね。

山下さん
「時代と共にコンピューターの性能は上がるけど、コンテンツは写真や動画などリッチになっていくからデータ量は増える一方。だからデータを保存するサーバーもたくさん必要になり消費する電力も増えていきます。それらを維持するため空調などの消費電力が少ないデータセンターが、効率の良いデータセンターなんです」と山下さん。スライドで分かりやすくレクチャーしてくださいました。

ところでなんで場所が白河だったのでしょうか?

「まず、外の空気を取り入れますから冷涼な気候であることですね。次に、電力供給事業者を分散する必要があることから、データセンターの集中する東京電力管内を避け東北電力管内であること。さらに、ここはネットワークの応答時間が3.5ミリ秒で東京郊外と同等です。白河には新幹線や高速道路などの社会インフラが走っているためネットワークの接続拠点にも近く、応答時間を速くするには有利なんです」(山下さん)

データセンターは災害時にも動き続けなければならないので、新たなデータセンターを作るには、地盤や災害の危険度など、さまざまな条件をクリアしなければなりません。また、各地のデータセンターは光ファイバーでつながっているけど、光ファイバーは新幹線や高速道路に沿って敷設されていることが多いので(知らなかった!)、両方とも近くにある白河は、データセンターを作るのにピッタリな場所だったようです。

呼吸するデータセンターの秘密

では実際に中を見せてもらいます!

サークルゲートと静脈認証装置
いよいよサーバーエリアへ。再び静脈認証装置と入館カードをピッ!
サークルゲート
サークルゲートをくぐります。「共連れ」防止のため1人ずつしか通れません。
センサーがある場所
ここは外気の通り道で空調のセンサーなどもたくさんある場所。左側がサーバールーム、右側は外壁に接しています。
センサー
この小さなセンサーが、温度と湿度を感知します。センサーが「暑い」と判断すると……
ルーバー
ずずずずーっとルーバーが開いて……
ファン
サーバールーム側の壁に取り付けられたファンで外気を吸い込みます。このファン自体も電気を消費するので、効率よく回転数も制御されています。
ルーバーが開いた
外の空気が入ってきます。空調の制御パターンは、外気・還気・冷却・再熱・加湿・除湿をさまざまに組み合わせた6種類もあるそうです。変化する気候をうまく利用して、常に暑すぎず寒すぎない、データセンターとして理想的な温度湿度を維持し、サーバーが健やかに稼働できるように守っているんですね!
どのくらいの風が入ってくるかはこちらをご覧ください。
サーバールーム
冷たい空気はサーバールームに流れ込みます。この通路全体はヒンヤリしています。
扉を開けるとこんな感じ
扉を開けるとこんな感じ。それぞれのサーバーには吸気口がついているので、前面から冷たい空気を吸い込み排熱を後ろ側から出しています。
IDCFクラウドのサーバー
ちなみにこちらは2014年10月に登場した「IDCFクラウド」のサーバーとストレージ群の一部です。シンプル&パワフルをコンセプトにしたIDCFクラウドについての詳しい情報はこちら
ホットアイル
他の通路に移動するとサーバーの背面が向けられていて、熱い空気が排出されています。扉で仕切られている通路全体がもわっと暑い! 床がグレーチングでスケスケ。
ホットアイルの天井
見上げると天井(というか、上階の床)もスケスケ! こうして熱い空気の通り道になっているのです。涼しい部屋と暑い通路は交互に配置されていて、熱い空気を天井の煙突状の部分に導きます。
ホットアイル上階
さらに上の階に行ってみると屋根が見えてきます。
煙突近く
はしごを登って煙突の近くまで行ったとこころ。この煙突は屋根で覆われていません。雨は通さず風だけを通す、特殊な形をした「排気ガラリ」があるだけなんです。
煙突外観
煙突部分を外から見るとこんな感じ。

一瞬たりとも電気を途切れさせないための備え

データセンターの使命と言えば、サーバーが稼働し続けられるように、とにかく電気を途切れさせないこと。そのための無停電電源装置非常用自家発電機を見せてもらいました。

分電盤
分電盤だけでこんなにたくさんあるんです! ここからサーバーが詰まっているラックへ、電力を列単位で供給しています。
無停電電源装置
一面に並ぶ黄色い装置は無停電電源装置。このフロアだけでもおよそ2,700個のバッテリーが入っているそうです。もし停電があっても、途切れることなくこの装置からの給電に切り替わるため、サーバーがダウンすることはありません。監視カメラで見たときに分かりやすいように、フロア単位で綺麗な色に塗り分けているそうです。
非常用自家発電機
所変わって屋外へ。ズラリと並んだ四角い箱。これは非常用自家発電機。無停電電源装置のバッテリーから電力を供給している間、約40秒でこの発電機が起動し、2分後には発電機経由の供給に切り替わります。これらはすべて自動で行われるそうです。
非常用自家発電機 上から
屋上から見るとこんな感じ。なんだか可愛い……。
非常用自家発電機の点検
いざという時にしか働かない発電機ですが、そのいざという時に動かなかったら大問題。だから毎月起動して点検しているそうです。この日もちょうど点検日。1回起動するだけでも大量の燃料を必要としますが、安全のためのには仕方ありません。
非常用自家発電機 開けたところ
これが発電機の中身です!
とにかく轟音
動き始めると、とにかく、もーのーすーごーい音なんですー!
離陸する飛行機かと思うほどの爆音をお楽しみください(音量注意!)
特別高圧受電設備
この重厚な設備は特別高圧受電設備。6万6,000ボルトの高圧電線が変電所からダイレクトに来て、電気を供給しているのです。

ほかにも、火災に対する備えとして超高感度煙検知器があちこちに設置されているそうです。これは、「コードのビニール被覆が熱くなって焦げてきました」程度の、ごくわずかな煙まで検知するそうです。

消火はサーバーを傷めない窒素ガス消火設備が用意されていますが、幸い、実際消火が必要になったことはありません。

サーバーはまだまだ増やせます

広ーいデータセンター内を歩いてきましたが、ほとんど人の気配がしません。データセンターってそれぞれの企業のシステム担当者の人が出入りするのかと思いましたが、サーバーの設定やエラーの監視などはほとんどリモートで対応できるそうです。

内部廊下
人の気配はないけど、集中管理室で24時間365日有人監視。監視カメラもあちこちにありました。
内部廊下
白河データセンターを守っているみなさん。前列右より、センター長の治部さん、オペレーションサービス部の柏さん、ファシリティエンジニアリング部の吉田さん。後列は施設管理、運用、警備スタッフのみなさんです。 写真◎IDCF
増設予定地
いまは2棟ですが、6棟まで増設できるそうです。増設を待つ空き地はシロツメクサが咲いていて、花畑のようにきれいでした。
♡♡♡

一般の人が絶対に入ることができないこの場所。ネットワークの秘密基地を探検する機会をいただいて、これまでになく何か神聖なものに触れるような感覚。頑丈なセキュリティーの向こうに、どんな世界が広がっているのか……とにかくドキドキな取材でした。

写真の通り、どこもかしこも無駄のないスッキリとしたデザインで、まるで宇宙船のようなセンター内。建物全体が呼吸をしているようなその場所で、お客さまのデータを確実に守るため、365日24時間、徹底した管理がなされていました。

「設計・施工・空調など、それぞれの領域のプロフェッショナル企業と弊社で、それぞれ知恵を出し合ってできた建物なんです」

山下さんのこの一言に、日本の高い技術の集大成を感じました。

私たちが普段、ネット上でたくさんの情報を得られるのも、ネットショッピングできるのも、SNSで友だちとつながれるのも、“止まらない”ことを使命に、絶えず動き続けるデータセンターがあってこそ。

データセンターに未来を支えてもらって、もっともっと生活が豊かになるようなサービスがネット上に生まれてほしいなと思います。

山下さん、市川さんと

動画でもレポートしています。こちらもご覧ください!

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