【詳報】中国で始まった越境ECの新税収制度。増税? 減税? 日本企業への影響は?
中国の財政部は越境ECに関する税制度改革を断行し、4月8日から新たな制度をスタートさせることを公表しました。制度改革の中身は、中国の消費者が越境ECサイトで商品を購入した場合、しっかり税金を徴収することを宣言したもの。商品によっては実質増税になったり、減税になるケースがあります。
「税制度改革=中国向けECが冷え込む」といった悲観的な考えは持たない方がいいでしょう。新制度には、中国政府自身が越境ECという新たなビジネスを活用し、税関の検閲がきちんと届く範囲内で暫定的に海外商品を国内に流通させる仕組みを提供するという側面があります。つまり、中国政府が「越境ECに力を入れていきます」と宣言したと前向きに捉えるべきです。今コラムでは、4月8日から始まる中国越境ECの税制度をわかりやすく解説します。
【最新版】5分でわかる中国の新越境EC制度。押さえておくべき重要ポイント
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越境EC税制変更の6ポイント
- 1度の購入金額上限は2000元までに引き上げる(現状は1000元)
- 1人の年間購入金額の上限は2万元(現状通り)
- 購入金額の上限以下の購入商品に関し関税率は0%にする。ただし、上限金額を超える場合は、一般貿易と同じ税率を適用する
- 輸入に関する増値税を30%減額し、全てに適用(増値税17%×70%=11.9%)
- 消費税がかかる場合(商品によっては消費税がかかるケースがある)、30%減額で適用する(消費税30%の商品の場合、30%×70%=21%)
- 行郵税を廃止し、現状の個人輸入関税50元までの免税措置を廃止
「行郵税」が廃止され、免税範囲がなくなることが大きな変更点となります。商品によっては実質減税となったり、増税となったり……。詳しい内容を、現状の制度を踏まえて見ていきましょう。
新制度を理解するために現状の運用状況を理解しよう
「行郵税」「増値税」……中国の税制度って日本人にはなじみのないワードがあって難しいですよね。言葉を解説すると、主に中国では物販(海外からの輸入)において下記の税金が発生します。
中国越境ECの税制度で必要なワードを抑えたところで、まず現状の体制を解説。
中国向けに商品を送る場合は「一般貨物」「個人輸入」の2通りに分類されます。「一般貨物」は、企業から企業に荷物を送る、「個人輸入」は中国の消費者が海外のECサイトで購入、といったイメージです。
- 一般貨物の場合……貿易としての扱いになり、中国に輸入する際は「関税」「消費税」「増値税」の3種類の税金が課せられる。商品検査、植物検査、衛生検査を受ける必要がある。
- 個人輸入の場合…郵便物や手荷物などに対する管理が対象。「行郵税」が課せられる。自己使用や合理的な数量ではないと判断された場合は、貨物としての扱いになる。
一般貨物の場合、多くのケースで中間流通分のマージンが販売価格に転嫁されます。「関税」「消費税」「増値税」に加えて、流通分のコストなどが上乗せされるので、最終的には越境ECで購入した方が安い、という構図になっています。
また、課税額が50元以下であればその取引は免税になるという規定もあり、「一般貨物」と「個人輸入」の価格差が生じていました。なぜ中国政府が越境ECの税制改革を始めるのかは、次の通り。
越境ECの取引は貿易の属性が備わっており、「行郵税」を徴収しても全体的な税負担が、国内販売されている一般貿易輸入貨物や国産貨物の税負担レベルよりも低い。不公平な競争を形成した。これにより、政策として越境EC小売輸入商品に対して貨物に応じて「関税」「増値税」「消費税」を徴収する。(中国の財政部の発表を要約)
越境ECの新たな制度は実質的に増税? 減税?
繰り返しになりますが、「行郵税」が廃止され、免税範囲がなくなることが大きな変更点となります。これが、今後の中国越境ECに“悪影響”を与える可能性が高いといわれています。
しかし、この新制度すべてが“悪影響”となるわけではありません。
- 「行郵税」率が20%のアパレル、ファッション、電化製品など ⇒ 250元以上の商品(直近レートで約4300円以上の商品)は実質減税
- 「行郵税」率の高い(50%)の化粧品類 ⇒ 100元以上の商品(直近レートで約1700円以上の商品)は実質減税
たとえば、従来制度では「行郵税」が適用されない課税金額50元以下の取引について、改正後は値上げとなる可能性が高いでしょう。個人輸入関税50元までの免税措置が廃止され、その分、他の「関税」「増値税」などが適用されますので。
一方、上述したアパレルやファッション、化粧品類などは実質減税となります。高額品は納税額が減りますので、中国からの購入が増える可能性がありますね。
気になる影響は?
制度が変わることで、日本の事業者はどのような影響を受けるのでしょうか。その辺りをまとめてみました。
Q. 越境ECの消費は冷え込む?
新制度で今までよりも減税となる250元以上のアパレル、ファッション、家電製品、100元以上の化粧品などに関しては販売が伸びるでしょう。また、購入上限の引き上げも(1000元 ⇒ 2000元)好影響となると考えられます。
Q. 低価格商品(免税範囲がなくなる商品および注文)への影響は?
実質増税になります。ただ、一般貿易に課せられる税率とは差があるため、引き続き越境ECのメリットは大きいと考えられます。
Q. 直送モデルへの影響は?
1回あたりの取引限度額が1000元から2000元に引き上げられます。そのため、個人輸入貨物の検査が強化されることが考えられます。今回の制度改正で、すべての越境ECの流通に対して課金が可能になるため、より直送商品に対する課税(検査)が厳しくなる可能性があります。
⇒ 上記に連動して、代購(代理購入ビジネス)も厳しくなる。
⇒ 越境EC制度を導入した理由の1つが、課税を免れる直送モデルの越境ECの取り締まりであるため。
⇒ 日本からのEMS配送(直送モデル)に関し、税関検査強化による遅配および通関差し止め、ユーザーの関税支払拒否によるキャンセルなどが増えている。
Q. 保全区の活用から直送モデルにシフトする?
直送に一部シフトするという見方もあります。高い送料(EMSなど)や長い配送日数(最近、特によく税関で止まるのです)を考えると、保全区活用から直送へシフトするとは考えにくいでしょう。
2016年6月1日から、中国向けEMSの料金値上げ(例:1kg1800円⇒2100円)などもありますから。
Q. 一般貿易に移行するケースが増える?
一般貿易と関税の課税に関しての差は縮まりました。しかし、それ以外の「商品申請費用」「申請資料」の作成の手間、「中間流通業者利益」などを考えると、まだまだ越境ECモデルの方が有利です。今まで通り、直送に加え、保税区を活用した越境商品は流通量が拡大すると考えられます。
新制度は中国政府が「越境ECに力を入れる」と宣言したに等しい
中国政府(税関)は、直送による税金逃れを防ぐための解決策として、保税区など越境ECスキームにおける各制度を施行してきました。その仕組みの認知度が上がり、利用企業も拡大。インフラとして完全に定着したこのタイミングで、もともと志向をしていた「海外からの越境ECに対しての全課税」という目的を実行したと思われます。
「行郵税」免税制度(個人輸入関税50元までの免税措置)に関しては、国からの一次的な施策であったため、いずれは全てに課税することになると当初から想定されていました。ただ、導入当初は、その認知度向上と利用率の向上のために、免税制度(行郵税50元以下免税)を提供していた訳です。
あくまで、中国政府の越境ECにおける制度は、「課税を免れる直送モデルおよび、中国で巨大な市場(流通量)となっている代理購入(代購)の排除」であるという立場から考えると、今回の制度によって、今後、直送モデルや保税方式が越境ECの主流から外れることはないと考えられます。
ただ、一律で課税を行うことで、直送商品に対する検閲の強化が実施されることが予想されます。
別の角度から見ると、今回の施策で、中国政府が越境ECに対し、長期的に本気で取り組む姿勢を感じ取ることができます。
中国は一般貿易における検閲制度・申請制度が大変厳しいことで有名です。この正規通関での海外からの商品流入に対しての検閲・審査基準を下げるのではなく、回避策として、中国政府自身が越境ECという新たなビジネスを活用して、税関の検閲がきちんと届く範囲内で暫定的に海外商品を国内に流通させる仕組みを提供するという側面があります。
今後、中国への商品販売の拡大をめざす日本企業は、こうした仕組や中国政府の目的を把握しておく必要があります。