瀧川 正実 2014/7/18 14:00

テレビ媒体を中心に、ネット通販、カタログ、ラジオなどさまざまな媒体を使うメディアミックス戦略で、通販・EC業界を代表する企業を築いたジャパネットたかたの高田明社長。独特の口上で多くの視聴者を魅了した稀代の商売人は、2015年1月16日に社長の座を退く決意を固めた。一代でジャパネットたかたを全国規模の企業まで育てた高田社長の原動力は「挑戦する気持ち」。商いにとって必要なチャレンジスピリット、大切にしてきたこととは・・・。7月に都内で講演した高田社長が全国の企業家にメッセージを贈った。

 

ジャパネットたかたは2010年12月期に1759億円という過去最高の売上高を達成したが、その後は2期連続の減収。2012年12月期の売上高は1159億円まで落ち込んだ。2012年12月期の経常利益は2011年12月期比で約半減。こうした負のスパイラルに陥った状況で臨んだ2013年。2期ぶりの増収を果たし過去最高となる経常利益を計上、V字回復を果たした。

こうした高田社長の経営手腕が評価され、企業家ネットワークが主催する「年間優秀企業家賞」で企業家大賞を受賞。7月14日に都内で行われた授賞式で「人生は挑戦の連続」と題した講演を行った。その一部を抜粋して紹介する。

約600億円の売上減少、原点に戻ったからこそできたV字回復

ジャパネットたかたの高田明社長

高田明社長は自らの経験を踏まえ、講演中、原点に帰ることの重要性を強調した

昨年、会社の業績が落ち込んでいた。しかし、私は悩んでいなかった。なぜなら、私は(現実を)受け入れるタイプの人間だからです。消費増税やリーマンショック・・・企業はこうしたことも受け入れていかなければならない。消費増税後は(業績などが)落ちるのは当たり前。それを前提に、「今後どうするのか」ということを考えた方が早道だ。「大変だ大変だ」と言っても何も解決策は出てこない

しかし、人間はそうした時にマイナス思考が出てくる。私の考えですが、できる理由を考えれば結局、何事もできると思うんですよ。できない理由を考えればたくさん理由が出てくる。そうすると、できないことばかりが頭を占めていきます。できないことは置いておいて、どうしたらできるようになるかというのを考えたのが昨年のことだった。

2010年はテレビが好調で、1日に1万台も売れた。2010年12月期の売上高は1759億円で過去最高を記録。その後、エコポイントの終了などの影響を受けて、売上高は3割程度落ちると思っていたが、2011年12月期は1540億円まで減少。さらに2012年12月期の売上高は1170億円まで落ち込みました。ピーク時と比べて約600億円も売上高が減ったのです。

2012年12月期に、経常利益が前の期の136億円から72億に下がった。利益は半分程度の落ち込みでだったが、これはいけないと感じた。その時、「(2013年12月期に)過去最高利益を達成できなかったら社長を辞める」と社内向けに言ったところ、メディアを通し広がってしまいましたが。結果として2013年12月期の売上高は1425億円、経常利益は過去最高となる150億円を計上することができました。

私は業績が落ち込んだ時、心配はしなかった。売上高が過去最高となった2010年、100万台も売れたテレビの売上高だけで960億円もあった。一方で、テレビが売れなくなった2013年に過去最高益を達成した。これは奇跡でもなく偶然でもない。必然のことだった。

「やると信じること」「現実を受け入れること」を前提に、(業績が回復した要因に)重要な点が2つある。1つは絶対にリストラはしないと決めていたので、東京にオフィスを構えた。減収減益のときに東京・六本木にスタジオを作ったのです。もう1つは原点に戻るということ

会社は成績が悪くなると、新しいことすぐに考てしまいがち。当時の私たちには、テレビの他、冷蔵庫や洗濯機、掃除機など売る家電はいろいろあった。1759億円の売り上げを計上したとき、テレビは力を入れて売っていたが、他のモノはあまり積極的ではなかった。社内からは太陽光など新しい商材を販売しようという声も上がっていました。

いろいろと案が出てきましたが、私たちは家電の中でも、白物家電に力を入れることを決めた。年間750~800万台消費されている白物家電ですが、私たちはたった2万台程度しか販売できていませんでした。白物を売っていく・・・ジャパネットたかたの原点に戻ればいいじゃないかと考えたのです。

こうしたことはビジネスにおいてすごく大事なことだと思うんです。新しいことをやるだけが改革・革新ではない。今までやってきたことをコンバインし、新しいものを作り上げていくことを学んだ。自分たちのビジネスを振り返った時に、最善のことを本当にやっているのか――。原点に戻ってみるということは、新しいことを始める以上に大事なことではないでしょうか。

生き残るためには変化を創り出す、変化を創造するということが重要

ジャパネットたかたの高田明社長

高田社長は変化対応ではなく、変化を創造することが必要だと企業家にメッセージを贈った

できることを待つのではなく、市場は自ら作り出していくものである。4~5年前までは変化対応しなければ、企業は生き残れないと言われていました。しかし、それでは今はダメです。変化に対応しても生き残れない。それ以上に変化の方が早いからです生き残るためには変化を創り出す、変化を創造するということが重要です。そうしなければ、今の時代生き残っていくことは難しくなっている。

ビジネスでは「これだ」と思ったときに集中して投資する。これは非常に大事なことです。テレビショッピングで例えると、集中してコマーシャルに投資するとか。企業は常にやり続けることが重要になってきます。

モノ売りにとって大切なこと、それは想いを伝えること

私たちのビジネスは消費者との関係性の中で成り立っています。そのために必要なのが「伝える」といことです。私の経験ですが、伝えたつもりになっていたというときは必ず失敗していました。

企業はお金を儲けなければなりません。何で儲けないといけないのか?それは社会貢献ができないからです。利益を出して国に治める。それが橋や道路などに変わっていく。これは企業理念だけではできません。

どうすればお金を産む企業になれるのか。そのためには、消費者にどうすれば利用してもらえる企業になれるのか――これが企業理念の中で一番大事なことではないでしょうか。

私は販売する時、商品を使った時にどんな幸せがあるかということを語らなければならないと思っている。そのためにも語り続けていかなければなりません。伝えることは恋愛と一緒。好きな人がいれば一生懸命口説くでしょ。自分の言葉で心から伝えるから、相手に思いが伝わるのです。私はテレビショッピングで目や耳、感覚など五感で想いを伝えています。伝えるということはそういうことなんです。

スティーブ・ジョブズも言っていました。どんな素晴らしいサービスを作っても、伝えなければその商品は無いことと一緒。それは伝えるか、伝えないかの差です

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