自転車専門通販サイト「cyma-サイマ-」が独自ドメインのECサイトだけで年商20億円を達成した理由
ネット通販への参入から4年で年商20億円を超えた自転車専門のECサイト「cyma-サイマ-」。独自ドメインのECサイトのみで売り上げを急速に伸ばしてきた背景には、独自のビジネスモデルとマスメディアを活用した集客戦略、そして「Amazon Pay」を導入したことによる決済の利便性向上があった。「cyma-サイマ-」がこれまで取り組んできた施策とそれらの効果、独自ドメインでECを行う理由などについて、「cyma-サイマ-」を運営するエイチームのEC事業本部・斉藤洸貴氏(執行役員 EC事業本部長)、髙村友マネージャー( EC事業本部 自転車通販 cyma-サイマ- マネージャー)に話を聞いた。写真◎廣井誠(ヒロイフォトオフィス)
4年で年商20億円突破「cyma-サイマ-」のビジネスモデル
整備済みの自転車を、オンラインで売る。そのこと自体が「cyma-サイマ-」の特長であり、強みです。完成品の自転車を通販で売るのは、簡単ではありません。参入障壁が高いビジネスなので、価格競争に巻き込まれることなく、成長を続けることができています。
斉藤氏は「cyma-サイマ-」の売り上げが伸びている要因をこう説明した。
「cyma-サイマ-」は2013年12月にサービスを開始し、初年度の2014年7月期における売上高は3,200万円。以降の売上高は、3億5,600万円、12億1,400万円、20億100万円と拡大している。2018年7月期の売上高は、第3四半期末時点で19億7,800万円に達しており、通期売上高は前期を大幅に上回る見通しだ。
なお、営業赤字が続いているのは、市場シェアの獲得に向け、ラジオやテレビCMを活用した新規顧客の獲得やフルフィルメントの整備といった積極的な投資を続けているためである。
エイチームはスマートデバイス向けゲーム・ツールアプリの開発を手がけているほか、比較サイトや予約サイトなどを運営するIT企業。2013年夏、新規事業を模索する中で、自転車EC市場は拡大が見込めると判断し、参入を決めた。
当時、自転車のEC市場をリサーチしたところ、圧倒的な市場シェアを持つECサイトは存在しませんでしたので、この分野なら勝負ができると判断しました。(斉藤氏)
「cyma-サイマ-」の特長の1つは、整備済みの完成品の自転車をオンラインで販売していること。取扱商品は2万円前後のシティサイクルから、10万円を超える電動アシスト自転車まで幅広い。子供用の自転車や、スポーツバイクも扱っている。
物流倉庫は東海と関東、関西の3か所に所有。国内外から仕入れた200種類以上の自転車の在庫を持ち、自転車専門の整備士がハンドルやタイヤ、ブレーキ、ペダルなどを点検・整備して出荷する。この仕組みをここ数年で一気に整備した。
自転車のEC事業を拡大するには、仕入先の開拓やWebサイトの集客、フルフィルメントの強化といったECの一般的な業務に加え、自転車の整備士を採用したり、大型商品配送の物流網を整えたりすることが必要です。そこが普通の物販との違い。このビジネスモデルをいち早く構築できたことが、急成長につながりました。(斉藤氏)
独自ドメインで展開するのは「ブランドを認知してもらうため」
「cyma-サイマ-」はECモールに出店せず、独自ドメインのECサイトだけで事業を展開している。独自ドメインでEC事業に取り組む理由は「cyma-サイマ-」のブランド認知度を高めるためだという。
EC事業を開始した当初から、「自転車を買うなら「cyma-サイマ-」で」と考えるお客さまを増やすことを目標にしています。ECモールで買い物をするお客さまは、そのモールで買い物をしている意識が強く、店舗のブランドを認識しにくい。ECモールを訪れたお客さまがたまたま当店で買うのではなく、初めから「cyma-サイマ-」を選んでもらえるようにしたいのです。(斉藤氏)
「自転車の購入サイクルは5年くらい」(斉藤氏)とリピート期間が長いため、2013年末にオープンした「cyma-サイマ-」では、売り上げの大半を新規顧客が占めている。
独自ドメインのECサイトは、知名度が一定以上に浸透するまで、集客に大きな投資が必要になる。「cyma-サイマ-」を開設した当初から、ネットでの集客はリスティング広告を中心に展開。2年目以降はブランドの認知度を高めるため、マス広告にも着手した。
EC事業の規模が大きくなっていくなかで、ECサイトの知名度を上げるためにテレビCMやラジオCMも実施しています。自転車は、CMを見て衝動買いする商品ではありませんから、マス広告を展開してもコンバージョンへの即効性は低い。でも、いつか自転車を買いたくなったときに「cyma-サイマ-」を思い出してもらえるよう継続的に実施しています。(斉藤氏)
マス広告を積極的に展開していることもあり、EC事業の営業利益は現時点では黒字化していない。しかし、中長期的な事業戦略を踏まえ、当面は投資フェーズを継続する計画だ。
新規顧客の割合が高い「cyma-サイマ-」と親和性が高いAmazon Pay
初めて利用する独自ドメインのECサイトでは、クレジットカード情報を入力することに不安を感じる消費者は多い。そのため、新規顧客がECサイトにクレジットカード番号を入力するハードルが高いと言われている。また、スマートフォンではカード番号の入力ミスなどにより、離脱してしまうケースも少なくない。
特に現段階の「cyma-サイマ-」は、新規顧客が大半を占める。テレビCMやラジオCMといったマス広告をきっかけとした流入は多く、新規顧客に「簡単に購入できる」「買いやすい」「安心できる」といったカスタマーエクスペリエンス(CX)、安心・安全なセキュリティ環境を提供したいという考えを、ECビジネスの開始当初から持っていたという。
「cyma-サイマ-」で初めて買い物をされるお客さまの中には、ECサイトにクレジットカード情報を登録したくないという方もいらっしゃいます。また、画面が小さいスマートフォンは、入力フォームでの離脱も少なくありませんでした。(髙村氏)
こうした課題を解決するため、エイチームは2015年秋、Amazonの決済サービス「Amazon Pay」(当時は「Amazonログイン&ペイメント」)を導入した。
「Amazon Pay」とは、Amazonアカウントに登録された配送先住所やクレジットカード情報を使い、Amazon以外のECサイトでログインや決済ができるID決済サービス。初めて利用するECサイトでも、Amazonアカウントでログインすることでクレジットカード情報などを入力する必要がない。
カード番号をECサイトに入力する必要がない「Amazon Pay」は、新規顧客の割合が高い「cyma-サイマ-」と親和性が高い。初めて「cyma-サイマ-」を利用するお客さまのお買い物のハードルを下げるために「Amazon Pay」を導入しました。(髙村氏)
Amazon Payの導入、新規顧客獲得に手応え
「cyma-サイマ-」に「Amazon Pay」を導入した後、顧客へのアンケートにて「cyma-サイマ-」で購入した理由を聞くと、「Amazon Payがあったから」という項目を選択する顧客が少なくないという。
「cyma-サイマ-」では、クレジットカード決済や「Amazon Pay」を利用しない顧客の多くは、コンビニ前払いを選択している。ただ、前払いの場合、入金確認後に商品を出荷するものの、コンビニ前払いを選ぶ顧客の中には注文後に入金しない人もいるそうだ。
「Amazon Pay」を導入したことで、それまでクレジットカード決済をためらっていた新規顧客による利用が増えてきていると感じています。(髙村氏)
「Amazon Pay」の導入によって、コンビニ前払いを選択する消費者の割合が低下。キャンセル比率の減少にもつながり、「Amazon Pay」の導入は全体的な注文件数の増加に寄与している。一方、未入金によるキャンセル扱い注文の業務処理にも効果があった。入金管理などの業務負荷の軽減にもつながったのだ。
コンビニ前払いの利用割合が下がったことで、受注後のキャンセルの割合も下がりました。それによって、担当者の業務負荷も軽減されています。これも即時決済できる「Amazon Pay」のメリットの1つです。(髙村氏)
数ある決済手段の中から、なぜ「Amazon Pay」を選んだのか?
エイチームが数ある決済サービスの中で「Amazon Pay」を選んだ理由は3つあるという。
1つ目は、Amazonの信用力が購入の後押しになると考えたこと。Amazonが提供している決済サービスなら、消費者でも安心して利用できると判断した。
2015年当時、まだ知名度が低かった「cyma-サイマ-」にとって、Amazon Payを導入すること自体が、サービスに対する安心感や使いやすさにつながると考えました。(斉藤氏)
「Amazon Pay」を選んだ理由の2つ目は、決済手数料に魅力を感じたこと。「Amazon Pay」の決済手数料率は決済金額の4%(デジタルコンテンツは4.5%)で、「他のID決済に比べると安い」(斉藤氏)と言う。
そして3つ目の理由として、「Amazon Pay」のCXが良いと感じたことも導入の決め手となった。
購入までのフローがシンプルで、画面遷移もないので顧客の利便性を損ねることなく決済が完了します。お客さまにとって使いやすということが、「Amazon Pay」の魅力です。(斉藤氏)
将来は音声注文にも対応したい
「cyma-サイマ-」は今後、音声注文を活用していくことも検討しているという。この点で、「Amazon Echo」シリーズを始めとするクラウドベースの音声サービス「Amazon Alexa」を搭載したデバイスにも期待を寄せている。
商品をカートに入れた後、決済や住所入力を音声で行えると、さらに利便性が高まると思います。弊社はもともとITの会社ですから、テクノロジーで通販を便利にしていく取り組みを実現していきたいです。(斉藤氏)
Amazonは7月に、「Amazon Echo」シリーズを始めとする「Alexa」搭載デバイスに話しかけることで、日本赤十字社に声で寄付ができる取り組みを始めたと発表した。これは、「Amazon Pay」を利用することで、「Alexa」で日本赤十字社への寄付が可能になる日本初のAlexaスキルの提供により、実現されている。
斉藤氏が期待する「cyma-サイマ-」による“音声ショッピング”の実現は、そう遠くはないのかもしれないと推察される。
「Amazon Pay」とは、どんなサービス?
「cyma-サイマ-」が導入している「Amazon Pay」のサービスついて、あらためておさらいしたい。
Amazonが日本で「Amazon Pay」の提供を開始したのは2015年5月(当時の名称は「Amazon ログイン&ペイメント」)。現在は数千の独自ドメインのECサイトが導入しているという。
ショッピングカートASPの「MakeShop」「FutureShop2」「カラーミーショップ」「侍カート」や、ECパッケージシステム「ecbeing」などとも連携。こうしたソリューションプロバイダーを利用すれば開発の手間とコストを抑えて導入できる。
2016年9月には、定期購入に活用できる「定期購入機能」を開始した。毎月、定額で決済できるほか、例えば、「毎月3個購入しているが、今月は1個追加して4個買いたい」といった変則的な注文にも対応できる。
「Amazon Pay」はログインと決済の機能を備えており、顧客が初めて利用するECサイトにAmazonアカウントでログインすれば、クレジットカードカード番号や住所などを入力することなく決済でき、商品を受け取ることができるようになっている。そのため、入力画面でユーザーが離脱することがないうえ、顧客が同意すればAmazonアカウントに登録されている情報を活用した新規会員登録の促進も期待できる。実際、「Amazon Pay」を導入しているECサイトでは未導入サイトに比べ、新規会員登録率が高いことを示すデータもある。
Amazonでは、アカウントやクレジットカードの不正利用を24時間365日体制で監視しており、「Amazon Pay」も同様の体制下にある。
また、「Amazon Pay」で決済したクレジットカードの情報は、EC事業者のサーバには保存されないため、仮にECサイトへの不正アクセスがあったとしても、カード情報の漏えいを回避できる。
近年、ECサイトから会員情報が漏えいするケースが増えていることから、セキュリティレベルの高さも「Amazon Pay」が多くのEC事業者から選ばれる一因となっているようだ。