Digital Commerce 360 2019/11/7 8:00

なぜAmazonとイギリス発祥の大手小売チェーン「Tesco(テスコ)」は中国市場で失敗し、コストコは成功したのでしょうか。また、中国の巨大eコマース企業アリババが開拓した「ニューリテール」モデルはどうなっているのでしょうか。これらの展開すべてが、欧米の小売事業者とブランドに影響を与えます。

中国の小売市場が過熱しています。最近では、コストコ1号店のオープンに伴い警察が動員され、膨大な人数の消費者に対応しました。また、eコマース大手のアリババは、スーパーマーケットをコンセプトにした「Freshippo」(以前の名称は「Hema」)を、来年にかけて100店舗オープンすると発表しました。

外から見ると、中国人は新しい小売事業者を常に求めていて、投資家に大きな利益をもたらしているように見えます。しかしこれは真実の一部にすぎません。IDCは「中国の食料雑貨市場は毎年6%近く成長する」と予測していますが、中国の消費者の需要は独特で、欧米のビジネスモデルやマーケティング戦略を単に模倣しただけの企業は、ほとんど負ける運命にあります

中国における欧米小売事業者の有名な失敗の中から、2社の例を見てみましょう。「Tesco」は、2004年に中国に進出しましたが、大きな進展はありませんでした。テスコが秘密兵器と考えていたクラブカードは、すでにイギリスで非常に人気があったため、中国でも消費者を引き付けることができると信じていました。

しかし、中国の消費者はすでに平均して4店舗のロイヤルティカードを持っており、それらを定期的に切り替えておトクに買い物をしています。クラブカードは、勝つために十分な差別化要因ではなかったのです。何年もの赤字の末、テスコは店舗管理を地元の業者に任せました。

Amazonが中国で苦戦した理由

Amazonは2019年、中国国内のマーケットプレイス事業を閉鎖しました。中国に進出した当初は15%以上の市場シェアを獲得し、成功していましたが、最終的には1%以下にまで落ち込みました。アナリストによると、Amazonは地元の競合企業との競争に苦戦し、低価格と即時配達を求める中国の消費者にうまく適応できなかったということです。

コストコと「Freshippo」は中国の小売業界で何をうまくやったのでしょうか? そして、テスコとAmazonはどこで失敗したのでしょうか。まず初めに、すべては消費者を理解することから始まります。

テスコとは違い、コストコは店舗を開く前に何年も中国の消費者向けに積極的に商品テストをしました。5年前には、アリババの越境B2Cプラットフォーム「天猫国際」で、中国の消費者向けに、同社の代表的プライベートブランド「Kirkland(カークランド)」の商品を販売開始しています。コストコブランドとカークランドの安さと品質の高さが魅力的だということで、中国人とコストコの間に親和性が生まれました。

コストコが中国に実店舗をオープンすると発表した頃には、コストコにはすでにロイヤルティの高いファンがいました。中国の消費者は、カークランドのような低価格で高品質の商品をコストコで見つけるのを待っていたのです。

欧米の数光年先を行く「Freshippo」

アリババの「Freshippo」は、店内でのショッピング体験を完全に再定義することで消費者を引きつけました。アリババ創業者のジャック・マー氏が、究極のショッピング体験のためにオンラインとオフラインの小売りを完全に統合することを意味する造語「ニューリテール」を生み出しましたが、それが店舗で具現化されています。

買い物客は「Freshippo」アプリを使って商品や値札をスキャンし、レビューやクーポン、商品の出所情報、価格などを見ます。「Freshippo」アプリは「天猫(Tmall)」や「淘宝網(Taobao)」マーケットプレイスなど他のアリババサービスで使用しているのと同じIDを使用するため、利用は非常に簡単です。

消費者はさまざまな方法で買い物できます。店で買って商品を家に持ち帰る、店で買って商品を家に配達してもらう、あるいは自宅で「Freshippo」アプリから買って商品を配達してもらう。「Freshippo」は消費者に30分で商品を届けています。

「Freshippo」は欧米の平均的な食料雑貨小売店より数光年先を進んでいますが、中国ではすでに目新しくありません。「Freshippo」第1号店は2016年にオープンしました。それ以来、アリババのような小売事業者が「ニューリテール」を次の段階へと進めています。その理由は、彼らが膨大なエコシステムを通じて大量の消費者データを収集し分析しているからです。

これによりアリババやJD、テンセントのような他の大手企業は、極めてパーソナライズされた体験を消費者に提供し、ニーズや興味を予測できるようになっています。たとえばTmallは、フラッグシップオンラインストア2.0を発表したばかりですが、そこではページ上のすべての機能、おすすめ商品、コンテンツが個々の消費者のためにカスタマイズされています。Tmallでのページやショッピング体験はどれ1つとして同じものはありません。

中国を見れば小売り業で次に何が起こるかわかる

では、アメリカの小売事業者はこれから何を学ぶことができるのでしょうか。第一に、欧米の小売業で次に何が起こるかを理解する上で、中国をベンチマークにすることができるでしょう。欧米諸国では、最高の利便性と楽しい体験に目が向けられていますが(たとえば、Amazon Go、ポップアップストアやレストラン、実店舗を開設するDtoCブランドなど)、中国では、実店舗は購入と経験をする場所として機能しています。

中国を見ると、消費者の行動と嗜好は流動的であるということがわかります。消費者は、オンラインと実店舗の間を快適に移動できるのです。アメリカでは30分以内の配送は予想外でしたが、10年前には翌日配送など考えられませんでした。技術革新はあらゆる市場において消費者の好みを進化させます。そして、それは絶えず変化していくのです。

現在の、そして将来の消費者を勝ち取るために古いやり方に頼っている小売事業者やブランドは、消費者の進化とともに失敗する運命にあります。あらゆる市場における消費者の好みは急速に変化します。絶え間なく進化する消費者とその流れを理解し、消費者が求める商品と体験を創造するために絶えず努力する企業こそが、市場で勝利することになるでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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