ebrun 2017/5/17 8:00

韓国ロッテが「天猫(Tmall)」の公式旗艦店を今年1月に閉鎖しました。その後、各メディアでこの情報が発信されると、多くの読者が「あまり動きがないのに、もうクロージングか!」と驚きを隠せない様子です。

ロッテの撤退について、天猫は「旗艦店の閉鎖はロッテのグローバル戦略の一環です」とコメント。ロッテからの説明はありませんでした。

2年足らずでロッテは「Tmall」から撤退

ロッテがこの1年間、中国で展開してきたビジネス上の動きをチェックしてみよう。

オフラインではロッテスーパーを3軒閉鎖し、2016年末には膨大な投資をした「ロッテワールド」(テーマパークやショッピングモールなどをそろえた事業)の工事を中断しました。

2017年2月には、2016年9月に出店した「JD Worldwide(ジンドンワールドワイド」の旗艦店、2015年8月オープンしたロッテが運営する中国語の公式ECサイトは運営されていましたが、更新頻度が遅くなりました。バレンタインデーからもうだいぶ時間が過ぎても、旗艦店のTOP画面はバレンタインデーイベントのままだったのです。

ロッテの「JD Worldwide」旗艦店はバレンタインデーを過ぎても同特集が表示されていた
ロッテの「JD Worldwide」旗艦店はバレンタインデーを過ぎても同特集が表示されていた(2017年2月23日時点、画像は編集部がキャプチャ)

ロッテのオフィシャルECサイト(LOTTE.COM)とロッテマート(LOTTE Mart、編集部編注:韓国の大型ディスカウントストア)は2015年3月、「天猫国際」に出店して「ロッテマート館」(lottemart.tmall.hk)を開設。その後、「ロッテ オフィシャルショッピング海外旗艦店」(LOTTE网购官方海外旗舰店)に改称しましたが、「天猫国際」旗艦店は2年足らずの運営に幕を下ろしました。

閉鎖をお知らせする「ロッテ天猫旗艦店」(画像は編集部がキャプチャ)
閉鎖をお知らせする「ロッテ天猫旗艦店」(画像は編集部がキャプチャ)

実は、この結果は偶然ではなかったんだよ。

こう指摘するのは中国のある業界関係者。ここ2年間、多くの海外小売企業が越境ECブームに乗って「天猫国際」で旗艦店を開設し、中国EC市場に参入しました。

しかし、競争が激しく、一部の企業のみが生き残ることができるような状態です。淘汰のスピードが速くなっている一方なのです。

「天猫国際」には海外の大手小売企業が20店以上出店しています。その企業はすべてこの2年以内に出店したのです。

2年以内に「天猫国際」へ出店した海外の大手小売企業

アメリカのコストコ、メイシーズ、ターゲット、サックス・フィフス・アベニユー、イギリスのセインズベリーとハウス・オブ・フレーザー、ドイツのメトロ、スペインのDia、イタリアのIPERとEurospin、オーストラリアのウールワース、Chemist WarehouseとMetcash、ニュージーランドのカウントダウン、韓国のイーマート、日本のイオン、マツモトキヨシ、三越伊勢丹、タイのキングパワーなどなど

2015年と2016年の「独身の日」セールでは、何社もの海外小売企業が「天猫」のスターとなり、取扱量でTOP10にランクインしました。しかし、2015年3月早々に出店したロッテは閑古鳥状態でした。

ロッテは(出店などで)素早く動きましたが、中国でのECビジネスに深入りすることがなかったため、自社の優位性を築くことができませんでした

ロッテが販売している韓国ブランドのなかには、ブランド側で既に「天猫」でECサイトを構えているケース、もしくは他の「天猫」出店店舗が既に多くの顧客と受注を獲得していたのです。たとえば、イーマート、アモーレ、ザ・ビューティー・ショップ、ティモンなどです。

また、韓流の影響力が小さくなり、ロッテの状況は悪くなりつつあります。EC業界は目が回るほど動きが速いので、1年以上経って進展がない場合は撤退したほうが良いかもしれません。

先述した中国のある業界関係者はこう言いました

数少ない中国EC市場での海外小売企業の成功

甘い話が多い市場ほど、リスクが伴うことは誰でもわかること。ロッテ以外の大手小売企業が中国EC市場に参入してきたものの、海外小売企業のなかで成功を収めたのは数少ないはずです。

「天猫国際」で最も成功している小売企業はCostco(コストコ)でしょう。2014年10月に正式オープンした後、大きな人気を維持しています。2年余りで、「独身の日」に「コストコ天猫旗艦店」の取扱量はTOP1位(2015年)、2位(2016年)をそれぞれ獲得しています。

コストコは当初、数十種類のSKUのみの取り扱い商品でしたが、現在は400種類以上のSKUを販売しています。商品カテゴリーはお菓子からワイン、健康食品、マタニティ、生活雑貨まで幅広い。売れ筋商品は、プライベートブランド(PB)であるカークランド(KIRKLAND)のナッツ、オーシャンスプレーのドライクランベリーの販売数は数十万個まで達しています。

2016年の「独身の日」で最初に取扱高が1億元を突破したChemist Warehouse(編集部編注:オーストラリアの医薬品などの大手小売店)も、「天猫国際」に出店した海外小売企業の中の勝ち組です。

「独身の日」の取扱高は2015年度比で300%以上も拡大。売上額、購入客数、ユニーク訪問者の数は健康食品業界で1位となりました。

「天猫国際」の2016年「独身の日」の実績を見ると、取扱高TOP5の中で1位のChemist Warehouseと2位のコストコ以外は、ブランドの公式旗艦店のみ。海外の大手百貨店やスーパーといった小売企業はランクインしませんでした。

「独身の日」(2016年)における国別の取扱高ランキング
「独身の日」(2016年)における国別の取扱高ランキング(画像は編集部が翻訳)
「独身の日」(2016年)における店舗ごとの取扱高ランキング
「独身の日」(2016年)における店舗ごとの取扱高ランキング(画像は編集部が翻訳)

また、「天猫国際」に出店しているイギリスやアメリカ、スペイン、イタリア、ドイツ、オランダ、オーストラリア、スペイン、タイ、日本、韓国といった各国の百貨店/スーパーなど小売企業の販売状況を見てみると、店舗ごとの実績はバラバラです。

人気商品の販売量が数万点に達した店舗もあれば、たった2ケタにとどまった店舗もあります。総合的に言えば、美容/化粧品、ウォッシュ/ケア、食品類は比較的に人気。アパレル類の実績は芳しくなかったようです。

EC業界に詳しい識者はこう指摘します。

「天猫」に出店する多くの海外小売企業が辿ることになる運命は、“勝者”傍らで無駄なECサイト運営を続けてしまうこと。多くの企業は、アリババグループが運営するプラットフォームの将来性を見込み、先行企業が得た良い実績を見て参入してきている。

ですが、外国人は中国ビジネスの世界を理解していないし、勝ち組がさらに市場シェアを広げていくことを理解できない損失を一種の投資として扱うこともできない儲からないのであれば、遅かれ早かれ撤退することになる

海外旗艦店が直面する課題

「天猫」が2016年末に発表したオフィシャルデータによると、「天猫国際」には63の国・地域から3700の商品カテゴリー、1万4500の海外ブランドが出店しているそうです。

商品は、マタニティ、健康食品、美容・化粧品、デジタル・家電といった標準的なカテゴリー以外にも、アパレルや生活雑貨、アクセサリーといった非標準カテゴリーへの出店店舗の誘致が急増してます。また、百貨店・スーパーといった小売企業の出店数は膨らんでいく一方です。越境ECに詳しい人はこう言います。

現在、海外ブランド企業も小売企業も、ある程度、海外(自国など)での成長が頭打ち状態になっている。「中国市場で勝てば、世界で勝てる」という説もあり、彼らは中国市場に攻め込もうとしている。だが、中国でのビジネスはそんなに簡単なのか? そんなわけがない!。

こうした“新参者”の中で、アリババの複雑なエコシステムなどを深く理解できる人は少ないと上述した専門家は指摘。そして、「天猫のルールはすぐにわかるものではない。出店誘致の時に聞いた話と、実際に運営することは別物。外国人が簡単に運営できるわけがない」と話します。

では、自力で運営するのが難しいのであれば、運営代行サービスを利用するのはどうでしょうか? これに関し、EC業界に詳しいもう1人の専門家がこう打ち明けてくれました。

運営代行会社は大量に存在しているが、信頼できる企業はどのくらいあるのだろうか。正直に言うと、運営代行会社はクライアント企業から指示されたノルマを果たすだけ。自身で運営するのとでは大きく異なってくる。多くの運営代行は実際のところ、天猫のルールすらわからないまま商売を始めているので、その結果は予測できる。

中国に進出した海外の小売企業は、ECサイトと実店舗へ自然に消費者が来店するとは限らないことを認識しなければならない。天猫の広告枠、消費者へのPR方法も限るれてしまう。また、出店企業が増えるとサポートのリソースが足りなくなり、プラットフォーム側は中小企業より大企業に力を注ぐしかなくなってしまう

天猫は2016年12月、戦略提携を結んだ海外小売企業と共同で、2017年の販売計画を立てたことを公表しました。Chemist Warehouseやコストコ、Target(ターゲット)、Macy's(メイシーズ)、マツモトキヨシ、Sainsbury's(セインズベリー、編集部編注:イギリスのスーパーマーケット)、E‐MART(イーマート、編集部編注:韓国のディスカウントストア)といったグローバルで展開しているような百貨店・スーパーは、中国での取引規模が1億米ドル単位を超える小売企業になれるかもしれません

最後に勝つの誰でしょうか? はたまた、無駄な商売を行うのは誰でしょうか?

 

  • この記事は『ebrun』より本誌が記事提供を受け、日本用に翻訳、編集したものです。
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