NIKEの倉庫に導入されるなど注目を集めているAI搭載自動ピッキングロボット「EVE」。倉庫作業の効率化や作業量軽減、人員不足解消のためにロボットを導入する企業が増えています。

自動ピッキングロボット「EVE」を開発したギークプラス代表取締役の佐藤智裕(さとうともひろ)氏に取材。最新技術を搭載したロボットのこと、倉庫・物流業界が抱える課題、企業がロボットを導入する理由などについて聞きました。

ロボットを開発したギークプラスと「EVE」について

ギークプラスは2015年中国で設立、2017年に日本法人を立ち上げたベンチャー企業です。製品は世界20か国で1万台以上を導入。日本ではNIKEやZARA、ヤマト運輸、DHLなどさまざまな企業が導入しており、1,000台以上を導入しています。

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導入企業の一部。他にもアルペンや森永乳業など(画像はギークプラスサイトより編集部がキャプチャ)

ギークプラスが開発するAI搭載の自動ピッキングロボット「EVE」は、指示を受けると商品を棚ごとワーキングスペース(作業員が商品をピッキングする場所)まで運んできてくれるロボットです。

物流業界が抱える課題とは?

佐藤氏はまず、倉庫が抱える問題を2つ説明しました。

① 人による作業の多さ

1つ目は「人による作業の多さ」。

従来の方法では『出荷量が増えたら人を増やす』『荷主の荷物量が増えたら棚を増やす』といったフレキシブルな対応が可能ですが、その分作業員の確保が必要になります。また、商品をピッキングするために広い倉庫内を歩きまわるなど、作業効率が下がってしまうことがあります。(佐藤氏)

② 倉庫設備に高額投資が必要

2つ目は「倉庫システムに高額投資が必要」ということ。倉庫の収益は、荷主との契約期間や荷物の出荷量に影響を受けるため、高い設備投資を行ってもその費用を契約期間内に回収できるかわからず、なかなか投資に踏み切れないのが現状です。

また、一度、倉庫設計してしまうと再設計がほぼ不可能なため、何年後かの状況を予測して設計する必要があります。センター設置後は、資金的な面などから他の倉庫になかなか移動できないことも問題点としてあげられます。

もし投資した機材の償却に10年かかるとして、荷主との契約が3年で終わってしまった場合、残り7年分の機材費用の回収をどうしたら良いのか、と倉庫側は恐れます。そうしたことを背景に、物流業界自体が積極な投資を避けている傾向があると思います。(佐藤氏)

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ギークプラス代表取締役の佐藤智裕氏

ロボットの導入でコストも作業料も削減

倉庫や物流企業が抱える問題を解決するために、ロボットの導入が進み始めました。導入によって倉庫や物流企業だけではなく荷主にとってもメリットがあると佐藤氏は言います。

コストと手間の削減

ロボットは高価なイメージがありますが、従来の自動倉庫システムと比べると約3分の1ほどのコスト、金額で2~3億円ほどとのこと。「従来の機械と比べて安い理由は、“商品を乗せる棚とロボットがあり、ロボットが棚を運ぶだけ”という単純な仕組みだからです」(佐藤氏)

商品に合わせて棚のレイアウトを変更できることもコスト削減につながっています。AI(人工知能)が蓄積したデータを基に走行距離の最適化を実施、リソースや手間、コストを増やすことなくフリーロケーションでのレイアウト変更にも対応できます。「特にアパレル企業では“靴をメインで扱っていたが衣類も販売する”など商材が変わることがあるので、棚のレイアウト変更に柔軟対応できるのはコストメリットになりますね。アクセサリなど細かな商品用に棚を細分化することもできます」と佐藤氏は説明します。

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年間1人350万円の人件費がかかるスタッフ20人で作業をしている倉庫があった場合。「1億5000万のロボットを導入すると、作業員は4人まで減らすことができ、人件費を年間5600万円ほど削減できます。約3年で初期投資は回収できるんです」(佐藤氏)

スタッフの作業量軽減

EVEは商品を棚ごとワーキングスペースに運ぶため、作業員が商品を取りに倉庫内を歩き回る必要がなくなります。それだけで倉庫内作業量の約7~8割の削減につながります

また、商品が運び込まれるワーキングスペースにはモニターを設置、ピックアップすべき棚の中の商品を表示します。そのため、慣れていないスタッフでも簡単に作業ができ、作業の効率化につながっています

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作業員が商品のピッキングを行うワーキングスペース
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商品棚の下を見てみると「EVE」が! 等間隔に整列してピッキングを待ちます。ピッキングが終わると自動で棚を戻しに行ってくれます

倉庫スペースの削減

ロボットの導入は、倉庫のスペース削減にもメリットがあります。倉庫の費用は坪(エリア)単位でかかることがほとんどで、商品数が減っても坪数が変わらない場合、荷主が支払う費用は変わりません。しかしロボットを導入した場合、スペース単位で費用が換算されるため、商品数が減れば倉庫にかかる費用を減らすことができます

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「1つの倉庫に2つの荷主が入っていたとします。従来は各社のワーキングスペースに近いエリアで商品を保管して、作業員が遠くまで商品を取りに行かないようにしていました。ロボットを使えば商品を自動で取りに行くので、倉庫内にいろいろな商品の棚が分散されていても問題ありません。極端な話、スペース単位で費用が算出されるので、1つの棚に2社の商品が混在していても良いのです」(佐藤氏)

佐藤氏は、この方法が「倉庫のシェアリング」にもつながると言います。

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「たとえばA社の繁忙期が3月の場合、商品量に合わせて倉庫エリアを確保しなければならず、コスト増となります。しかし、1月と7~9月が繁忙期のB社とシェアリングで倉庫を使えば、2社トータルで総費用を下げることができます」(佐藤氏)

物流企業はロボットの導入で「差別化」を図る

ロボット導入のメリットは作業効率化や経費削減だけではありません。「『ロボットを導入した会社』と企業がアピールすることにより、新規顧客の獲得に効果があります」と佐藤氏は言います。

物流のノウハウが「ロボットを使えるかどうか」に変化してきています。「ロボットを導入して使いこなせる会社だ」とアピールすることで他社との差別化を図っているのです。物流会社の投資はコストの削減や荷主のためだけではなく、会社の価値を上げていこうという観点もあります。(佐藤氏)

NIKEがアッカ・インターナショナルと業務提携を行った理由も、アッカ・インターナショナルがロボットを導入しておりそのノウハウを持っていたから。

物流企業を選ぶ際、荷主は「きちんと出荷をしてくれる企業を選ぼう、ロボットを使える企業を選ぼう」という基準を持つことが事業継続につながる、と考えるようになっているとのこと。

アッカは中小企業ですが、もとは超大手がやっていたNIKEの物流の仕事を獲得しました。ロボットの導入で中小企業にもチャンスが生まれています。大手と対等に戦えるようになった。「資金がなくても出荷量を担保できる」「人が不足してもロボットがいるので荷主に迷惑をかけない」という武器で戦っていけるのです。(佐藤氏)

少しずつ変化する日本の物流企業の基準

荷主の考えも「コストが安ければ良い」から「高くてもきちんと出荷できる方が良い」と意識が変わってきているようです。そして、佐藤氏は次のように話しました。

今まではコストをかけて倉庫に人を集めて出荷の作業量を増やしていましたが、人口減少などによる人手不足で、コストをかけても人が集まらない状況です。人員が確保できなければ倉庫側としても荷主の契約を受けられなくなってしまう。荷主は商品が出荷されないと企業としての信頼低下や顧客損失につながり、困ります。そのため、ロボットを導入することで確かな作業量を担保できる企業を選ぶようになってきたのです。今後、この事象はもっと加速していくと思います。(佐藤氏)

今後は、「ロボットを使った倉庫と企業をマッチングさせます」「ロボットを修理します」「ロボットの貸し出しをします」といった企業やサービスが増えていくのではないか、と佐藤氏は予想します。

「通常のメーカーさんは『製品を渡して後はお願いします』というところが多いが、私たちはソリューションまで導入企業と一緒にやります」と佐藤氏。

「どのようにロボットを導入したら良いかわからない」「大変そうだから止める」といった企業をなくしていきたいと思い、「どのようにロボットを導入し、運用していくか」を企業と一緒に考えることを大切にしているそうです。

説明の最後に、佐藤氏はこう締めくくりました。

日本企業は製品ありきなことが多いですが、ギークプラスはソリューションありきの考え方。ロボットを使うのはあくまでも手段であって、効率的に作業を行うことが目的。目的達成のために一緒に頑張っていきたいと考えています(佐藤氏)

◇◇◇

ロボットを開発した方のお話、ということでテクノロジーの話がメインかな?と思っていましたが、物流会社と一緒にロボットの導入を進めていることを大切にしており、物流の未来や今後についての考えを聞くことができました。

ECや通販が拡大する中、物流は欠かせない存在になっています。そんな物流を支える企業やテクノロジーが日々進歩して増えていくことも大切ですが、物流に関わる全ての企業が手を取り合って考えて行くことが重要だな、と感じた取材でした。

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藤田遙

ネッ担編集部

保険系SE→ECサイト運営を経て、編集未経験でインプレスに入社しネット担当者フォーラム編集者に。カレーとコーラが好き。

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