楽天の「送料込みライン」施策、公取委の捜査がまだまだ続く理由
公正取引委員会は3月10日、「楽天市場」での買い物時にユーザーが3980円(税込)以上購入した場合の送料を事業者が負担する「共通の送料込みライン」施策について、東京地方裁判所に施策の一時停止を求めて申し立てていた緊急停止命令を取り下げた。
次の焦点は、3月18日からスタートする「共通の送料込みライン」施策が独占禁止法違反(優越的地位の乱用)に該当するか否か、公取委の審査および判断に移る。
停止命令取り下げで、「共通の送料込みライン」は実施へ
公取委の緊急停止命令の申し立て取り下げにより、楽天が一部店舗から始める「共通の送料込みライン」施策の3月18日スタートに関する障壁はなくなった。
楽天は3月18日、公取委の申し立て取り下げについて、「2020年3月18日の時点におきましては、準備が整った一部の店舗様と共に開始することとし、それ以外の店舗様におかれましては、店舗様の選択により本施策の適用対象外にすることを可能とする措置を講じることとしました」と発表している。
緊急停止命令は、裁判所が緊急の必要があると認めた場合、独禁法に違反する疑いのある行為をしている事業者に対し、行為の一時停止の命令などをすることができるというもの。
公取委が東京地裁に緊急停止命令の申し立てを行ったのは2月28日。公取委は「共通の送料込みライン」は優越的地位の乱用の疑いがある可能性があると考えているものの、楽天は施策そのものをまだスタートしていない。
そこで、公取委は「相当数の出店事業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、自由な競争基盤に悪影響を及ぼす状況が続くことになるとともに、当該出店事業者とその競争者との競争に重大な悪影響を及ぼすなど、公正かつ自由な競争秩序が著しく侵害されることとなり、排除措置命令を待っていては、侵害された公正かつ自由な競争秩序が回復し難い状況に陥ることになる」という理由で、東京地裁に緊急停止命令の申し立てを行った。
なお、公取委は申し立てを取り下げた理由を次のように説明している。
新型コロナウイルスの感染拡大等の影響に鑑みて出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようにすること等を公表し、東京地方裁判所における緊急停止命令に係る手続においてもその旨を表明した。公正取引委員会は、上記施策について、出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようになるのであれば、当面は、一時停止を求める緊急性が薄れるものと判断し、本日、東京地方裁判所に対して行っていた緊急停止命令の申立てを取り下げることとした。
3/18以降、公取委の審査が本格化する見込み
公取委が指摘する「相当数の出店事業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、自由な競争基盤に悪影響を及ぼす状況が続くことになる」のは、「共通の送料込みライン」施策がスタートする3月18日以降。
公取委は2月10日に楽天へ立入検査を実施。3月10日の発表で、「本件違反被疑行為に対する審査については、継続することとしている」と説明しており、「共通の送料込みライン」施策が実施された後、施策が与えた影響などを審査していくとみられる。関係者によると審査結果は1年以上かかるという。
なお、3月10日の申し立て取り下げの際の発表で「排除措置命令を待っていては」と説明しているように、公取委は楽天に対し、「共通の送料込みライン」施策をやめるように必要な措置を命じる行政処分「排除措置命令」や「課徴金納付命令」を視野に入れ捜査に入っている可能性がある。
「課徴金納付命令」が出ればその影響は大きくなる可能性が高い。出店者と消費者の間で発生した取引額の1%に相当する課徴金を納付することになるとみられ、公取委が独禁法違反と認めた行為の期間が長引くほど、課徴金の額が大きくなる。
また、一部出店者などで構成する「楽天ユニオン」では1月、公取委へ楽天に対して独占禁止法の排除措置命令を求める出店者などの署名を提出している。
一方、こうした公取委の動きについて疑問を投げかける識者もいる。慶応義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授は楽天からの依頼を受けて公取委に意見書を提出。
「共通の送料込みライン」施策が実施された場合、公取委が指摘する「相当数の出店事業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、自由な競争基盤に悪影響を及ぼす」可能性は低いと指摘。たとえ、そうした効果があったとしても、長期にわたって固定化・長期化することは考えにくいと説明している。
また、「共通の送料込みライン」施策が独禁法違反になった場合、「Amazonやヤフーとの競争に置いていかれる危険性もある。プラットフォームは社会的責任をという人もいるが、プラットフォーム事業者は過酷な競争にさらされている。ビジネスモデル間の競争も配慮も取り入れる必要がある」といった見方も指摘している。