“売れない”が“売れる”に変わった大分県の公式ECサイト。コロナ禍でも売れ続ける理由は「官民連動」「復袋」などにあり
楽天が4月28日に「物産と観光の連動モデルを創る」をテーマにオンライン形式で実施した地方創生サミット。自治体向けにEC活用法の勉強会で、楽天の地域創生事業 共創事業推進部ヴァイスジェネラルマネージャーの塩沢友孝(しおざわともたか)氏と、大分県公認のアンテナショップ「おんせん県おおいたオンラインショップ」を運営する小坂越司(こさかえつじ)氏が対談。官民連動のECビジネス、流通が滞っている地域産品の販売方法などについて語り合った。
ゴールは「物産×観光」の連動モデルを創ること
「東京一極集中」が進むとともに、地域創生の動きも一気に加速する。産業全体が変わっていく、特に観光においては今までの常識が通用しないようなことが起こる。
新型コロナが地域ビジネスに与える影響をこう話した塩沢氏。サミットのゴールとして「新しい官民共創により『物産と観光』の連動モデルを創っていきたい」と力説した。
対談テーマは「ふっこう『復袋』を活用したEC未参入事業者支援」。
大分県内の事業者が生産した商品を販売している「おんせん県おおいたオンラインショップ」(運営は大木化粧品)は、大分県から公式アンテナショップの委託を受けて運営しているECサイト。新型コロナウイルスの影響により在庫を抱えている生産者・事業者支援のため、さまざまな商品を1つにまとめた「復袋」として販売している。
大木化粧品が運営する「おんせん県おおいたオンラインショップ」がコロナ禍で実践している官民連動のECビジネス、地域創生の可能性とは――。
まったく売れていない県の公式ECサイト
楽天 ヴァイスジェネラルマネージャーの塩沢友孝氏(以下塩沢氏):小坂さんは大分県から公式アンテナショップの運営委託を受けて運営していますが、その経緯を教えて下さい。
大木化粧品社長の小坂越司氏(以下小坂氏):3年前に塩沢さんから大分県職員の方を紹介していただいたことがきっかけです。その後、県の方とやりとりをする中で「公式ショップをやってみないか」というお話をいただきました。
本業のために大分の中心地に物流倉庫を新築していたのですが、「倉庫を強みのあるものに活用したい」と考えていました。さらに、大分県の物を売ることにも興味がありましたので、「引き受けよう」と。
塩沢氏:大分県は以前、「きちょくれ大分」という公式サイトがありましたが。
小坂氏:いただいたお話は、「きちょくれ大分」を「何とか新しいモノに変えたい」という要望でした。
「きちょくれ大分」は商品がまったく売れていなかった。商品が売れていなかった一番の理由は、楽天やアマゾンといったモールに出店していなかったこと。ECをやるのであればモールに出店していないと、そもそもお客さまがいないですからね。
「復袋」は「私たちがやれることは力添えしよう」という思いから
塩沢氏:ふっこう「復袋」が話題になっていますが、始めたきっかけは何でしょうか?
小坂氏:北海道で店舗を運営している仲間(「北海道お土産探検隊」を運営する山ト小笠原商店)から、「地方の観光関連の事業者が困っているので、ECを使用してなんとか応援できないか。やるなら一緒にやらないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。
「復袋」は北海道の店舗が最初に販売を始めました。「復袋」を「自分たちも取り組みたい」と伝えたら「ぜひやってほしい。私たちが力添えできるならどんどんやりましょう」と。
塩沢氏:「復袋」の目的は「EC未出店の県内中小企業の商品を集めて販売すること」。これはスピード勝負のところがります。「復袋」を作る上で県に協力してもらっているのでしょうか?
小坂氏:はい。通常は取引をする事業者を1件ずつ回って取引の挨拶をしていくのですが、スピードが命と言うこともあり、県の方にお願いすることになりました。
県の方に「復袋」について伝えたところ、「県内から広く事業者を募りましょう」と賛同していただきました。
塩沢氏:出品希望企業の応募はどのくらいありましたか?
小坂氏:1週間で70社ほど。すでに取引をいただいている事業者の声もいただいています。事業者と話をすると、在庫を抱えて困っていることがわかりました。こういう時はECが強いので、私どもとして関われそうだ、事業者の期待に添えられるんじゃないかと思っています。
塩沢氏:「復袋」に入れる商品はすべて買い取りですか?
小坂氏:すべて買い取りです。常温の商品を一度倉庫に送ってもらいます。遠方だったり事業規模が小さくて運賃を負担できない場合は、集荷コストを弊社で負担しています。ただ、集荷コストを含めても利益が出るように値段設定はしています。「復袋」の商品は事業者から商品を安く提供していもらっているので、コストをかけてもきちんと売り上げを計上できています。
売れる秘訣は「トライ&エラーを繰り返すこと」
塩沢氏:「復袋」の販売も行っているアンテナショップですが、売れる秘訣(ひけつ)は何でしょうか?
小坂氏:「売れるまでとことん努力すること」だと思います。ECはお客さまが目に見えないので、自分が行うことを信じて続けていく必要がある。何回もトライ&エラーを繰り返すことが売れる店舗につながることだと思います。
塩沢氏:何を売るかも大事ですが、誰が売るかがポイントだと思っています。農家さんのように「作るプロ」、小坂さんのように「売るプロ」という2者がいたことによって地域の良い物が県外に出ていくという、掛け合わせの仕組みだと思っているんです。小坂さんなりにプロフェッショナルな部分をどう生かせていると思っていますか?
小坂氏:私たちには物流倉庫があるので、売ることにリソースをかけられます。しかし、「作りながら売る」という2つのことを同時に行うのは、ECの世界ではなかなか難しい。売る側として「お客さまに良いところを伝える」という強みがあると思います。
物が作れないからこそ、売ることにリソースをかけることができる。リソースをかけるからこそお客さまに商品の良さを伝えることができると思います。
オンリーワン、こだわりのある商品は高くても売れる
塩沢氏:アンテナショップ内には、新型コロナウィルスの影響で追加した商品を含めどのくらいあるのでしょうか?
小坂氏:3000強ですね。
塩沢氏:凄いですね!それだけ商品数があると、県から「商品を公平に出してくれ」という話が出るのでは? アンテナショップの運営にあたり、県にどのように掛け合い、公平さを保って売り上げを伸ばしたのでしょうか?
小坂氏:何をもって公平というかは難しいですが、商品を出してくれる地域のバランスを見て、毎日県の方と情報共有・相談しています。
塩沢氏:小坂さんは「大都市圏でどのような物が売れるか」「販売するためにどんな表示が必要か」などのノウハウを持っているので、県内の事業者の底上げにも貢献されていると思います。
小坂氏:そこまでの自覚はないですが(笑)。「おんせん県おおいたオンラインショップ」は大分県の公式通販なので、「安売りはしない」ということを第一条件にしています。オンリーワンの美味しい商品、こだわりがある商品はお客さまにもその良さが伝わるので、値段が高くても売れるいう事例を作りました。
賞味期限の保存検査を受けていない、食品表示法などで示されている記載条件をクリアしていない事業者もいます。そういった事業者がいることも県の方には相談しています。事業者のエリアごとに商工会を案内してもらい、さまざまなことを学んでいただいてから事業者と出品に向けて話をしています。商売の原点である「お互い情報共有しながら売れるところ」を探っています。
楽天を通じて、ノウハウを持った事業者と連携
塩沢氏:全国自治体の方々は、どうやって支援してくれる事業者を探せば良いのかと悩んでいると思うんです。アンテナショップを委託する事業者をどういった目線で選べば良いと思いますか?
小坂氏:委託できる事業者や出店者は楽天が一番ご存じでしょう。楽天市場には各県にノウハウを持っている店舗がありますので。
たとえば、私は県内各地から規模の大小を問わず、商品を集約する物流を持っているので、機動力を発揮できるというのは強み。即断即決できるトップがすぐに動けるということは希少でしょうし、会社の社員も理解があることが重要ですね。
塩沢氏:業務委託の契約はどのようになっているのでしょうか?また、事業にかかるコストは大分県とどういった話をしているんでしょうか?
小坂氏:補助金や助成金などが出る事業ではありません。すべて自前です。ただ、県にはソフト面でかなり応援をしてもらっていますが、基本的に県からお金をもらわずランニングコストも弊社負担です。
ただ、事業者との委託契約などは県の名を汚さぬように、きちんと手続きを踏んで行っています。きちんと契約を行うことが、安売りはしないことの裏返しだと思います。
「復袋」には事業者が心を込めて作った良い物を入れる
塩沢氏:自治体の方から「売れ筋、死に筋を見て商品選定しているのですか?」と質問があがっています。
小坂氏:「かなり売れるな」と思う物は弊社で買い取りをしますが、基本的には売れた分だけ買い取りをするビジネスモデルです。最小ロットで買い取りするので、「運賃をかけたらコストが見合わない」という事業者には集荷コストを弊社が負担します。出品する事業者にリスクがかからないようにしています。
塩沢氏:たとえば、7品が入っている福袋。3品は有名な商品、残り4品はまだメジャーではない商品を入れる、といケースが多いでしょう。そうすることで消費者にメジャーじゃない商品との出会いを演出することもあると考えているのですが。
小坂氏:私は美味しい物があれば良いと考えています。そうすれば「こんな物が大分にあったんだ」という出会いが生まれる。売れ筋、死に筋というのは過去の実績。これから売れるかもしれない商品もありますから。事業者が心を込めて作った良い物を復袋に入れて、大分の魅力を伝えることが大切なんです。
「物産×観光」は官民の強みを活かして実現
塩沢氏:物産と観光をどう組み合わせるか、大分の福袋を購入した人にどうやって大分に観光に来てもらうかが重要なテーマだと思いますが、トライアル例などがあれば教えて下さい。
小坂氏:県に作ってもらった観光案内のパンフレットを同梱しています。しかし、パンフレットだけだと読まずにすぐ捨てられてしまうことが多いので、入れるなら捨てられない仕組みを作らないといけない。対策として、大分県の事業者が作った入浴剤を2種類同梱して、パンフレットを読むきっかけ作りをしています。
塩沢氏:小坂さんの取り組みは、社会貢献の役割を担っている、官民の強みを活かして役割分担を果たしているなと感じます。
新型コロナウイルスが収束した後に取り組みたいことはありますか?
小坂氏:県の方に色々な面でサポートしてもらっているので、今後も県の方とは共同で取り組んでいくことが第一ですね。
楽天とは楽天トラベルという観光の強み・ツールがあるので、楽天市場の物産とコラボができたら良いなと考えています。楽天市場で商品を買っていただいた方に観光のクーポンがある、観光に行った人にはECで使えるクーポンを配るなどの施策を行ってみたいですね。
塩沢氏:北海道や熊本などリンクを張り合いながら応援の輪が広がっているのは、共に助け合う意味での共創が生まれているのかなと思います。最後に自治体の方々に、小坂さんから一言お願いします。
小坂氏:今のようなコロナ禍の状況では、ECビジネスは非常に強く、できることはたくさんあります。どうすれば良いのかなどのノウハウは楽天や出店者が持っている。機動力のある出店者がたくさんいるので、収束までにピンチをチャンスに変えていけるようになれば良いなと思っています。