Digital Commerce 360 2020/5/21 8:00

Webサイトにおけるアクセシビリティの欠如は、障がい者だけが直面する問題ではありません。障がいのある人たちにもアプローチしたいと考えているEC事業者にもダメージを与えます。

多くのECサイトがアクセシビリティガイドラインに準拠していない

ソーシャルディスタンシングが必要な時代に、Webサイトのアクセシビリティは非常に重要な要素となります。どのくらい外出規制が続くのか不明なため、世界中の人々が、買い物、警報、各種情報の収集、エンターテインメント、友人との関係維持のために、オンラインを活用することが多くなっています。

しかし、このオンライン活用には問題があります。インターネットは外出自粛をする人たちにとって救世主的な役割を果たしていますが、何百万人もの障がい者は、私たちの多くが当たり前だと思っているWebサイトの使用に苦労しているのです。何がこの問題を引き起こしているのでしょうか?

簡単に言えば、怠慢です。最近のある調査では、1,000万のWebページを分析した結果、ほとんどのECサイトがウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン(WCAG、※リンクはウェブアクセシビリティ基盤委員会のサイトにジャンプします)に準拠していないことがわかりました。

実際、Webサイトの98%はメニューだけ見ても、コンプライアンス基準を満たしていません。さらに多くのサイトはキーボードでナビゲートできず、ほとんどのサイトはスクリーンリーダーやその他の補助技術と連携できるコードを組み込んでいないのです。

このようなウェブアクセシビリティの欠如は、視覚障がい者、聴覚障がい者、運動障がい者がインターネットの恩恵を受ける希望がほとんどないことを意味します。障がい者たちは情報を見つけることができず、食料や薬、その他の物資を自宅で注文する機会がほとんどないのです。

アクセシビリティの欠如はECサイトにもダメージを与える

Webサイトのアクセシビリティの欠如が蔓延していることは、障がい者だけが直面する問題ではありません。インターネットを利用して商品を注文する消費者をビジネスの生命線とするECサイトにもダメージを与えます。

今回は、新型コロナウイルス危機の今、Webサイトのアクセシビリティが特に重要な5つの理由をご紹介します。

1. 利益率が高い外出規制中の買い物

多くの健常者同様に、障がい者も新型コロナウイルス危機に伴って外出自粛している間、生き延びるためにオンラインショッピングを利用しています。ウェブアクセシビリティを、「遵守」しなければいけない単なる負担と見なしているECサイトは、障がい者の数がどれだけ多いかわかっていないのでしょう。

世界人口の推定15%にあたる10億人以上の人々が障がいを持っています。これは米国の成人約4人に1人、毎年合計で2,000億ドル以上のお金を使う、6,100万人に相当します。

現在の新型コロナウイルス危機の間、この2,000億ドル支出の中でECに使う金額が増えているのです。

2. 新型コロナウイルス危機の間に増加する訴訟から身を守る

歌手のビヨンセ、ドミノピザ、薬局チェーンのCVSファーマシー、これらの一見無関係な名前とブランドには何か共通点があるのでしょうか? 彼らはみな、ADA法(※編注:障がいを持つアメリカ人法)のWebサイト基準を満たしていないとして訴えられているのです。新型コロナウイルスの影響で障がいを持つ人々が恐怖や敵意を感じる中、そのような訴訟は増えるばかりでしょう。

すべての請負業者は、実店舗においてADAのコンプライアンス・ガイドラインに従う必要性を認識しています。しかし多くのWeb開発者は、WebサイトもADA準拠でなければならないことを認識していません。認識の欠如のせいで、ECビジネスは頻繁に大きな法的トラブルに巻き込まれています。実際、2019年に米国で起こされたADAに関するWebサイトアクセシビリティ訴訟は2,235件、2018年は2,314件でした。

アクセシビリティ関連の訴訟により、企業が9万ドル以上の損害を被ったケースもあれば、100万ドル以上の損害を被ったケースもあります。一部の大企業はこれらの損害賠償金の打撃を吸収できるかもしれませんが、中小企業は無理でしょう。

新型コロナウイルス危機で外出できない人々は、通常よりもさらに緊急にWebサイトへのアクセスを必要としているため、今はこのような訴訟を予測し、身を守る必要があります。

3. ブランディングと評判の管理

共感できるブランドは、競合他社よりも目立ちます。オンラインでも地元の実店舗でも、消費者は自分のことを大切にしてくれる人たちが経営する、目的意識の高い企業と取引をしたいと思っているのです。信頼性と高い目的意識に定評のある企業は、競合他社と比べて平均3倍のスピードで成長します。また、市場シェアも高くなっています。

ほとんどのWebサイトがアクセシビリティ基準を満たしていないという事実は、ブランドにとって、自社のニーズをアピールする機会でもあります。身体の不自由な人たちだけでなく、新型コロナウイルスのロックダウン期間中、食品や商品の買い物を誰もが利用しやすいものにするのです。Webサイトのアクセシビリティを向上させることは、何千人(あるいは何百万人)もの人々が気づく目に見える改善です。

ECビジネスのリーダーの多くは、支援してくれる人々に恩返しをしたいと考えています。しかし、慈善団体に大きな金額を寄付することができず、コミュニティに貢献する有意義な方法を見つけるのに苦労している企業もあります。新型コロナウイルスは、企業が社会的責任を本当に大切にしていることを証明する機会を作り出しているのです。

障がいを持つ人々が外出規制中に重要なアイテムにアクセスできるようにWebサイトを強化することで、企業はすぐにポジティブな影響を生み出すことができるのです。

4. アクセスしやすいWebサイトを見つけてもらうためのSEO対策

障がいを持つ人々は、簡単にナビゲートしてもらえるWebサイトを常に探し求めています。新型コロナウイルス危機の中では、インターネットを利用できるかどうかで障がい者の生活が左右されるため、新しくてより使いやすいWebサイトを探すことが急務となっています。

アクセスしやすいサイトへのニーズは、ECビジネスに二重のチャンスをもたらします。SEOとウェブアクセシビリティの両方に役立つやり方があるからです。

たとえば、明確なナビゲーション、画像のaltテキスト(※編注:Webページの画像が表示されなかったとき、代替として表示されるテキスト)、ビデオやポッドキャストの書き起こし、明確で読みやすいコピー、方向を示すサイン、サイト内検索などです。

新型コロナウイルス流行中に、アクセシビリティを優先させるECビジネスは、競合他社のサイトよりもGoogle上でWebサイトが優先的に表示される可能性が高いでしょう。

5. 意味のあるイノベーション

現代のビジネス環境が、“イノベーションを起こすか、なにもせずに死ぬか”なのは、周知の事実です。この厳しい事実が多くの企業を駆り立て、AI(人工知能)やその他のテクノロジーを活用して「革新的」と呼べるような方法を模索し、飽和した市場で差別化を図っています。

残念なことに、ほとんどの企業にとって、イノベーションは意味ある方法での適用が難しい、単なる流行語に過ぎません。しかし新型コロナウイルスは、口だけだったアイディアを実際の行動に移す機会を提供してくれます。

リサーチ&アドバイザリー企業のGartner社の調査によると、イノベーションの主要な原動力(53%)は“カスタマーエクスペリエンスの向上”です。障がい者がアクセス可能なECサイトが少ない中、アクセシビリティを強化するために今すぐ時間を取る企業は、イノベーションの最前線にいるのです。

最高のイノベーションとは、人類の助けになるものです。課題を解決し、他の企業が追随するための道を切り開くとき、それが最高のイノベーションになります。新型コロナウイルスの影響で不安定な環境の今、アクセシビリティのための改善を行うことは、イノベーションのすべての要素を満たしていると言えるでしょう。

Gartner社の調査による「イノベーションを推進する主要な原動力」。回答者のパーセンテージは上位3項目の合計」
Gartner社の調査による「イノベーションを推進する主要な原動力」。回答者のパーセンテージは上位3項目の合計(Digital Commerce 360「5 reasons why accessible ecommerce site design is crucial during COVID-19 lockdowns」より編集部が作成)

アクセシビリティに取り組む事業者は、競合他社より先を行く

Webサイトのアクセシビリティは、まもなく一般的になるでしょう。障がい者がアクセスできないWebサイトが過去の物になるのは時間の問題です。時間と労力とコストをかけてサイトのアクセシビリティに取り組むEC事業者は、競合他社よりも先を行く存在となります。

新型コロナウイルス危機の今、ウェブアクセシビリティは、ビジネスと消費者の双方にメリットがあります。利益を押し上げ、法的トラブルから守り、企業イメージを高め、必要な時に多くの人々を助けるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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