瀧川 正実 2020/6/15 8:00

新型コロナウイルスの感染拡大によって、ネット通販などの“デジタルの力”を再認識させられた企業は少なくない。「ウィズコロナ」「アフターコロナ」を見据え、ビジネスのデジタル化をどのようにシフトしていけばいいのか。企業のデジタルシフトに知見が深いビービット・宮坂祐執行役員、元EC責任者で現在は人材育成に関する事業を手がけるECマーケティング人財育成(ECMJ)の石田麻琴代表取締役の対談の後編前編はこちら

デジタル人材の育成、現場で使える武器と道具の整備が重要

宮坂祐氏(以下宮坂)企業のデジタル化にはツールの活用が必須です。いわゆる“武器”です。ただ、身の丈にあっていない武器を装備しては意味がありません。今までいろいろな企業を見てきましたが、大企業では「この機能は使わないよね」といったものが入っているケースが多いですよね。ツールの導入が社内の成果になっていることも少なくありません

石田麻琴氏(以下石田):私がよく聞くのは「上長(や経営陣)が話を聞いて契約してきた」というケースですね。現場からは「上長(や経営陣)が導入を決めてきたから、自分たちの業務にはマッチしていなくて……」といった声があがっている

宮坂デジタル化を支援するツールは、最低限必要な機能がそろっているものから使うことがいいと感じています。要は、ちゃんと使いこなすことが大事だということです。普段、多くの人が使っているワークシートもツールですから。ツール活用の前提として、自分たちは何をしたいのか? それを実現するためには何が必要なのか? といったことから考えることが重要ですよね。

宮坂 祐 株式会社ビービット 執行役員/エバンジェリスト
宮坂 祐 株式会社ビービット 執行役員/エバンジェリスト
一橋大学法学部卒業後、2002年にビービット入社。
コンサルタントとしてメディア、金融、通信、メーカー等のデジタル戦略立案・ウェブサイト成果向上プロジェクトを数多く実施。2016年に金融財政事情研究会より「顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準」を刊行。グロービスマネジメントスクールでクリティカルシンキングなど思考系クラスの講師を務める

石田:そうですよね。目的を達成するためのマーケティングを設計し、それにはどんなデータが必要なのか? まずはその工程が必要不可欠。マーケティングはまずデータを選定するのが本質的なところだと思います。アクションと検証はセットですから。

宮坂:多くの企業が使っているワークシートを例に話をしていきましょう。企業の現場担当者の多くが、ワークシートを作り過ぎだと思うんです。理想的なことだと思いますが、それを埋めていく作業だけでも現場は大変。行き過ぎると、ワークシートのセルを埋めること自体が仕事になってしまうケースもある。ワークシートって無限に増えていくじゃないですか?

石田:真面目な人ほど、ブラッシュアップしようとワークシートの数を増やしてしまうんですよね。雑誌は、厚くすればするほど売れなくなる、というのを聞いたことがあります。情報が多ければ良いわけでもない。それと一緒で、増やし過ぎると使いにくくなってしまう。同じことを継続して行い、積み上げいくことが重要なんですよね。ECMJはワークシートを増やすことはできる限りしないようにしています。

宮坂:ただ、その案配って難しいですよね。ワークシートを埋めることは、仕事をするという強制性の側面があります。仕事内容によってワークシートの役割が変わってくる。ビービットはユーザーエクスペリエンス(UX)の会社。クライアントの施策管理シートには、ユーザー像、流入の文脈(どういう状況かなど)の洗い出し、クライアントが抱いている期待、ユーザー、状況などが一連のセットになっています。そのワークシートをきちんと埋めていくとやっぱり効果的です。UX力をアップさせるための作業を強制するためのツールなんです。ただ、それを埋める作業はめんどくさいと言えばめんどくさい。

石田:ECMJは、ワークシートは数値確認以外ではスポット的な扱いでしか使っていません。たとえば、競合チェックは年間に数回。日常的に触れてもらうのはほとんどがデータ系です。

石田 麻琴 株式会社ECマーケティング人財育成 代表取締役
石田 麻琴 株式会社ECマーケティング人財育成 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業後、ネット通販ベンチャー企業に6年間勤務。マーケティング統括として「Yahoo!ショッピング」月間ベストストア8回受賞。全国第1位獲得。2011年株式会社ECマーケティング人財育成を設立。デジタルマーケティングの運用体制・運用サイクル構築を支援。BPIA常務理事/DX研究会ナビゲータ。JDMCマーケティングシステム活用研究会リーダ。中小機構販路開拓支援アドバイザー。著書「ECMJ流!原理原則」シリーズ

宮坂:売り上げ、コンバージョン数、アクセス数などは明確に算出できますからね。たとえば、今月は月商500万円、先月は515万円、その数字を見たときに「だから何?」と感じる方って多いですよね。数字は無機質。本来は数字から仮説を立てて、理由の推察などをしなければならないのですが……。

石田:もちろん、数値をブレイクダウンするための管理表は作ります。商品別の売り上げ、閲覧数、販促をかけたときの効果など。フレームワークと分析表は分けています。

宮坂:経営者、業務担当者は見るものが増え過ぎて、通常の業務が回らないといった弊害が出てきませんか?

石田:そうですね。そこは“重点なポイントのみ”を見てもらうように顧問先にお願いしています。“道具過多”にならないように、ポイントを絞った「割り切り」が重要なんですよね。数値を見る場合、「絶対に日々見ないといけない数値」「1か月毎に目を通す数字」などと切り分けをしています。今の世の中の風潮は、「やらなくても良い業務」がどんどん増えているますよね。まずは優先順位をつけて、割り切ること。できること、優先順位が高いものから徹底的に潰していくように心がけています。いつでもリソースは有限ですから。

宮坂氏と石田氏が解説する「アフターデジタル&コロナ時代の人材育成」の無料ウェビナー【6/30開催】

アフターデジタル時代に必要とされるECなどに関わるデジタル人材、育成方法をテーマに、ビービット 執行役員/エバンジェリストの宮坂祐氏と、ECマーケティング人財育成 代表取締役の石田麻琴氏によるパネルディスカッション形式のウェビナーを6月30日に行います。

ECなどのデジタル業務に携わるすべての企業の経営者、責任者、現場担当者の皆さまに役立つ、最新の現場メソッドをお伝えします。

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デジタル人材の育成は成功体験の積み重ねを

石田:業務の積み重ねが成果につながっていなかければモチベーションはアップしません。やはり、スタッフの皆さんに早い段階から成功体験を積み重ねていってもらうことが重要になります

宮坂:ほんと、そこは重要だと思います。どこから手をつければいいのか、何からやるべきなのか、選択の連続が成果なんですよね。

石田:私は過去の成功体験を掘り起こすことが、まずは社内で簡単にできることだと思っています。成功体験には原理原則を知る宝の山が眠っていますから。ここをマーケティングの基点にするのが基本だと思います。

宮坂:つまり、成功体験という結果ではなく、原理原則を理解するということですね。そうすれば他のことにも応用できる。

石田 麻琴 株式会社ECマーケティング人財育成 代表取締役 宮坂 祐 株式会社ビービット 執行役員/エバンジェリスト

石田:ECサイトの新規顧客を増やす方法は、「広告(アフィリエイトなども含む)」「検索対策」「メディア対策(SNSなど)」の3つしかない。こうした原理原則を知っていれば、「新規顧客」で売り上げを伸ばす施策でどのようなアプローチをしていけばいいのか、簡単に判断を下すことができる。原理原則を理解していけば、ビジネスの視野も広がると思うんです。

宮坂:ただ、ECの担当者が意思決定をしていくのは難しくありませんか? 分解していくと、いくらでも分解できてしまう。経験豊富な責任者レベルであればすぐに意志決定ができますが、経験を積んでいないと難しい側面もありそうです。

石田:ECMJがまず社内で啓蒙していることは、「今のお客さまは何であなたのお店を選んでいるのか?」「何で買うようになったのか?」ということを深く考えること。商品を購入してくれた“お客さま”に、さまざまな宝が埋まっているからです。お客さまからいただく問い合わせももちろん、いま持っているデータ、リソースでお客さまときちんと向かい、そこから得られるものを収集しましょう、と。実際、カスタマーサポート担当が受けたお客さまの情報が、マーケティング担当者に回ってきていないケースって多いんですよね。

宮坂:私は課題をフレームワークで分けて、得られるビジネスインパクトで判断しています。たとえば、縦軸に売り上げなどの成果、横軸に手間と時間、投入するコスト、実現スピードなどを組み合わせません。最初に行うのは、すぐに着手することができて、改善インパクトの大きいものから着手し、成功体験を積み上げていくようにしています。つまり、早く結果が出る課題に着手し、毎月1個ずつ施策をやり続けてある程度の成功パターンを作る。軌道に乗ってきたら中長期的な課題に位置付けているもの(時間がかかりコストがかかるもの)を同時並行で走らせます

マネージャークラスの責任者はこうした視点を持つと、他の部署の方を一緒に巻き込みやすい。デジタルトランスフォーメーション(DX)も、成功体験を作りつつ、同時並行で大きな改善に着手し、他の部署も巻き込んでいく方法がベスト、つまり組織を動かしやすくなるんです。

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