公文 紫都 2020/7/3 9:00

物流センター内の設備や保管スペースなどを複数の荷主で共同利用する「シェアリング物流」は、配送料の値上げといった経営環境を踏まえ、EC物流に関する初期投資や固定費を抑制できる物流アウトソーシングの選択肢として注目を集めている。

倉庫内の自動化・省人化機器や情報システム、保管や作業のスペース、作業スタッフといった物流に必要なリソースを複数の荷主で共同利用。通常であれば相当の初期投資や月額利用料金を従量課金で使うことができる。物流業務・コストを最適化したいスタートアップや中堅・中小企業が押さえておくべき「シェアリング物流」についてお伝えする。

使った分だけ支払う、従量課金型の「シェアリング物流」とは?

使った分だけ料金を支払う形式の従量課金型「シェアリング物流」は、自動梱包ラインや無人搬送ロボットといった最新機器、情報システム、保管スペース、作業スペース、作業者、梱包材などを複数の事業者で共同利用するというもの。

物量に応じた“使った分”だけを支払う形式で、事業規模の拡大に合わせて保管スペースを柔軟に拡張することもできる。

最大の魅力は、使った分だけ支払う「従量課金型」を採用していることから、初期投資や固定費を抑えながら事業拡大に向けてEC事業を運営できる点。その最たる例がAmazonの物流サービスだ。

直販や第三者販売で流通額を拡大。物量の増加に伴い広がった物流センターで提供するAmazoの物流ノウハウを生かしたFBA(フルフィルメント by Amazon)は、AmazonのリソースをEC事業者が共同で利用。FBA利用企業は1個あたりの配送単価を抑えながら、スピード配送など、Amazonの強力な物流サービスを利用できている。

「通常課金モデル」と「従量課金モデル」を比較した図(物流コンサルタント・Linkth小橋重信代表取締役が作成)

通常課金モデル

EC事業者の物量ごとに、物流スペースを区分することから、スペース費用、事務管理費、システム利用料などが固定費でスタートする場合が多い。物量の少ないスタート時のEC事業者にとっては、物量が増えるまで1件あたりの物流費が高くなる

従量課金モデル

スペース、システム、事務管理などは1点あたりの料金としてカウントされたり、出荷料に含まれたりするため、使った分だけ支払うことになる。数量が少ないスタートアップ企業には、導入しやすいコスト体系となっている。

近年は、佐川グローバルロジスティクス、日立物流などの大手物流会社もこうした従量課金モデルのシェアリングサービスを推進。EC事業者は、物流各社が提供する最新のロボティクス設備を低コストで利用することができる環境となっているのだ。

佐川グローバルロジスティクスに物流センター「Xフロンティア」内にある、最新のロボティクス設備を紹介した動画。EC事業者は最新設備を共同で利用できる

「シェアリング物流」はスタートアップや新規EC参入事業者、ECがうまくいっていない事業者らが、押さえておくべき近年の物流トレンドだ。

EC新規参入、ECがうまくいっていない事業者が意識すべきことは「バックヤード」

取扱数が増えた!でも、「基礎工事」ができていないと……?

現在、リアルチャネルを販路の中心にしてきた中小企業が、急ピッチでECビジネスの立ち上げを進めている。コロナショックで、店舗の一時閉鎖や営業時間の短縮など打撃を受けたことが要因だ。秋から冬にかけて訪れると予測される、新型コロナウイルス感染症第2波、第3波に備えてECを始めようと考える事業者も多い。これまでECがうまくいっていなかった事業者もしかりだ。

中には無料のECプラットフォームを使い、「一日でも早く」と、後先かまわず立ち上げ優先でプロジェクトを進める事業者も少なくない。こうしたサービスは手軽にスタートできるのが最大のメリット。一方、売り上げや取扱量が増えた場合のバックヤード設計を意識したプラットフォーム選定、およびバックヤードを構築しなければ、ビジネスが立ちゆかなくなる可能性が出てくる。

EC事業者向けに物流コンサルを手がけるLinkthの小橋重信代表取締役は、次のように指摘する。

ECは、「売る」と「届ける」が1つになって初めて完成するビジネス。無料で利用できるECプラットフォームで「売れる」フロント面は作れても、「届けるための適切なバックヤード構築ができていなければ、基礎工事ができていないところに家を建てるようなもの。受注が増えて処理できない、在庫管理などが追いつかない……。売り上げや取扱量が増えれば、商品を顧客ニーズに沿って届けられないなど、ビジネスが破綻する可能性がある。(小橋氏)

EC事業者の悩みは、「数多い物流会社から、どこを選んだら良い?」

できるだけコストを抑えてバックヤードを構築したい……。ただ、EC事業者が「適切なバックヤード構築」を進めにくい理由も存在する。その理由の1つが「物流会社は数多くあるが、どこが自社に適しているのかが分かりにくい」という問題だ。

自社の取り扱う商品やビジネスモデルに応じて、拠点の立地・規模、設備機能、WMS(倉庫管理システム)、対応配送キャリア、配送スピード、同梱物の設定方法など、物流倉庫を選択する際に比較検討すべき材料は多岐にわたる。

たとえば、EC事業者が物流会社を利用するときに提示されるエントリーシート。「返品」「システム」「CS」「その他現状」など質問事項は細かく分かれており、サービス導入前、それらすべてに回答していくことになる。

こうしたフォーマットや見積もり項目は物流会社ごとによっても異なることから、導入を検討するEC事業者は比較検討がしにくく、「結局どこを選んだら良いのか分からない」と足踏みをしてしまうケースも多い。

エントリーシート例
エントリーシート例(シートはLinkth小橋氏が作成)

それ以外にも、ECショップに関する基本情報、入庫作業について、保管作業について、出荷作業について、返品作業についてなど、書面ベースで事前確認を必要とする事柄が非常に多い。

こうした事務的作業の負担に加え、スタートアップやうまくいっていないEC事業者は物量が少ないことから、取り扱ってくれる物流倉庫が限られるという問題もある。システム利用料、スペースなどを含めたコストでは採算割れしてしまうといった理由で物流センターの利用を断念。自社で出荷対応するといったケースも散見される。

ただ、前述したとおり、適切なバックヤードが構築できていなければ、売り上げや取扱数量が増えた場合、「商品が届かない」などのトラブルにつながる恐れがある。では、どうすればいいのか?

その解決方法の1つとして、スタートアップや新規参入、うまくいっていないEC企業は、リスクやコストを最小限に抑えながら、規模拡大に向けた柔軟な対応などができる「シェアリング物流」に目を向けるべきなのだ。

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ネットショップ担当者フォーラム編集部では、7月9日(木)16時半〜、シェアリング物流についてネット通販のプロ10人が解説するウェビナーを開催します。

失敗しないECビジネス新常識~『システム選び』『シェアリング物流』をFS、フラクタ、Hamee、アイル、オープンロジ、清長、日立物流、SGLらネット通販のプロ10人が解説~」

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