「TikTok」が小売事業者に与える影響&ビジネス向け「TikTok for Business」の概要
「TikTok」は設立からまだ10年未満にもかかわらず、何億人ものユーザーを抱え、世界で最も人気のあるソーシャルメディアの1つになりました。しかし、アメリカでの普及率は低く、政治問題にまで発展。アメリカのマーケティング担当者は、「TikTok」を広告に利用しようとはまだ思っていないようです。今回は、もし「TikTok」の利用が米国で禁止された場合、小売事業者にどのような影響を及ぼすのかを探っていきます。
世界で8億人以上のユーザーを抱える「TikTok」
ソーシャルメディアを専門とする広告会社「We are Social」と、ソーシャルメディア管理プラットフォームを提供する「Hootsuite」が発表したレポートによると、中国を拠点とする「TikTok」は8億人以上のユーザーを抱えており、世界で7番目に人気のあるソーシャルメディアになっています。
しかし、「TikTok」全ユーザーの60%以上が中国に住んでおり、中国では「抖音 (douyin)」として知られています。また、8億人のユーザーの70%弱はZ世代(※編注:1990年代後半から2000年代序盤生まれの世代)で、アプリ使用時間の90%は中国とインドのユーザーによるものです。
「TikTok」が、小売業者にとっての「価値」になると考えられる理由
戦略的コミュニケーション、リサーチ、広告を手がける「OBI Creative」の創設者兼CEOであるメアリー・アン・オブライエン氏は、「TikTok」には多くのユーザー、特に若い世代のユーザーが多いことから、小売事業者にとって価値のあるものになっていると述べています。オブライエン氏は、また次のように補足します。
私が「TikTok」を気に入っているのは、ターゲットが誰なのかという理由だけではなく、ミレニアル世代(とZ世代)が彼らの親に与える影響力が大きいからです。「TikTok」には二重の効果があります。プラットフォームを利用する若い世代はもちろん、彼らの両親や友人にも影響を与えているのです。(オブライエン氏)
しかし、小売事業者の間で、「TikTok」はまだ広まっていません。その理由は、広告の選択肢が限られているためかもしれません。「TikTok」がブランドや小売事業者向けの新しいビジネスツールのを導入したのは、ごく最近のことだからです。
「TikTok for Business」の概要やEC事業者向けのオプションは?
現時点での使い勝手は、他のソーシャルメディアには劣るとの見方も
「TikTok」は2020年6月、ブランドのマーケティングに使ってもらえるよう、「TikTok for Business」を立ち上げました。今回の記事が公開される時点(編注:米国時間で9月4日)では、Eコマース向けのオプションが1つと、マーケター向けのオプションがいくつかあるだけで、使い勝手もよくありません。
たとえば、「TikTok」では広告を出稿するために、「TikTok」の広告担当者を介する必要があるため、Facebook、Twitter、Instagramのセルフサービスに慣れているマーケティング担当者の間で混乱が起きました。
現在、マーケティング担当者は「TikTok」の「キャンペーンを作成する」機能を使って広告を出稿することができますが、まずビジネスアカウントを登録しなければなりません。
マーケティング情報などを発信する「AdAge」が公開した「TikTok」の社外秘プレゼン資料によると、インフィード動画広告が2万5,000ドル、6日間のハッシュタグチャレンジが15万ドルなど、広告費用が高くなる可能性があります。
セルフサービス型の広告(広告主が代理店を通さずに自分で広告コンテンツを設定、プログラム、管理できるもの)では、1キャンペーンあたりの最低予算は500ドル、グループレベルの広告では50ドルとなっていますが、この機能が利用できるようになったのは2020年7月からです。
広告キャンペーン、ハッシュタグチャレンジ、インフィード動画広告以外の方法でも「TikTok」に出稿することは可能です。ブランドテイクオーバー、ブランドレンズ(フィルター)、インフルエンサーとの提携、ブランドコンテンツを含むカスタマイズ広告などが一例です。
「TikTok」で広告掲載している小売事業者は5%
『Digital Commerce 360』が2020年5~6月に実施した、小売事業者105社を対象とした調査によると、現在「TikTok」で広告を掲載している小売事業者はわずか5%にとどまっており、4%の「Snapchat」をわずかに上回りました。
広告主が「TikTok」と関わることを躊躇しているのに加えて、政治的なしがらみもあります。トランプ政権が、「TikTok」の中国との関係を注視しているからです。
「TikTok」利用禁止の余波は?
8月上旬、トランプ大統領は中国のソーシャルメディアアプリに制限を課す行政命令を出し、特に「TikTok」を禁止する可能性を示唆しました。トランプ政権は、「TikTok」の親会社である「ByteDance」が、「TikTok」を利用してユーザーの位置情報や閲覧、検索データを収集していると主張し、アメリカにとって脅威であるとしています。8月6日の行政命令から45日後、9月中旬から下旬に「TikTok」がアメリカで禁止になる可能性があります。
しかし、複雑な問題も発生しています。トランプ政権は当初、禁止を回避するためにアメリカの企業が「TikTok」を買収できると宣言していました。行政命令の直後、「TikTok」を運営するByteDanceは、Microsoft 、Walmart、Oracleと買収に向けた協議を開始し、MicrosoftとWalmartが共同でオファーを出すことになりました。それに対抗し、中国政府は、「TikTok」のようなソーシャルメディアアプリを含む人工知能技術の輸出を制限しました。
買収取引が成立しない場合、「TikTok」のアメリカ国内での禁止が広告主にとってどのような意味を持つのかは今のところ不明です。
「TikTok」利用企業からは、「深刻な影響は出ない」という声も
コンピュータとテクノロジーの販売に加え、人材派遣サービスも提供している「Newegg」は、「TikTok」アカウントを持っている小売事業者の1つですが、有料広告やインフルエンサーは使用していないと、同社の人材派遣担当ディレクター、マリーナ・バーバー氏は言います。
投稿内容は、極めて自然発生的に決まります。楽しいアイデアを思いついたら、おおよそ週1回の頻度で投稿しています。また、人材派遣サービス「Newegg Staffing」のWebサイトや他のソーシャルメディアで、「TikTok」のプロフィールや投稿した動画を共有しています。(バーバー氏)
バーバー氏によると、電子機器などのECを手がけるNeweggは「TikTok」を一般消費者向けに使用するのではなく、人材派遣サービスを利用したいと考えている求職者や雇用者にリーチするために使用しているそうです。「TikTok」のROI(費用対効果)を定量化するのは難しいようですが、Neweggの取り組みは成功事例と考えられています。
「TikTok」が禁止になる可能性があると聞いて驚きました。6月に使用し始めてから、目標にしていた1万回以上の再生回数をある動画において達成し、フォロワーの数も着実に増えています。(バーバー氏)
「TikTok」がアメリカで禁止になった場合、Neweggがリーチしようとしているオーディエンスの一部に影響が出るかもしれませんが、全体的なマーケティング戦略への深刻な影響は受けないだろう、とバーバー氏は考えています。
「TikTok」が禁止になると、アメリカの消費者に「TikTok」を通じてリーチすることはできなくなりますが、当社の広範なマーケティング活動では、多様なツールやプラットフォームを活用しており、「TikTok」が禁止になった場合でも大きな影響を受けません。
「TikTok」を買い物に利用している消費者は12%
ソーシャルマーケティングソリューションを提供する「Bazaarvoice」が6月中旬に北米の消費者4,500人を対象に行った調査によると、買い物に「TikTok」を利用している消費者はごく少数でした。このことからも、禁止になった場合の影響力が大きくないと予想されます。
調査対象者のうち、「TikTokで買い物をした」と答えたのはわずか12%で、Facebookでは54%、Instagramでは84%でした。しかし、最近新しいソーシャルメディアを試したことがある人の33%が「TikTok」を使い始めたと答え、次点のTwitterはわずか6%でした。さらに回答者の24%が、ロックダウン中に「TikTok」を現実逃避、及び娯楽として使ったと回答し、33%の消費者が新型コロナウイルスの流行中は「TikTok」の利用が増えたと回答しています。
「TikTok」禁止令が9月中旬から下旬に発動しされた場合でも、「TikTok」に広告費をかけている小売事業者は心配する必要はない、とオブライエン氏は考えています。なぜなら、他のプラットフォームがその代わりをしてくれるからです。