Amazonは次にどこへ行く? 海外のデータから見えるアマゾンの次の一手と戦略
Eコマースの巨人Amazon(アマゾン)の収益は4分の1以上を海外市場が占めており、西ヨーロッパと日本のオンライン小売市場の大部分を支配しています。アマゾンがまだオンラインマーケットプレイスを運営していない多くの大市場では、さまざまな課題があります。アマゾンにとって最大のチャンスは、消費者への販売を伴わない分野かもしれません。海外マーケット、BtoB-EC市場、現状などからAmazonの次なる戦略を見ていきましょう。
海外部門は売上2ケタ増も赤字状態が続く
赤字は海外のオンラインストアへの投資が要因
Amazonは西ヨーロッパと日本にEコマースモデルを輸出し、大きな成功を収めてきました。一方、中国市場での敗北を認めた後、インドに巨額の投資を行っていますが、発展途上国では一貫して成功していません。
Amazonのビジネスにおいて海外市場はとても重要な部分です。2018年と2019年、Amazonの収益の4分の1以上を米国以外の市場が占めています(クラウドコンピューティング部門であるAmazon Web Servicesの海外での収益除く)。
しかし、海外のオンラインストアが利益を圧迫しています。その大きな理由がインドへの大規模投資です。数百万人の消費者が安価なスマートフォンを通じて初めてインターネットにアクセスできるようになったインド市場に対し、55億5000万ドルを投じることを約束しているのです。
2019年の海外部門の売上高は、2018年の658億6600万ドルから747億2300万ドルへと13.4%増だったのにもかかわらず、16億9000万ドルの損失を計上しました。2018年には21.4億ドル、2017年には30.6億ドルの損失を計上しています。
フルフィルメントセンター639か所のインフラ力で物量増のコストを吸収
絶好調だったAmazonの2020年第2四半期(4-6月)の明るい話題の1つは、2019年の同四半期に6億100万ドルの損失を出した海外事業が、2020年には3億4500万ドルの利益を計上したことでした。
物流コンサルティング会社「MPWVL」によると、新型コロナウイルスの感染拡大で売り上げが増加したAmazonは、米国と国外の639のフルフィルメントセンターを含む、その広範なインフラをよりよく活用し利益を拡大しました。
これらのセンターは、アマゾンが米国外の15のマーケットプレイスで販売者にフルフィルメントサービスを提供することを可能にしています。
AmazonのGMVは、全世界のオンライン小売総販売額の9.2%に相当
『Digital Commerce 360』の推計によると、米国国内と全世界のAmazonサイトが販売した流通総額(GMV)は3,404億ドルに達し、全世界のオンライン小売総販売額3兆6,900億ドルの9.2%に相当しています。GMVには、Amazonの本サイトでの売り上げと、マーケットプレイスの販売者による売り上げの両方が含まれています。
これによりAmazonのGMVは、Eコマースの競合であるAlibabaグループが運営する中国の2大マーケットプレイス「Taobao」と「Tmall」に次ぐ、世界第3位になります。
「Taobao」と「Tmall」の2019年度におけるGMVは8530億ドルで、世界のオンライン小売売上高の23.1%を占めます。Amazonは、『Digital Commerce 360』社が発行する、北米の大手オンライン小売事業者のランキング「北米EC事業 トップ1000社データベース」で1位。グローバルにショッピングポータルを運営している企業のランキング「世界オンラインマーケットプレイストップ100社」で3位にランクインしています。
Amazonは現在も中国で「Amazon.cn」を運営していますが、輸入品を中国の消費者に販売する機能しかありません。2019年7月に小売事業者が各々販売できる中国マーケットプレイスを閉鎖。中国Eコマースの巨人である「Alibaba」、「Walmart(「北米EC事業 トップ1000社データベース」第3位)」が株式の一部を保有する2位のJD.comに敗北を喫しました。
ただ、AmazonはAlibabaによって中国から追い出された最初の米国のEコマース企業ではありません。2006年にTaobaoに敗北したeBayが、中国から撤退しています。
西ヨーロッパにおけるオンライン小売のリーダー的存在
2019年ヨーロッパのオンライン売上高の9.8%をAmazonが占める
しかし、世界で最も先進的なマーケットではAmazonはスターです。『Digital Commerce 360』の推計によると、2019年のヨーロッパのオンライン売上高の9.8%をAmazonが占めています。
Amazonはヨーロッパ最大のオンライン小売事業者となりました。ヨーロッパを拠点とするトップ小売事業2社、ライフスタイルやアパレルなどを扱うドイツのOttoグループ(「欧州EC事業 トップ500社」で第1位)と、英国のスーパーマーケット「Sainsbury's」(2位)は、2019年のヨーロッパのオンライン小売売上高の約1.2%を占めていますが、この数字はアマゾンの8分の1に過ぎません。
欧州のAmazonサイトに毎月2億9000万人のユニークユーザーを集客
Amazonは、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインでNo.1のEコマースサイトになり、欧州のAmazonサイトに毎月2億9000万人のユニークユーザーを集客しているそうです。
オランダでは、Kindleデバイスと電子書籍のみを提供した6年間を経て、2020年3月に欧州で6番目のマーケットプレイスである「Amazon.nl」(オランダ)を開設しました。同サイトでは、30のカテゴリーで1億点以上の商品を提供していると、Amazonは発表しています。
『Digital Commerce 360』によると、Amazonは日本でもEコマースのリーダーであり、2019年の日本のオンライン売上高の22.9%を占めています。日本を拠点とする「楽天市場」と並ぶ2大Eコマース企業の1つです。
Amazonは次にどこに向かうのか?
未進出の6か国におけるAmazonの展望を考察
しかし、Amazonが海外のオンライン小売業で大きく成長する見込みは限られているように見えます。すでに、国内総生産(GDP)でトップ20か国のうち14か国でマーケットプレイスを運営。同時に、アラブ首長国連邦とシンガポールでもマーケットプレイスを運営しています。困難な課題を抱えている未進出の6か国におけるAmazonの展望を考えてみましょう。
- 中国:Alibabaグループの「Taobao」と「Tmall」のマーケットプレイス、Walmartのパートナー「JD.com」、急成長中のディスカウント企業「Pinduoduo」など、強力な中国内プレーヤーとの競争をAmazonは事実上諦めています。
- ロシア:国家主義者かつ、新興財閥が支配するロシア政権は、Amazonのような大手外資系企業にとって難題となるでしょう。さらに、ロシアと米国の間で緊張が高まっていることから、Amazonや他の米国企業の参入が妨害される可能性があります。
- サウジアラビア:実質的には、2017年にドバイの「Souq.com」を買収した後に立ち上げた「Amazon.ae」によってマーケットプレイスを提供しています。
- スイス:スイスの消費者は、ドイツ、フランス、イタリアのAmazonのサイトから母国語で購入することが可能です。
- 韓国:国内大手企業の「Coupang」は、大規模なフルフィルメントネットワークを構築しており、注文を当日または翌日に配送しています。Amazonのやり方を模倣している韓国企業に対して、Amazonがどれほどの利益を上げることができるのか、疑問が残ります。
- インドネシア:Alibaba傘下の「Lazada」は、インドネシアとほとんどの東南アジアでEコマース市場を支配しています。Amazonはアジア市場でAlibabaと真っ向勝負するのでしょうか?
もちろん、Amazonが進出していない小さい市場もあります。イスラエルはその一例です。Amazonは、「Amazon.com」の中にイスラエルの小売事業者が消費者に販売できるセクションを設けました。しかし、2019年に2,805億2,000万ドルの売り上げを計上したAmazonにとって、このような小さな市場は誤差の範囲でしょう。
海外市場の明るい展望
成長市場のBtoB-ECに期待高まる?
Amazonが2015年に創設したBtoBオンラインショッピングサービス「Amazon Business」は、かなり状況が異なっています。米国で急成長しているこのサービスは現在、マーケットプレイスを持つ16か国のうち9か国で事業を展開していますが、残りの7か国が拡大の肝になる可能性は十分にあります。
さらにAmazonは、大成功を収めた「Amazon Prime」をベースに、BtoB向けに「Amazon Business Prime」を立ち上げました。一般消費者向け同様、「Business Prime」では送料無料だけでなく、買い手向けの消費分析ツール、売り手向けのコンサルティングサービスなど、よりビジネスに特化した機能を追加しています。
「Business Prime」は現在、米国、英国、日本、ドイツ、カナダの5か国でのみ利用可能です。このプログラムを、「Amazon Business」を展開する他の4か国(インド、フランス、イタリア、スペイン)にも拡大する可能性は高いでしょう。そして最終的には、「Business Prime」は、Amazonが事業を展開するすべての国で、特徴的なサービスとなることが予想されます。
AmazonはBtoBのオンライン取引が持つ可能性のほんの一部に手を付けただけだ、と考えているアナリスト達もいます。製造業は大企業に集中する傾向がありますが、卸売や流通は通常、小規模な地域のプレイヤーが活躍できる領域です。
インターネットを利用して多くの消費者にリーチし、不要なコストを削減するためのテクノロジーを展開する方法を知っているAmazonのような企業にとっては、大きなチャンスとなります。
2015年に開始された「Amazon Business」は、すでにそのチャンスをつかむために迅速に動いており、アナリスト達は今後の急速な成長を見込んでいます。
20203年までに、「Amazon Business」の売上高が750億ドルに達するとの予測も
BtoBマーケットプレイスとテクノロジーのサービス統合を行うApplico社は、Amazon本体とマーケットプレイスの両方で販売されている商品を含め、2023年までに「Amazon Business」の売上高が750億ドルに達すると予測しています。Applico社は、2021年までに「Amazon Business」が工業製品の米国最大の販売代理店になると考えています。
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RBC Capital Marketsのアナリストであるマーク・マハネー氏によると、「Amazon Business」の売上高は年間35%増で成長しているそうです。同氏は、Eコマースがまだ浸透していないオフライン小売の世界規模が約22兆ドルであるのに対し、オフラインBtoB取引の世界的な市場規模は59兆ドルになると推定しています。
「Amazon Business」がすでに米国で急速に成功していることを考えると、BtoB取引が大変魅力的な市場であることがわかります。