コロナ禍のデジタル広告への投資、費用対効果はどう変わった?Google、Amazon、iOSアップデートの影響など広告状況まとめ
モバイルショッピングの増加など、コロナ禍が消費者の購買行動に影響を与え続けるなか、小売業のマーケティング担当者には、機敏な対応が求められています。検索広告のクリック単価(CPC)は、Google、Microsoftともに上昇し、前年比41%増となりました。マーケティング担当者は、ソーシャルメディアへの支出見直し、iOS14のアップデートの影響によるインプレッション数減などに対応しています。
ROIが低下しているデジタル広告
デジタル空間で競争する企業、オンラインショッピング利用の増加に伴い、Amazon、Google、Microsoftにおける検索広告、ソーシャルメディア広告など、デジタル広告チャネル間での競争が激化しています。そのため、企業はより高い広告料金を支払っているにもかかわらず、ROI(費用対効果)が低くなっています。
しかし、消費者にアピールするために企業は、広告を出稿しなければなりません。そして、ホリデーシーズンが始まると、トラフィックの少ない広告にも費用を投じなければならないかもしれません。
マーケティング会社のMerkleが発表したレポート「Digital Marketing Q3 2021」によると、2021年第3四半期(2021年7-9月期)の検索広告費は増加した一方、トラフィックは減少しています。
Merkleのデジタルマーケティング担当アソシエイトディレクターであるメリッサ・ライリー氏は、2021年第4四半期(2021年10-12月期)に入っても、有料検索のトラフィックの成長率は2020年の水準を上回ることはないと予想しています(検索トラフィック全体の成長率は2020年11月が前年同月比26%、12月は前年同月比6%でした)。
ライリー氏は、出荷の前倒し、検索広告におけるクリック単価の上昇などの要因が重なり、小売店のトラフィックが減少するだろうと述べています。
2020年と同じような成長を再び実現するのは難しいと思います。また、2021年のホリデーシーズンは、2020年に比べて人々が店舗に足を運ぶことを望むようになっているため、オンラインのクリック率にも少し影響を与えるでしょう。
2021年第4四半期おけるEC売上高の伸び率は、2020年第4四半期の異常に高かった水準を超えることはないと思われますが(『Digital Commerce 360』は、2020年11月と12月のオンライン売上高は前年同月比40%増と推定しています)、多くの消費者はオンラインで多くの買い物をする予定です。『Digital Commerce 360』は、2021年11月から12月のEC売上高は初めて2000億ドルを超え、2154億5000万ドルに達すると予測しています。
検索広告が増加し、クリックあたりのコストも増加
Merkleのレポートによると、2021年第3四半期の有料検索のクリック単価は、チャネル間の競争が続くなか、前年同期比で41%増加しました。
Googleの検索広告のトラフィックは同10%減少したにもかかわらず、広告費は同28%増加しています。小売事業者は、競合他社との激しい競争もあり、「少ないトラフィックに対してより多くの広告予算を費やしている」とライリー氏は述べています。
検索広告のトラフィックは同10%減ったにもかかわらず、CPCの上昇によってGoogleの広告費は前年同期比28%増加しました。つまり、1クリックあたりのコストが高くなったのです。Merkle社によると、広告主は今年と2020年の異常なトレンドを比較しているため、こうした傾向は予想されていました。
夏には小売店の有料検索トラフィックが改善しています。これは、デルタ株の広がりにより新型コロナウイルスの症例が増加したため、消費者がオンラインショッピングに戻った可能性があります。また、一部の小売事業者が在庫不足の可能性を消費者に事前に伝え、10月の出荷を遅らせたため、消費者が早めに夏季休暇の買い物を行った可能性も考えられます。
旅行会社やBtoBのWebサイトは、検索広告からのトラフィックは2020年に減少したものの、2021年第3四半期は増加しています。
Google全体の小売向け検索広告費は、前年同期比で11%減少しました。前年同期比27%成長を記録した2020年第3四半期よりも検索広告費は低いものの、小売事業者の有料検索トラフィックは2019年第3四半期よりも13%増加。コロナ禍前の数字と比較して持続的な成長を示しています。
Microsoft広告は、2020年第3四半期にトラフィックが異常に増加したため、2021年第3四半期は前年同期比で9%減少し、Google広告と同様の傾向を示しました。ただ、広告費は同28%増、CPCは同41%増で、クリック数は減ったものの、コストは上がったことがわかります。
Googleのオーガニック検索は減少、2021年第2四半期よりも良好な結果に
2020年第3四半期は、ほとんどのプラットフォームが大きな成長を遂げました。ただ、2021年第3四半期におけるGoogleのオーガニック検索の訪問数は前年同期比9.7%減。2021年第2四半期と比較すると3%減でした。
モバイルの訪問数(スマートフォンとタブレットの合算)は、スマートフォンが牽引して4%増加しました。オーガニック検索全体の訪問数(デスクトップ、モバイル、タブレットのすべてのデバイス対象)は同4%減でした。ただ、2021年第2四半期の同9.7%減からは改善しています。
小売業の全体的な成長は、2020年に比べて遅れていると予想されます。「2020年第4四半期には、前年比成長率がかなり高かったのですが、今回はどうでしょう。個人的には、そのような成長を再び見るのは厳しいと思います」とライリー氏は言います。
2021年はAmazonプライムデーが10月に開催されず、全体的なトラフィックに影響
Merkleによると、2021年第3四半期におけるAmazonスポンサープロダクト広告のCPCは競争の激化により、2四半期連続で前年同期比43%増となりました。
ただ、企業の支出は増えたにもかかわらず、広告からのトラフィックは減少しました。スポンサープロダクト広告売上は同46%減少。2021年第3四半期に大きなホリデーイベントがなかったため、6月のAmazonプライムデーから第4四半期のホリデーショッピングシーズンが始まるまでの間、トラフィックに一服感がありました。ライリー氏は、こう言います。
Amazonプライムデーは、Amazonへのトラフィックだけでなく、小売業全体のトラフィックを高めます。2021年は、10月にそのような重要なイベントがありませんでした。ホリデー向け商品の早期購入者が、“プライムデーがなかったことを補う”ほどの需要をもたらすとは考えていません。10月の小売店のクリック数の減少は、9月と同様かそれよりもわずかに少ない程度だと考えています。
広告フォーマット別のAmazonインプレッションの割合は、「スポンサープロダクト」がAmazon検索インプレッションの69%を占めました。「スポンサーブランド」は、1位と大きな差がありますが、28%のインプレッションで、2番目でした。
「スポンサープロダクト」は、キーワードや商品をターゲットにした、個々の商品を宣伝する広告で、Amazonの検索結果や商品詳細ページに表示されます。
ソーシャルメディアへの支出が増加傾向に
ブランドは、バナー、ランディングページ、ポップアップウィンドウなど、画像とテキストで構成される、デジタル広告の最も基本的なフォーマットであるディスプレイ広告、FacebookやInstagramなどのソーシャルプラットフォームに掲載されるソーシャルメディア広告、YouTube、Hulu、Facebookなどのプラットフォームで再生される従来のテレビコマーシャルに似た動画および音声広告を使って出稿しています。
2021年第3四半期におけるソーシャルメディア広告費のシェアは、前四半期比で20%ポイント増し、42%となりました。
FacebookとInstagramは、1000インプレッションあたりのコストが高いため、第3四半期に前年同期比で支出が増加しました。ビデオおよびオーディオ広告は24%の増加となりました。
コネクテッドTVメディアに注目する広告主が増えており、今後の拡大の可能性がある分野と見られています。コネクテッドTVメディアとは、インターネットに接続可能なあらゆるTVやスマートデバイスに掲載でき、ケーブルで提供される従来の広告を超えるビデオストリーミングコンテンツにアクセスできる広告のことで、広告主の動画広告支出の26%を占めています。
Merkleは、2020年のコロナ禍初期の爆発的な成長を経て、このコネクテッドTVメディアのトレンドの成長が続くと予測しています。
2021年第3四半期におけるInstagramの1000インプレッションあたりのコスト(CPM)は、2020年以降初めて前年同期比11%増となりました。FacebookのCPMは前年同期比で高止まりし、同46%増加。高額なトラフィックが増えたにもかかわらず、インプレッション数は同15%減、全体の費用の伸びは同24%と減速しました。
iOS14アップデートの影響
iOS14のプライバシーアップデートの結果、広告主のターゲティングの枠が小さくなりました。AppleのiOS14アップデートには、App Tracking Transparency(ATT)機能が含まれています。
このアップデートで、広告のために他社が所有するアプリやWebサイトでユーザーのデータを追跡したり、データブローカーとユーザー情報を共有したりする前に、消費者の許可を得ることが求められます。このアップデートを実施した後、多くのモバイルユーザーがこの機能を拒否したため、デジタルマーケティング担当者は、この機能がなくても対応できるよう、戦略を調整する必要に迫られています。
たとえば、消費者がFacebookアプリでのトラッキングをオプトアウトした場合、小売事業者は、ターゲットとなる消費者に関する貴重な情報を得られなくなります。その結果、限られたターゲティングの枠の中で競争するために、広告の入札額を高くする必要があるため、コストが上昇します。
ライリー氏によると、モバイル利用がeコマースを牽引しているわけではありません。消費者はオンラインショッピングを目的として、InstagramやFacebookを閲覧していないのです。
現在、アプリ経由で行われている商品購入の多くは、衝動買いです。Instagramで友達の写真を見ているうちに、何かの広告が出てきて、その場で買ってしまうのです。