【2021年の小売業界予測】「実店舗のデポ化」「デリバリー革命」「オンライン接客」などニューノーマル時代の5トレンド
私たちは予測不可能な時代に生きています。新型コロナウイルスの世界的な流行が、消費者の生活様式、コミュニケーション方法、仕事、購買行動を変え続けている一方で、デジタル技術は猛烈なスピードで進歩しています。小売事業者は、新たな困難や問題、トラブルに見舞われない日はほとんどない一方、常に変化し続ける「ニューノーマル」に迅速に適応するべく努力を続けています。小売り事業者の2021年を占う5つのトレンドを見ていきましょう。
ホリデーショッピングシーズン、1,890億ドルがオンラインで消費されると予想
混乱があるところにはチャンスもあります。Adobeは分析ソリューション「Analytics」を通じて「2020年はeコマースにとって大きな年になるだろう」と予測。「ホリデーショッピングシーズンには1,890億ドル(前年比33%増)がオンラインで消費される」と予想しています。
また、2021年はデジタルネイティブのブランドにとっても収益性の高い年になると言われています。新しいビジネスや技術が登場し、新たなトレンドを作り始めているなか、2020年が終わるまでにそれらを考慮しておくのが賢明です。2021年の小売業界を動かす可能性が高い新たなトレンドのトップ5、それらに注目すべき理由を紹介します。
1. デリバリーが新常識に
デリバリーサービスが大流行しています。「Uber Eats」「GrubHub」「Instacart」のようなフードデリバリーサービスは、レストランのオーダーの仕方、食料品店のデリバリー方法を根本的に変えました。しかし、変化はそれだけではありません。
物流サービス大手の「FedEx」「UPS」、そして「Amazon」はコロナ禍の影響で、需要を満たすために必死です。同時に、小売事業者は実店舗を活用して地元でのオンライン注文に対応しようとしているため、ラストマイル配送会社との提携がますます重要になっています。また、消費者の選択肢を増やすために、道端での商品受け取り(カーブサイドピックアップ)も促進されています。
ラストマイル配送サービスは、コロナ禍におけるビジネスとして理想的で、ギグエコノミー(編注:インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方)の労働者を利用した、スケールしやすいサービスです。
車の後部座席やトランクが空いていれば、商品を配達することができます。たとえば、生活雑貨を取り扱うチェーン店「Bed Bath & Beyond」は最近、配送サービスの「Shipt」と提携し、両社のeコマース・プラットフォームからの注文に対して当日配送を提供すると発表。この当日配送サービスは、39ドル以上の注文に対して一律4.99ドルで利用できます。
また、「Shipt」は「Costco」、薬局チェーンの「CVS」、オフィス関連用品を扱うディスカウントストア「Office Depot」、ペット用品店の「Petco」、大手ディスカウントチェーンの「Target」との提携も確立しています。
2. 利益を生み出す新しいビジネスモデル
小売事業者は消費者に直接商品を販売してきました。しかし、デジタル技術の導入によって昔ながらのビジネスモデルが根本的に変わり、消費者は徐々に「価値」へ対価を払うことに快感を覚えるようになりました。そんな中、多くのブランドが、サブスクリプションモデルを導入。一部の小売事業者は、スマートスピーカーやIoT技術を利用して、自動的に商品を補充する方法を模索しています。
多くの企業にとってレンタル販売、サブスクリプションの境界線は曖昧です。スマートフォン「Apple」の販売方法を考えてみましょう。消費者が月ごとに分割払いで購入できるため、Appleは大口販売がしやすくなっています。しかし、それだけではありません。Appleは下取りへ出すことも簡単にできるようにしています。
高級百貨店の「Nordstrom」「Macy's」、婦人服ブランドの「Eileen Fisher」、大手スーパーマーケットチェーン「Walmart」、ファッションブランドの「Patagonia」などの小売事業者は現在、衣類などさまざまなな商品に新しいビジネスモデルを採用しています。
レンタルモデルは、購入を躊躇している消費者、一度しか使用しない、お金がないなどの理由で購入をためらっている消費者にとっては特に魅力的。また、消費者が商品のライフサイクル全体を通じて企業とやりとりするため、ブランドへのロイヤリティを高めることができます。
3.店舗が「フルフィルメント・ハブ」に
消費者行動の変化は、2021年にも影響を及ぼすでしょう。モール内の賃貸店舗がトラフィック不足により不振に陥っているため、小売事業者は店舗を「フルフィルメント・ハブ」に変えようとしています。eコマースのために店舗スペースを使用することで相乗効果が生まれます。特に、ラストマイル配送サービスと組み合わせることで、店舗がミニ配送センターに変身するケースもあります。
Amazonはすでに、自社サービスと当日配送ネットワークをさらに拡大するため、店舗の「フルフィルメント・ハブ化」に注目し始めています。Amazonは、大手百貨店の「Sears」や「J.C. Penny」などが撤退した際、空きスペースを引き継ぐためにモール運営者と交渉を行っていると報じられています。
Appleも最近、小売店を物流センターにして消費者への迅速な配送を可能にするなど、小売店の利点を生かし始めた企業の1つ。この傾向はコロナ禍以前から見られるもので、より広範な変化の一部であるものの、新型コロナウイルスとそれに伴うeコマース販売の増加がこの動きを加速させていることは明らかです。
4.店舗の新しいデザイン
eコマースへの大規模なシフトはあったものの、物理的な店舗がすぐになくなるわけではありません。実店舗は、変化に対応しようとしています。複数の著名な小売事業者が、オンラインと店舗でのショッピングを融合させ、より魅力的でソーシャルディスタンスを保てる購買体験を提供することを重視しています。
たとえば、Walmartは最近、空港にヒントを得たデザインへと200店舗を改装。より目立つサイネージや非接触型のレジなど、革新的な設備を導入すると発表し、大きな話題を呼びました。
ブランドは、店舗内の通路や商品がびっちり並べられた棚という従来の概念から離れてきています。
実店舗は、もはやカスタマージャーニーの最終目的地と考えるべきではありません。オンラインストアと実店舗の両方の強みを組み合わせることで、小売スペースをカスタマーエクスペリエンスセンターに変える、より魅力的なハイブリッドモデルを導入することが可能になります。
この傾向は、消費者が商品を体験・試着してからオンラインで注文できるよう、予約販売サービスの提供につながるかもしれません(そうすれば、消費者が店員からのプレッシャーを感じやすい店頭での購入が必要なくなります)。
また小売事業者は、ファッションブランドの「CANADA GOOSE」の北極体験ルームのようなデモ環境を構築することも可能です。北極体験ルームでは、マイナス20度の寒さの中、実際の北極圏と同じような環境で、ジャケットを試すことができます。AR(拡張現実)とVR(ヴァーチャルリアリティ)もまた、その勢いを増しています。
5.ますます進むパーソナライゼーション
ビジネスの世界では、すでにビデオ通話が主流になっています。人々はお互いを見ながら、画面を共有し、情報を交換しています。小売事業者も、相談や販売ツールとしてのビデオチャットの価値を認識し始めています。
消費者が車、家具、高級衣料品などを購入する時、必要に応じて、販売員や商品の専門家とビデオで繋がることができるオプションを提供するのはいかがでしょう? 仕事の後、週末、深夜など、時間帯も選べます。
ビデオでの相談は便利なだけでなく、商品紹介の動画を共有したり、技術的な仕様を確認したり、デモで機能や特徴を消費者に説明したり、対話を通じて信頼を高めたりすることも可能になります。
現在では、豊富なオンラインツールのおかげで、車を購入する際、店頭で入念にタイヤを比較したりする必要がなくなりました。消費者はディーラーに到着した時、すでに欲しいものを知っています。小売事業者は、車と同じ販売モデルが他の多くの商品やサービスにも効果があることに気づき始めているのです。
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さあ、変化に備えてシートベルトを締めて動き出しましょう! 2021年はワイルドで面白い年になりそうです。