Digital Commerce 360 2021/12/9 8:00

オンラインショッピングがコロナ禍を機に加速したことで、小売事業者は過去20か月間で多くの新規顧客に販売することができました。ホリデーシーズンに、新規顧客との関係を強化しようとしているブランドもありますが、その方法は、ビジネスの性質によって異なります。

消費者のEC移行、競争力の維持には企業の成長が必要

コロナ禍でオンラインショッピングが浸透したため、オンライン小売事業者はホリデーシーズンよりも多くの新規顧客をコロナ禍を機に獲得することができました。一部の企業では、これらの新規顧客のロイヤルティを高めることが重要な課題となっています。

モダンな家具やインテリアを扱うオンラインショップのInmod社は、コロナ禍の間に顧客基盤が105%増加したと、COOのブライアン・グリーンスパン氏は言います。

私たちのような小さな会社にとって、短期間にこれだけの顧客を獲得するのは大変なことです。今年のホリデーシーズンには、新規顧客との関係を強化することが重要です

多くの消費者が購入方法を変えることに前向きになっています。消費者信用調査機関Experian社の最近の調査によると、コロナ禍以前に買い物をしたブランドをずっと利用し続けると答えた米国の消費者は73%で、2020年の同じ調査の79%から減少しています。

eコマースプラットフォームを提供するBigCommerce社の副社長兼オムニチャネル担当のシャロン・ジー氏は、「コロナ禍の影響で多くの消費者がオンラインショッピングの経験を積んだため、彼らはオンライン小売事業者に多くを期待しています」と説明。続けてこう言います。

消費者は、オンラインでの買い物に対して成熟してきています。彼らがより成熟するなか、競争力を維持するためには、企業もより成長しなければなりません

各オンライン小売事業者がどのような戦略を採用するかは、販売する商品や、コロナ禍に利用があった消費者の購買行動の特徴によって異なります。

今回は、3社のオンライン小売企業が、コロナ禍で得た知見を基に、新規顧客を長期的なロイヤルカスタマーに変えようとしている取り組みをご紹介します。

パーソナライズメールでストーリーを生む

コロナ禍の影響で、『Digital Commerce 360』発行の「Next 1000」(北米の小売企業のオンライン売上1001位から2000位までのランキング)で1279位にランクインしているInmod社の売り上げは、爆発的に伸びました。

モダンな家具やインテリアを扱うオンラインショップのInmod社
Inmod社のECサイト(画像は編集部がキャプチャして追加)

コロナ禍の間、リモートワークやステイホームに伴い、多くの消費者が家をより快適にするために家具などを購入したためです。Inmod社の2020年における売り上げは、2019年の2倍になり、2021年上半期には前年同期比50%伸びたとグリーンスパン氏は言います。

ホリデーシーズンに入り、Wayfair(「北米EC事業 トップ1000社データベース」7位)やMacy's(13位)などの大手競合企業がオンラインで大々的に広告を出し始めたため、広告価格が上昇、新規顧客獲得のコストが高くなりました。そのためInmod社は、コロナ禍の間に初めて購入した顧客を含む既存の顧客に対して、より多くのマーケティングを行うようになりました

Inmod社が行っている1つの方法は、過去の購入者に次の購入を促すパーソナライズメールを送信するキャンペーンです。

たとえば、ダイニングテーブルを購入した方には、ダイニングチェアについてのメールをお送りしています。そのメールを開封すると、次のメールを送り、ストーリーを続けていくのです

さらに新しい戦略として、消費者の携帯電話へのテキストメッセージを使ったマーケティングがあります。Inmod社は2020年7月から、携帯電話からWebサイトにアクセスした消費者に電話番号を尋ね、SMSでのコミュニケーションを可能にしました

テキストメッセージのクリック率はEメールに比べて低いものの、コンバージョン率は2倍になりました。その結果はグリーンスパン氏にとっては、驚くべきことではないそうです。

メールアドレスはたくさん持っていても、電話番号は1つしか持っていないのが普通だからです。携帯電話の番号を教えてくれる人は、Eメールアドレスを教えてくれる人よりもエンゲージメントが高い可能性があります


サービス向上を優先、スタッフ増員に先行投資

楽器・音響機材の小売企業であるSweetwater社(「北米EC事業 トップ1000社データベース」75位)にとって、2020年の顧客獲得はとても楽でした。

『Digital Commerce 360』の推定では、2020年のオンライン売上は2019年比で35%以上伸びています。

楽器・音響機材の小売企業であるSweetwater社
Sweetwater社のECサイト(画像は編集部がキャプチャして追加)

しかし、売り上げが急増したことで、「初めて購入する人がSweetwaterが誇る専門家のアドバイスや個人的なサポートを受けられていないのではないか」と幹部が心配していたと、パフォーマンスマーケティング担当シニアディレクターのジェフ・エクブラド氏は述べています(編注:Sweetwaterは、セールスエンジニアと呼ばれる専門知識を持つスタッフが、電話やメールなどで購入アドバイスなどを行っている)。

私たちは、ミュージシャン達に商品の入った箱を出荷するだけでなく、真の価値を提供したいと考えています。もし入荷待ちの商品に注文が入ったら、セールスエンジニアが電話をかけ、お客さまに「ご注文のギターはしばらく製造されませんが、どうしますか」と伝えます。

Sweetwater社のセールスエンジニアはミュージシャンのため、知識豊富なアドバイスをすることができます。ただ、このようなカスタマーサービスは、突然の顧客の増加に対応するために一朝一夕に拡大することはできません。そこでSweetwater社は、高いレベルのカスタマーサービスを維持するために、スタッフの増員という投資を行いました

セールスエンジニアの数を、コロナ禍が米国で発生した2020年2月の463人から、現在は581人に増員。また、配送センターのスタッフを319人から612人へと約2倍に増やし、注文数が増えても迅速に発送できるようにしました。

また、今年のホリデーシーズンには、例年よりも早い時期に倉庫に第3シフトを追加し、昨年比20%増の需要増に対応しています。

私たちは、2回目の購入が良い経験になるように、スケールアップできるかどうか、自分たちに賭けてきました」とエクブラド氏は言います。

Sweetwater社では、販売とフルフィルメントのスタッフを増員するとともに、「win-backキャンペーン」と呼ぶ、初回購入者に2回目の購入を促すEメールマーケティングをスタート。このキャンペーンがうまくいき、コロナ禍期間の新規顧客も、コロナ禍前の顧客と同等の割合で2回目購買につながっているそうです。

新規顧客は、これまでの購入者に比べて楽器を習い始めたばかりの方が多いのですが、エクブラド氏によると、Sweetwater社は顧客の楽器習熟度によって、マーケティング手法を変えていないとのことです。

私たちのスタイルは、1人の人間として顧客と会話することで、1対1のパーソナライゼーションを行うことです。つまり、ビギナーでもプロでも、それぞれの顧客のニーズに合った商品をお勧めし、コストや在庫、保証などの情報を提供しています。このアプローチの強みは、どんな顧客にも対応できることです。

コロナ禍でも顧客満足度は上昇させたマーケティング

「Wine Insiders」「Martha Stewart Wine Co.」などのワインに関するECサイトを運営し、いくつかの小売店にワイン販売技術を提供しているDrinks.comの2020年オンラインワイン売上は、3桁の伸びを記録しました。

「Wine Insiders」「Martha Stewart Wine Co.」などのワインに関するECサイトを運営し、いくつかの小売店にワイン販売技術を提供しているDrinks.com
Drinks.comの「Wine Insiders」のECサイト(画像は編集部がキャプチャして追加)

その結果、「2021年のホリデーシーズンに向けて、Drinks.comは多くの新規顧客を獲得することができた」とマーケティング担当上級副社長のマイケル・ロジャース氏は語りますが、正確な数字は明らかしていません。

新規顧客の多くは、20代後半から40代前半の消費者であるミレニアル世代です。その年齢層の顧客獲得数は、2020年には2019年に比べて75%増、2021年は2020年比でさらに20%急増しました。

Drinks.comでは、特に若い人たちがワインを購入する際の不安を取り除くことを目的に、Webサイト「Wine Insiders」上でのワインに関する情報を充実させています。

「ワイン101」というコーナーを設け、特定の品種や種類のワインに関する情報、白ワインや赤ワインを提供する際の理想的な温度などを紹介。「オンラインのワイン情報サイトになるために、コンテンツを充実させました」(ロジャース氏)

ミレニアル世代は、2021年の1回の注文あたりの金額は2020年よりも7%増加していますが、「Drinks.com」のECサイトの購入が増えているのはミレニアル世代だけではありません。

ベビーブーマー(50代後半から70代半ばまでの消費者)の場合、アカウントごとのリピート注文は2020年に27%、2021年はこれまでにさらに5%増加しており、注文1件あたりの平均金額は2019年に比べて17%増加しています。

「ワインのリサーチやワインショッピングから不安を取り除く」ための別の方法として、「Wine Insiders」はバーチャルワインテイスティングを開始。時にはシェフのルード・ルフェーブル氏のような著名人も参加しました。

イベントに参加するには、事前に試飲したいワインを注文し、オンラインイベント中に専門家と一緒に試飲することになります。

ほぼ四半期ごとに行ったこのイベントのフィードバックは好評で、ワインショップが再開した後も、「Wine Insiders」はこのイベントを継続する予定とロジャース氏は言います。

「Wine Insiders」では、獲得した新規顧客と連絡を取り合うために、以下のような対策も講じています。

  • 新規顧客への8〜12通のウェルカムメールの配信
  • テキストメッセージマーケティングの導入
  • コンテストや会員紹介プログラムなど、ソーシャルメディアを活用した活動の強化
  • ジェフリー・ザカリアン氏やルード・ルフェーブル氏など、著名な料理研究家とのタイアップによるプロモーション

これらのマーケティングキャンペーンに加え、ステイホーム中の消費者にシャルドネとメルローを供給し続けたことで、オンライン小売事業者の顧客満足度の指標として広く使われているネットプロモータースコア(NPS)は、2020年3月の70から現在は80に上昇しています。

この指標は、「Wine Insiders」がコロナ禍から脱却し、新型コロナウイルス発生前よりも大規模で忠実な顧客基盤を得られる可能性が高いことを示しています。

◇◇◇

コロナ禍中、何百万人もの消費者がこれまで以上にオンラインで買い物をしたことを考えると、他の多くのオンライン小売事業者にも同様のチャンスがあると言えるでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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